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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第九五四話 除霊パンチ!

 睨む先には亡霊陰陽師。

 次なるフロアへ通じる戸を、背に庇うようにして立ち塞がる奴の容貌は、さながら和風のレイスが如し。レイス和風のすがた。

 骸骨の体は床から僅かに浮いており。ばかりか、骨は疎か纏う狩衣すら仄かに透けている。

 よくよく目を凝らして見てみれば、胸の辺りにぼんやりと、モンスターの弱点たる核らしき影が浮かんで見えるけれど。

 さりとて小石の投擲により、それがフェイクであろうことは看破済み。本物は頭部に収まっていると睨んでいる。

 故に、どうにかしてこの槍の穂先をそこへ叩き込むべく、奴の放射していた火炎が途絶えたのをきっかけに、猛然と駆け出した私なのだけれど。


 これに対し、焦ったように新たな御札を取り出し構えては、もう一発術を成さんと魔力を練り始める亡霊陰陽師。

 直ぐ様その内容を紐解こうと、目を細める私。繰り出される術の内容如何では、しっかりとした対処が求められるから。

 奴までの距離は、あと一〇メートルもない。普段であればワンステップで詰められる間合い。

 けれど今の私にとっては、頑張っても五歩は要る。ポケットに忍ばせた小石、その最後の一つを右手に握るも、投擲するかどうかは術の内容次第。

 見定めた結果、私は小石を握り込んだまま急ぎ、傍らの木柱へとしがみついたのである。


 次の瞬間だった。奴の術が発動し、途端に暴力的なまでの強風が叩きつけられたのは。

 亡霊陰陽師が用いたのは、私を吹き飛ばして距離を稼ぐための、単純に強力なだけの風。台風どころの騒ぎじゃない、簡単に人一人飛ばしてしまえるだけの、恐ろしい風力。

 対して私は、渡り廊下の屋根を支える柱に、腕どころか脚まで絡めて全力で踏ん張る構え。

 幸いなことに、ただただ強力な風が延々と吹き付けるっていう、それだけの術。風に乗せて何か飛ばしてくるという、追加仕様は用意されていなかった。

 ゆえにこそ、防御でも回避でもなく、こうして踏ん張ることを選んだわけだけれど。

 しかしながら、その判断は正直ベターではあっても、ベストではなかった気がする。

 何せ、爆発的な強風が発生した瞬間、私と亡霊陰陽師の間にあるあらゆるオブジェクトが、一斉に凶器へと変じたのだから。


 暴風に抗いしがみつく私に対し、風に吹き飛ばされたあらゆる物体は、飛来する瓦礫も同義であり。

 殊更硬質な物体は、直撃すれば良くて打ち身、悪ければ骨折すらあり得る恐ろしい武器となる。

 あまつさえ目も満足に開くことの出来ない状態だ。強制ドライアイ待ったなし! っていうか巻き上げられた土が目に入るし!

 それでも薄目で覗いた景色の中、迫るバレーボール大の石ころにぎょっとした私は、どうにか槍を動かしてその軌道を逸らすことに成功。

 されど、そうして飛んでくる障害物を排除していると、とうとう槍が風に煽られ吹き飛ばされてしまった。

 不自由な視界の中、奴の顔は骸骨で、表情など分かりようもないのだけれど。

 それでも、私が槍を手放してしまった瞬間、その顔に喜色が浮かんだような、そんな気がした。


 風を孕んだ服がしこたま背後に引っ張られ、縫い目からはビリビリと嫌な音がしている。肌に食い込んで痛いし。ズボンの方は然程でもないにせよ、上がヤバい。

 口を閉じてないと、ブロワーで口内を吹き付けられたみたいに、絵面が面白いことになってしまう。顔面凶器の名にかけて、それだけは阻止せねば。私は必死に口を閉じた。

 幸い、風に飛ばされたオブジェクトの脅威は、暴風発生直後こそがピークであり、それらを粗方槍でしのいだ後は、然程の恐さも無く。


 そんなこんなで暴風はたっぷり、一分ほども続いた。

 美しかった庭園は、すっかりと荒れて惨憺たる有様。それを為したのが、如何にも侘び寂びに造詣の深そうな陰陽師姿の亡霊だって言うんだから、なんともガッカリとした気持ちになる。或いはこれが、偏見ってやつかも知れないけど。

 フッと風が止んだのは、いよいよ私が柱にしがみついたまま微動だにしないと、吹き飛ばすのを諦めたからか、はたまた単に術の維持限界を迎えたからか。

 何れにしたところで、奴と私との間合いは依然として一〇メートル程度。

 されど得物を手放した私に対し、奴は余裕の態度で新たな御札を取り出し構えんとする。

 きっと槍がなければ私なんて、小石を投げつけてくるだけの取るに足らない相手だと思っているのだろう。侮りを感じる。


 一方で、やっとこさ暴風の猛威より開放された私。

 ずっしりと身体に伸し掛かるのは、独特の疲労感。ずっと何かにぶら下がっていたような、そんな疲れに近いだろうか。やけに腕が重く、鉛の如き重力を全身に感じる。

 けれど、だとしても。訪れた好機である。気分はさながら、ずっとお預けを食らっていた狂犬が如し。

 風が止んだ直後、一歩フラつきこそしたものの、ギラリと奴を睨んだ私は弾かれたように駆け出した。


 よもや素手で迫ってくるとは思いもしなかったのだろう。一瞬怯みを見せた亡霊陰陽師。されど直ぐに、私が自棄を起こしたとでも思い直したのか、術を発動せんとした。

 事実、私が奴へ飛びかかるよりも早く、術の発生は成るのだろう。その内容は、無数の風の槍を前方へ向けて、勢いよく展開するというもの。

 射程距離にこそ難があるものの、飛び込んでくる相手に対しては非常に有効な手であり、今の状況を鑑みるならば一種の最適解と言えるだろう。


 だが。だからこそ私は、槍は手放せども、この小石だけは握りしめたまま奴へ向かったのである。

 たかだか残り五メートル。至近距離とすら呼べるような間近にて、顔面めがけて小石を投げつけられたなら、そりゃ誰だってビビるものさ。

 殊更、頭部に大事な核を隠している亡霊陰陽師にとっては、血相を変えざるを得ないような緊急事態である。

 術への集中はまんまと乱れ、大袈裟に体勢を崩す奴へと、残り数歩を消化して。

 渡り廊下へ跳び登った私は勢いそのままに、亡霊陰陽師のその顔面へと、握り込んだ拳を叩き込んだのである。


 悪霊退散! 悪霊退散! ドーマンセーマン! ドーマンセーマン!

 拳を介して、核の砕ける感触を確かに感じ。瞬間、ぶわりと解けるように黒い塵へと還り消え去る亡霊陰陽師。

 油断せず、残心。辺りに脅威が存在しないことを慎重に確かめたなら、やっとこさ息をつく私である。

 ここまでは、遠くから矢の一つも飛んでくるんじゃないかと警戒していたわけだけれど、前の渡り廊下で身体に土を塗りたくる際、そういう気配はついぞ感じられなかったからね。

 なので、恐らくはここも大丈夫かなと。勿論警戒を完全に解いたりはしないけどさ。ある程度肩の力を抜く。


 ともあれ、何とか無事にモンスターの脅威を排除することに成功。次へ進むことが出来そうである。

 差し当たって先ずは、飛ばされてしまった槍を探さなくちゃならない。降ろしておいたリュックも、もしかしたらどこぞへ転がっていった可能性もあるし、それにいつの間にやら腰のナイフもなくなってる……それらの回収が第一だろう。

 よもや単純な暴風が、これほど厄介だとは思わなかった。というか、今回は私が踏ん張ることを選んだから、というのもあるんだろうけど。

 ただ風で吹き飛ばすだけの術も、案外侮れないものだ。いやはや、良い経験が出来た。


 学びを噛み締めつつ、すっかり荒れた庭へ再び降りようとする。と、ダンジョン特有の自動修復が働き、あれよあれよと美しい庭園の様が蘇っていく様子に目を奪われる。

 おおと感嘆を漏らし、逆再生めいたその光景を少しの間眺めていると、ふと気づいた。

 そういえば私、土で身体や服を汚したのだけれど、これらの土汚れは修復対象ではないのだろうか、と。

 確かに、苔を掘って土を顕にした部分は、汚し作業の最中も元の様へ戻らんとしていた。

 でも、体についた土は別段、回収される様子もなく。っていうかそれで言うと、散々便利に使っている小石だってそうだ。

 勝手に持ってきちゃったけど、元あった場所に引っ張られるような感じ、なんていうのは特に無く。

 それらを鑑みるに、ダンジョンの修復作用っていうのは、何にでも働くってわけじゃないのかもしれない。意外と融通の利くやつなんだろう。

 まぁ、障子に穴を開けるのは許さないみたいだけども……。判断基準がよく分からないな。


 などと考え事をしている間に、槍とナイフ、そしてリュックの回収は済み。どれも破損した様子は無く、まだまだ問題なく使えそうであることに旨を撫で下ろす。

 しかし、何だ。破損と言えば、服が破けてしまったというのがちょっとショックである。

 脇の下とか、ガッツリいっちゃってるもの。スリットどころの騒ぎじゃない。セクシーっていうか、シンプルにみすぼらしい……まぁ、自ら土にまみれるようなやつが、今更何をって感じではあるんだけどね。

 うん……ならいいか。どうせ次のフロアも、下着姿での攻略を予定しているわけだし。

 こんな姿、仲間や師匠たちには見せらんないね。十中八九叱られちゃうもの。


 それと。今回は、細々とした打撲を負ってしまった。ちょっと切れて出血しちゃってる箇所もある。

 原因はやっぱり、あの風。小さな飛来物までは、流石にどうしようもなかった感じ。

 なので、いよいよ医療品の出番だ。リュックから薬品ときれいな布、それに包帯を取り出し、処置を始める。

 って言っても、医療の心得なんて私には無いからね。治療って言っても至極簡単なものだ。

 回復薬をきれいな布に染み込ませて、患部に貼って包帯を巻く。やることは基本的にこれだけ。乱暴な異世界医療の実態! とか言ったら、流石に方々から怒られそうだけども。

 しかしまぁ、冒険者の応急処置なんていうのは、大体こんなものだと聞かされている。まして、今みたいな状況下ではね。

 注意点があるとすれば、傷口をなるべく綺麗にするくらいだろうか。特に石の欠片なんかが埋没すると、えらいことになるからね。出血箇所には気を使う必要がある。


 減ったHPを回復させるだけ、というのなら服用すれば十分で、それでも負傷に対する回復速度はグッと増すんだけど、今みたいに節約したい状況なんかだと、布に染み込ませて張り付けておく、というのがコスパ的に良いらしい。

 薬が患部にしっかり作用するため、乱暴にぶっかけるより無駄なく使えるわけだ。

 一通り処置が済んだなら、傷がきちんと癒えるまで暫しここで休憩していくとしよう。

 次のセーフティーエリアで休んでも良いんだけど、どうせこの場でまた土にまみれる作業があるからね。

 柱にしがみつくので、筋肉もちょっと疲労したっぽいし、次へ向けてしっかり休んでおかねば。


 ……眠くなってきた。

 思えば、ここまで仮眠の一つも取らずに攻略を続けてきたため、自分で思うより疲れが溜まっていたのかもしれない。

 しかし、眠るにしたって何所で休んだものか。セーフティーエリアが一番安全なようにも思うのだけれど、しかし確信を持ってここなら大丈夫! とは言い切れない。

 かと言ってこの場で、というのもちょっと不安。ただ、セーフティーエリアと違って身を隠す場所には困らないのが利点か。

 ならば、そうだね。


 私は庭園の隅っこに移動すると、槍を使って土を掘り始めた。が、どうにも効率が良くないので、結局のところ手作業だ。

 わんこよろしくせっせと苔を引っ剥がして土を掘り起こし、そうしたら修復作用が働く前に、土の上で仰向けになる私。枕を高くするのがポイントだ。

 結果、ダンジョンの修復作用が私の体の上に土を持ってきてくれる。

 地面から頭だけ出てるような状態。砂風呂のイメージに近いのかな。


「うん。これなら寝れる……そして自然と一体化している今の私を、見つけられるモンスターなんて居るはずもなし! おやすみ!」


 強がり気味に言い切って、私はそっと目を閉じた。

 ふっと意識が途絶えたのは、それから程なくしてのこと。土の中、案外悪くはなかったよ……。

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