第一七九六話 囲む像たち
技の試練フィールドより、ワープポータルにて飛んだ先。
そこはあまりに広大な、神殿と思しき空間であり。まるで自分たちが微生物か何かかと錯覚してしまいそうなスケール感。
そんな途方もない景色の中、私たちを取り囲むように配置されていたのは一四体からなる意味深な異形の像たち。
私たちをここへ運んだポータルは消え失せ、退路は無いようだ。
すぐさま像を警戒し、身構えるチームミコバトの全員。いつ、何処から、どんな攻撃が飛んできても対応できるように、との構えだが。
しかし……数秒を経ても、あるのは沈黙ばかり。無いのは敵の動きである。というか、あの像が「敵」と確定した事実すらも無いと言うべきか。それくらい、何のアクションもリアクションも見られないのだ。
『……うんともすんとも言わんパワな……ちょっと殴りかかってみて良いパワ?』
『待て待て。一先ず状況確認を優先しよう。ミコトちゃん、スキルの使用制限はどうなっている?』
『えーと……お、今回は殆ど制限が無いかも。迷宮の外部にアクセスするようなものは相変わらず機能してないけど、念話も転移もこの場で使う分には問題ないみたい!』
『加えて、【マイハウス】は使用できないようになっているようです。皆さんはどうですか?』
補足するようにソフィアさんから投げかけられた問い掛けに、全員が自身のスキルを確認し、少しだけ表情を固くした。
『確かに、使えないみたいね』
『これがスキルを勝手に制限される感覚、なのですね』
『うーん、ちょっと不快なのぜぇ』
スキルの使用制限、というだけならミコバト内で同じような状況を再現することが出来る。が、断りもなしに特定のスキルが突然使用不能になる、というのはやはり、安全を脅かされているような独特の不快感があるようで、皆の不満が心眼を介して伝わってきた。気持ちはよく分かる。
ミコバト内でなら、たとえ死んだとしても生き返れるし、問題がないと言えば無いのだ。ところが現実でこれをやられると、これまで当たり前のように頼りにしてきた既存のスキルすら、突然使用できなくなるんじゃないか、なんて不安が過って心許ないのだ。
が、こればっかりは文句を言ったところでどうにもならない部分である。苦虫を噛むしか無い。
スキルの他にも、身体や装備、感覚などに異常はないかなど、一通りのコンディションチェックを手早く済ませ、念話で遣り取りをする私たち。
どうやら不足も不具合もなく、全力を発揮するのに支障をきたすようなことは無さそうだと一安心。
そうしたら、本題へと立ち戻るわけで。
『それで、どうするんだ……?』
『どうもこうも、像を調べる他にないでしょう』
『ガウラ』
『見るからに怪しいですからね~』
『多分、動くやつ』
『ボスなんだろうね、きっと』
『問題は、動き出す条件が分からないことと、どれが動き出すか予想しづらいことかな』
現状、見た限りではメッセージウィンドウの類いも確認できず。自分たちで調べて、何らかの行動を起こせ、と促されているようなもの。
そして意味深なこの像たち。それらの情報を鑑みるなら、やはりこの像たちこそが今回対処すべき相手であり、それすなわちこの迷宮を締めくくるラスボスである、と考えるのが自然なように思えた。
だとすれば、この像たちが動き出す条件とは何なのか。仮にこの像たちを放置した場合どうなるのか。本当に像がラスボスと断定してしまって良いのか、などなど。気になることは幾つもある。
幸いにして動きが見られないのだから、こちらから何らかのアプローチを仕掛けて良いのだろう。
ただし、奴らが「像のふりをしているだけ」なんて可能性も捨てきれない。故に警戒は厳とし、慎重に行動を開始する私たち。
『差し当たっては、これらが本当に「像」なのか確認するところから始めるか』
『それって、殴ってもいいってことパワ?』
『その一撃で、相手が何らかの耐性を獲得するパターン、というのも考えられますよ』
『確かに、そういうボスも偶にいるよね』
『なら、ちょっと珍しめの状態異常攻撃でも仕掛けてみる? 耐性を獲得されたとしても、あんまり困らないようなやつ。例えば「石化」とか』
『像に石化を試すんですか~!?』
『実際、ボスを相手に石化が機能することなんて滅多にないものね。なら、こういう機会に試すのはありなんじゃないかしら』
クオさんの提案に対し、多少の驚きこそあれども、合理的なアプローチではあると皆が認め、異論が出ることはなかった。
もしも像の中に「像のふりをしているもの」が紛れていたり、或いは全部がそうであったとしても、石化を仕掛けられたとあっては何かしらリアクションをするかも知れないし。そうでなくたって、手応えでクオさんには感じられることもあるだろう。
よしんば石化が通用するなら、それはそれで良し。状況が有利に転がる可能性が高い。
というわけで、ゴーサインが出た。
それを尻目に、私は私でこの空間に、何かしら隠し要素が仕込まれてやしないかと可能な範囲で探りを入れてみたけれど……うん。流石に何もなさそうだ。
して、今回は実弾ではなく、石化効果を帯びた魔力弾を撃ち出し、全ての石像を射撃したクオさん。見事な手際である。
気になるその結果はと言えば……。
『……異常なし。どれも普通にただの像みたい。少なくとも、今のところは』
『つまり、ボスとして動き出すには、何かしら条件があるってことなのぜぇ』
『もしくは~、そもそもボスではないのかも知れませんよ~』
『どうあれ、調査が必要なようだな。何が切っ掛けで動き出すとも分からんが』
『十分注意しつつ調べを進めましょう』
どうやら石化は意味を成さず、それでいて像の中にモンスターが紛れているというようなことも無いらしい。
であるなら、本格的に「この場所で何をすべきか」というのが分からなくなってきた。
単にボスがお出しされ、それをやっつければ先に進めますよ、というゲームめいた仕組みならば分かりやすいのだけど。
ところが倒すべきボスも、進むべき道も用意されていないというのだから、行うべきは調査と謎解きってことになる。
謎解きと言ったって、パズルのように分かりやすいものでもない。まるで雲を掴むような話じゃないか。
それでいて、何かの拍子に像たちがボスとして動き出す可能性も、残ったままだというのだからやりづらい。
私たちは十分に警戒心を維持したまま、周辺の調査を開始したのである。
当然、最も入念に調べるべきは像そのものなのだけど。
『うーん、特に何も見当たらないのです……』
『怪しいのは間違いないんだけどね』
『やっぱり、一四体っていうところに意味がある気がする』
『ちょうど私たちと同じ人数パワな』
『サトっちを呼び出せば、一体分増えたりするのぜ?』
『可能性はあるが、試すのはリスキーだな』
不自然な点や、怪しげなポイントを皆で探ってみたのだけど、どれもこれも空振りに終わり。それでいて隠しスイッチのような、あからさまなギミックは一つも見当たらないというのが現状。
そうなると気になるのはやはり、私たちと像との間にある符号点。すなわち、意図的に頭数を調整したかのような人数の一致。ここに何らかの鍵が隠されていると睨むのは、もはや必然とすら言えた。
ちなみにサトっちは現在、召喚を解除している。理由は色々あるのだけど、一番はやはりまた彼女が倒れることを危惧して、という部分が大きい。サトっちを呼び出すのなら、ある程度安全を確かめるか、或いはいざという時の助っ人として呼び出すのが良い、という判断である。
そんなサトっちを今この場に呼び出せば、もしかすると人数を揃えるべく、像が一つ追加されるかも知れない。が、仮に像たちがボスとして動き出すような仕組みだった場合、敵の頭数が増えてしまうというのは当然避けたい事態であり。
そうした諸々を鑑みると、サトっちの出番は見送るのが無難だと言えた。
しかしそれはそれとして。
いよいよ他に思いつく事柄も無くなってきたとあっては、より大胆と言うか、本命に近いアプローチを試すべきなのだろう。
とどのつまり……。
『では、「担当」を決めてみるか』




