第一七九五話 次に待つものは
サポートトレモちゃん改め、サトっちへの命名イベントから時間は流れ。早いもので一〇日ほどが経過した。
その間私や皆がどう過ごしていたかと言えば、もちろん闘気の発展型を安定して発現、運用するための研究と特訓に勤しんでおり。
そしてそれは、概ね満足の行く成果を得たと言っていいだろう。
鍵となったのはやはり、「熱くなるための条件」を見定め、実戦の中でクリアすること。私で言えば、「遊び」を仕掛けて闘志を燃やすってやつだね。
やはり、心を燃やす条件なんてのは人それぞれであり。自身との対話に難儀するものもあれば、結構すんなりクリアし安定化させるメンバーもあったりして。
そんなこんなを経て、ようやっとこの場にとどまり続ける理由を解消するに至ったわけだ。
ちなみにこの一〇日で、サトっちもまた地道に成長を続けており。
彼女の場合は「活躍」が成長の鍵となっているようで。活躍を周囲に認められることでスタイルポイント(SP)を獲得。
これを消費することで、任意のスタイルを獲得できたり、強化できたりっていうシステムのもと成長していく仕組みが採用されている。
ただ、安全なマイハウスやチームハウス内で活躍しようにも、そんな場面が何処にあるのかって話。
そこで私とサトっちは考えた。「無理に戦闘で活躍することを考えず、先ずは日常生活をサポートする方向で活動してはどうか」と。
そのためにサトっちはSPをお手伝いスタイルや、そこからの派生スタイルに集中して振り分けたし、積極的にオルカや聖女さんへお料理を教わりに行ったりもした。
結果として、彼女はさながらチームハウスの寮母さんのごとく見事な活躍を見せ、皆を徹底的にサポートしてみせたのである。
当然、そんな彼女には感謝が集まり、誰もが彼女の存在意義を認めた。
結果として相応のSPを獲得し、それを使用することで更に出来ることが増えるという、良い循環が成立したわけだ。
とは言え、サトっちは戦闘においても活躍したいと考えているようだし、私たちとしてもそれには大いに期待を寄せている。
が、彼女が理想とする戦闘スタイルは「万能型」であり。その方向性で大成しようと思えば、必然的に膨大なSPが必要になることは自明。
最初からその方向性でSPを使用し続けては、成長効率に致命的な欠陥を抱えてしまうこととなるだろう。
というわけで、万能型というのは最終目標とし。先ずは一点特化型の成長を目指すことに決めた。
問題は、未だ力の弱いサトっちが、どうすれば戦闘で活躍できるかという部分。
が、案外答えは容易く見つかり。
「歌えば良いんじゃないですかね~」
なんてスイレンさんの雑で大雑把な返答が、「バッファーなら確実に活躍を見込める」という、クリティカルな方策を手繰り寄せた。
彼女はチームミコバト随一のバッファーであり、彼女の「歌う」は「バフを掛ける」こととほぼ同義。ならサトっちもバッファーになればよくね? ってな流れである。
そんなこんなで、今のサトっちはお手伝いで稼いだSPの幾らかをバッファー系のスタイルにちょいちょい振り分けて、実戦でも活躍できるレベルを目指している最中と言ったところ。
まぁ、バフなんていくらあってもいいからね。たとえ効果が微弱だろうと、盛れば盛るほど助かるのがバフってもんで。そういう意味じゃ、既にサトっちは実戦に投じても問題ないレベルに育ったと言っても良いのかも知れない。
と、まぁそれがこの一〇日で得られた大雑把な成果である。
もちろん私も鍛錬は欠かさなかったけれど、ある意味平常運転なので割愛する。
★
そこはかつてゲストハウスの存在した、空虚な空き地。広場の開放感も相まって、益々「何もない場所」という印象を強く与えてくる。
そんな場所へ、おおよそ一〇日ぶりに戻ってきたのが私たちだ。
一旦チームハウスに集合してからここへ出たわけだけど。以前との違いは、精々が雲の形や位置、それと日の傾き具合くらいだろうか。
そうさ、ワープポータルは以前と変わらず、ゲストハウス跡地にぽつんと佇んでおり。そのことに一先ずの安心を覚える。
さて、そうしたらいよいよだ。
例によってイクシスさんが、引率の先生よろしく口を開いた。
「それでは皆、準備はできているか? 忘れ物などしていないな? 取りに戻るなら今のうちだぞ!」
ある意味、自宅まで徒歩ゼロ秒。私のみならず、この場の皆に当てはまるというのだから驚きだ。
皆は彼女の言葉を茶化すでもなく、素直に荷物のチェックへと取り掛かった。
それも当然で、ひょっとしたらポータルの先にはボスが待ち構えている可能性も考えられるのだ。
この前戦ったハウスマスターは、謂わばイレギュラーのようなもの。隠し要素として仕込まれていたのだから、本当はイレギュラーなんてこともないのだろうけれど、本来のルートを行けば戦うことも、遭遇すること自体あり得なかった強敵とやり合ったのだから、私たちにとってはやはりイレギュラーな事態と言って差し支えない。
で、あるならば。この迷宮本来のラスボスが、もしかしたら待ち受けているかも知れない、と警戒するのもまた当然のことだろう。
この際、忘れ物に関しては別に良い。この後の展開を無事に乗り切れさえすれば、取りに戻る機会なんて幾らでもあるのだから。
なので重要視するのは、装備に不備はないか、というその一点だ。
そして皆、問題ないことを十分に確かめ終えたらしい。
全員がチェックを完了したと見て取って、いよいよワープポータルへと向き直る。
「よろしい。では、行くとするか。スイレンちゃん、演奏を頼む」
「はい~!」
今回は急な戦闘に備え、予めスイレンさんの演奏バフで能力を底上げしておくというプラン。
しかし私や他のバフはまだ焚かないし撒かない。戦闘中級に能力が上昇する、ってのは戦いのリズムを変えるのに使える、立派なサプライズだからね。温存も大事なのだ。
ジャカジャン! と、皆の高揚感を高めるイントロが始まり、歌声が聴こえだしたなら、いよいよ皆でポータルを取り囲み、まるで円陣でも組むようにそこへ触れた。スイレンさんだけは足をチョンと触れさせている。お行儀が悪いとは言うまい。演奏のために手が塞がっているもの。
「では、スリーカウントで行くぞ!」
イクシスさんの号令に頷きで応じ、私たちは声を揃えて数え始めた。
「「1」」
それぞれが、空いた手で得物を確かめる。
「「2」」
BGMの旋律に心を委ね、短く息を吸った。
「「3」」
そして、今。
★
先ず感じたのは、空気の変化。緑の匂いを孕んだ風の心地はフッと消え失せ、代わりに現れたのは清らかで、厳かな……どこか作り物めいた。そんな空気。
直前まで靴裏に感じていた土の感触も、硬質な石のそれへと変じ。そして何より、この光景である。
私たちは誰の号令を受けるまでもなく、背を庇い合うよう身を翻したなら、円形の隊列を組むように身構えた。
視界に広がったのは、現実離れした景色。
屋内、と評していいかすら躊躇するような、トンチキな内装。
一言で表すのなら、「だだっ広い」。この言葉に尽きる。
等間隔に並ぶ白の石柱は異様に太く、そして何より長い。景色がぼやけるほど高い空に、漠然と広がる天井。
壁を探せば見当たらず。代わりに丸みを帯びた地平線が見える有り様だ。
まるで小人にでもなったような感覚、どころの騒ぎじゃない。スケール感で言うなら、さながら私たちは微生物、と言ったところだろうか。
ここはそう感じさせるほどに巨大な、神殿めいた建造物の中。そういう印象を受けた。
こんな場所に出現するようなやつならば、さぞ凄まじいサイズ感に違いない。そのように警戒したのは、きっと私だけじゃないはずだ。
皆からもビリビリとした緊張感が伝わってきて、自然と意識も視線も鋭くなる。
が。
『あー、テステス。只今念話のテスト中です。聞こえますか?』
『! どうやら今回は、念話が機能するようだな』
『それは助かるのぜ!』
『で、私たちは何をすれば良いわけ?』
『それは、やっぱり……』
頭に、或いは心のなかに直接響いたのはソフィアさんや、仲間たちの声。今回は【魔力通話】ではなく【念話】が機能するようだ。魔力通話よりもより直感的に、しかもノーコストで使えるため、これは嬉しいサプライズ。
して、早速情報を交わす私たちなのだけど。
この空間に飛ばされたは良いものの、ここで何をすれば良いのか、というのは不明瞭であり。
だが、如何にも怪しいものならば既に、バッチリ視界に捉えていた。
私たちを取り囲むよう配置された、一四体の像。何れもが異形の姿をしており、何処かフィギュアめいた魅力を感じる個性的な代物。
それらが立派な台座に乗り、私たちを見下ろすようにして鎮座しているのだ。等間隔に、きれいな円を描くよう配されている。
どう考えても、何かあるとしたらこの像たちよね。
『ボス戦っぽいなぁ』




