第一八〇〇話 VS ライバル 四
残すライバル側の戦力は、それぞれリリエラ、アグネム、ソフィア、ゼノワが担当する個体であり。その身体は何れもが五メートルを超える巨体となっていた。
それでいて、即興PTめいたチームワークまで駆使してくるものだから、ミコトたちチームミコバト側からすれば堪ったものではない。
こうなっては総力戦である。相手がPT戦略を駆使するのであれば、こちらはチーム戦略だと言わんばかりの立ち回りにて応じ、激戦を繰り広げていた。
『デカいし速いし上手いし、とんでもないわね!』
『お食事処のキャッチフレーズにありそうな語感ですね』
『ちょっぴりお腹が空いてきたパワぁ』
『言ってる場合か!』
念話上ではそのような、気の抜けるやり取りも時折飛び交うけれど。しかし戦況はずっと逼迫しており。
特に時折放たれる魔法のスケールは、その体格に比例して膨張し、今やとんでもない事になっていた。
ただの火球一つとっても、人の背丈を有に超えるような凄まじいものがぽんぽんと放り込まれ、当然直撃などすれば大ダメージを免れることは出来ないだろう(レッカは除く)。
そして当然、単なる火球で話が済むはずもなく。そうした魔法を放ってくるのは主に、リリエラ、ゼノワ、ソフィアのライバルたちだ。変則的な術はもとより、そこに込められた破壊力も絶大とあっては、当たらぬよう逃げ回るのにも苦心する面々。
が、防戦一方かと言えばそうでもない。
確かにライバルたちは、絶大な攻撃力を備えている。が、その一方で「打たれ弱さ」というのも備えているのだ。
人の体と違い、皮膚は丈夫に出来ている。が、しかし。
彼ら、或いは彼女らが抱えるコンセプトは、チームミコバトの「ライバル」であり。ゆえにこそ、ミコバト側のメンバーに比して身体が頑丈過ぎる、というようなアンフェアは避けられているようだった。
巨大化に際し、脆弱性がネックにならぬようにと体表は丈夫に設計されている。一方で、そこにリソースを割いた分は他の能力値で調整されているような節が見られ。例えば素早さ、例えば膂力、例えば反応速度、例えば魔法出力など、本来ならもう少し強力でもおかしくない、という部分の能力が大人しいレベルに抑えられている。そんな印象をチームミコバトの面々は受けていた。
とは言え、だとしても凄まじい化物を相手にしている、という事実に変わりはないのだけど。
その一方で、完璧には補い切れていない打たれ弱さ。そして的の大きさこそが、つけ入る隙として明確に存在していた。
『ひぇ~! スリリングどころの騒ぎじゃないです~!』
『安心しろ。巨大だろうが何だろうが、攻撃は私が全て防いでみせる!!』
大気を震わせるほどの大音響。視界を覆い尽くさんほどのスケール感。後衛組を根こそぎ焼き払わんと、ソフィアのライバルが放った絶大な魔法に、腰を抜かしかけるスイレン。
が、そこへ立ちはだかるのがチームミコバトのメイン盾、クラウである。
そも、火力というのはダメージだの破壊力だのと、指標が分かりやすく、ゆえに比較も容易いものであり。チーム内でも日夜切磋琢磨されている、ある意味人気のコンテンツと言えるわけだが。
一方でこれが「防御」となると、途端に評価は難しくなる。
クラウのガードが硬い、というのは誰もが知っているわけだけれど。ではどの程度堅いのかと問われると、皆が答えに窮する部分だったりもする。
とどのつまり、クラウの守備力がどの程度すごいのかを、仲間たちも、何ならクラウ当人ですら良く分かっていないのだ。比較が難しいから。
なればこそスイレンは腰を抜かしかけたし。
なればこそ、クラウに不安はなかった。
確かに比較は難しい。が、クラウ自身は良く理解している。どの程度の攻撃ならば防げるか。「凄さ」は無自覚なれども、身の丈は良く知っている。
だから彼女は言ったのだ。「安心しろ」と。
ソフィアのライバルより繰り出されたのは、絶大な破壊力を孕んだ光魔法であり、平たく言ってしまうのならば「ビーム」だった。
周辺の床ごと軽々と飲み込んでしまえるほどに、凄まじい光の奔流。
それを真っ向から受け止めんとしたクラウは、一溜まりもなく純白の眩しさの中へ埋没し、後衛組もろともに誰の視界からも消え失せてしまった。堪らず仲間たちも肝を冷やすが、かと言って動きを止めるような愚は犯さない。
そんな暇があるならば、一秒でも早くソフィアのライバルを攻撃し、魔法を止めさせるべきであると。そう分かっていればこそ、前衛組を中心とした面々は動いたし、それを先読みされ、危うく横合いから他のライバルたちに痛打を浴びせられそうにもなった。
そのように、一瞬ほころびかけた連携だったけれど。
『ふん、その程度か!』
『『!?』』
寄せられた心配を一発で振り払う、格好つけた念話が駆ける。
事実、光魔法の照射が終わり、姿を見せたのは無傷のクラウであり。そして彼女が庇った後衛組の面々もまた、一切の被害を受けていなかった。
と言うか、スイレンの演奏が途切れていないことから、彼女らの無事は半ば確定していたわけだけれど。
それでも、ピンピンしている姿を見れば味方は安心するし、敵には多少なりとも動揺が走る。
そして動揺は、つけ入る隙となる。
前衛を担う彼女たちが、弾丸さながらのスピードで襲いかかったのは、勿論光魔法をぶっ放したソフィアのライバル……ではなく。
中衛を担っているリリエラのライバルだった。
魔法も剣も高い水準で操る、魔法剣士。そのスタイルをひた走るのがリリエラであるならば、ライバルたるそいつもまた、剣と魔法に長けた変幻自在の戦術を得意とする強敵であり。普通に戦っても当然強いが、どんな手を打ってくるか読みづらいというのもまた、優先的に処理すべき理由として有力である。
がゆえに、排除せんと前衛組が鋭い強襲を仕掛ける。
『殺害!』
『ぶっ殺パワ!』
『殺ってやるのです!』
ここまで難しい戦いを強いられ続け、しかも闘気を思う存分発散できないという事情も相まって、少々気が立っている様子の彼女たち。
相手はレイピアのような細剣を操る、身軽なスタイルの魔法剣士であり。一撃の重さよりも手数を重んずるタイプの戦法に加え、身のこなしにも長けている。五メートルオーバーの巨体であることを忘れさせるような機敏さでもって、迫る前衛組に応対しようとする。しかし質量の増加と隙を突いたという二つの事実が、対処の遅れを招いてしまった。
ライバル側にとって最も警戒すべきは、ここぞというタイミングで彼女たちが使用してくる「概念スキル」であり。
殊更アグネムの使用する【プチフリーズ】は、強制的に思考停止を引き起こす恐るべき術として猛威を振るっていた。
彼女に打たれれば、実質的に体感時間というものが停止し、完全な無防備を晒してしまうことになる。チーム戦においてこれほど恐ろしいことはない。
体感時間で言えば、それこそ極度の危機感から、スローモーションめいて引き伸ばされた世界を目の当たりにするリリエラのライバル。迎撃が間に合わないという確信と、それでも何か手はないかと思考する、一種の二律背反に喘ぐ中。
不意に救いの手は差し込まれたのである。
前衛組を横合いより襲ったのは、ゼノワのライバルだった。
遊撃を主とした立ち回りにて、都度チームミコバト側の思惑を妨害してくる、神出鬼没の異形。
現在のゼノワは人型として立ち回っているものの、ライバルは半ば竜の姿を取った異形となっており。トリッキーな行動は読みづらく、それでいてどんな役割も器用に熟してしまう厄介さも併せ持っていた。
そんな半竜が、仲間のピンチを察して助けに入ったのである。
前衛組にしてみれば、リリエラのライバルを仕留めるべくまっしぐらになっていたところを、横合いより刺される形。つまりは不意打ちだ。
一転して自分たちこそ窮地に陥ってしまったかという、そんな状況。
だったが。
『読み通り!』
『今だ、仕留めるぞ!』
『ガウラァ!!』
行動の読めない敵だからこそ、誘い込むことでチャンスを生み出す。
実際同じような手で、最も厄介だったオルカのライバルを仕留めた経緯がある。変なところでオリジナルに似ているようで、ミコトのライバルを攻撃しようとすると、一部のライバル個体がなりふり構わず庇いに来る、という習性を見せたのだ。
これを利用することで、一気に敵の数を減らすことに成功したチームミコバト。
ゆえに、これもその応用と言えた。
リリエラとゼノワの間に特別な絆があるのか、と言えば、別段特筆するようなことはないのだけど。
それでも大事な仲間の一人が窮地とあっては、遊撃役が助けに入らぬ道理もない。
だから、行動は予測できていたし、こうなることを狙って前衛組はリリエラのライバルを狙った。
結果、まんまと釣りエサに食いついてしまったゼノワのライバル。
ギラリと、一斉に幾つもの殺意が半竜を捉え、間髪入れずに襲いかかる。
斯くして、残すライバル個体はリリエラ、アグネム、ソフィアの三体分と相成った。
決着の時は着実に近づいている。




