第一七九七話 VS ライバル 一
担当決め。すなわちそれは、仮にこの像たちがボスだった場合、誰がどのボスをマークするかという一種の役割分担を意味しており。
像の外見をよく観察した上で、一人一人が自身の対峙すべき相手を見定めに掛かっていた。
しかしまぁ、何だ。こんな時ではあるけれど、ビジュアル情報しかないエネミーの能力を想像して、こいつはきっとこういう攻撃をするに違いない! だなんて仲間と意見を交わすのには、妙なワクワク感が感じられた。童心に返るような心持ち、とでも言おうか。
『このデカくて、如何にもパワフルなやつは私が相手をするパワ! きっと力持ちパワな!』
『それなら私はこいつかな! 如何にも鋭い拳を打ってきそうだもん。良い殴り合いが出来そう!』
『であれば私は、この盾持ちだな。敵の盾を封じ、己の盾を活かす。腕の見せ所になりそうだ』
こうして見てみると、案外私たちと役回りの被ってそうな輩が多く。何なら私たちの姿をクリーチャー化したものがこちらです、とお出しされたような気にすらなってくる。
そんな中、私が担当する像はどんなものかと言えば……。
『多腕の異形、か。なんだか他人のような気がしないね』
背に四本、翼のような副腕を背負った異形。悪魔を彷彿とさせるようなデザインであり、めっちゃ強そうなんだけど。とは言えこんなデザインを目の当たりにしてしまえば、私が担当せざるを得まいよ。
さして悩むわけでもなく。ともすれば、さも元から誰がどの異形を担当すべきか決まっていたかのように、自然と皆の視線と足は動き。
気づけば全員が、自身の担当する像の前に対峙するよう、位置取っていた。
すると、その時である。
はっきりと、確信を持って感じられる変化。石膏めいていた像たちの体表に質感が宿り、気配が生じ。明確にそれが「生き物」であると主張を始めたのである。
が、そこには驚きも動揺もない。何故なら予想できていたことだから。
故に行動は素早かった。
先ず必要なのは、奴らが私たちの「敵」なのかどうかを見極め、確定させること。月次なことを言うようだけれど、「どっちが先に手を出したか」というのは案外重要な事柄なのだ。
普段であれば、問答無用で殺しにかかる場面なのだけど、今回ばかりは相手が必ずしもボスだとか、モンスターだとか、決めて掛かることが難しい状況にあるからね。
よって、先手を譲ることになると分かりつつ、様子見を決め込む形へ。
とは言え私たちは現在、四方八方を奴らにぐるりと取り囲まれているような状況下にあるため、極めて不利な立ち位置と言わざるを得ず。
これを脱することこそが最優先。奴らが行動を開始するまでのほんの一瞬のラグ、それを利用してこの位置を脱する必要があった。
方法は至って単純だ。皆はPTストレージへ逃げ込み、私は高機動型最強装備へ換装しつつ、転移スキルで十分離れた位置へ移動。
クラウを取り出し防御を固めた後、他の皆をPTストレージから解放。素早く隊列を整える、という流れ。
そしてそれは、存外スムーズに成功した。
転移直後に襲われる可能性も警戒し、身構えていたけれど。幸いなことに奴らが動き出すまでには、まだ猶予があったらしい。
PTストレージからクラウを取り出せば、彼女は即座に盾を構えて安全圏を構築。そこへ皆を呼び戻し、今に至るというわけだ。
『! 来るぞ!』
もしかすると、奴らはボスでも敵でもないのだろうか? なんて期待とも懸念とも取れない心持ちが微かに頭を出しかけた、その時だった。
鋭く走るのはクラウの警告。とほぼ同時、彼女の盾が受け止めたのは、まるでボクサーグローブでも装着しているかのようなデザインの異形であり。アグネムちゃんが担当するはずのモンスターだった。
そう、この瞬間に確定したと見ていいだろう。奴らは「敵」であり、私たちの脅威であると。
『状況開始!』
『『応!!』』
イクシスさんの短い号令に、気合のこもった返事を返し、弾かれたように動き出す私たち。
先ず注目すべきは「音」だろうか。そう、演奏である。
まるでスイレンさんに対するかのように、相手側にも楽器持ちの姿があったのだ。
弦楽器のスイレンさんと異なり、向こうは金管楽器。つまりはラッパだ。
それは異なる楽曲のぶつかり合いであり、けれど不思議とセッションめいてもいて。普段と異なる心の揺れを、否応なく感じさせるものとなっていた。
『こいつ~、やりますね~!』
心做しか嬉しそうなスイレンさんの声が、念話を伝って聞こえてくる。
しかしそれは何も、彼女に限った話ではない。
像に対する見立て通り、どうやら奴らはその見た目を裏切ることなく、まるで私たち一人一人の特徴になぞらえたかのような個性、戦闘スタイルを有しているようで。
完全なるコピーではない、己と同じジャンルを有する強敵。そんなやつと真っ向からぶつかるという興味深い機会に、誰も彼もが闘争本能を刺激されていた。
『なるほど。これもまた、闘気を刺激するギミックなのかも知れないね』
『ガウ!』
『言われてみると、確かに』
『ライバルとの戦いは燃えるのぜぇ!』
全ての試練を乗り越えた先に居る、締めくくりのボス。奴らがそういうポジションの手合だとするなら、「ライバル」というのは実にそれらしいチョイスではないだろうか。
今回の迷宮に、私は「闘気へのアプローチ」を感じ取っている。実際、オーラ体だなんてとんでもないスタイルすら見つけてしまったわけだし、皆も発展型を安定させるまでに至った。たとえ迷宮の管理者的な存在に、「闘気とは何の関係もなかった」なんて言われたところで、とても信じる気にはなれないと思う。
今回の敵も、ライバルと熱い戦いを繰り広げれば、自ずと闘気も滾ってくる。だから闘気を使って戦えと。そう言われているような気がしてならない。
尤も、どうしてそんな促しをしてくるのか、というのはまだ分かりかねる部分ではあるけれど。その点もウェブデ氏へ問うべき事柄の一つ、だろうか。
或いはまさか、その逆だったりして。ここまで露骨だと、勘ぐりたくもなってくる。
『見たところ、こちらの実力に合わせたかのような力量だが。こちらがスキルなどで能力を底上げした場合どうなるのだろうな?』
『確かに気になるパワ。ちょっと試してみるパワ!』
言って、身体強化系スキルを追加発動したのはサラステラさん。
対するは、一四体の中でも身体が最も大きい、見るからにパワー系のボス。奴もまた、サラステラさんの自己強化を見て取って、何らかのスキルを発動したらしい。
ここまでの動きからギアを一段引き上げたような、迫力のある激突でもって周囲に試みの結果を知らしめてみせた。
すなわち、こちらがバフを盛れば、向こうも呼応するように何かしらのスキルで力を底上げしてくる、というわけだ。
面白いのは、その強化方法というのがこちらと異なるものである、という点か。オウム返しでも猿真似でもない、ライバルとしてのパワーアップ。これもまた負けん気を刺激される仕組みと言える。
『素晴らしい! 我々とは異なるスキルを用い、これほどの力を発揮してみせるとは! もっと、もっと見せて下さい!!』
『あー、ソフィアさんに変なスイッチが入っちゃったのです!』
『だが、まぁ、正直気持ちは分かる……』
『実際、戦い方の参考にはなるかも知れないわね!』
『ガウーラ!』
皆のやる気にまた一つ、大きな薪が焚べられた。それを空気から感じた私。
がしかし、それ故にこそ一つ心に決めたことがある。
『それなら私は、ギリギリまで「敢えて闘気を使わない戦い方」をしようと思う。こちらが力を増せば、向こうもそれに追いついてくる仕組みっていうんなら、敢えてこのままの状態で技量比べに持ち込むって戦い方もありだよね?』
『! 確かに、それもそうなのぜぇ』
『うん、ありだと思う』
『けど、こいつら相手に闘気の発動を我慢できるか、って言うと……』
『む、難しそうです~!』
私の宣言を、否定する声は一つも無かった。むしろ興味を示し、自分も試みようというメンバーすらあったくらいだ。けれど、それは如何にも困難であり。
気にせず闘気を滾らせるもの。我慢できずに赤いオーラを放つもの。心を落ち着け、敢えて闘気を使わないもの。てんでバラバラの戦力バランスが展開され、それは戦場をなんとも複雑な環境に追い込んでいくのだった。
例えば、じゃんじゃん闘気を使い、自己強化を駆使するメンバーのライバルは、それに抗し得るほどのスペックを獲得しており。そんな奴がふと、素の状態で戦っている別のメンバーへちょっかいを掛ければ、あわや大惨事である。
しかしそれは、相手側にも同じことが言える状況であり。他者へのちょっかいを掛けさせないための駆け引き、というのもまた、高度な集中力を必須とする大きな要因となっていた。
ライバルモンスターたちとの戦いは、まだ始まったばかり。




