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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第九四〇話 小手調べ

 勇んで飛び出した闘技場。既にポップを済ませていたヴァルキリーナイトは、この技の試練に於けるボスと目されるモンスターで。

 考えなしに仕掛けるのは危険であると警戒した私は、注意深く向こうの出方を窺っていた、のだけれど。

 思いがけず大人しいヴァルキリーナイト。腰に携えた剣を抜くでもなく、私をちょいちょいと手招きしたのである。

 殊更、心眼の使えない現状、半ば疑心暗鬼のようになりながらも、さりとて。

 闘技場というこの場所と、ヴァルキリーナイトの清廉さを感じさせるそのデザイン。それらが相まって、もしや戦闘開始前の礼でも行おうっていうんじゃないだろうか、なんて考えが頭を過る。

 勿論、それが罠だという可能性も否めない。否めないのだけど……しかし、モンスターと一口に言ったって様々。

 殊更思い起こされるのは、かつて出会った黒い鬼のこと。彼は人語を解し、理性だって有していた。

 であれば、このヴァルキリーナイトだってもしかすると、それに近い性質を有していたとして、何の不思議があろうというのか。


 別の角度から思考してみようか。

 現状、既にスイレンさんは【時流の調べ】を奏でている。今はまだ、扉の向こうに身を潜めたままだけれど。

 ヴァルキリーナイトはそちらへ攻撃を仕掛けるでもなく、舞台の真ん中に佇んでいるだけ。

 不気味であることに間違いはないけれど、しかしもしも奴がその気であるのならば、現時点でスイレンさんを放置しているというのは不自然なようにも思える。

 きついデバフを仕掛けたのだ。ならばその発生源を真っ先に排除しにかかるってのは、当然というものだろう。


 例えば、ヴァルキリーナイトが一体ではない、なんて可能性はないだろうか?

 その仲間は既にスイレンさんの存在を捉えており、攻撃を行うタイミングを窺っている。私が誘いに乗った瞬間、そいつは行動を開始する……的な。

 でも、考え過ぎてる気もする。現に気配や魔力反応の類いは感じられないのだもの。

 伊達に修行期間ずーっと、延々と魔力をこね回していたわけじゃない。今の私の魔力感知能力は、魔法に長けたソフィアさんすら凌駕すると自負している。

 加えて私は精霊術師だ。もしも別のモンスターが潜んでいたとて、違和感として感知しやすいはず。

 それら何れの探知にも引っかからないっていうんなら、伏兵の心配はほぼ必要ない、とするのが正解な気もする。


 しかしだとするならば、ヴァルキリーナイトは一体何を考えているっていうのか……解せない。

 解せないけれど、このまま悩んでたって話が進まないのも事実。私は腹をくくることにした。

 幸い、月日を携えた最強装備(黒)の防御力があれば、ちょっとやそっとの攻撃を受けたところで死にはすまい。

 ヴァルキリーナイトの、どんな些細な動きも見逃すまいと注意を張り巡らせ、彼女の正面へと降り立つ。

 地に足をつけた瞬間、ドカーーーン! ……だなんてこともなく。姿勢よく立っているだけのヴァルキリーナイトと、緊張しつつも向かい合う私。


 どうやら本当に、突然襲い掛かって来たりだとか、罠が仕掛けてあるってこともないみたいだ。

 正直、困惑である。何だろう、何がしたいんだこのモンスター……?

 ヘルメットの下で顔を引きつらせる私。一方でヴァルキリーナイトは、私と暫し向かい合ったかと思えば、不意に……ヘコっと一礼。

 釣られて私も頭を下げたなら、満足そうに小さく頷くヴァルキリーナイト。幻覚だろうか、ポワッと彼女の背景に花が咲いたように見えた。

 かと思えば、機嫌良さげに背中の真っ白な翼をパタパタと動かし、腰に佩いた剣を抜いたのである。

 そうして、見せつけるような正眼の構え。意表を突いて襲ってくるということもない。


 ここまで来ると、流石に分かってくる。そうか、なるほどこのモンスター……かつて見たどんなモンスターよりも、礼儀正しいんだ。

 ヴァルキリーナイトだなんて種が故なのか、はたまた彼女だけの特性なのか。

 何れにしたところで、そういうことならばと私も倣うように月日を抜き、構えた。最強装備が黒から白へと変わり、その変化に少しだけヴァルキリーナイトが驚きを見せる。

 正直な話、そんな彼女を相手にしては、スイレンさんの演奏によるバフ・デバフが無粋なように思えないでもないけれど。

 されどもとよりこれは、PTでの戦闘だ。もしかするとヴァルキリーナイトは、一騎打ちを望んでいるのやも知れないが、しかし技の試練はPTで活動することが前提として組まれたもの。

 もし本当に正々堂々というのなら、スキル制限なんて無いはずだからね。だから引け目を感じてはならない。


 胸を張ってヴァルキリーナイトと対峙する私。今しがた、少しだけ緩んだ空気は既に、そこには無く。

 取って代わったように漂うのは、ピンと張り詰めたような緊張感。兜に隠れて彼女の顔も視線も見えやしないが、それは向こうも同じこと。

 互いの間に横たわる距離は二〇メートル程度。私がそうであるように、恐らくは向こうも一瞬で潰せる程度の間。

 有利なのは言わずもがな、私だ。静寂に響くスイレンさんの楽曲が、その理由。

 どれほど強靭な魔法抵抗力を有していても、演奏スキルからは逃れられない。

 彼女の体感時間はギュッと凝縮され。反対に私たちの体感時間は拡張を受けている。

 ヴァルキリーナイトは私たちに比べると、多くの情報を取りこぼしてしまうに違いない。

 きっと自覚はあるはず。その上で、こうして正面から相対したというのは、何か勝算があってのことか。はたまたバカ正直なだけか。


 ヒリつくような睨み合いの中、果たして先に挙動を起こしたのは……私の方だった。

 相手の本質を見極めるためにも、正面から打ち込んでみることに。ただし、当然ながら容赦はしない。

 骸たちから引き継いだステップや体捌きを駆使した、最速の一撃。狙うは頭。剣道で言う面だ。

 ちなみに元帰宅部エースの私は、当然ながら剣道だなんて未経験だけども。されど実戦と鍛錬で磨かれた技術は、今や達人の域に片足くらいは突っ込んでいると自負している。主に骸たちのお陰で。

 惜しむらくはまだまだ、彼女たちの技を十分には体得できていないという、己が未熟さだけれど。

 それでも、持ち前のステータスと装備、更にはスイレンさんの支援を重ねたことで、恐らくは反応すらままならない雷が如き一撃に至ったはず。


 その、はずだったのだけど。

 どうしたことか、ヴァルキリーナイトは辛うじてなれど、私の剣を自身の剣にて受け止め、鍔迫り合いに持ち込んだではないか。

 想定を超える反応速度、そしてステータス。流石はエンドクラスのボスモンスターというところか。心の試練のボスよりずっと強敵かもしれない。

 しかしそれはそれとして。何かスキルを用いるでもなく、純粋に剣だけで応じてきたヴァルキリーナイト。

 鍔迫り合いから、押して引いての駆け引きに於いても、あくまで正々堂々。いっそ清々しく思える相手だ。

 恐ろしいのはこれが、時流の調べの流れている中でのやり取りだってこと。流石は技の試練のボス。技量は私を大きく上回っているようだ。

 が、そうであればこそ、ここは一つ胸を借りるつもりで。


 瞬発的に力を込め、ヴァルキリーナイトの剣を弾く私。そこから次の一撃を叩き込もうというのだ。

 しかし、弾いた感触に違和感を覚えた私は、とっさに一歩引いた。案の定彼女の横薙ぎが、私の腹部を紙一重で横切っていく。

 タイミングを見切られたらしい。私が力を込めたのと同時、自ら剣を引いたことで隙を殺し、逆にこちらを斬りつけてきたのだ。

 素晴らしい読みの冴え、いっそ惚れ惚れする。とは言え、それと察した私もナイスだ。回避できて偉い!

 間髪入れず月日を振るう。攻撃をいなしたのだから、次は私のターン! ってね。

 けれど、実戦はそんなに甘いものではない。流れるような動作で更に一歩踏み込んできたヴァルキリーナイトは、勢いを活かし当て身を見舞わんとしたのだ。

 これに対し、私は迫り来る彼女の右肩に、月日の柄尻を叩きつけた。

 だが、想定以上にその純白の鎧は頑強なようで、ダメージらしいダメージが通った感触はない。

 されど肩に掛かった衝撃と重さは、一瞬彼女の動きを鈍らせ。そんな彼女を蹴りつけ一旦距離を取る私。


 完全装着の効果により、私の蹴りもまた、月日を振るう一撃に負けず劣らずの破壊力を有している。

 よって、想定を超える威力に面食らったのだろう。思いがけず簡単に吹き飛ばされ、ズザザと地面を滑るヴァルキリーナイト。

 しかし流石というべきか、大きく隙を晒すようなことはせず、追撃への警戒は堅い。

 結果として、仕切り直しである。構えたまま、再び睨み合いの姿勢。

 今のやり取りで幾らか相手の力量は測ることが出来た。思った通りの強敵である。そして向こうもまた、今ので私の実力を幾らか理解したはず。

 とは言え、だ。今の打ち合いに際し、私はブースターも尻尾も使わず、剣のみで臨んだわけで。

 向こうも同じく、背中の翼は閉じたままで、スキルの一つも用いなかった。正に互いに小手調べって感じ。


 と、その時だ。ばっと翼を広げて見せるヴァルキリーナイト。それと同時、彼女の回りを囲うよう生成されたのは、光で出来た真っ白な剣。

 その様子からして、「ここからはスキル解禁!」とでも言っているようじゃないか。

 意表を突いて襲って来たら良いものを、わざわざその様にアピールする辺り、やはり生真面目な質なのだろう。

 なれば私もそれに倣い、バッとブースターを見せつけるように展開し対抗してみる。こっちもこれからは、諸々解禁である

 それにしても私たちのこの様子、傍から見ると動物が相手を威嚇している様が連想されたりするのではなかろうか。或いは虫とかね。シャー! って感じで。

 白い翼を持つヴァルキリーナイトは、さながら美しい白鳥のようで。一方アームの先にブースターのついている私の様子は、やっぱり何かの虫っぽいかも。むぅ。

 ついでに尻尾も動かしておこうか。ちょっとは印象が変わるだろうか。


 って、そんな事はどうでもよろしい。

 早速とばかりに、こちらめがけて光の剣を射出してくるヴァルキリーナイトである。

 飛翔速度は極めて速く、見てからの回避は現実的ではない。が、律儀に進行方向へ切っ先を向けてから真っ直ぐに飛ぶ辺り、彼女の性格が出ているというか何というか。これなら幾らか回避も楽である。

 私は迫る光の剣を掻い潜りつつ、お返しにと光の白枝を展開。ヴァルキリーナイトへとけしかけた。

 バカ正直にこれを剣で受けようものなら、白枝の効果によりたちまち得物を分解し、使い物にならなくなるに違いない。

 そんな私のあわよくば、という思いに対し。しかしヴァルキリーナイトは剣に光を纏わせた上で、白枝をガード。

 纏った光が分解される様を即座に認め、白枝の能力を看破したらしい。敏いことだ。


 警戒度を引き上げた彼女は、回避に重きを置きつつ私の周囲に光の剣を生成。即座に射出し、私を串刺しにせんとした。

 が、ブースターを活かせば回避など容易いこと。直ちに射線を抜け出した私は、さりとて光の剣が孕む恐るべき存在感に内心で肝を冷やしていた。

 射出方向こそ極めて素直なれど、その速度と、何より内包する破壊力は膨大。直撃すればどれだけHPを持って行かれるか分かったものではない。


 それに、である。

 すっかり私ばかり戦っているけれど。ここにアグネムちゃんたちがどう絡んでくるものか、それによっても動きを変える必要がある。

 どうにかして大きな隙を作って、アグネムちゃんが突っ込むタイミングを演出できれば良いのだけど、ヴァルキリーナイトの技量を見るになかなか厳しそうではある。

 さて、どう攻略したものだろうか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 ···つまりアレですね、某スレイヤーさん風に言うなら「イクサにおいてアイサツは絶対の礼儀だ。古事記にもそう書かれている」という訳ですね分かりますww 今までが捻くれ全…
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