第九三六話 再探索
POPにデカデカと書かれた『鍵ガチャ』の文字。世界観にそぐわないガチャ筐体。それも、お札を要求してくるガチなやつ。しかも三枚も。
苦労して課題をクリアし、見事お札を三枚集めて戻ってきた私たちは、満を持して筐体へそれを投入。
斯くしてガチャを回し、取り出し口より姿を見せたのは、何とまんまるなカプセルだった。
プラスチックめいた材質。色は真っ黒で、持ってみた感じ、とても軽い。大きさはソフトボールくらいだろうか。結構大きい。
振ってみると、中でカラカラと音がする。なんとも言えないこの安っぽさよ……。
私が得も言われぬ感覚に、仮面の下で一人ゾクゾクしていると、興味津々でカプセルへと注目しているアグネムちゃんとスイレンさん。
「ミコト様、その玉が鍵なんでしょうか? とても錠前を開けられるような形状には見えませんね……」
「もしかしてハズレを引いたんじゃないですか~? もしくはガチャとやらが壊れてたとか~?」
などと、思ったことを率直に口にする二人へ、私は思わず苦笑してしまう。
彼女たちにはこのカプセル自体が、景品そのものに見えたようだ。生まれて初めてのガチャだもの、無理もないか。
私は二人へと、この玉は商品を保護するためのカプセルでしかなく、鍵はおそらくこの中に収められているのだと説明。
早速捻るように力を加えて、グッ! パカッ! と、これまた懐かしの手応えを覚えつつ開封。
すると思ったとおり、半分に分かれたカプセルの中から一本の鍵と、ついでにカプセルトイにありがちな説明書のような紙、確かミニブックって言ったっけ。それも同梱されていた。拘りを感じる……。
して、出てきた鍵はと言えば、何とも美しいデザインをしており。ぱっと見で想起されたのは、お土産屋さんにありがちな剣をモチーフにしたキーホルダー。アレに近いイメージ。
装飾に凝ってたり、ガラス玉が宝石のように埋め込まれていたりと、正にじゃないか。
って、もしかしてコレって本物の宝石? だとしたら値打ちものじゃん! 塗装なのか、そういう材質なのか、真っ白な金属で象られた本体に、細かな装飾。綺麗な青い宝石があしらわれた、少年心をくすぐるナイスデザインだ。
記念品として持って帰れたりしないものだろうか。使ったら壊れるタイプのアイテムでないことを祈るばかりである。
よく見せて下さいと目を輝かせたアグネムちゃんたちに鍵を渡し、続いて私はミニブックを広げて内容を改めた。
そこには案の定、先日見つけた『封鎖された扉』のことや、そこでこの鍵を使うとボスに挑戦できる旨などが記されており。
他にもPOPに描かれているような、他の種類の鍵について紹介されていたりもした。
入手した鍵のデザインと、描かれている鍵を見比べて、ボスの姿と名前を調べてみる。照合ってやつだ。照合とか言うと、刑事さんみたいでちょっとドキドキするね。
「ほぉ、その鍵で現れるのは『ヴァルキリーナイト』か。めっちゃデザイン好みなんですけど……これは当たりと見るべきか、ハズレと見るべきか」
ボソリと独り言ちた私の呟きに、耳ざとく反応した二人。ハッとしたように鍵とPOPを見比べては、本当だかっこいい! とテンション高く感想を述べたのだった。
けれどそれも束の間。これよりそんなヴァルキリーナイトへ挑戦するのかと思うと、心境としては複雑である。だって強そうなんだもん。
「強敵の予感……作戦会議! ミコト様、しっかり作戦会議をして臨みましょう!」
「ですですよ~! せっかく戦う前から敵の情報が得られたんですから、最大限活かすべきです~!」
判明しているのは外見と名前のみ。されど、そこから得られる情報は決して小さなものではないだろう。
事前対策を練って挑むのもまた、『技の試練』ってことなんだろうか。何にせよ、情報をくれるっていうんなら活かす他あるまい。
勿論、情報がデタラメでした! なんてオチが待っていないとも限らないので、ある程度融通の利く立ち回りも要求されるだろうけど。
ともあれ、いつまでもこの場所でワイワイ言い合っていても仕方がない。
一先ずこの部屋に、他になにも無いことを改めてチェックした私たちは、ミニブックの示す通り封鎖された扉を目指すことにしたのである。
一旦闘技場を出たなら、裏手に回って最奥を目指す。のだけれど、裏口通路に踏み入れて早々変化に気づいた。
「あれ、通路に明かりがあるね。暗いは暗いけど、これなら照明を出さなくても問題無さそうだ」
「鍵を手に入れたから、お招きを受けてるってことでしょうか? にしても、ちょっと不気味です……」
「こういう、却っておっかない雰囲気を演出するようなライトアップ、私は苦手です~」
先日探索した時は、真っ暗で右も左も分からないような通路が、今はぼんやりとした照明に照らされて、扉へのルートを示してくれている様子。
「もしや、フラグが立った……これを機に、何所かに宝箱とか、イベントが出現した可能性が……」
「またゲーム脳ってやつですかー? この前は結局何も見つからなかったじゃないですか~!」
「ミコト様がお求めとあらばこのアグネム、隅々まで調査してきますよ! お任せ下さい!」
張り切るアグネムちゃんと、辟易とした様子のスイレンさん。されど、「ならスイレンさんは待っててもろて。私とアグネムちゃんで探索してくるから!」と別行動を仄めかしてみれば、ボッチを嫌った彼女は結局協力してくれることに。
一度は探索した場所であるため、皆勝手知ったる調子で手際よく通路や部屋を見回っていく。
すると。
「た、宝箱……ホントにありましたよー。この前は確かに無かったはずなのに、一体誰が用意したんですかね~」
「そんなの迷宮そのものか、この試練を用意した誰かに決まってるよ。そんなことよりスイレンさん、ミコト様の言うことを疑ったんだからゴメンナサイは?」
「ご、ごめんなさい~。冒険者たるもの、探索にはもっと貪欲であるべきでした~」
「うむ、許してあげよう。……って言うか、もしかしたら危険な変化があった可能性も考えられるんだし、徒労に終わった可能性も低くはなかった。スイレンさんみたいにネガティブな意見を言ってくれる人もやっぱり大事なんだよ。この宝箱だって、ワンチャンミミックかも知れないしね」
「ひぇっ。ならどうするんです~? そっとしておきますか~?」
彼女の言に、考えを巡らせた私。そこでふと、素朴な疑問に思い至る。
ミミックってその構造上、背後を取られると何も抵抗が出来ないんじゃないか、と。
それに今の私には念力もある。上手く活用したら、安全に調べることも可能かも知れない。
って言うか、仮にこの宝箱が本当にミミックだったり、或いは何かしらトラップが仕込まれていた場合、この場所でどうこうするのはあまりに危険。となれば……。
「よし。一旦外に出てから調べてみよう」
言いつつ、二人を伴い部屋の外へ。んで、そっと室内を覗きつつ念力を行使。宝箱を持ち上げてみた。
……これといった反応は見られない。重量もそう重くはないし。とは言え油断は禁物。念には念を入れて。
宝箱を宙に浮かべたまま、同じく部屋の外へと引き出す。そうして十分に距離を取りつつ、そろりそろりと闘技場裏口から外に出る私たち。
仮に戦闘になろうと、宝箱が爆発したり、毒ガスを撒き散らそうとも、十分対応が可能と自信を持てるくらいに間合いを空け、何なら物陰に隠れながら、そっと開封を試みる。気分はさながら爆弾処理である。
念力にて宝箱の上蓋を、ゆっくりと持ち上げてみた。……どうやら、懸念していたように爆発したり毒ガスが噴出するようなことはないらしい。
ただ、まだミミック疑惑が完全に解消されたわけでもない。
宝箱を更に持ち上げ、ひっくり返してみる。中身だけそこにぶちまけて、箱を遠ざけてしまえばいいじゃない! という作戦。
すると、箱から何やら、紙切れが一枚だけひらりと舞い落ち。宝箱を軽く振ってみるも、それ以上何かが飛び出すこともないみたいだった。
念のため箱の内部をこっちに向けてみるも、何の変哲もないがらんどうがそこにはあり。少々拍子抜けである。
するとここで、今更スイレンさんがとあるアイデアを提供してくれた。
「ところで~、こういう時にこそPTストレージを活用するといいんじゃないですか~? ミミックだった場合収納には抵抗してくるはずですしー、トラップ対策にも有効ですしー」
「うん……素晴らしい提案だけど、どうしてもっと早く言わないのかな?」
「い、今思いついたんですよ~! ここ褒めるところですよ~? よく思いついたねー! って!」
「スイレンさんらしいというか何と言うか……」
そういえば以前も、似たようなシチュエーションがあったような無かったような。ストレージを活用してモンスターかどうか確かめてみよう! っていう試み。すっかり失念してしまっていた……スイレンさんをどうこう言えたもんじゃないね。反省である。
しかしまぁ、タイミングはどうあれ、せっかくの提案である。早速試してみるとしよう。
宝箱をPTストレージへ収納……成功。パッと私たちの視界から消えて、ストレージ内へと収まる空っぽの宝箱。
ついでに箱から出てきた紙切れも、念のためストレージチェックしてみるけれど、抵抗されるようなこともなく。
どうやらどちらも、モンスタートラップとか、そういう類のものではないらしいことが判明。
ならばと早速PTストレージから取り出し、件の紙切れを三人して覗き込んでみる。
『スキル枠拡張チケット』
書かれていたその文字に、ギョッとする私たち。この試練内に於いては、とんでもないレアアイテムじゃないか!
現金なもので、私たちは目配せし合うと、そそくさと闘技場内をくまなく再調査。これと同じチケットが他にも隠されているんじゃないかと、血眼になって捜索したわけである。
が、流石にそう都合良くは行かなかった。結局見つけたチケットは、手元にあるこの一枚のみ。
それでも、スキル枠が一つ増えるだけで戦闘はずっと楽になるに違いない。
問題があるとするなら、枠が増えたところで如何にしてスキルを設定するのか、というところ。
チケットを使用したタイミングで、既存のスキルから好きなものを選べますよ! というのであれば申し分ないのだけど、ただ枠が増えただけでスキルは設定できません! なんて言うんじゃ意味が無い。
その辺り、どういう仕様になっているのか気がかりではある。が、それより何より。
「この闘技場にはこれ一枚だったみたいだけど、もしかしてフィールドの何処かには他にも隠されてたりするのかな?」
「さ、流石にそれを探し回るのは勘弁願いたいです~! 一体何日掛かるんですかそれ~」
「ミコト様がお望みとあらば、このアグネムに否やはありません! 頑張って探しますよ!」
綺麗に意見が割れてしまった。とは言え、二人ともチケットが他にもあるんじゃないか、という部分には異議は無いようで。
きっとフィールドをくまなく探したなら、隠しアイテム的にスキル枠拡張チケットが幾らか隠されているのだろう。
個人的には、探し回りたい衝動を御し難くはあるのだけど。とは言えここは、ゲームの中のようであっても現実。一から十までゲーム脳じゃ立ち行かないことだってある。
その辺私は、良識あるプレイヤーを自負しているからね。自重するべきところは弁えなくちゃならない。
「戦力的に不安があるのなら、チケット探しは積極的に行うべきだろうね。けど、今の私たちならボス戦だって多分問題なくやれると思う。急に難易度がバカみたいに上昇でもしなきゃ、っていう前提での話にはなるけど」
「うー……その可能性が否めない以上、安全策を取るのであればー、やっぱりチケット探しを行うのが良いのでしょうけど~……ぶっちゃけここまで来て、それはしんどいですね~」
「何にせよ、今手元にあるチケットに関しては、ミコト様に使用していただくのが一番だと思います!」
意見を出し合い、方針を定めにかかる私たち。
結果として、出した答えはというと……この技の試練でこれ以上時間を潰し、皆との合流を先延ばしにするのはあまり得策ではないとして、先程見つけたチケットだけを使いボス戦へ挑む、ということで話はまとまった。
であるならばと、二人の合意のもと、早速私が『スキル枠拡張チケット』なるそれを使用することになったのだけど。しかし。
「ところでこれ、どうやったら使えるんだろう……?」
そもそも使用方法が分からないという問題に直面。
軽く途方に暮れ、結局私たちは苦い表情のまま、予定通り封鎖された扉の前へ向かうことにしたのだった。




