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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第九五〇話 小さな刃

 体の試練、和風のダンジョン。第三フロア。

 渡り廊下へ通ずる戸の前に、セーフティーエリアらしき場所を発見した以上、やはり渡り廊下こそが通常のダンジョンで言う“階段”、つまりは『フロア間を移動するための専用通路』の役割を果たしていると見ていいはず。

 断言は出来なくとも、そうである可能性は非常に高いだろう。よって、私の立っているここは第三フロア。それも、その出口と称していいはずの、次なる渡り廊下へ続いているであろう戸の前である。


 錠前。先の『技の試練』に於いて、ボス部屋を封じていたのも錠前だったけれど。それに比べたなら、飾り気のない質素な品だった。

 しかしそんな錠前が、ガッチリと戸の開閉を阻んでおり、恐らく無理やり破壊したとて直ぐに修復されるのだろう。

 或いは破壊不能オブジェクトに設定してある、なんて可能性も考えられる。

 つまるところ、ここを通りたくば、この錠前の対となる鍵を見つけ出し、持ってきなさいということなのだろう。

 もしかすると、敢えて技の試練に於けるギミックに近いものを用いることで、このフロアの突破条件を直感的に理解させる、なんて狙いがあったのかも知れないけれど、今はどうでもいい話か。


 要するに、私はもう一度このフロアを探索して、この錠前に合いそうな鍵を見つけてこなくちゃならないってわけだ。

 め、面倒くさぁ……! とも思うけれど、同時にゲームチックなギミックを示され、心躍る自分も居り。

 複雑な胸中を自覚しながらも、一つ息をついた私は、気合を入れ直して踵を返すのだった。


 これまでは、わざわざ障子を開いて部屋の中まで探索する、なんてことをせずに攻略することが可能だった。

 正直、そこに「こんな簡単に攻略できるなんて、おかしくない?」という感想が、まったく生じなかったかと言えば嘘になる。

 だからこそ、得心を覚えてもいるのだ。つまりはこの第三フロアからが、本番なのだろうと。

 これ以降は恐らく、しっかり部屋の中も探索し、鍵を見つけた上でゴールへ至らなくちゃ次へ進めない、というルールが適用されるのだろう。

 言わずもがな、難易度はこれまでの比ではない。一層の注意と覚悟が必要になるはずだ。

 もしかすると、モンスターとの戦闘も避けられないのかも……ああいや、どうだろう。


 わざわざ渡り廊下にモンスターが配置されているっていうのは、フロアをノーエンカウントで攻略できる可能性があるから、ないしは、ノーエンカウントで攻略したからこそ、渡り廊下に隠しモンスター的に餓鬼や足軽が出現した、なんて可能性も考えられるのか。

 だとするなら、このフロアに於いても恐らくは、ノーエンカウントクリアは想定されているものと見て良いんじゃなかろうか。

 ああいや、エンカウント自体は一反木綿でやらかしちゃったけども。なら、『ノーキルクリア』とでも言おうか。

 まぁそれも、あくまで推測でしかないのだけど。普通にモンスターを倒しながらフロアを攻略したとて、やっぱり渡り廊下にモンスターが配置されている可能性というのは、もちろん否定出来ないわけだし。


 ……どうであれ、渡り廊下での戦闘はもう、仕方のないイベントだと割り切るのが無難か。それ以外では極力戦いたくないものである。

 求められるのは、優れたスニーク技術。きっとオルカだったら、殊更意識するでもなく簡単にこなしてしまうんだろう。

 私だってビッグな親分や、スキンヘッドの四七なんかを操作した経験があるんだ。リアルでだってこなしてみせますとも!


 抜き足差し足忍び足。物音と気配を殺し、スニークミッションを開始する私。このフロアの何処かに隠された、錠前の鍵を見つけ出すのが目標だ。

 UIは疎か、ステータスやスキルの一つもない、生々しいほどにリアルな環境下に於いてこんな事をやる羽目になるだなんて、正直夢にも思わなかったな。

 今となっては寧ろ縁遠い、生前の脆弱で動きの鈍い身体。魔力や魔法なんて不思議な力と、関係性を断たれたような感覚。

 そんな状態で、殺る気満々のモンスターたちが蔓延るフロアから、小さな鍵一つを見つけ出せだなんて。とんだ無茶振りもあったもんだ。 

 ……いや、ここは逆にポジティブに考えるべきか。「願ってもない、特別で刺激的な体験だ!」って。貴重な機会であることは間違いないのだから。


(日頃の鍛錬のおかげで、全然息切れしない。肉体疲労の蓄積も軽微。やはり鍛錬! 鍛錬は私を裏切らない!)


 スニーキング。廊下を徘徊するモンスターの死角や物陰を、サササと素早く飛び移っては身を潜め。

 場合によってはノーキルクリアへのこだわりを捨て、暗殺も辞さない構えで探索に集中する。

 そうして、比較的順調に色んな部屋を調べ回っていたのだけれど。やがてとうとう、恐れていた事態に直面。

 部屋の中にはモンスターの姿があり、気取られずの入室は困難を極める状況だ。

 が、しかし。こんな時のためにこそ、私は小石なんぞを携えているのだ。

 ポイと廊下に小石を放り投げる。必然、カッカラコッと絵に描いたような物音が鳴り。それは障子向こうのモンスターの耳にも、しかと届いたようだ。


 モンスターがのそのそと、障子を開いて様子を見に出てくる。なんとも気怠そうな仕草である。

 そんな奴と入れ替わるように、こっそり離れた位置の障子を引いて、部屋の中へと身を滑り込ませる私。

 その際に、小石をもう一個放り投げる。今度はなるべく遠く、廊下の奥の方へと。

 すると、離れた位置で確かに物音が鳴り。モンスターの注意は完全に部屋の外へと向いたのである。

 この隙に、努めて迅速な探索作業をこなすわけだ。棚という棚、引き出しという引き出し、押し入れから物陰の尽くを大急ぎで一通りさらっていく。

 残念ながら、この部屋にはそれらしいものは見当たらなかった。

 そうこうしていると、モンスターが戻ってきてしまったようだ。私は先程と同様に、奴と入れ替わるようタイミングを合わせて障子を開き、まんまと脱出を成功させ、その場を離脱したのだった。勿論、使用した小石の回収も、可能であれば行う。


 正直、モンスターを出し抜く感覚は痛快で、ヒリつくようなスリルが癖になりそうではあった。

 が、当然神経をすり減らすような感覚、精神的疲労は決して小さいものではなく。

 内心でヒィヒィ言いながらも、スニーキングミッションに没頭し続けることしばらく。ようやっとである。

 ようやっと私は、モンスターの屯していた部屋の小箪笥にて、錠前の鍵と思しき品を発見。

 興奮を押し殺し、サッとパクっては素早くその場を後にしたのだった。正直、気が急いて隠密が雑になってしまった点は反省が必要だ。


 そんなこんなで、やっとこさ鍵を手にした私は、錠前のある戸の前に至り。そこで、ふと思ったのである。

(もしや、この錠前を解錠しない限り、この場所がセーフティーエリアとして機能することはない、なんて仕様が施されていたりは……)

 仮にそうだとした場合、ちょっと休憩してから解錠を、なんて油断が命取りになりかねない。

 かと言ってその逆に、解錠した途端セーフティーエリアの機能が消え失せる、という正反対のギミックが施されている可能性も否定は出来ず。


 結果として私は、警戒を解くこと無く小休憩を挟み。そうして、おっかなびっくり錠前に鍵を差し込み、ガチャリ。見事解錠に成功したのである。

 瞬間、突然モンスターがポップ! ……なんてことが起こるわけでもなく。拍子抜けするほど静かなもの。

 小さく安堵の息を吐き、されどこの場が安全か否かも判然としないため、さっさと戸を開いて渡り廊下へ出ることに。

 ガラガラ、とすら言わず。滑らかにスライドした戸の向こう。相変わらず見事な庭園を横切るよう拵えられた、渡り廊下が一本。

 単なる渡り廊下と呼ぶには長いそれは、途中カクンと折れ曲がることもあり。

 道なりに歩んでみたならば、やがて廊下の最奥。次なるフロアへの入り口が目に入るわけである。


 すると案の定だった。第四フロアの守護者とでも言おうか。戸を背に庇うようにして、モンスターの姿が一つ。

 その容貌の、何と頼りないことだろうか。というより、愛らしいと表するべきか。

 立ち上がってみせたとて、精々が私の膝ほどまでの背丈。体毛は灰色。何より特徴的なのは、その背に負った鎌である。

 イタチだった。鎌を背負ったイタチ。当然、その名には心当たりがありまくり。殊更中二病患者には馴染みも深いだろう。


 鎌鼬。つむじ風に乗って現れるんだって話。いたずらに人を斬りつけ、しかし切り傷に痛みはなく、血も出ないとかなんとか。

 そんな怪異をビジュアル化したのが、目の前の鎌を背負ったイタチなのだろう。灰色の体毛は何なのか。普通のイタチとの差別化でも図ったのか。

 何にせよ、ここまでに戦ってきたモンスターたちに比べると、厄介そうな手合ではある。

 もしかすると風魔法や、アーツスキルの類を用いてくるかも知れない。そうでなくともすばしっこさには注意が必要だ。

 固唾を呑み、静かに槍を構える私。向こうも既に、こちらの存在は捕捉しているようだ。


 次の瞬間である。魔力の気配を感じ、僅かに瞠目する私。すわ不可視の刃でも飛んでくるのかと思えば、どうやらそうではなく。

 追い風。自らの背を押し出すよう風を用いる、謂わばブースターのような移動系マジックアーツ、ないしは属性アーツである。

 だが、安心なんて出来ようはずもない。これを受けた鎌鼬の動きは恐ろしく速く。

 また、体躯の小柄さもあって、奴はまんまと私の振るう槍の穂を掻い潜り、懐への侵入を果たしたのである。

 正に一瞬の出来事。刹那の交差。体感時間は長く、実時間は短く。気づけば首元へ迫る鎌の軌道。


 しかし、である。

 魔力を感知した時点で、こうなることは予想がついていた。勿論完璧に読みどおり、とは言わないけれども。

 少なくとも、ステータスのない私の槍が、奴を仕損じる可能性っていうのは織り込み済みだった。

 だから私は、腰のナイフに手を掛け、それを引き抜き構えたのである。

 ガギッと、耳障りな金属音は、ナイフと鎌の刃が衝突した響き。手応えは想像していたより重く。

 されど、所詮は小さな体躯から繰り出されるもの。押し負ける程にはあらず。私は鎌鼬の初撃を阻むことに成功したのだ。と、同時。反撃は既に始まっており。


 ナイフで鎌を受け止めた。その際の衝撃を、私はもう一方の腕へ、拳へと伝え乗せ。

 されど指を握り込むこと無く、手の形は掌握するためのパー。身を捻るように繰り出したなら、鎌鼬の横腹を捉え、掴み。

 十二分に勢いを乗せて、渾身の力で床へと叩きつけたのである。

 ダガンッ! と、強かに床板へ全身をぶつける鎌鼬。甲高い悲鳴が上がるも、容赦は出来ない。

 奴が次の動きに出るよりも早く、私はその背をドシンと踏みつけ。そうして、勢いそのままにナイフを振るったのである。


 きっと、動物愛護団体の人が見たら、卒倒するような光景。されど私にとって重要なのは、鎌鼬の生死。それだけだ。

 息の根は止まり、肉体と鎌が黒い塵へと還っていくのを認める。決着は成ったらしい。

 されど残心は解かず、鋭く辺りに注意を巡らせながら、床に落ちた槍を拾い上げる。


 そうしていよいよ、鎌鼬の護っていた戸を開き、その中に踏み込んで、やっとこさ息をついたのである。

 第四フロア。渡り廊下を抜けた先は、セーフティーエリアである可能性が非常に高い。

 緊張を解き、ナイフを鞘へ収め。そうして、今しがたの短い戦闘を思い返して、少し背を冷たくする。


(とうとう、スキルを持ち出してきたか……)


 餓鬼も足軽も、思えばその身一つで襲い掛かってきた。体に宿していたのはステータスくらいのものだったろう。

 けれど鎌鼬はそれらに加え、スキルまで駆使してきた。幸い大したことのないスキルではあったけれど、それでも普段に比べて無力に等しい今の状態に於いては、些細なスキルだろうと確かな脅威に他ならず。

 きっとこの先も、スキル持ちは出現し、行く手を阻んでくるのだろう。

 あとどのくらいこのダンジョンが続くものか。それを思うと、気が滅入る思いだった。


「みんなは大丈夫かな? 怪我とかしてなきゃ良いけど……」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 こういう潜入(?)プレイやスニーキングプレイなゲームはやはりメタルギアシリーズが有名でしょうが、個人的には『天誅』シリーズを思い出す派です。 海外版は数年前に作品がリ…
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