第一八〇一話 VS ライバル 五
ライバル個体も残すは三体。対するチームミコバトは、流石に無傷でこそ無いものの、一人も欠けることなく対峙を続けている。
ゼノワの手により、彼女のライバルが討たれたことで、さらなるサイズアップを果たした三体。その背丈はもはや、一〇メートルを上回り。こうなっては巨人を相手にしているようなもの。
そして当然、肥大化したのは図体だけにあらず。スペックも更に大きく底上げされ、大質量の身体を動かすのに十分なパワーを内包していた。
『こんなのが自己強化スキルなんて使いだしたら、流石にマズそうね……』
『皆、奴らを無為に刺激せぬよう、使うスキルはしっかりと選ぶんだ!』
『ぬぅ、厄介な敵パワぁ!』
『てか、迷宮側は当たり前のようにこんな戦力を用意できるんだね。底知れないなぁ』
『グルゥ』
迷宮が繰り出してくる戦力は、とてつもないものだ。ライバル個体然り、隠しボス然り。
チームミコバトの面々も、大概異常なまでの力を蓄えているはずだが、それでもなお迷宮側の抱える力が底も天井も知れないという現状に、得も言われぬ不気味さを感じていた。
が、それは今考えても詮無いこと。意識を切り替え、三体へと襲いかかるチームミコバトである。
『次のターゲットはリリエラちゃんのライバル、でいいんだよね?』
『そうだな。あのサイズから繰り出される魔法剣は、どう考えても大きな脅威だ』
『それで言うとソフィアさんのライバルが放ってくる魔法こそ、優先して対処すべきだと思うのです』
『それだけはご勘弁を! 私は、どうしても! あの巨体から撃ち放たれる魔法の数々を観察したい!! 後生ですからどうか!!』
彼女たちが次に狙うのは、リリエラのライバル。先程はゼノワのライバルを釣るために、偽のターゲットとして狙いこそしたものの、今回は本気である。
それが済めば次はアグネムのライバル。そして最後にソフィアのライバル、という予定を立てていた。
本来であれば、サイズが増すに連れて破壊力と規模が飛躍的に増していく、魔法攻撃こそ強く警戒するべきなのだけれど。
しかしながら、どうしても巨大な自分のライバルがどんなスキルを使用するのか。それを見てみたいと熱望するソフィア。
そんな彼女の嘆願はともかく、そもそもが後衛であるソフィアは、他のメンバーに比して打たれ弱いという特徴がある。懐に入りさえすれば、大規模なスキルも使いづらくなるだろう、という打算もあり、結果としてソフィアのライバルを最後に残す、ということで話はついた。
ゆえに、先ずはリリエラのライバルを排除せんと前衛組が再び飛びかかり、中衛組も鋭く隙をうかがっている。
対し、ライバル側も当然殺る気の構え。何せまたも仲間が一体殺されたのである。果たして彼ら、或いは彼女らに仲間意識や怒りの感情というものが存在するかは不明なれども。纏う雰囲気には確かな憤怒が見て取れた。
そして、そうした機微はミコトの心眼を通してキャッチされ、仲間たちに共有。結果として逆手に取られるというのがここまで何度も繰り返されたパターンなのだけど。だとしても御し難いのが憤りというもの。
迫る前衛組に対し、見事な細剣捌きでもって応じんとするリリエラのライバル。一方で、アグネムのライバルは中衛組へ飛びかかり、ソフィアのライバルは地を這い迫る爆発魔法を全ての敵へとけしかけた。無論、味方を巻き込まぬよう配慮した、豪快でいて繊細な魔法攻撃である。
当然、最も厄介なのは魔法であり、まともに受けては即死すらあり得るほどの脅威だ。が、まともに受けるようなメンバーがここまで生き延びているはずもない。
チームミコバト側にのみ許された戦法、というのは幾つかあり。例えば念話も然ることながら、最も猛威を振るっているのはやはり「疑似転移」だろう。
PTストレージを駆使し、擬似的な転移を実現させるというテクニック。上手く使用しなければ、かえって隙を晒しかねないという、実は高難易度の術なれど、もはやチームミコバトメンバーは何れもが熟練のレベル。迫りくる魔法をひょいと躱すのにも、巨体から繰り出される圧倒的な破壊をいなすのにも重宝し、あまつさえスムーズな反撃すらやってのけた。
それに、である。
『ちょっとちょっと、何よその動きは。過剰に質量を得たせいで、めちゃくちゃ鈍重に見えるわよ!』
『移動距離に換算すれば、十分素早いとは思うんだけどね。動き出しの鈍さはどうしようもないんじゃないかな』
『勢いに乗るまでに時間が掛るタイプなのぜぇ』
『巨大化の弊害ですね~』
当たり前と言えば当たり前の話ではあるのだけど。非常に重量の大きな物体を動かそうとすると、勢いに乗るまでの初速はどうしたって鈍いものとなり。また、勢いが乗ったら乗ったでブレーキを掛けるのが難しいという問題もある。
結果、ライバル個体たちは肥大化したその身体に、いくらか戸惑いを覚え、そのうえ身体の小さなチームミコバトたちを攻撃するのに、随分やりにくさを覚えているようでもあった。
結果として、戦況は思いがけずミコバト側の優勢となり。なんと巨大化がライバル側の足を引っ張るという、奇妙な結果を招いたのである。
これ幸いと、大暴れするチームミコバトの面々。
ライバル側からすれば、その煩わしさは羽虫でも追いかけているかのよう。或いは足元で小動物が駆け巡っているようでもあり。あまつさえ、それらが洒落にならない威力の攻撃をひっきりなしに仕掛けてくるのである。中にはアグネムのプチフリーズや、クオの状態異常弾のような、受けてはならぬ攻撃というのも紛れており。当然厄介どころの騒ぎではなかった。
であるならば必然、立ち回りは攻撃よりも回避や防御に比重が傾き、あっという間に流れを掴んでしまったチームミコバト側。正に行き過ぎた巨大化の弊害。
『掛かった!』
『一気に仕留める』
『ぶっ殺なのぜぇ!』
『なんかちょっと、複雑な気分ね……』
そうこうしていれば、程なくして件の、受けてはならぬ攻撃がリリエラのライバルを捉え、こうなっては一方的。
慌ててカバーに入るソフィアやアグネムのライバルたちではあったが、健闘虚しく黒い塵へと還るリリエラのライバル。
これにより、残りの戦力はチームミコバトフルメンバーに対し、ライバル側は二体を残すのみという構図。
が、また倍以上も身体が膨らみ、もはや高層ビルと見紛うほど。誰の目にも分かりやすい「やり過ぎ」であった。
『ここまでデカいと、アグネムちゃんのライバルが見せる「踏み込み」だけでも、甚大な破壊が起こりそう……』
『急いで処理したほうが良いようですね』
『うん……なんかちょっと複雑な気分……』
自分のライバルが目の敵にされる、というのはここまでの戦闘で誰もが経験してきたことではあるものの。やはり何とも言えない気持ちになるようだ。
とは言えそれで攻撃の勢いが鈍る彼女たちではない。
勇猛果敢に、ライバル個体へ躍りかかる前衛組。
その絵面たるや、聳え立つ巨大な塔へ臨む冒険者そのものといった風情であり。問題はその「塔」が、アグネムのライバルにとっての「脚」でしかないという点。
体格差、などという言葉ももはや適切ではないのだろう。チームミコバトにとってもそうだが、ライバルたちにとってもそう。正確に狙いをつけて攻撃を、などというのが困難に感じてしまうほどに、サイズの隔たりが広がってしまっていた。
ゆえにこそ、豪快。アグネムのライバルは敢えて細かい狙いを付けず、薙ぎ払うように、或いは巻き込むように大雑把な攻撃へと打って出たのである。
そしてそれは、後衛であるソフィアのライバルにも言えることであり。
サイズが一気に増したことで、前衛と後衛の距離感、というものに狂いが生じた。
だからソフィアのライバルは、その場から素早く飛び退り、距離を取りがてら広範囲魔法をぶちまけたわけだが。
その威力と範囲たるや、控えめに言っても災害級のものであり。彼女らが擬似転移という技術を会得し、日頃から磨いていなければ、きっと対応だけで小さくない消耗を強いられていたことだろう。
だが、そんな中にあってもソフィアのライバルに目もくれず、先ずはアグネムのライバルを処理しようと。そう意気込み、果敢に突っ込んでいく彼女たち。
これだけ大きさが違ってしまえば、流石にアグネムのプチフリーズやクオの状態異常弾なども、簡単に効果を発揮してはくれない。
それ故に手間取りを覚えながらも。
しかしそれでも、チクチクと有効打を与え続け。そして。
『これで、トドメっ!!』
アグネムの一撃が、己のライバルを黒い塵へと還し、一つの決着を掴み取ったのである。
そうして残るは一体。
ソフィアのライバルのみと相成った。




