第九三八話 判断ミス
ボス戦に備えた装備・スキル選択は、しっかりとした話し合いのもと行われ。
装備に関しては、私が高機動型の最強装備へ切り替えたことを除くと、大した変更はなかった。
悩んだのはスキルである。理想で言うなら、敵の弱点にぶっ刺さるような編成を組めればそれが一番なのだろうけれど。
流石に名前と外見が分かった程度で、そこまでの狙い撃ちは無理である。
よって、相手がどんな手を打ってきても、大体なんとかなるだろうという、謂わば無難な選択をした結果が、これ。
ミコト:【完全装着】【万能マスタリー】【身具一体】【神気顕纏】
アグネム:【ローディング】【ラピッドラッシュ】【神気顕纏】【インファイト】
スイレン:【楽器マスタリー】【英雄の調べ】【ワンマンカルテット】【時流の調べ】
先ず私は、完全装着と万能マスタリーっていう、無くてはならない必須スキルに加えて、PTストレージからの変更で自己強化系スキルである、身具一体と神気顕纏をチョイス。
これならば火力負けをすることはないだろう。相手が速すぎてついていけない! なんて事態も避けられるはずだ。
気掛かりがあるとするなら、この後手に入れる予定の新スキルと、果たして上手く噛み合うかどうかというところ。
それにしたってまぁ、汎用性の高い構成だから、高い確率で大丈夫だとは思うのだけど……。
あとは、PTストレージを外したことによる、他PTへの悪影響が出てやしないかって心配もあるけれど。もしそういう仕様だとすると、実質的に私の枠がPTストレージで確定することになる。
流石にそこまでアンフェアな真似はするまいと、迷宮に対するメタ読みにより、ボス戦への備えを優先させてもらった。
次にアグネムちゃん。彼女はファストフィストっていう、高速で一発拳を叩き込む、っていうアーツスキルから変更して、素早い連打に秀でたラピッドラッシュを採用。あと、神気顕纏。
言わずもがな、インファイトとのシナジーを狙った結果である。もう少し枠に余裕があれば、相手の懐に一気に飛び込めるようなステップ系のスキルや、安全に動くための防御系スキルが欲しかったところ。
私が上手いことサポートして、彼女を敵の懐へ送り届けることが、今回は良き連携の条件となりそうだ。
また、ローディングで負荷を掛けることが出来れば、相手の動きが一層鈍ると予想できる。
そうなれば一気に畳み掛けが叶うはずなので、爆発力は申し分ないだろう。
アグネムちゃんが拳を叩き込めるかどうか、という部分が今回のボス戦での大きなポイントとなるはず。それを念頭に置いた立ち回りをせねば。
そしてスイレンさん。彼女は微睡みの調べをワンマンカルテットにチェンジ。
一人四重奏という、気持ちの悪い……ゲフンゲフン。圧巻な演奏を可能にするとんでもスキル。
演奏バフ・デバフとの相性は抜群で、これにより英雄の調べ、ないしは時流の調べの効果を爆発的に上昇させることが出来る。
ただし、時流の調べとワンマンカルテットの組み合わせは、彼女に相応の負担を与えるものだろうから、長く持つとは思わないほうがいい。
そうした意味でも、『爆発力』。今回の戦闘に於けるキーワードになりそうだ。
総じて、作戦としては……。
1.時流の調べや私のサポートを駆使して、アグネムちゃんをヴァルキリーナイトの懐へ送り込み、ローディングの乗った拳をぶつけてもらう。
2.動きの鈍ったヴァルキリーナイトへ、神気顕纏や身具一体、ワンマンカルテットからの英雄の調べで火力をモリモリに盛って、一気に片を付ける。
これだ。何とも脳筋めいた、シンプルな作戦だけども。しかし私たちチームミコバトの根底にあるのは、「敵が何かする前に潰す」という理念である。
問題はプランが狂った際のサブプランについてだけど。例えばアグネムちゃんのローディングや、スイレンさんの時流の調べが、期待したほどの効果を発揮できなかった場合。
そうなると“一気に畳み掛ける”っていうフルボッコプランが不発に終わってしまうわけだ。
もしもそうなったなら、割と行き当たりばったりなアドリブ戦闘になってしまうのだけど。
それを思うと、どうにかしてヴァルキリーナイトの動きを封じるような、隠し玉を用意しておきたいところ。
念力や空間魔法なんかがベターだろうか。しかし今回は、念力はともかく足止め用のスキルというのは設けていない。
仮に空間魔法を選択するにしても、空間魔法ってカテゴリーに属するマジックアーツスキル一つが、一枠をまるっと占領してしまうっていうのは正直厳しいところ。
とどのつまり、もしもプランが破綻したなら、それこそ力ずくで何とかするしかないってことだ。
普段はとんでもない種類のスキルを当たり前に使えるため、こういう手札の限られた状況を強いられた場合、『作戦の重要性』ってものを痛感させられる。
その辺り私は、まだ未熟である。新しい課題が見えたようで、嬉しくも思うのだけど。喜んでいられる状況でもない。
「もしも作戦が上手くいかなかった場合、私がなんとかしてヴァルキリーナイトを押さえつける。物理的に相手の動きを鈍らせるから、そこで一気に畳み掛ける! って感じでどうかな?」
「結局脳筋じゃないですか~! でも、代案が浮かばないので黙ってます~」
「スイレンさん口に出ちゃってる。ミコト様の名案にケチつけちゃってる!」
自分で言ったこととは言え、パワフルなアイデアだもの。脳筋だと揶揄されたところで苦笑するしかない。
兎にも角にも、どうにかしてヴァルキリーナイトを大人しくさせた上で、袋叩きにしてしまおうと。それが私たちの作戦とも言えないような方針であった。
まぁそうは言えども、ローディングや時流の調べが意味を成さない、だなんてことは考えづらいのだけどね。
少なくとも時流の調べに関しては、バフ効果もあるスキルだもの。私たちの体感時間を引き伸ばし、世界をスローで捉えることが出来るようになる、とんでもないスキル。
言わずもがな、これ一つとっても巨大なアドバンテージと言えるだろう。ヴァルキリーナイトがどれほどのボスかは定かでないけれど、それでも十分に勝機はあると考えていいはずだ。
斯くして話し合いは済み。いよいよもって装備とスキルの再選択は終了。確定と相成った。
なれば後はいよいよ、手に入れた鍵を用いて封鎖された扉を開放するのみ、という場面なのだけれど。
その前に、だ。ボスへ挑むその前に、私は例のスキルオーブを使用して、新しいスキルを手に入れるというパワーアップイベントをこなさなくちゃならない。
なんだかんだ言ったところで、やっぱり新スキルには胸躍るもので。殊更、アグネムちゃんもスイレンさんも破格の性能を有する、とんでもない力を手に入れたっていうんだもの。否が応でも期待が高まろうというもの。
ぶっ壊れ性能を恐れながらも、強力な手札には心が躍る。何という二律背反。とても複雑な気分だ。
ソワソワしながら七色のスキルオーブを取り出し、ゴクリと固唾を飲み込む私。
気持ちが伝播してしまったのか、二人も緊張の面持ちでこちらを見ており、いよいよその時はやって来た。
スイレンさんがこれみよがしに、BGMで場を盛り上げては、私へと先を促してくる。
「それじゃ……使うよ! お願い、ボス戦で活躍しそうな新スキル! 来て!!」
ガチャを引くかの如き心持ちで、虹色スキルオーブを使用。果たして、私のもとにも高性能なスキルはやって来るのか。
大きな期待と、幾ばくかの不安を懐く私の胸に、七色の光が静かに吸い込まれ。
同時、私は確かに新たな力の芽生えを自覚したのである。ステータスウィンドウが使えたなら、すぐにでもその概要を知ることが出来るところだけど。
しかし今分かるのは、スキルの名前とざっくりとした使い方のみ。だから私は、祈るような目でこちらを見守るアグネムちゃんたちへ、その内容を伝えたのだった。
「来た……新しいスキルの名前は、【超必殺技ゲージ】……!」
「ち、超必殺技、ですか! すごいですミコト様、それ絶対強いやつじゃないですか! きっと大当たりですよ!」
「これはボス戦も楽勝ですかね~。あーでも、ミコトさんと必殺技っていうと、いつも大概とんでもないんですよね~……まさか変なネタスキルだったりしませんよねー……?」
やや心配そうにスイレンさんが問い掛けてくる。一方で嬉しそうなアグネムちゃん。スキルガチャの神引きを確信して大喜びだ。
対して、私はと言うと。正直、とても気まずい思いをしている。理由は勿論、この新たなスキルにあり。
感覚的に理解したそのスキルの使い方について、私は彼女たちへ向けて説明したのである。
「【超必殺技ゲージ】は、謂わばブーストスキル。使い方は、予めアーツスキル、若しくはマジックアーツスキルを一つ選択し、超必殺技ゲージと紐づけておく。んで、戦闘の際に攻撃や防御、回避を成功させることで徐々にゲージが上昇していき、溜まり切ったら発動が可能になるみたい」
「ま、待って下さいー……アーツスキルかマジックアーツスキルだなんて、今回は選択してないじゃないですか~!」
「ミコト様、ゲージが溜まり切ると一体何が発動するんですか? やっぱり必殺技ですか?」
「うん……最初に紐づけたアーツ系スキルを、とんでもなく強力にした『超必殺技』が発動するみたい」
どんよりと。なんだか酷く重たい空気が漂い、居た堪れない。勿論原因は私にあるんだけどさ。
そうさつまりは、スイレンさんの指摘したように、アーツスキルやマジックアーツスキルを取らなかった今回、この【超必殺技ゲージ】は完全な死にスキルと化してしまっているわけだ。
やらかしである。完全なる、「手に入れてすぐにスキルオーブを使ってさえいれば!」っていう後悔案件。そりゃ空気も重くなろうというもの。
「ごめんよ二人とも。とんでもない判断ミスをやらかしちゃったみたいだ……せめて【身具一体】ではなく【キャラクター操作】を選んでいれば、まだ使い道も考えられたっていうのに……ぐぬぬ」
「ミコト様……で、でもでも、それは言っても仕方のないことです! スキルオーブを使わなかったのは、ミコト様の信念や矜持を優先した結果なんですから、それは悔いるようなことじゃありませんよ! ましてどんなスキルが得られるかなんて、得てみなくちゃ分からないんですから尚の事です!」
「ですね~……とは言え、判断ミスであることは間違いありませんよー。結局ミコトさんの『使用しない』っていう選択を受け入れちゃった手前、強く言えやしませんけど~。これは皆で反省するべき案件です~」
慢心を嫌っておきながら、何たる体たらく。けど、蓋を開けてみた結果、案の定飛び出したのはチート臭のする強力なスキル。
であるならば、ある意味に於いて私の判断は正しかったとも言えるし、ある意味に於いては大きな間違いだったとも言える。
何れにしたところで後悔は残ったであろう、何とも言えない選択だった。人生には時として、こういう瞬間が訪れるものだよね。
なればこそ、ここはポジティブに捉えるべきなのかも知れない。そりゃまぁ、今回の戦闘で【超必殺技ゲージ】が役に立たないスキルであることに違いはないけれども。
「今回は私の判断が、完全に裏目に出ちゃった。勿論それは認めるし、反省もする。後悔だってしてる……けど、大事なのは三人で無事にボス戦を乗り切ることだよね。やらかしちゃった分は、働きで返してみせるよ」
「ミコト様……なんだかそれ、死亡フラグっぽいです」
「空回っちゃうやつですか~? 功を焦ってさらなるやらかしをしちゃう前兆じゃないでしょうね~?」
「う。そ、そんなんじゃないやい!」
指摘されて、内心慌てる私。「失敗を働きで挽回してやる!」とか、確かにドツボにはまるパターンのやつだもの。良くない流れは確かに感じている。
私は一つ、深く息を吐き、努めて冷静さを呼び戻す。頭を冷ます。恐ろしいのは、自分では冷静なつもりであっても、傍から見たら地に足がついていないって状態だ。何をやらかすか分かったもんじゃないからね。
「ボス戦に臨むのは、少し休憩してからにしましょうかー。気分転換にロボで遊びましょうよ~」
「あ、それいいね。今日こそ『名人ミコト』様に勝ってレアなパーツをゲットだよ!」
「二人とも……よーし、そういうことならどんと来いさ! ガッツリ相手になってあげる! レアパーツはそう簡単には渡さないんだから!」
斯くしてボス部屋の前、気分転換用にと、予めPTストレージからマジックバッグに移しておいたそれぞれの専用機を取り出し、ワチャワチャとロボバトルを開始する私たち。
お陰でこんがらがっていた気持ちも一旦リセット。やらかした事実を飲み込み、受け入れることが出来た。
二人に気を使わせてしまったことが、申し訳なくも思うのだけど。それ以上に思いやりが嬉しくも感じる。
何より、これより始まるは命懸けのボス戦。変な空気のまま臨んで良いようなものではないからね。そういう意味ではロボを用意しておいて本当に良かった。
気持ちを整え、【超必殺技ゲージ】のことは一旦頭の隅へと追いやり。
私たちはとうとう、封鎖された大扉に向き直ったのである。




