第一七九八話 VS ライバル 二
恐ろしいほどに広大な、神殿然とした厳かな空間の中。
神聖な雰囲気をぶち壊しにするかのような激突音がそこかしこで発生しては、樹齢何千年の大樹と見紛うほどの巨大な柱群に反響しており。そのたびに音は衝撃となって、稲妻のごとく駆け抜けていった。
各一四名による、己がライバルとの戦闘は苛烈に続いている。
目をギラつかせ、闘志を滾らせるものもあれば、努めて冷静に相手を上回らんと賢しさと技量を繰り出すものもあり。
総じて一進一退の攻防。
時折テリトリーが味方と重なり、即興でのタッグマッチが組まれることもあれば、元より協力して戦闘に臨むものもあったりと、戦場は混沌を極めて見えた。
が、そんな中にあって、ようやっと一つ大きな動きがあり。膠着を破るかのような一手は、不意に齎されたのである。
『よし、撃破したのぜぇ!!』
『『!!』』
『ぬぉお、先を越されたパワぁ!! 悔しいパワぁ!』
そう、誰よりも早く対峙するライバルにとどめを刺したのは、チームミコバトの火力担当。炎熱使いのレッカであった。
闘気は使用しないと宣言したミコトとは逆に、誰より突っ走った彼女は「発展型」すらも活用し、圧倒的な出力にてライバルを押し切り、妥当せしめたという経緯だ。
いかんせん彼女とライバルとの激突は、途方もない高熱と冷気のぶつかり合いとなっており。その近くで戦っていたメンバーにしてみれば、まぁ大変な迷惑となっていた。そのため仲間の勝利を喜ぶと同時、安堵の声もチラホラと念話上に響く。
『やっと熱の影響から解放される……』
『流れ弾もすごかったです~』
『派手に闘気を使ってたみたいだけど、やっぱり勢いで押し切るのが正解なのかしら?』
『もしかして「心・技・体」と関係してる?』
『闘気による勢いが「心」だとするなら、ミコトのように闘気に頼らぬ技量でのアプローチもまた正解と』
『なら、フィジカル勝負もありってことなのです!?』
『パワっパワっ!』
レッカにより提示された、謂わば一つの成功例。これを受け、己がライバルをどう攻略するのが正解なのかと改めて考え始める皆。
他方で、自身のライバルを倒したことにより手が空いたレッカ。なれば当然、仲間のサポートへ向かうわけだが。
ここでふと、大きな問題が発覚する。
『む、何やら……相手の力が上がっているようだな。それに身体も、少し大きくなった』
『だよね。私も思った!』
『ガウー』
『これは、由々しき事態ですね……』
『レッカの手が空いた分、全体的に敵側が強化されたってことかも』
『なんだか、以前も似たようなボスが居た気がしますね』
誰か一人の手が空けば、味方との共闘にて二対一の構図を作るのは容易い。と言うより、必然的にそういった構図が出来上がるだろう。
そうして二体目が撃破されたなら、次は三対一。或いは二対一が複数展開されるか。
三体目、四体目の撃破も時間の問題であり、そうなってはライバル側の瓦解だ。結果として、三つの試練を乗り越えた先に待ち構えていたボスにしては、拍子抜けするような強さである、という印象だけが残ることになるだろう。
果たしてそれを嫌ってのことかは不明なれど、事実としてバランスを取るかのように生き残っているライバル全ての基礎スペックが、一段階底上げされる形となった。
『けど、ちょっと強くなったくらいで数の不利を覆せるわけじゃないでしょ! 押し切ってやるわよ!』
『いや、待ってリリ。確かにレッカの補助があれば、順調に数を減らしていくことは出来ると思うけど……「最後の一体」がヤバい』
『そうだな。どの敵を残すかによって、攻略難易度は全く違ってくるだろう』
ライバル側の戦力が底上げされたのは事実。けれどもそれは、これまでの倍ほども強くなった、というような極端なものではない。
一対一での対峙こそ難しくはなったけれど、それでも直ぐにチームミコバト側が圧倒されるような事はなく。念話を交わす今も激突は継続していた。
であるならば、手の空いたレッカが手を貸すことにより、更に一体、もう一体と相手側を撃破していくことは可能だろう。
が、その度にライバル側は力を付けていき、やがて一対一では手に負えない強さになることは明白だった。
そんな強大な力を得たライバル側がもし、より厄介な個性を持つ手合だったとしたら、最悪の場合手がつけられないような事態にもなりかねない。
例えば、それこそレッカの対峙していた冷気を扱うライバルもそう。最後の一体に残れば、どれほど破格な能力に成長していたことか。
他のライバルも、生き残るほどに力をつけると考えるなら、先を見越した対処こそが勝利の鍵を握っている、と言えるのだろう。
『単純に目の前のライバルをぶっ飛ばせばいい、ってわけじゃないのパワな……』
『ああ。これは間違いなくチーム戦だ』
『どのライバルを優先的に処理して、どいつを最後に残すのか。順番が大事なのぜぇ』
ギュンと目前に迫る四翼の異形。対峙するはミコト。
高機動型最強装備を身に着けているにも拘らず、僅かに速度で上回られたという事実に、フルフェイスのヘルメット下では思わず表情が引きつる。
かと言ってそれが致命的な差でないのもまた事実であり。悪魔チックなフォルムのライバルが繰り出してくる魔法の数々を的確に捌き、左右の手に握られた剣による苛烈な攻めも、愛刀月日や尻尾アラカミ、或いは普通に障壁などを駆使し、しっかりと対処している。
が、主導権をライバル側に握られることが多くなり、以降も相手方がパワーアップしていくというのであれば、敢えて闘気には頼らないという戦闘スタイルも何処かで破綻をきたしかねないと。そんな懸念を懐かされていた。
しかし、であるならミコトが自己強化系のスキルや闘気を使用した場合、ライバル側はそれを黙って見過ごすのかと言えば、そんなこともなく。
試しにミコトがバフを使用してみたところ、きっちり相手も別の手段で自己強化を行い、開いた力の差を維持するスタンスを見せてきた。
つまり、結局のところ闘気に頼ろうと頼るまいと、それで力の差が埋まるわけではなく、仲間との連携こそが肝になってくる、という事実が確定したわけだ。
そうした情報を念話で共有しつつ、素早く議論は交わされる。
『取り敢えず演奏バフを止めたい』
『え~』
『ですね、すごい厄介なのです!』
『う~』
『敵に回すととても面倒ですね』
『そんな~』
『安心するのぜ。相手方もきっと、同じことを思ってるのぜ!』
『つまり、それだけ大活躍してるってことですか~?!』
『ガウーラ!』
自身と似たような戦闘スタイルと役割を持つ、ラッパ吹きの異形。それが蛇蝎の如く嫌われているとあって、複雑な心持ちとなるスイレン。
が、裏を返せばそれだけ演奏スキルが効果的に機能しているという、何よりの証拠であり。
現金な彼女は、解釈を翻すなりすっかり気を良くし、演奏にも一層のキレが宿ったのである。
加えて、そんな彼女の加勢に入ったのがレッカだ。
ここまでの戦闘中、根っからの後衛であり、防御力としては紙装甲との評価も否めないスイレン。そんな彼女であるため、時折クラウなどが際どい攻撃を捌きに来てくれることもチラホラあったけれど。
しかしレッカが本格的に加勢するとあっては、正に百人力。そも、彼女たちは二人組のPTとして活動するような間柄であるため、連携強度も高く。
それを知ってか知らずか、ラッパ吹きは明らかに警戒した様子で身構えるも、もはやそれでどうにかなるような形勢ではない。
ラッパ吹きの奏でる、突き抜けるような音の衝撃は、スイレンの音に比べて攻撃性が高く。指向性を持って二人へと強烈に襲いかかった。
が、柔よく剛を制すと評せば良いのか。スイレンの音は見事にラッパの硬い音を中和し、害のない響きへと書き換えてみせる。
なれば躍動するのが、レッカの繰り出す炎熱だ。
愛剣を床へ突き刺し、敵めがけて振り抜けば、地を這うように走るのは橙色の光。途方もない熱を孕んだ鋭い地割れ。
慌てて射線から退くも、同様の攻撃は幾重にも展開され。あっという間に逃げ道は失われた。割れた床は恐るべき光熱を放ち続け、その上を跨ぎ越えることを許さない。
立ち往生。僅かにたたらを踏んだ、その時だった。
いつの間に突っ込んできたのか、レッカは既に懐の内側へ潜り込んでおり。
慌てて音を発そうにも、時すでに遅し。
彼女の愛剣が、弾けるように突き出され、ラッパ吹きの胸部を派手に貫いたのだった。
『やりましたか~!?』
『あ、それ「やってないフラグ」なのです』
『! ほんとにやれてないっぽいのぜ!』
炎の概念をそのまま剣の形へ落とし込んだかの如き、レッカの愛剣。そんなものに刺し貫かれては、一瞬で身体は炭化し、魂まで灰燼に帰すだろう。
そのはずだった。ところがどうだ、あり得べからざることが起きたのである。
その身を焼き焦がしながらも、しかし致命だけは逃れ、苦しげに、それでいてやけくそ気味に発せられたラッパの音は、自傷すら厭わない破滅的なものだった。
レッカを巻き添えにしてやろうという意図が、ありありと見て取れる一撃。
辛くもそこから逃れられたのは、皮肉にも「フラグ」の知識を有していたが故だろうか。素早く剣を引き抜き、逃げる体勢への移行が間に合った結果である。
そうして逃げ延びたのは良いにせよ、不可解なのはラッパ吹き。
奴は依然として消滅を免れており。ギラギラとした目でスイレンを睨みつけていた。
『ま、まさか不死身ってやつですか~……?』
一筋縄、というわけには行かないらしい。




