第一七九四話 新たな名前
サポートトレモちゃん復活。
時刻は正午、場所はチームハウスの食堂。
ワイワイと賑やかな雰囲気の中、彼女が無事再召喚できたことを皆で喜んだなら、いよいよもう一つの目玉イベントへ取り掛かっていくことになる。
皆の盛り上がりが程よく落ち着いたのを見計らい、ポンと手を打つ私。
「さて、そうしたらそろそろ始めようか」
私の合図に、トレモちゃんを取り囲んでいた皆が、各々自分の席へと戻っていく。
相変わらず無駄に長い机を囲い、スタンバイは滞りなく整った。
それを横目にしつつ、トレモちゃんへ説明を行う私。
「トレモちゃんはこれから行うことについて、どの程度把握できてるのかな?」
「(グッ!)」
「お、サムズアップ。召喚されていない状態でも、状況は共有できてる感じ?」
「(こくこく)」
「なるほど、それは便利だね。けど一応説明しようか。これから行われるのは、『命名会』だよ。主役は他でもない、トレモちゃんだ」
どうやらトレモちゃんは、召喚状態を解除した状態や、再召喚の待ち時間においても、一応私たちの置かれている状況や行っていることなどは把握できているようで。或いはひょっとすると、召喚に際して私の知識を共有しているとか、そういう仕組みなのかも知れないが。何にせよ、彼女はこれから自身の名付けが行われることをきちんと理解しているようだった。
サプライズとしてはあまり意味を成さなかったが、それでも嬉しそうなアクションで感情を表現してくれるため、思わず皆ほっこりしてしまう。
「てなわけで、これから皆が考えてきてくれた名前を一つずつ発表していくから、その中で特に気に入ったものがあったら教えてくれるかな?」
「(ぴょんぴょん)」
「てか、『トレモちゃん』って名前から変わることに抵抗はない?」
「(グッ!)」
「大丈夫そうだね。よし、じゃあ始めようか!」
皆からもらった名前のアイディアは、既に全員分投函箱に収まっている。
一度皆へ軽く目配せしたなら、おもむろに箱を開く私。そうしてそこへ手を突っ込んだなら、折りたたまれた用紙を一枚手に取った。
「一枚目。もちろん発案者は不明。提案された名前は……『ギャウゴ』」
「グラ」
「なるほど」
「(こくこく)」
出落ち感すさまじいな……誰とは言わないけど、満足げな幼竜に対し、なんとも生暖かい空気が漂った。
そして案外、トレモちゃんの反応も悪くない。今後「ギャウゴ」って呼ばれる可能性が浮上したわけだけど、特に問題ないらしい。心が広いのか、感性が特殊なのか……まぁいいや。
では、じゃんじゃん開封していくとしよう。
★
「──というわけで、出揃ったわけですが」
個性豊かな皆のアイディアに、ワイワイとリアクションし盛り上がりながらの命名会も、気がつけばいよいよ佳境へ差し掛からんとしていた。
各々の思いが詰まった提案に、心底嬉しそうなトレモちゃん。そんな彼女の反応に、終始ほっこりしているメンバーたち。何だこの優しい空間は。
して、そんな命名案の中でもトレモちゃんが特に良い反応を示したものが、三つある。
「この三つが謂わば、最終選考に残った案、ってことでいいかい?」
「(グッ!)」
「オーケー、それじゃこの中の一つが今後、サポートトレモちゃんの呼び名として決定し、定着していくことになるわけだけど。さぁどれにしようか!」
最終選考に残った案を紹介しよう。
・トレナ
・サトっち
・トリエル
この三つである。
これらに対する、皆の主だった反応は以下の通り。
【トレナ】
「トレナ。良いじゃないかトレナ!」
「可もなく不可もなく、って印象ね」
「ちょっと地味です~」
「グルー」
「トレモちゃんから派生した、って印象はありますね」
「私は好きだぞ!」
【サトっち】
「あだ名ぱわな。でも嫌いではないぱわ」
「『サト』っていうのは何処から来たの?」
「多分『サ』ポート『ト』レモちゃんの頭文字から」
「『っち』は?」
「きっと『ち』ゃんなのです!」
「親しみを感じやすい名前ではある」
「案外、呼び続けているとしっくり来そうな気もします」
【トリエル】
「エルって付くと天使っぽいよね」
「天使様!?」
「でも実際、清楚な感じはするかも」
「熱さが足りんのぜ!」
「語感は良いと思う」
「そうね、呼びやすいかも知れないわ」
総じて、無難な「トレナ」。親しみの「サトっち」。小洒落た「トリエル」。といった評価だろうか。
加えて実際トレモちゃんに似合うかどうか、という問題もあり。
そして何より大事なのが、トレモちゃん当人の好みである。周囲がどんなに良いよ良いよと褒めようと、他でもない彼女自身がしっくり来ていなくっちゃ、じわじわとコンプレックスを感じちゃうかも知れない。
よって、決定権は他の誰でもない、トレモちゃん自身に委ねられた。
長い食卓のお誕生日席。目の前に並んだのは、名前の書かれた三枚の用紙。
皆がいささか緊張を孕んだ表情で見守る中、じっと三つの名前に視線を彷徨わせ、最後まで迷っている風のトレモちゃん。
だが、そんな時間も長くは続かなかった。
「お、心が決まったみたいだね」
「(こくこく)」
彼女の目配せにより、いよいよ決心がついたと察する私。
そうしたら遂に、発表のときである。
「それじゃ、トレモちゃん。『トレナ』・『サトっち』・『トリエル』の中から、今後呼ばれたい名前を一つ選びとってください! ドラムロールかもん!」
「はい~!」
サラッとPTストレージからスネアドラムを取り出し、きれいなスティック捌きでブレのない「あの音」を鳴らし始めるスイレンさん。こやつ、陰でこそっと練習していたな! ちなみにスネアドラムは、以前虚ろなる塔の攻略中にドロップしたらしい。ほんと、何でも出てくるなあそこ……。
しかし演奏スキル持ちのスイレンさんが鳴らせば、漂う緊張感というのもひとしお。特に最終選考に残っている三案の発案者たちは、ことさらに緊張していることだろう。実際私がそうだもの!
どれだ……一体どれを選ぶつもりなんだトレモちゃん!
絶え間なく連なる連打音は、その小気味よさと裏腹に真剣な雰囲気を演出し。
そうしてクドすぎず、淡白すぎない絶妙な長さのドラムロールは、スイレンさんの采配により「ダン!」と綺麗に途切れてみせた。
一瞬の静寂が過る。
そして、トレモちゃんは一枚の命名用紙をさっと選び取ると、胸の前にしっかり構え、皆に見えるよう広げてみせたのだ。
そこに書かれていた名前とは。
「「サトっち……!!」」
異口同音。ほぼ全員の声がピタリと揃い、その名を呟いたのである。
思わずガッツポーズを決める私。おっと、感情がアクションに出てしまった……。
しかしやはりと言うべきか、いささか物議も醸しており。
「あんた本当にそれでいいわけ? 名前に『っち』まで入って正式名称なのよ!?」
「あだ名なら良いがな、名前だしな」
「でもでも、ユニークでかわいいのです!」
「個性的ではある」
「似合うか似合わないかで言えば、似合うんじゃない?」
やっぱり焦点となったのは「っち」の存在である。例えば学校のテストでこの名前を書いたら、そこそこの確立で先生に呼び出しを食らうくらいには、奇抜な名前と言えるだろう。
がしかし、当の本人は気にした様子もなく。挙句の果てには、生活魔法で水滴を生成し、用紙を軽く湿らせ自分の顔面に貼り付けてまでアピールする始末。そんなにその名前が気に入ったか……嬉しい。ちょっと泣きそうなんですけど。
「まぁ、当人がそれでいいと言うんだ。我々がどうこう言うのもおかしな話だな」
「そうぱわ。素直に新しい名前を呼んでやるぱわ!」
「サトっち」
「(ぴょんぴょん!)」
「嬉しそうですね~」
テンション高く飛び跳ねる彼女の様子を見ては、流石に何も言えなくなってしまう皆。毒気を抜かれた、というのとは少し違うだろうけど、兎にも角にも当人が納得しているのなら文句をつけるのもお門違いだと、よく理解しているのだろう。
そんなわけで、正式に名前が決定した。
今後はサポートトレモちゃん改め、『サトっち』の名で親しまれていくことになるわけだ。
「というわけで、皆さん今後ともうちのサトっちをよろしくね!」
「(へこっ)」
そのように締めくくってみれば、温かい拍手で応じてもらえた。
斯くして、サトっちの復活および命名イベントは温かな雰囲気のままに幕を閉じ。
皆で昼食を終えたなら、本格的に訓練期間への突入と相成ったわけである。




