第九四五話 武器なんか捨ててかかってこい!
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体の試練について
第三の試練は『体の試練』。皆さんにエンドコンテンツへ挑むだけの肉体と、それを十全に扱う能力が備わっているかを問うものです。
挑戦に当たり、今回は皆さんのスキル、ステータス、そして装備品を含めた所持品の一切を、一時的に没収させていただきます。
代わりに支給品のご用意がありますので、本メッセージウィンドウ横の扉を抜けた先、準備室にて支度を整えて下さい。
また、本試練への挑戦は単身にて行っていただきます。お待ちいただいたところで、どなたかが後からやって来ることは御座いませんので、お好きなタイミングで先にお進み下さい。
ステータスが存在しないという特殊な環境下に於いて、挑戦者の皆さんに行っていただきますのは、ダンジョン攻略となります。
無論のこと、道中にはモンスターも存在しますし、罠も御座います。それらをご自身だけの力で乗り切り、或いはやり過ごし、ダンジョン突破を目指して下さい。
見事ダンジョンの最奥に辿り着くことが出来ましたら、体の試練を乗り越えたものと判断致します。
また、お預かりしたスキル、ステータス、物品の全ては、ダンジョン攻略が成った際にご返却致します。
勿論、お預かりしたものに関して、こちらで何か手を加えるようなことは一切御座いませんので、どうかご安心下さい。
皆さんのご健闘をお祈りしております。
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メッセージウィンドウに目を通した私は、そのあまりの内容に暫し呆然。言葉を失っていた。
スキルどころか、ステータスまで没収……? あまつさえ装備品を含む所持品も全部……?
つまりは、そう。生前の、ただの女子高生だった時と同じような条件でダンジョンを攻略しなさいってことだ。
とんでもない無理ゲーだ。今の私があるのは全部、ステータスやスキル、それに頼もしい装備あってのこと。
それらの一切を奪われた状態で、私に一体何が出来るっていうんだろう……?
何も出来やしない……ああいや、精霊術ならワンチャンあるのかな? それに闘気とか。
あ、そう考えたら、案外行けそうかも? 絶望感が少し薄れてきた。むしろ、やっとこさそれらの出番って感じさえする。
「って言うか、自分のこと以上に他のみんなが心配なんですけど。スキルもステータスも存在しない環境っていうのに、一応は慣れも親しみもある私と違って、他のメンバーはそうじゃないしね。特に後衛組なんて、かなり大変なんじゃ……」
そりゃ全員、闘気は扱えるけども。でも現時点じゃ、本当に発動できるって保証もないわけだし。没収の対象に含まれてるとしたら、かなりマズい事態だ。
特にスイレンさんとか、大丈夫かなぁ……今頃この説明を見て泣いてるか、若しくは気を失ってたりするのではないか。
他に後衛組って言うと、聖女さん……は、案外逞しい気がするんだよね。心配なのは間違いないけど、彼女ならなんとかしそうな気もする。
鏡花水月で言えばソフィアさん。ソフィアさんなぁ……スキル没収とか、発狂してそうだ。一番心配まである。
でも、ゴールしなきゃ返してくれないってんだから、多分誰より頑張りそうでもある。だからある意味、一番心配要らないかも。
ああいや、一番心配要らないって言えば、やっぱりゼノワか。精霊力が足りてるかだけが心配。それ以外は、きっと大丈夫だろう。あと、サラステラさんやイクシスさんとかね。
翻って、私はどうだろうか。流石に生身でのダンジョン攻略ってなると、ミコバトでだって想定したことがなかった。
でも、私の弱点って『基礎ステータスがやたら低い』ってものであって、別に私の肉体がへっぽことか、そういうわけじゃないんだよね。
寧ろしっかり運動はしてるし、間違いなく生前よりは余程動ける。それに何より、骸を取り込んでいるっていうのが大きい。
彼女らの経験はきっと、万能マスタリーを没収された不利を補ってくれるはずだ。
ってことで、多分私も心配が要らない組の一人だと思う。というか、私が苦戦するようじゃ、いよいよ後衛組のクリアが絶望的だもの。
そういう意味に於いても、私は余裕を持ってクリアできなくちゃダメなんだと思う。無理ゲーって言葉は撤回するべきか。
「うん……頑張ろう。って言うか、スキルが使えないってことはつまり、またも【超必殺技ゲージ】の実戦投入はお預けってこと!? 使い勝手良さそうなのに、出番に恵まれない子だなぁ……」
今も視界の隅っこでは、テカテカと派手に超必殺技ゲージが満タンを主張しているけれど。
もしやこの状態で没収されるの? 返却された際に、この満タンゲージってどうなってるんだろう?
三〇分も掛けてゲージを溜めたっていうのに、もしリセットされるんだとしたら悲しいんですけど。
って言うか、リセットされるのだとしたら、溜めた分のエネルギーって何所に行くのさ? 迷宮が美味しくいただく感じ?
でもでも、預かったものには一切手を加えないって話だし、案外そのままの状態で戻ってきたりして。
これ、ひょっとすると地味に有益な検証になるかもね。よし、ゲージは満タンのまま預かってもらうことにしよう。
ともかく、話は分かった。どうやらここで待っていても、誰かメンバーと合流できるわけでもないみたいだし。
であればさっさと次へ進んでしまおう。私はメッセージウィンドウ横にぽつんとある扉へ向き直ると、ドアノブへと手を掛けた。
がしかし、そこでふと動きを止める。
「待てよ……? ダンジョンに入っちゃうと、多分休憩一つするのにも神経をすり減らす気がする。なら今のうちに、しっかり休憩は取っておいたほうがいいか」
この先にあるのは準備室。足を踏み入れた途端、あるいはこの扉を開いた瞬間から、スキルやステータスが無効化される可能性も考えられる。
なら、それら没収が生じていない今のうちに、やれることはやっておいたほうが良いだろう。
鍛錬とか、食事とか、睡眠なんかがそれに当たる。ストレージやマジックバッグが取り上げられるとなると、ダンジョン内じゃ満足な飲み食いができないかも知れないし。
それに扉の先には、横になれるベンチが置かれていないかも。逆にしっかり休めるベッドが置かれてる、って可能性もあるけどさ。そうしたらもう一休みすればいいだけの話。
そして何より鍛錬。スキルの鍛錬をするのに、スキルが使えないってんじゃどうしようもないからね。出来る内にやっておかねば、精神衛生上よろしくない。
ってわけで、先ずは過酷な試練に万全なコンディションで臨めるよう、この待機室にてしっかりと英気を養うのだ。
そんなこんなで、およそ丸一日。しこたまみっちりスキルの鍛錬を行い、十分に食事を摂り、ガッツリ睡眠。きっとヨルミコトも久々にはっちゃけたのではなかろうか。
可能な限り万全を期し。まだ鍛錬に未練こそあるものの、されどここでダラダラ何時までも過ごしていたって仕方がない。
ああ、それと驚いたのだけど。私がその、お尿意を催しあそばして、はしたなくももじもじとしていると。不意に新たな扉がにゅっと、部屋の隅に現れたのである。
恐る恐る中を確認してみると、なんとお手洗いが用意されているじゃないか。迷宮の配慮に痛み入った瞬間である。
そんなわけで、色んな意味に於いて用意はバッチリ。覚悟もしっかり決めたなら、いよいよ準備室とやらに続く扉をガチャリと押し開いた。
すると、目に飛び込んできたのは、さながら武器屋さんのような光景。所狭しと、多種多様な武器が陳列されていたのである。
その他には、部屋の中央にテーブルが一つ。天板の上に乗っかっているのは、畳まれた衣類一式と靴、それにリュックが一つ。私が抱えているリュックと比べると、小ぶりなサイズだ。
それと、テーブル脇には大きな宝箱。よく見ると小さなメッセージウィンドウがくっついている。何でもかんでもメッセージウィンドウで伝えてくるじゃん……。
そういえばこのウィンドウも、もしやヴァルキリーナイトの用意したものなのか、はたまた別の何者かが拵えたのか。
今考えてみたって、答えの出るようなことではないけれど、試練をクリアしたら何か分かったりするんだろうか?
これが物語なら、「ぐわっはっは、それを書いたのはワシじゃよワシワシ!」みたいに、自己主張の強い登場人物が、訊いてもないのに教えてくれたりするのかも知れないけどさ。
リアルに於いては、知りたくても情報が掴めないっていうのが常。ネットのないこの世界じゃ尚の事だ。
まぁ、その辺りのことは、手がかりがあれば掘り下げてみるとして。
肝心なメッセージウィンドウの内容はというと、持ち物はこの中にしまいなさい、というものだった。全部しまわないと、奥の扉は開かない、と。
言われてその扉とやらを探してみると、確かに入ってきたのとは異なる、質の良い扉がもう一枚存在していた。きっとダンジョンに繋がっているんだろう。
「はぁ……なんてこった。カミカゼとも少しの間離れ離れか。いい子で待ってるんだよ? 寂しくないように、他の子たちもストレージから出して一緒に入れておこうね」
言いつつ、チョーカーを外して宝箱の中へ。ストレージからは、影の薄いムゲンヒシャと、尻尾であるアラカミ。そして最後に月日をそっとしまい込む。
「よし、これで後は今身につけているものを……って待てよ? 大事なものは寧ろ、ストレージにしまっておいたほうが安全だったりする? 万が一宝箱の中身をニセモノとすり替えられたりしたら、ブチギレ案件待ったなしだもの。ねぇ、皆はどう思う?」
一先ず装備たちに意見を聞いてみる。すると必然、「いきなり何の話?」という当たり前の疑問が先ず返ってきて。
私は事情を説明した後、再度問うたのである。この宝箱の中で待つか、それともストレージの中に入っているか、と。
すると皆は軽く意見を交わした後、返答を寄越したのだった。即ち、「だったらストレージが良い」とのこと。
そんなわけで、宝箱の中から装備類を拾い上げた私は、皆をシュシュッとストレージへ収納。
代わりにと、リュックを箱の中へと降ろし、マジックバッグ……は、ストレージに入れておこうかな。それともリスクヘッジ的に宝箱でいいか……少し悩んだけど、やはり宝箱に入れておくことに。
そうしたら最後に、装備品を全て換装にてストレージへしまう。っていうか、この部屋でもまだスキルの類いは使えるようだ。
使用不能になるのは、ダンジョンに足を踏み入れてから、ってことになるのかな。ちょっと緊張してきた……。
すっぽんぽんになった私は、結局リュックとマジックバッグしか入っていない宝箱を見下ろし、これで大丈夫だろうかと小首を傾げながらも、取り敢えず蓋を閉じた。
そうしたなら続いて、視線を移したのはテーブルの上……ではなく。壁際にずらりと並んだ武器である。目が行ってしまったのだから仕方がない。
というか、ちょっと気づいたことがある。私はペタペタと裸足で床を踏みつつ、整列した武器へ近づいていく。
そうしてまじまじと眺めてみれば、やはり。どれもこれも品質が然程高くないと確信した。
古いとかボロいとか、そういう意味じゃなく。単純に弱い武器ばかりだという話。
種類こそ豊富なれど、どれもこれも駆け出し冒険者が所持していそうなくらい、控えめな性能の品である。
これでダンジョン攻略というのは、正直心許ない。何を持っていくのか、よく考えたほうが良さそうだ。
暫し考え込んだ私は、一先ず服でも着ようかと踵を返し、テーブルの上に用意されたそれらを見下ろした。
これもまた、防御力なんて望むべくもないような、最低限の衣服ときたものだ。
「本当に身一つでダンジョンにぶつかれってことなんだな……」
ひしひしと無理難題の気配を感じながらも、私は用意されたそれら衣類を着用したのだった。
誤字報告毎度感謝です。恐れ入ります。
凡ミスぅ……ですかね。いやはや、お恥ずかしい。




