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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第九四九話 顔も石も使う

 宙を不自然に漂う、ただ白くて長いだけの布。それが猛烈な勢いで背後から追いかけてくる。

 凶暴なモンスターに追いかけられるのとはまた違う、独特の恐ろしさというか、不気味さを感じ、思わず顔が引きつってしまった。

 とは言え、これでもたくさんの死線を潜ってきたからね。悪夢の中のように、足がもつれて転んだりなんてしない。

 より素早く逃げようと思うのであれば、より美しいフォームを追求すれば良い。

 というわけで、陸上選手さながらの美しいダッシュで、廊下を疾走する私である。なお、当人的にはそのつもりと言うだけで、傍から見たらそうでもない模様。

 何せ長い槍を携えているわけだしね。陸上選手ばりの、っていうのには無理がある。


 ともあれ重要なのは、全力ダッシュが功を奏し、未だ一反木綿と思しきその布に追いつかれずに済んでいる、ということだ。

 そうこうしていると、見えてきたのは小広い空間。奥には渡り廊下へ通じる戸があり、見解としてはセーフティーエリアではないかと睨んでいる。

 そんな場所に、やっとこさ飛び込んだ私。素早く身を反転させ、一反木綿の様子を窺ってみる。

 本来であれば、間違いなく追いついてきた奴との戦闘に突入する場面だろうけれど。


 しかし果たして、思いがけず奴からの攻撃は飛んでこず。それどころか一反木綿は、突然不自然な動きを見せ始めたではないか。

 あたかも私の姿を唐突に見失ってしまったかのように、ふわふわと不思議そうにその場をしばらく漂っては、諦めたようにふいと向きを変え。

 そうしてとうとう、明後日の方向へと飛んでいってしまったのだ。

 また、その姿を観察している内に、布の一部に核らしきものの存在を確認。奴がモンスターであることを確信することが出来た。


 一反木綿の姿が完全に見えなくなり、やっとこさ脱力する私。体を張った甲斐があり、この場がセーフティーエリアである、という考えに対し、信憑性をぐっと高められたように思う。

 もしかすると、例えば一反木綿のやつがとんだ食わせ物で、敢えて私を見失ったふりをし、ここで休憩を始めたタイミングを見計らって襲い掛かってくる!

 みたいな可能性がないとも言い切れないし、或いは別の要因で私を見失ったってことも否定し切ることは出来ない。

 はたまた、よしんばここが正しくセーフティーエリアだとして、しかしそれが常にそのような効果を持つ場所として機能しているとも言い切れない。

 もしかすると、セーフティーエリアとして機能するのには何か条件があるのかもしれないし、或いは有効時間なんかが設定されているかも知れない。

 正直、分からないことだらけで、心底安心することは出来ないと考えるべきだ。


「精神が摩耗し切る前に、なる早で攻略したほうが良さそうだね……時間を掛けるほど不利になると思う」


 方針を定めたなら、早速行動である。なんやかんや言っても、一応はセーフティーエリアとして期待できる場所を見つけられた、という事実は大きい。

 休憩場所に目処が立ったのなら、多少アクティブに行動してもリカバリーが利くってもんだ。

 一反木綿が去ったのとは異なるルートを選び、移動を開始する私。目指すのは次なる渡り廊下。

 もしかすると、通常のダンジョンよりも目処を立てやすいかも知れない。だって、階段と違って渡り廊下ならおよそ、フロアの外周に位置しているはずだからね。

 つまりフロアの端っこを意識しながら探索していれば、そう遠からず辿り着くってわけだ。

 勿論、ダンジョンに対してそんな常識が、必ずしも当てはまるとは限らないのだけどね。それでも、手がかりもなしに闇雲に探索するよりかはずっと良いはずだ。


 ここまでの探索を踏まえ、どの程度の警戒が必要かも段々と分かってきた現状。殊更注意するべきは、このフロアからは廊下にもモンスターが存在しており、しっかりとクリアリングを行わなくちゃいつエンカウントしてもおかしくない、という点だろう。

 注意点を念頭に置きつつ、先程までよりも大胆に探索を行っていく。無論、エンカウントは極力避ける方針は変わらない。

 目指すはノーエンカウント。一反木綿にはわざと見つかったので、ノーカウント。

 コソコソと行動していると、なんだか泥棒にでもなった気分だ……まさか監視カメラとか仕掛けられてないよね?

 あらゆる可能性を、意識の隅で考察しつつ。大胆かつ繊細にダンジョン内を移動する。


 結果、攻略法がしっかりハマったためか、第一フロアに比しても早く、次なる渡り廊下を発見するに至ったのである。

 順調順調。一体何フロアあるのかは分からないけれど、この調子ならば無事にゴールまで辿り着けそうな気がする。

 が、変調を仕掛けてくる可能性は決して低くないため、浮かれてなんていられない。

 何より、渡り廊下にはまた、先程同様にモンスターが配置されている可能性があるのだ。慎重にならねば。


 などと、警戒したのも束の間。思ったとおり、次なるフロアの前に陣取っている者の姿を発見。

 それを一言で表すのなら、“足軽”だろうか。頭には笠をかぶり、体には甲冑。得物はカタナを握っているじゃないか。

 そして何より、白骨である。妖怪っていうか亡霊っていうか……和風なら割となんでも良いのかな?

 ともあれ、今回も戦闘は避けられない様子。しかもカタナを携えた相手とのタイマンだなんて、ちょっとドキドキしちゃう。

 何せ私も普段はカタナを振り回しているわけだからね。相手がどんな剣術を用いるのか、興味津々である。

 とは言え、剣と槍では槍が有利である、というのは広く知られたお話。余程の力量差がない限り、後れを取ることはないだろう。

 なので、兎にも角にも油断や慢心をせぬよう、確実に勝利を掴みたいところ。


 足軽との間合いは一〇メートルほど。槍を構えて対峙したなら、奴もまたカタナを構えて臨戦態勢。

 ただ一点、気になるのは奴のその視線だ。チラッ、チラッと、気もそぞろと言わんばかりに私の顔を見てくるのである。目玉なんて無いくせに。

 どうやら私のこの顔面、相手の注意を逸らすのに一役買ってくれているらしい。思えば餓鬼も、やたら私を睨んできたけれど。

 しかしその視線は、執拗にこの顔へ向けられていたように思う。モンスターの気すら引いてしまうだなんて、罪な顔である。

 精々、薄い本のような展開にならないよう、全力で自衛するとしよう。女児にそういう展開など求めないでいただきたい。事案ですよ。


「えい」


 隠し持っていた小石を投擲する。私の顔に気を取られていた足軽は、ハッとしたように小石を刃で弾き飛ばす。

 が、そのワンアクションが致命的だった。最速で踏み込み、刺突を繰り出す私。

 それは狙い過たず、足軽の頭蓋に穴を開け。瞬時に引き戻した穂先で、奴の手首を叩いた。

 しなった槍は、十分な打撃力を発揮し。足軽は右手首の関節から先を落っことしたのである。無論のこと、カタナを握ったまま。


 頭蓋を突かれ、得物を取り落とした足軽。こうなっては剣術どころではない。

 慌てたようにカタナを拾い上げんと左手を伸ばす足軽。されど、その行動はあまりに迂闊ではなかろうか。

 手首を叩くために振り下ろした槍を、次いでぐんとしなりを利用し振り上げる。

 結果、槍の穂は前屈みになった奴の頭蓋骨を、強かに跳ね上げた。傘をかぶったそれはくるくると、慣性に従い宙を舞う。

 一方で頭部と分かたれた胴体は、槍を受けた衝撃で幾分姿勢が蹌踉めいて。


 そこへ、獲物を手放した私は更に踏み込み、掌底。その際、ちゃっかり刀を踏んづけて、刃をほぼ根本からへし折っておく。

 掌底を加えた先は足軽の甲冑だった。胸の真ん中辺り。

 あわよくば甲冑の破壊をと目論んだのだけれど、流石に漫画のようには行かないか。

 その代わり、本体が骨であり、体重の非常に軽い足軽は容易く吹き飛んでしまった。

 恐らく、奴の核は甲冑の奥。或いは頭蓋の中に収まっているものと予想している。

 胴体への追撃は、なんだかグダりそうな予感がするため、私は未だ空中にある足軽の頭蓋をナイスキャッチ。

「ぬん!」

 気合一発それを床に叩きつけ、おまけに踏んづけて砕いてみる。核が収まっているのなら、これで決着のはずだ。


 が、未だ胴体は残ったまま。頭部を粉々にされても死なない、或いは死ねないだなんて、酷い話もあったもんだ。

 掌底を受けたせいで、罅割れやや陥没したボロボロの甲冑。それを引っ掴んで、思い切り一本背負い。

 するとどうだ。スポン! と、快音でも聞こえそうな勢いで、頭部を失った骸骨が甲冑から飛び出したではないか。

 その際、どうやら肩が外れたらしい。或いは折れたのか、躍り出た胴体には両腕が付いていなかった。

 惨憺たる有様とは正にである。だが、まだ死なないというのだから仕方がない。


 案の定骸骨の胴体、肋骨に守られるようにして拳大の核が存在しているのを見つけた私。こぼれ落ちても良さそうなものだけど、不思議な力で固定されている様子。

 アレを砕けば決着だ。今楽にしてあげるから、などと偽善に駆られ、今しがたダイナミックに振り回した甲冑を、思い切りよく胸骨部へと叩きつけてみる。

 倒れ伏したところに甲冑を受け、肋骨の何本かが砕け飛ぶ。されどまだ動いている骸骨。痛々しい姿だ。攻撃しておいてなんだけど、もう見てらんないよ。

 私はそこへ勢いよく飛びかかると、震脚。一思いに骨ごと核を踏み砕いたのだった。


 これにより、やっとこさ黒い塵へと還る足軽骸骨。派手に飛び散った骨の欠片たちが、余さず消え失せるのを見送る私。

 最後に、他に敵影がないか、遠くから矢の一つも飛んできやしないかと警戒しつつ、そそくさと戸を引いて潜ったなら、第三フロアへ突入である。


 セーフティーエリア。そのはずだ。

 小休憩がてら、水筒で軽く喉を潤し。そうしたなら早速とばかりに探索を再開する。

 時間を掛ければ掛けるほど、心身共に疲労が蓄積して、パフォーマンスが低下する恐れがある。

 更に恐いのが、体調を崩すこと。スキルのお陰で不調とは殆無縁だった私だけれど、ステータスすら無い今の状態ではどうなるか分かったもんじゃない。

 よって、攻略はなるべく速やかに済ませたいところ。もしもこんな所でお腹でも壊そうものなら、それはそれは悲惨なことになるだろうしね。

 ……それはそれは、悲惨なことに……やめよう。考えたくもない。


 ブンブンと頭を振り、先を急ぐ。

 そうして、第三フロアも比較的危なげなく探索を行った結果、次なる渡り廊下へ続いているであろう戸を発見するに至ったのである。

 が、しかし。


「わぁ……そう来たか」


 錠前にて施錠された戸を前に、私は深い溜め息をついたのだった。

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