第九三七話 最終課題
闘技場裏手に設けられた、もう一つの入り口。
そこから侵入し、灯された照明沿いに歩を進めて行ったなら、辿り着くのが最奥、封鎖された扉の前である。
以前と変わらず、鎖によってガチガチに固められた大きな扉。錠前が一つ、無造作にぶら下がっており、如何にも怪しげな雰囲気を纏っているように見えてならない。
が、それより何より。封鎖された扉のあるこの空間に足を踏み入れて、真っ先に目についたのは錠前ではなく。
以前は存在しなかった、メッセージウィンドウであった。心許ない照明の下にあっても、見づらさの一つも感じさせないというのだから不思議なものだ。発光しているってわけでもないのに、くっきりと視認することが出来る。
して、気になるのはメッセージウィンドウが示すその内容である。私たちは示された文字の羅列を目で追い、そして驚いた。
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ようこそ最終課題へ。
既にお察しのこととは存じますが、ご説明致します。
皆さんの入手された鍵は、こちらの大扉を封じている錠前を解錠する為に用いるものです。
使用する鍵により、出現するボスの内容が変じるという特別な仕様となっています。
皆さんにはこのボスに対し、しっかりとした対策を練った上で当たっていただきたい。それが、本課題の趣旨となります。
つきましてはボス戦への備えとして、スキル、及び装備の変更が可能です。
ボスに関する限られた情報から対策を講じ、万全の準備を行った上で錠前を解錠。ボスとの戦闘に臨まれて下さい。
尚、今回はこれまでの課題と異なり、再挑戦は不可能です。一度きりの攻略チャンスを、しかと掴み取れるようご健闘なさいませ。
追伸
スキル枠拡張チケットを発見、獲得されたようですね。
使用方法につきましては、本メッセージウィンドウへ投入の後、使用者を選択、確定させて下さい。
設定できるスキル枠が一つ追加され、ボスとの戦闘を有利に進めることが出来るでしょう。
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「そ、装備とスキルの変更が出来る!? しかもチケットの使い方までちゃんと載ってるし!」
「それだけボスが強いってことかも知れませんよ……半端な準備じゃ歯が立たないかもです」
「ひぃ~、胃がキリキリしてきました~……ああ、帰りたい。でも帰るためには、ここを突破するしかないんですよね~」
二人の言う通り、わざわざ事前にボスの情報をチラ見せしたばかりか、対策を練る機会すら堂々と与えてくるだなんて。
そんなのはきっと、登場するボスが余程の強敵だからに違いあるまい。もしかすると、ビルド次第では詰むことだって考えられる。
けれど逆に言うと、これだけ「しっかり準備しましょうねー!」って言ってきてるんだ。ボスの能力が見た目とは全然違う、酷いギャップ持ちだなんてことはないだろう。……と、信じたい。
「ともあれ先ずは、チケットを使ってみることにしようか。えっと、メッセージウィンドウへ投入すればいいらしいけど……どういうことだろう? 投入口なんて見当たらないんですけど」
「適当に押し付けてみたら良いんじゃないですか~? 或いは投げつけてみたりとか~」
スイレンさんの投げやりなコメントに、半信半疑ではありつつも、他にコレといった方法も見つからないため、取り敢えず試してみることに。
スキル枠拡張チケットを手に取った私は、おっかなびっくりそれをメッセージウィンドウへと近づけていく。
そうしてチケットの端が、ウィンドウへそっと触れた、その瞬間だった。さながら先程、ガチャにお札を投じた時のように、吸い込まれていく感覚があり。
チケットはあれよあれよとウィンドウへ引っ張り込まれるように呑まれ。かと思えば直後、ぱっとメッセージウィンドウの内容が変化したのだ。
スキル枠を拡張するメンバーは、ウィンドウへ手を触れろと。その様に指示してくるのである。
彷彿とさせるのは、タッチ決済だとか指紋認証だとか。なんとも言えない未知への恐怖がそこにはあり。
これ、触って大丈夫? 変な情報を抜かれたりとかしない? 毒針が飛び出してきたりしないよね?
とか何とか怖がりつつも、アグネムちゃんたちに背を押され、恐る恐るウィンドウへ触れる私。
すると『あなたのスキル枠を一枠分拡張します。よろしいですか?』との、最終確認。
確認されると恐くなっちゃう系女児であるところの私は、更に腰が引けてしまうのだけれど。
「はいはい~、それで問題ありませんよ~」
だなんて、スイレンさんが代理で返事。すると。
『あなたには訊いていません』
「ひどいですー……」
音声認証でもしようっていうのか、スイレンさんによる返答はすげなくあしらわれてしまった。よく出来たものだと感心するべきか、気味が悪いと怖がるべきか。
何にせよ、私が返事をしないことには話が進まないようなので、観念して了承することに。
結果、『スキル枠の拡張が完了しました』とのお知らせ。その後に続いて、『装備とスキルを再設定して下さい』との表示である。
タイミングを同じくして、私たちの前に展開されたのは見覚えのある、スキル選択画面を表示させたウィンドウ。
「あ。本当に私のスキル枠、四つに増えてる。チケットがきちんと仕事してくれたみたいだね」
と見たままを呟いてみたなら、アグネムちゃんやスイレンさんからは、これでボス戦が楽になると嬉しげなリアクション。
しかしそれに続き、新たな情報が寄せられたのである。
「あれ、私たちのスキル枠も四つある……ミコト様の使ったチケットがPT全体に作用したってことでしょうか……?」
「多分ですけどー、スキルオーブを使ったことで枠が増えたってことなんじゃないですか~? 新スキルを合わせると、私たちのスキルは四つ使用可能だったわけですし~」
「え。ってことは何さ、私もスキルオーブを使えば、もう一枠増やせるかも知れないってこと!?」
得心も行けば、予想だって一応は出来ていた話ではある。現にアグネムちゃんやスイレンさんが、四つ目のスキルを使いこなしていたのは事実だからね。
ならばその分枠が増えていたって、何らおかしな話ではないだろう。
問題なのは、それなら私も観念して、スキルオーブを使うしかないんじゃないの!? って点だ。
想定を上回るような、強力なボスが出現する恐れがあり、スキル枠の重要性はこの旅でよく理解できた。
それらを踏まえて考えるなら、スキルオーブを使わないだなんて選択肢はあり得ないだろう。
プレイヤーとしての矜持を曲げてでも……いや寧ろ、プレイヤーであればこそ、ここは合理的な選択を取るべきだ。
葛藤し、逡巡し。何とも言えない表情でこちらを見やる二人へ、意を決し、私は言ったのだった。
「仕方ない。私も七色のスキルオーブを使うよ。それで戦闘が少しでも楽になるっていうんなら、是非もないからね」
この言に、なんだかホッと安心した様子の彼女たち。スイレンさんはもとよりアグネムちゃんも、どうやら本音の部分ではスキルオーブを使用し、戦力に貢献してほしいと考えていたようだ。わがままを言っていた自覚はあったけれど、ますます反省である。
話は決まり、早速とばかりに七色のスキルオーブを取り出す私。念のため、先ずは適当なスキルで四つある枠を暫定的に満たしておく。
既に空きがある状態でスキルオーブを使っても、枠が増えることはなく、空いた枠に新スキルが収まるだけ……みたいな仕様だったら困るからね。困るっていうか、取り返しがつかない。
そういう意味に於いてはむしろ、先にスキルや装備を確定した上でスキルオーブを使用するのが確実だろうか。
でもそうなると、新スキルとの相性を考えたビルドが組めなくなっちゃう。
くぅ……これが所謂、後悔先に立たずというやつか。変なこだわりを主張せず、さっさと使っておけばこんな憂い事に苛まれることはなかったのだ。優柔不断が馬鹿を見た、お手本のような例である。
「スキル枠を確定させた後にスキルオーブを使用するべきか、はたまた暫定的に枠を埋めた状態でオーブを使ってしまっていいものか……二人はどう思う?」
決めあぐねて意見を求めてみると、一度顔を見合わせて思案するアグネムちゃんとスイレンさん。
「暫定的に枠を埋めただけでは、それらのスキルを押し退けて新しいスキルが追加される、若しくは選択可能なスキルの一覧に新スキルが加わる、という結果になっても不思議ではありませんよね……」
「かと言ってー、シナジーを狙うのなら、先にスキルの詳細を知っておきたいというのはありますよね~……まぁそれでもー、枠が追加されないっていうリスクを背負うくらいなら、確定後の使用で良いんじゃないでしょうか~」
スイレンさんの言葉に、アグネムちゃんも異論は無いようで。私もそれで納得した。
どんなスキルがやって来るにせよ、五つ目のスキルとして登録されることこそが、確定的に大きなアドバンテージとなるだろう。
ならば彼女らの言うように、編成を確定した後にスキルオーブを使用。内容を確認した後にボス戦へ臨む、という流れがベストである。
「ってなると、各々四枠を活かして『ヴァルキリーナイト』に有効な編成を組んでいかなくちゃならないわけだけど」
「ですね。でも、名前と外見しか情報がないっていうのは、ちょっと難しいです。解釈不一致にならないよう、しっかりイメージを掘り下げないと……」
「真っ白な甲冑に、背中からは純白の翼。クラウさんのイメージに近いですけど、盾は持ってませんねー」
翼を有しているということは、きっと空を飛べるんだろう。デザインもスマートだし、動きは身軽そうな印象。
となれば、満を持して最強装備の出番じゃないか。それも、高機動型の活躍に相応しい舞台である。
ボス戦ということなら、前回のように長時間の活動を想定して装備を選ぶ必要もないだろうしね。
それにしても、初手で普通に最強装備を選んでいたら、今頃私は活動不能に陥っていたかも知れない。いや、十中八九そうなっていただろう。
アグネムちゃんの心配に助けられたわけだ。感謝しなくちゃなるまい。反面、私のポンコツ加減が際立ってしまっているわけだけども……。
まだまだ冒険者として精進が足らないってことだ。伸び代があるってことだ。素晴らしいね。
「私は最強装備で行こうと思うんだけど、問題ないかな?」
一応お伺いを立ててみたなら、今度はアグネムちゃんからもスイレンさんからも、苦言が飛び出すようなことはなく。寧ろ「頼もしいですミコト様!」「これで勝ち確ですね~」なんて、ポジティブな反応を貰うことが出来た。
それより問題なのはスキル構成である。
選択できるのはそれぞれ四種類。私の場合はそこに後で、新スキルが一つ追加される予定だけど、それに関してはまだ考えなくていいだろう。
ヴァルキリーナイトに刺さりそうなスキル……。一体どのような編成で行こうか。
私たちは顔を突き合わせ、皆でウンウンと唸りながら意見を交わしたのだった。




