第一七九九話 VS ライバル 三
ぐにゃりと景色を歪ませる陽炎が躍り、忙しなく火の粉の舞う戦場。
それらを発生させているのは他でもない、炎熱使いのレッカである。
彼女の熱量に負けじと奏でるのはスイレン。愛用の弦楽器をかき鳴らし、力強い歌声にてレッカのみならず、チームミコバト全体を鼓舞し続けていた。
反対に、彼女らのライバルたる異形軍団に対しては、デバフ効果を付与するというのだから集団戦においては強力無比という他にない。
相手方にも、演奏スキル使いは存在する。それはつい先程まで、スイレンと激しく音をぶつけ合い、互いの演奏効果を打ち消し合うような、激しいバトルを繰り広げていたのだけれど。
そんなラッパ吹きの首筋に、レッカの熱い斬撃が叩き込まれた。オレンジ色の軌跡が弧を描き、花火のように火花の舞う鮮やかな一閃。
膨大な熱を一点に込めた、必殺の一撃だ。当然の帰結として、ラッパ吹きの首は溶断され。火だるまとなり宙へ投げ出されたわけだが。
しかし。
『これでも死なないのぜぇ!?』
ごとりと床を叩く頭。ふらふらと蹌踉めく身体。それでも何故か、黒い塵へ還る気配はなく。ともすれば再生の兆しすら見て取れる有り様。
レッカの対峙していたライバルは、確かに黒い塵へと還っており。死すれば消え失せるという法則は、ここでも共通であるはずなのだが。にも拘らず、どうしてこいつは死なないのか。不可解な出来事に、いっそ不気味さすら覚え始めた頃。
『ひょっとして、自分が担当してるやつにしかとどめを刺せないってことなんじゃない!?』
『! なるほどなのぜぇ』
『つまり、私が殺れってことですね~!』
飛んできたのはミコトの念話。可能性の示唆でこそあったけれど、なるほど試す価値は大いにあると。
納得するなり、素早くその場を飛び退いたレッカ。その瞬間である。
奏でる楽曲にアクセントでもつけるよう、発せられたド派手な音。それは確かな破壊力となり、ラッパ吹きへと襲いかかったのである。
危うくレッカを巻き込みかねない、大胆な攻撃。されどもそこは阿吽の呼吸。して、気になるライバルがどうなったかと言えば。
『おお! 塵になりましたよ~!』
『ミコトの読みが当たったっぽいのぜぇ!』
『なるほど、そういう仕様もあるのだな……!』
『そしてまた、全体的に敵の力が増したわけねっ!』
灼熱の中で死ぬことも出来ず、惨たらしいさまを晒し続けていたラッパ吹きは、スイレンによる音の魔法で小さくない損傷を負い。まさしくそれを切っ掛けにして、黒い塵へと還っていったのだった。
だが、ライバル側の頭数が減った分、全体的な力の底上げが再び成され。チームミコバト側は更なる苦戦を強いられることとなる。
『しかも、強化幅がさっきより少し大きい、気がする……』
『た、確かにそうかも!』
『長引くほどこちらが不利だな』
『倒す順番をサクッと決めちゃうパワ! んでじゃんじゃんぶっ飛ばすパワ!』
『ガウガウラ!』
一体目撃破の際に生じた力の底上げを、仮に10%程度だとするならば、二体目を仕留めた今回は15%程度。累計で25%程も敵の強さが増したような。そんな肌感を覚えているチームミコバトメンバーたち。
実際のところどの程度の補正が掛かっているか、というのは不明なれども、この調子で敵が強くなっていくのでは、早々に一対一の構図は破綻をきたしてしまうだろう。
普段であれば、様々な自己強化スキルを用いて対処するような場面だが。今回それをしてしまえば、相手も自らを強化して対抗してきてしまう。であるなら、別の手段で戦力をカバーするしか無いわけだ。
鍵となるのは言わずもがな、ライバルを討ち果たし、手の空いたメンバーの存在である。
単純に手の空いたメンバーは、攻略優先度の高いライバルの撃破に協力する、というプランでは、おそらく破綻を免れない。何処かのタイミングで瓦解が生じてしまうだろう。
故に、手の空いたメンバーは戦力的に厳しいメンバーと組ませ、戦況を支える必要もあるというわけだ。
また、一対一という構図は早々に崩し、味方との連携に力を入れたほうが安定しやすいはず。
そうした柔軟な対応も考慮に入れながらのチーム戦、というのはなかなか経験したことがないタイプの戦闘であり。不安もあれば、やる気も湧くという不思議な感覚を皆に共有させていた。
それともう一点。
『連携するのはいいとして、自己強化にばらつきがあると、敵との戦力バランスが際どいことになるね』
『確かに、それは否めませんね』
『こっちが強化を行えば、向こうも似たようなスキルで強化してくる』
『強化した敵が、強化していない味方を攻撃する、というようなことも起こり得るわけですか』
『ってことは、強化度合いは、組む相手と揃えて臨んだほうが良さそうパワな』
強化のばらつきは戦況を不安定にさせる。
場合によってはそれを逆手に取ることも出来るのだろうけれど、敵の力がどんどん底上げされ、嵩増しされていくという状況下においては、リスクのほうが遥かに大きいと言わざるを得ず。
ゆえに求められるのは、味方と条件を揃えるという、これまた普段はあまり意識することも無いような縛りであった。
『強化に関しては、それ自体が魔力や体力を消費する場合が多い。であれば、敢えて何も使わず素の状態を基本とする、というのは合理的な選択かもしれないな』
『バフを使うなら、瞬発的な強化が良いと思うのぜぇ! 圧縮スキルってやつなのぜ!』
『相手も似たようなことをして来そうね。一層敵の攻撃には注意しないと』
『闘気だけは、うっかり漏れちゃうことがあるパワ。抑える制御はより難しいパワ!』
『なるべく我慢する方向で、と言ったところか』
『グルー』
方針が定まったのならば、いよいよ具体的な撃破順を考えていく。
単に厄介な順に仕留めていけば良いと言うわけでなく、ライバルを撃破することで誰の手が空くようになるのか、という点の考慮も重要だった。
例えばチームミコバトのメイン盾であるクラウ。彼女の活躍には大きな期待が寄せられるため、優先的にライバルを撃破しておきたい。
他にもヒーラーであるクリスティアや、状態異常を扱うクオなども早い段階で解放しておけば、戦闘が楽になるはず。
と言った具合に、まるでパズルでも解くように最適な順を話し合う面々。それでいて、パワーアップした敵と対峙し続けているというのだから大忙しである。
そうこうして、ようやっと攻略順が決定したならば、いざ実戦。
スイレンの演奏スキルが一方的に機能するようになったため、序盤は楽にライバルの排除も進んでいき、手の空いたメンバーも着々と増えていった。
が、その分ライバル側は勢いよく力を増していき、早い段階で一対一の構図は崩れ去ってしまう。
それを見越した連携により、防戦に重きを置いたスタイルにて戦線を維持。手の空いたメンバーによる攻略が進むのを、ひたすらに堪えて待つ運びとなった。
そんなこんなで頭数も随分と減り。ようやっとライバル側は残り四体というところ。
チームミコバト側が連携を組んで持ち堪えているように、ライバル側もまた仲間と連携することで、えげつない攻撃を連発しており。ほんの一手対応を誤っただけで、容易く重症者、ないしは死傷者が出かねないという極めて危うい戦況を維持したまま、どうにかここまで攻略を進めてきたわけだけれど。
しかし圧倒的数の有利を得ながらも、現在は一体倒すことすら困難なほどにライバル側の能力は増しており。それでいてミコバト側の手の内もとっくにバレている始末。
それに何より……。
『大きくて、堅い……!』
『すごく、逞しいです……っ』
『言い方!』
そう、スペックの底上げが行われる度に、そのサイズ感までもがむくむくと膨らみ続けたライバルたち。
ここまで九体を撃破してきた影響により、すっかり身体が巨大化した異形らは、チームミコバトを見下ろすほどの体格を得ていた。身長で言うなら最低でも五メートルは下らない。
幸いな点としては、質量が増した分だけ的が大きくなり、攻撃を当てやすくなった点が挙げられるが。
しかしそんなデメリットを軽々と吹き飛ばすほどに、異形たちは脅威だった。
先ずもって、堅いのだ。
例えば人間がそのまま巨大化した場合、その柔肌こそが最大の弱点となり得るところだが。異形らは抜かりがないらしい。
体表は頑丈であり、分厚い。全身が甲殻や鱗に覆われている、というような事こそ無いものの、皮は丈夫で生半可な攻撃は通らず、しかも動きも速い。
大質量のものが高速で動き回り、重さを活かした攻撃すら繰り出してくるとあっては、これを脅威と言わずに何としようか。
そして勿論、多彩なスキルも使いこなし、出力もスペックの上昇に伴い凄まじいことになっている。
そんな奴らを相手にチームミコバトはと言えば、お得意の変身等はもとより、バフを掛けることすら憚られるような有り様。
純粋な強敵というより、難しい敵との戦いである。




