第一八〇六話 VSライバル 一〇
ミコトの操る「へんてこスキル」の中には、際立って様子のおかしいものがチラホラと存在しており。
その中に一つ、ことさらにへんてこなものが紛れている。
名を【キャラクター操作】。
近頃はもっぱら出番のなかったそれも、ひときわに異彩を放つ奇妙なスキルであった。
概要は、術者が仲間の身体に融合・憑依し、肉体の操作権限を乗っ取るという奇天烈な内容となっており。
この乗っ取りに際して、能力は二人分のそれが適用される他、本来の身体の持ち主は別途、火器管制システムのような働きができるとあって、非常に強力な融合体として活動することが出来るわけなのだけど。
いかんせん強力な反面、消耗が大きいというデメリットがあり、使用タイミングがシビアであるため、最近は用いられる機会もめっきり減ってしまったという事情を抱えていたりする。
このキャラクター操作というスキルには、派生スキルも存在している。
その名を【2P操作】。ミコトが他者に憑依するのではなく、他者がミコトに憑依し、身体を貸し出すというスキルとなっていた。
『なるほど、2P操作を使おうというわけですか』
『だけどそれ、自己強化にならない?』
『こちらが自己強化を行えば、呼応してライバルもパワーアップするかも知れないのぜぇ』
そも、オルカが2P操作を提案した理由は、彼の巨大なライバルが身体の何処に核を隠しているか。それを見極める必要があるためだ。
いかんせん自己強化を制限している現状にあっては、弱点看破系のスキルが奴に対して満足の行く効果を発揮してくれず。何らかの手を打たねば詰みかねない状況。
これを打開するために、力を底上げして弱点看破を機能させよう、というのが恐らくはオルカの狙い。
だが、力の底上げというのならば自己強化スキルを使用するのと違わないじゃないか、と。そんなことをすれば、ソフィアのライバルが更に強大な力を発揮するかも知れない。そんな懸念が念話上で交わされた。
が、しかし。
『懸念は分かる。でも考えてみて。奴も、仲間の力を取り込んで強くなってる』
『『……!』』
『仲間が倒れるほど力を得て巨大化するライバル。確かに仲間の力を取り込んでいる、と捉えることも出来るな。それならば、こちらが仲間と融合して強くなる【キャラクター操作】や【2P操作】を用いるというのは……』
『なるほど。使用したとて、向こうが対抗してくる可能性は薄いというわけか。むしろこちらにこそ、「対抗」という名目が立つ!』
チームミコバト側が自己強化系のスキルや能力を用いれば、似通った能力を持つライバル個体も、自身の自己強化スキルを駆使してステータスアップを図ってくる。それで能力が拮抗するというのならまだしも、巨体を得た今のライバル個体が自己強化を行えば、その脅威度は計り知れない。だから自己強化は使えない。それが彼女たちの見出した理屈であり、警戒事項だった。
けれど、「相手が先行して発動した強化要素」であればどうか。それと同系列の強化要素をこちらが用いたとて、ライバル固体に変化はないのではないか。それというのが正に、「仲間と融合して力を得る」という強化手段であると。
だから、2P操作という仲間を取り込むことで力を増す強化方法なら、使用が許されるんじゃないか、と。オルカはそう考えたらしい。
ここまでの戦闘で、スイレンの演奏バフだとか、或いは先程クラウを中心に災厄を生き延びた際の相互補助だとか。そうした、「他者へのバフ」であればリスクなく使用できる、というのは証明済み。
何故それが許されるのか? 何故このバフに反応し、ライバルが自らを強化するような行動に出ないのか?
そういった能力の持ち合わせがないから、という可能性もゼロではないだろうけれど。それより何より有力な説としては、「仲間がもう居ないから」というのが大きいだろう。
つまり、ライバル個体は同じバフ能力でも、自己強化と、他者の強化は分けて捉えているわけだ。
であれば尚更に、2P操作を安全に使用できる可能性は高まる。
『分かった。オルカ、やろう! みんなもそれでいい?』
『ガウラ!』
『考えてみれば、現状は向こうが一方的に強化するのを許しているようなものだからな。ここらでツケを支払わせてやるのも良さそうだ』
『核の位置が分かり次第、ぶっ飛ばしてやるパワ!』
『私も、そろそろフィニッシャーとして締めの一撃を準備しておきますよ』
『オルカちゃん、ミコトちゃん、任せたぞ!』
『了解』
斯くして示されたるはGOサイン。直ちに発動されたる【2P操作】。
ぬるりとミコトの影より姿を見せたオルカは、直ぐ様その身体を粒子状に変じ、最強装備を纏いしミコトへと同化を果たしていった。
その結果、生じたるは色味の変化。とは言え、フルフェイスのスマートなヘルメットを装着しているミコトボディ。銀から黒へ見事な変色を果たした頭髪も、殆ど確認することは出来ないわけだけれど。しかし身体の操作権限がミコトからオルカに移ったことで、纏う雰囲気はガラリと変化。立ち姿からしてよりスマートに見える不思議。
そして何より、発せられる気配の異様さである。
『これは……! 以前と比にならない、凄みを感じるのです!』
『そう言えば、キャラクター操作や2P操作を最後に使用したのは、だいぶ前になるんじゃない?』
『私たちも、随分力をつけましたからね~!』
『今の実力で融合すると、こうなるわけか……!』
絶大な威圧感を発している、というわけではない。何せオルカは、チームミコバトで随一の隠密能力持ちだ。ミコトに同化したことで全能感にも等しい感覚を覚えていようと、それで気配を垂れ流すというようなヘマはしない。
しかしそれ故にこそ、彼女の、彼女たちの発する空気というのは異様であり。
端的に表すのなら「不気味」とでもしようか。
絶対的な何かを感じはするが、具体性をまったく伴わない不気味さ。ただそれだけが、場を満たしているように感じられるのだ。
して、そんな空気の発信源である彼女たちはと言うと。
『せ、背中に腕が……尻尾なら操れるけど、腕は難しい』
『ああ、大丈夫。そっちは私がコントロールするから、オルカは弱点看破に集中して』
『ん、わかった』
最強装備を身に着けた状態での融合、というのは殆ど経験のないオルカ。というより、チームの誰もが不慣れだろう。まったく試したことがないというわけではないのだけど。
オルカは獣人の血を有しており、その気になれば獣耳や尻尾を生やすことも出来る。そのため尾であればまだ扱い方も心得てはいるようだけれど、しかし副腕となれば話が違う。上手く使い熟すには、相当な練習が必要になることだろう。大抵のことは難なくやってのける、器用な彼女でこうなのだから、他のメンバーならばきっと尚更に頭を抱えるだろう。
が、その点は本来の身体の持ち主であるミコトがカバーすることで克服。
何より、今回は副腕の操作など然程重要ではないのだ。ライバル個体の弱点さえ見抜ければ、それで良い。
ゆえにオルカは、直ぐに意識を整え、ジッと目の前の巨山を見据えることにした。
すると……。
『! 視えた』
『だね。そうしたら、みんなにも見えるようにしないと』
『ん』
駆使するのは転移。感心させられたのは、ミコトだった。
普段の瞬発的な、キレの良い転移と感触が異なるそれは、まるで世界に染み込むように成された静かな転移。魔力運用にオルカ独自の静けさが感じられ、これならば転移の起こりや、転移先の先読みなどからも逃れられる可能性が高くなる。真似ようと思っても容易くない、オルカの才能と努力により構築された特異技能だ。
これにより二人は何の苦労もなく巨山の裏側へと、刹那のうちに移動を完了させ。入り込んだのは奴の死角。
そうしたなら行うべきことは一つ。
オルカのスキルには、対象モンスターの体に傷をつけることで、仲間の目には核が光って見えるようになるという、弱点位置を知らせる術がある。
これを発動させるためには、このバカデカい相手に傷を負わせる必要があるわけで。
『さて、ぶちかまそうか!』
『思い切り行く!』
降り立った地面はさながら、大規模な地殻変動でも起こったかの如き荒々しいもので。そこに構えたるは極端なまでの前傾姿勢。
背に携えた四つの腕で、グワシと足場をしっかりと掴んだなら、頭上に構えるのは尾先。
それはたちまち砲身へと姿を変え、開始されたのは魔力収束だ。
実戦運用を想定していればこそ、チャージに然程の時間も要りはしない。
『魔力充填完了。照準よし。発射、いつでも行けるよ!』
『ん。魔砲発射!』
ヴヴン!!
何処かSFめいた効果音を轟かせ、繰り出されたのは極光。
めがけた先は言わずもがな、二人の目にしかと映った核である。
頑丈で分厚い骨や肉や皮が、質量の壁となって立ちふさがる。位置は人で言うところの鳩尾あたり。それを背中側から射抜こうという試みだ。
が、よしんば射抜けたとてライバル個体へは、担当者がとどめを刺さねば決着とならない仕様が設けられている。
それに、簡単に射抜かせてくれるほど巨山は甘い相手ではなく。魔砲の照射が突き刺さったのはほんの一瞬。即座に底なしの魔力を束ね拵えられた魔力障壁が、極光を阻むべく展開されたのである。
流石と言うべきか、それでも極光は障壁を突き抜けライバル個体の背へ突き刺さったけれど、魔力障壁というフィルターを通り抜けている関係上、威力減衰は甚だしく。殆ど攻撃としては意味をなしていない有り様だった。
が、それでも。
『『視えた!!』』
『総員、攻撃開始!!』
『『うおおおおおーーーーっ!!』』
狙い通り、巨山の核は暴かれた。チームミコバトの目にそれは、しかと輝いて見えており。
ライバル個体の鳩尾に、皮も肉も骨も透過し、真っ赤な輝きを見て取ったのである。
なればあとはそれを掘り起こし、ソフィアの一撃を叩き込む。それでフィニッシュだ。
ライバル個体戦もここに来て、いよいよ最終局面を迎えんとしていた。




