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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第九三四話 はかったなアグネム!

 技の試練、第三課題の開始。

 カウントダウンがゼロになるのと同時、私は背負った副腕をブースターに変じさせ、勢い良く跳び上がった。

 槍の骸由来のステップも併せたなら、その速度はガーゴイルたちの反応速度をぶち抜き。

 彼らの頭上にて、ゆらりと宙返り。世界がゆっくりに思える、贅沢な刹那。

 ガーゴイルの一体と、ばちりと視線が重なった。途端、私は仮面の下でニヤリと口角を上げ。


(先ずは君にしようか)


 念力の応用。自らの靴底をその場に張り付け、微動だにさせまいと固定したなら、それは即席の足場と化し。

 風魔法や空間魔法が使えずとも、空中を踏むだなんて事は今や、造作もないのである。

 ステップ。一歩でガーゴイルの懐に飛び込んだ私は、奴の鳩尾にそっと触れる。このまま掌底を繰り出すことも可能ではあるのだけど、鬼ごっこってそういうんじゃないからね。ダメージを狙った攻撃は違反になっちゃうようだし。ぴとっとソフトタッチである。

 しかし、そんな私の気遣いも何のその。パッと、爆ぜるように黒い塵へと還るガーゴイル。一二体居たうちの一体目。


 蜘蛛の子を散らすように、とは正にで。四方八方へと、大慌てで散っていくガーゴイルたち。

 狩りの始まりである。私は、残像すら残すほどの速度で逃げ去る背の一つに狙いを定めると、再びステップを踏むのだった。

 二体目確保。


 特製フィールドであるこの石の樹は、幾百幾千にも及びそうな石柱が幹となり、そこから枝葉を伸ばすかの如く複雑怪奇な広がりを見せた、柱の群れ。

 最早何が何を支えているとも知れず、ともすれば無意味に繰り広げられたランダムな造形のようですらある。実際その通りなのかも知れないけども。

 そんな石の空中迷路を器用に飛び回って、上手く私をいなさんと立ち回る残り一〇体のガーゴイル。小賢しいことだ。

 が、複雑に入り組んだ場所を高速で飛び回るだなんて、そのくらいのことは鍛錬で幾らでもやっている。

 新しいコースを用意してくれたっていうんなら、憎たらしいどころか有り難い限りである。


 ブースターに魔力を注ぎ込み、目をかっ開いて石の枝へと突っ込んでいく私。行き止まりにつぐ行き止まりが、ひっきりなしに行く手を阻むけれど。

 さりとて、それらの尽くを即座に捉え、適切な方向へ姿勢と進路を切り替える。

 極力スピードを落とすことなく、石の樹の中を稲妻の如く飛び回っては、直ぐにガーゴイルの背へペチンとタッチ。残り九体。

 厄介なのはきっとここからだろう。ガーゴイルたちの気配はすれども、そこへ行く道が分からないのだから。

 それでいて攻撃行動は禁じられている。石の樹を取り払うような火力のある魔砲なんかも、多分ルールに抵触するのだろう。

 上手いこと追いかけ、追いつくしか無いのだ。


 されど悲嘆に暮れるほどのことでもない。寧ろやり甲斐があるというもの。時間だって十分にある。

 次なるガーゴイルの姿を求め、石の枝を掻い潜っては突き進む。迷路とは言ったって、別に通路がしっかりと区切られているわけではないんだ。

 喩えるなら、よく公園なんかにある背の低い木。あれの内部に、小人になって飛び込んだようなもの……って言うと、ちょっと言い過ぎかも知れないけど。それよりは幾分枝の密度が低いかな、くらいの。

 そんな、見渡す限り物陰しか無いような景色の中、石と同じ色をしたガーゴイルを見つけて捕まえようっていうんだから、なかなか面倒な話じゃないか。


 それでも、ガーゴイルが『飛行』を行っているんなら、魔力に人一倍敏感な私には容易く位置を割り出すことが出来る。

 ファンタジーによくある話で、「そんな大きさの翼で空なんて飛べるはずがないよ。飛べるとしたら、一体どんな筋肉してるのさ」って言うアレ。

 結果としてそういうモンスターっていうのは、往々にしてスキルや魔法を駆使して飛んでいるわけだ。

 飛行系スキルを持っているモンスターもいれば、風魔法なんかで翼の機能を補助するものもある。

 なれば必然、そこには魔力行使が生じるわけで。それを頼りに探ってやったなら、探し当てることなど造作もないという話。


 そうこうして飛び回っている間に、残り八体。地の利だけで勝負しようだなんて考えじゃ、あっという間に片が付いてしまいそうだ。

 せっかく楽しい鬼ごっこなのだから、もうちょっと頑張ってほしいものである。

 だなんて考えていると、不意に。ガーゴイルたちの気配がフッと、一つまた一つと消えていくじゃないか。

 訝しんだ私は、最後に気配を消したガーゴイルの元へと急行。

 そこで、奴らが一体何をしたのか、我が目でしかと目撃したのである。何とも小賢しい策を巡らしたものだ。


 ガーゴイルらしく、石像に化けて気配を断つ。そんなお得意の手段を用いて私の目を、感覚を欺こうとしたのである。

 とは言え、見つけてしまえば逃げようは無く。石像化を解除し動き出すその前に、敢え無くタッチされた五体目のガーゴイルは、悔しげな表情で黒い塵へと還っていった。

 残り七体。こうなっては鬼ごっこというよりかくれんぼだ。運営に文句を言っても許されるレベルのタイトル詐欺ではなかろうか。

 とは言え、気配を消し、姿を隠した敵を探し当てる能力もまた、立派な“技術”であると。そう言われてしまえば仕方がない。


 ならば私は、地道に飛び回りながら石像を探すとしよう。気配の途切れた場所はそれぞれ、大まかになれど把握しているのだ。ゲームが絡んだ時の私の記憶力を侮ってもらっては困る。

 確かあっちの方だったと、感覚を頼りに移動し、ブースターと肉体操作をフルに活用して、スイスイと立ちはだかる枝の隙間を泳ぐようにすり抜けていく。

 するとどうだ。存外あっさりと、石像と化しているガーゴイルの姿を見つけられるじゃないか。

 六体目、七体目、八体目と、次々にタッチを成功させて黒い塵へと還していく。

 残りは四体。折り返し地点すら既に過ぎ、残り時間もまだまだ余裕があるはず。

 されど、まだ奥の手を隠していないとも限らない。当然ながら油断などはしようはずもなく。


 その時だ。魔力反応を感知。弾かれたように私は現場へと駆けつけた。

 すると、ガーゴイルの石像が二体。どういうつもりだろうかと訝しく思いつつも、一先ず一体にタッチ。

 しかしどうしたことか、それは黒い塵へと還ることはなく。健在なまま微動だにしないのだ。

(なるほど。ダミーか)

 これまた小賢しいことである。ガーゴイル像のダミーを生成して、時間稼ぎを行おうという作戦のようだ。

 案の定、私がダミーに気を取られている隙に、もう一体のガーゴイル像がこっそりと動き出す。が。

 遅い。敢え無く黒い塵へ。これで残り三体。


 悲しいことに、奴らは離れた仲間の間での連絡手段を有してはいないようで。

 つまりは、ダミーの生成が却って自分たちの居場所を知らせるだなんて、気づかなかったんだ。

 次の一体も、その次の一体も、そして最後の一体も。しめしめと悪そうな顔でダミーを拵えては、敢え無く私に見つかり。


 そして、黒い塵へと還っていった。

 第三の課題、クリアである。

 ……うん。もう一回言うけども。第三の課題、クリアである。


 輝く粒子になって、砕け崩れて霧散していく石の樹。その様は幻想的で美しく。

 そんな石の樹の中から登場した私に、アグネムちゃんがキラキラと目を輝かせているのが遠目にも分かった。

 スイレンさんもジャカジャカとテンション高く楽器を奏でており、その音色はしかと私にも届いていた。ただし、支援行為は禁止故にと、バフの乗っていない純粋な演奏だけれど。

 そんな二人の元へと、念力とブースターを駆使してゆっくりと降りていく私。そこへすかさず、念のためにとアグネムちゃんが問いかけてくる。

「それでミコト様、課題はどうなりました? フィールドなくなっちゃいましたけど。って言うか、モンスターの姿もありませんけど!」

 正しく確認の問いかけ。返答の中身など分かりきっているけれど、それでもこういうのは確信が欲しいものなのだ。某イカちゃんの縄張りバトルだって、判定がビシッと出されるまではドキドキするものね。

 だから私は、言うのである。


「勿論クリアしたよ。それより、クリアタイム! クリアタイムはどうだった!?」


 別にRTAを走るつもりこそ無かったのだけど。それでも、今のは初見にしてはなかなか良い感じのタイムでクリアできたと思う。

 であれば後で他の皆と合流した時、第三の課題をどの程度のタイムでクリアしたかって、自慢できるかも知れないじゃないか。

 すると、流石は信者組のアグネムちゃん。こんな事もあろうかと、その手には私の作ったタイムウォッチを握りしめており。


「スタート時から、フィールドが消滅し始めるまでのタイムなら測ってありますよ。残念ながらタッチする様子は、ここからじゃ見えませんでしたけど……」

「大丈夫、フィールドが消え出すまでのタイムで問題ないよ。それでどうだった?」

「っていうか、測ってたことへのツッコミとか無いんですか~? その辺スルーでいいんですか~?」


 スイレンさんが何か言ってる。確かに、普通タイム計測を頼んだわけでもないのに、こんな事もあろうかと! とはならないだろう。

 けど、アグネムちゃんなら、崇拝組なら、それが当然のようにあり得るのだ。今更そこに驚いていても仕方がない。

 だから、そんなことより今は、タイムのほうが大事。タイムリミット一〇分のうち、五分……いや、出来れば三分切れていれば十分にすごいんじゃないかな?

 果たして、私の叩き出したクリアタイムとは……!


「二分三九秒! 驚異的な記録ですよミコト様!」

「ホントに!? やったね、これ優勝なんじゃないの? 一位取れちゃうんじゃないの!?」

「他のPTがタイムを測ってるとは思えませんけどね~。ああでも、オルカさんなら有り得そうな気も」

「うゔっ! き、急に自信が萎んだんですけど! オルカと比べたら心許ないんですけど! 可能ならリトライしたい!!」


 オルカだったら、私がタイムアタックとか言い出すのを見越して、律儀にクリアタイムを測定していても何ら不思議じゃない。

 その上もし、挑戦者が彼女当人だった場合、私以上にこの課題向きだもの。

 スピードと小回りの良さ、そして何より索敵能力。何れに於いても私を上回っている可能性が高いわけで……。

 本気でリトライとか出来ないだろうか? 初クリア時のタイムは譲っても、最高タイムなら意地でも勝つ所存!


 などと、熱望してみたところで現実は酷く素っ気なく。

 課題をアクティベートするために触れた石像の前に、パッと生じたるは台座と、その上に乗った報酬たち。

 その内容は言わずもがな、例によってお札と地図と、そして七色のスキルオーブである。

 されど私はそれらを無視し、ペチンペチンと石像を叩いてみる。あわよくば再挑戦を、と思ったのだけど……うんともすんとも言いやしない。


 斯くして私たちは、何とも言えない空気の中、それでも無事第三の課題を突破。

 いよいよ三枚目のお札を手にしたのだった。

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