第九三五話 ガチャガチャッ
「スキルオーブは、時が来るまでPTストレージの中で眠っていてもらおう。うん、それがいい」
言って、第三の課題にて獲得した三つ目の七色スキルオーブを、サッとPTストレージへと収納してしまう私。
すると、それをぎょっとした様子で見ていたのはアグネムちゃんとスイレンさん。当然ながら疑問質問が寄せられる。
「スキルオーブは使われないのですか? ミコト様のことですから、きっととてつもないスキルが手に入ると思うんですけど」
「そうですよ~! 手に入れたのに使わないだなんて、せっかくのレアなスキルオーブが勿体ないです~」
何れも尤もな声である。アグネムちゃんの言う通り、へんてこスキル持ちの私には、今回のスキルオーブ使用に際しても、とんでもない結果が生じる可能性が十分にあり。
それと分かった上で、敢えて保留にしようっていう私の考えは普通じゃないのだろう。
レアで強力なスキルなんて、欲するのが当たり前だものね。
だけれど私は、これ以上チートめいた能力を手にしたくはないのだ。力が大き過ぎて身に余るってのもあるけど、それ以前の問題として。
フェアじゃない気がするから。『反則級』『公式チート』『ぶっ壊れ性能』『お前それ使うのずりぃぞ!』。
前世の世界に於いても、実装されているにも拘らず、ゲームバランスを乱すような破格の性能を有したあれこれっていうのは、さして珍しい話でもなかった。
私のへんてこスキルっていうのも、謂わばそういった代物に類するんじゃないかって。そう感じるから。
使って悪い、なんてことはないけれど。それでも強キャラを振り回して力を誇示するだとか、そんなのは私らしくないと思う。
だから私は、さらなるへんてこスキルの存在を素直には歓迎できない。手にしなくて済むというのなら、それに越したことはない。
贅沢な悩みだとは思う。持たず、持てずに喘いでいる人なんてのは、この世界に幾らでも居るんだもの。
それと分かってはいても。それでも私は、自らの矜持をないがしろにすることは出来ないんだ。
仮に一度得てしまえば、便利に使ってしまいそうな気もするしね。矛盾したことを言うようだけど、なんでも利用してこその冒険者だから。
なればこそ、手にせずにいられるのなら、その状態を大事にしたい。
そんな私の訴えに、やれやれと苦笑するアグネムちゃんとスイレンさん。呆れてしまっただろうか。
いっそ二人のどちらかに譲ろうか、という話もしてみたのだけど。これに関しては、流石に「あり得ません!」と語気を強めたアグネムちゃん。
スイレンさんは、「ソフィアさんに殺されちゃいますよ~。いや、ガチで」と、顔を青くして固辞。
そういうわけで、新スキルについては一旦お預けということで話は決まった。
それよりも今は、優先するべき大事なことがある。そうさ、第三の課題を達成し、得た報酬は何もスキルオーブだけじゃないんだ。
三枚目のお札と、新たな地図を私たちは手にしたのである。
お札は分かる。それを目指してこんなところまでやって来たのだから。逆にこれで得られなければ、文句の一つも叫んでいたところだろう。
問題は地図。次は一体何所へ、私たちを導こうというのだろう?
気になって早速その内容を確認してみたなら、されど意外性を感じるほどのこともない。ああ、なるほどね、くらいのもの。
つまりは闘技場を示した地図。さぁ戻っておいでなさいっていう、そんな迷宮の思し召し。
「これって、いよいよボス戦へのルートが開けたってことだよね?」
「ですね。腕が鳴ります! 今の私たちなら、きっと楽勝ですよ! おっと、慢心はダメ。全力でボコしてやります!」
「ともあれ、用が済んだのなら早く下山しましょう~。この標高ってば、空気が薄くて歌うのに支障があるんですよね~」
そんなわけで、話もそこそこに一路久方ぶりの闘技場へ。思えばこの技の試練に取り掛かってからというもの、既に十日くらい経過している。
篩の迷宮に挑む以前は、日帰りだって考えてたっていうんだから、とんだ計算違いじゃないか。
尤も、食料等は心配要らないくらい沢山持ち運んでいるからね。その点は問題ないのだけれど。
しかしこの迷宮、その辺りへの配慮が雑だよね。もし手持ちの食料が少ない状態で挑んでいたら、それで詰んでいたのではないだろうか?
或いはもしかして、このフィールド上に存在する動植物って、実は食べられたりするのかな?
てっきり迷宮の作り出したイミテーションだと思ってたんだけど、もしや独自の生態系が出来上がってる、的な……。
考えれば考えるほど、謎は深まるばかり。一体このフィールドって何なんだろうね。
なんて考え事をしていたなら、エンカウント。
課題をクリアしたことにより、一層能力を向上させたモンスターが時折唐突にポップしては、私たちの行く手を阻んでくる。
されど、それでスイレンさんとアグネムちゃんの新スキルコンボが崩されるかというと、そんなこともなく。
私もしっかりと補助として動いたなら、危なげなく勝利を重ねることが出来た。
しかしそうは言えども、必ずしも無傷とは行かないのがもどかしいところ。
例えばアクションゲームで、戦闘を毎度ノーダメージで切り抜けられるかって言うと、そんなのは至難の業であり。
その様なことがまかり通るのならば、そもそもゲーム性の破綻を疑わねばならないだろう。
この世界の戦闘だって同じだ。何ならゲームよりも尚シビアで。いつもスマートに戦っている私たちではあれど、ちょっとした掠りダメージだとか、攻撃の余波で傷を負ったりだとか。そうした細々とした生傷は、さして珍しいことでもない。
ほんの些細なミスが大怪我に繋がるだなんて話は、未だもって他人事ではないのだ。
ココロちゃんや聖女さんたちとはぐれてしまっている現状、そうした事態に陥らぬよう、一層気を引き締める必要がある。
よって、油断だなんて以ての外。安定した勝利を重ねてはいても、一戦一戦真剣に取り組みながら、慎重に下山を果たした私たち。
普段の、索敵である程度モンスターの接近を予想できる環境とは違い、突然ポップして襲い掛かってくるんだもの。
さながら低温火傷でもしたかのような、ヒリヒリとした緊張感がずっと続いていた。注意一秒怪我一生ってやつだ。
そう考えると、つべこべ言わずに新しいスキルの獲得へ踏み切るべきなのかも知れないけども。
プレイヤーとしての私の拘りが、それをなかなか由とはしない。
命あっての物種。余計なリスクは避けるべき。師匠たちに心配をかけない為にも!
と、分かってはいるのだけどね……。ジレンマというか、葛藤というか。我ながら融通の利かない、気難しい部分である。
そうこうして、移動し続けること数時間。
鍛錬不足のストレスを軽減する意味合いもあり、念力を駆使した空中ランニングなんかを行う私。
アグネムちゃんやスイレンさんも、ついでとばかりに念力で持ち上げて、移動速度をぐっと強化。
すると勿論、エンカウント頻度もその分上昇するのだけど。空中でエンカウントした場合、近くでポップしたモンスターは地上へ落下することが殆どなのだ。
あまり高度を取りすぎると、ポップするモンスターの種類が変わって、飛行能力を持った個体が出現するようになる可能性があるため、その点には注意が必要なのだけど。
飛べないモンスターがランダムエンカウントでポップ。落下中にスイレンさんの時流の調べを用いることで、モンスターの自由を一層奪う。
念力でアグネムちゃんと一緒にモンスターへ襲いかかり、暴れがてら振り回される雑多な攻撃には、私が対応。アグネムちゃんの露払いを行い、彼女を懐へと送り込む。
そうしたら後は、インファイトであっという間に決着。というのが、最新の私たちの戦法となっている。
お陰で移動は捗り、日が暮れる頃には既に闘技場へと到着していた。
ここはランダムエンカウント対象外のエリアのはずだから、やっとこさ一安心。肩の力を抜けるというもの。
早速鍵ガチャとやらを回しに、とも思ったのだけれど、ここから先は課題巡りと異なるため、正直勝手が分からないのだ。何が待ち受けていても不思議ではない。
なれば休める内に休んでおくというのも大事なこと。そんなわけで、ガチャやボスへの挑戦は明日に回し、私たちは闘技場の前で一泊することにしたのだった。
恐らくは、技の試練に於ける最後の夜だ。晩餐はいつもより幾らか豪華に。
綺麗な星空のもと、テントに潜り込んで一夜を明かした私たち。朝が来たなら、いよいよ大詰めだ。
技の試練が始まって以来、困っていることが一つある。
クリスマスの日に判明した、スイレンさんの風変わりな特性。そう、夜中突然ムクリと起きては歌い出すっていうアレだ。
私のヨルミコトとは違い、スキル由来の奇行ではないために、結果として毎晩とまでは言わずも、それなりの頻度で夜な夜な歌う彼女。
酷い日はバフまで掛けてくるものだから、私もアグネムちゃんも微妙に寝不足……っていうか、確実に睡眠の質が落ちているっていう。
決戦前夜だっていうのに、昨夜もやらかしたスイレンさん。いや寧ろ、決戦を前にして気が昂ぶっていたのかも知れない。
ガッツリと【英雄の調べ】を歌い上げた彼女は、一人快眠を貪ったようで。
朝も早くから私とアグネムちゃんのジト目に、「な、なんですか~! 何でそんな目で見るんですか~?!」と、心底解せないというリアクションである。
私たちも解せないよ。一体どういう特殊能力なんだ……。
とまぁ、多少のハプニングはありつつも、比較的平和で無事な朝を迎えた私たち。
朝の身支度と、程よい朝食を終えたなら、いよいよ向かうは鍵ガチャのもと。
闘技場正面入口を潜ったなら、受付と思しきカウンターの脇を抜け、地下へ続く階段を下りていく。
以前一度は通った道だ。細かいことを言うなら、行って戻ったので二度通ったことになるのかな? まぁ、どうでもいいか。
その時から何かしら、変化らしい変化があるわけでもなく。私たちは迷いない足取りでもって、最奥を目指し、そして至ったのだった。
所謂千円ガチャの筐体だけが、ぽつんと灯りを放つ。そんな、ある種不気味な空間。外は朝でも、ここだけ不思議と深夜の空気感が漂っているのは、他に光源らしい光源がない、この暗さがゆえだろうか。
ここが、地図の示す場所。最初の地図を得たのもここだったことを思えば、ぐるっと一周してきたようなものだろうか。思いがけず長い旅程になってしまったものだけれど。
ともあれ、その甲斐あって私たちは無事に三枚のお札を手にすることが出来た。
ガチャを回すために必要な、お金代わりのお札である。
万が一紛失してはいけないからと、PTストレージにしまっておいたそれを取り出すと、アグネムちゃんやスイレンさんへ目配せ。
二人からコクリと頷きを返されたなら、私は徐にガチャマシンの前へと歩み出た。
そうして、投入口へとお札を入れんと差し込んでみれば、懐かしいウィーンという稼働音とともに、引っ張られるようにお札が呑み込まれていくではないか。
せっかくなので、残り二枚はアグネムちゃんたちに投入してもらった。何事も経験ってやつだ。
初めての体験に、緊張しつつも彼女たちのテンションは高い。無邪気カワイイね。ヨシッ!
そうしてお札を投入し終えたなら、その時だ。筐体にあからさまな変化が生じたのは。
ハンドルの周りがチカチカと、躍るような点滅を見せ、これを回しなさいと如何にも主張しているかのようじゃないか。
必然、アグネムちゃんたちの驚くような声。彼女たちも興味津々でハンドルを凝視している。
私たちは数秒、光の躍る様を見惚れるように眺め。
かと思えば次は、それを誰が回すのかと、窺うように視線を交わす。
結果として私たちは、三人して仲良くハンドルへと手を掛け、ゆっくりと時計回りに回し始めたのである。
ガチャガチャ、ガチャガチャ……。
小気味好いカラクリ仕掛けの音が響き、否が応でもワクワクする。世界が違おうと、この「何が当たるんだい!?」って感覚は共通だった。
これ、やっぱりおもちゃ屋さんにも設置するべきだよ。子供たちが大喜びするに違いないもの。
などと一瞬逸れた意識を、強制的に引き戻すよう、ガタコンッ! と快音が鳴り。
どうやら取り出し口の奥に、何かしら落ちてきたようだ。
果たして、何が当たったものか。
ドキドキしながら、私は代表して取り出し口に手を入れると、徐にそれを取り出すのだった。
誤字報告感謝です!
えっと……こう言っては失礼になるかも知れませんけど。
話数を追うように誤字報告が次々に寄せられるこの感覚は、まるで赤ペンを握った先生に追いかけ回されているかの如くでありまして。
た……大変お世話になっておりますぅ……。
恐々としつつも、間違いを自覚し反省する日々です。勉強になります! 感謝ぁ!




