第一七九二話 一人一つよろしく
チームハウスやマイハウスを得たことで、一旦この場に留まるという選択肢を取れるようになった私たち。
冷静に考えたら、こんな迷宮の中でだって安全に過ごせるというのだからとんでもない話である。流石はへんてこスキルと評すべきか。
して、早速各々、思い思いに行動を開始したわけだけど。私も私で話し合いを終えるなり、無理のない程度に鍛錬を再開させた。
自作のロボミコトも稼働させ、地道な反復練習から新技術の研究、研鑽、ついでに諸々の考え事など、まぁやることを挙げ始めたならキリがないわけだけれど。
なればこそ、時間なんていうのは真夏のふわふわソフトクリームさながらに、あれよあれよと溶けていったわけだ。
気づけば一夜が過ぎ、せっかくだからとチームハウスに新設した自室にて朝を迎えた。
勿論、ヨルミコトが皆に迷惑を掛けないよう、配慮して作った部屋である。ストレージ内にたらふく仕込んである資材を投じれば、マテリアルポイントとしては十分すぎるほどの値を確保でき。それを駆使して自分好みの寝室兼鍛錬室を構築した次第である。非常に快適で良き。
ああ勿論、皆の部屋についても手伝いを乞われたなら応じたし、あとは自分でやるというのであればエールを送るに留めもした。
そうこうして、今日から本格的に「闘気の発展型」を安定させるための訓練期間、と銘打ったスケジュールが実行されるわけだけれど。
さて、私はどうしたものだろうね……まぁ、勿論闘気の鍛錬もするけどさ。
「今日はマイハウスの方もいじっていきたいな。結局昨日はチームハウスの方に掛かりきりだったからね……ああそれと、トレモちゃんの件も忘れちゃいけない」
へんてこスキル【サポートキャラクター召喚】にて呼び出される、私専用のサポートキャラクター。それがサポートキャラクタートレモちゃんであり、昨日のハウスマスター戦においては、決定的とも言える隙を作り出すのに貢献してくれた。まだまだ伴わない実力に鑑みるなら、とてつもなく大きな働きを見せたと言っても過言ではないだろう。
ゆえに、彼女を労い、いい加減彼女専用の名前をつけてあげたい。
そして、大事な命名だから皆の意見も参考にしたい。
「……取り敢えず、朝ご飯食べに行こうかな。食堂があるとこういう時便利だよね」
自室を出て、向かう先はチームハウスの食堂。そりゃまぁ、イクシス邸と違って料理人さんが居るわけでもないからさ、食べ物は自分たちで用意する必要がある、っていうのは仕方のない部分だけど。
それでも、「ご飯時だし誰かいるかなー」って感覚はやっぱり良いよね。家感があるっていうかさ。
真新しい廊下を歩く。なんだかんだで、結構大きな建物になってしまった。少なくとも以前滞在していたゲストハウスよりも大きい、ちょっとした宿泊施設規模だ。まぁ勿論、イクシス邸には遠く及ばないけれどね。
最初こそ素朴な家をベースに作っていたはずが、どうにもゲストハウスのモダンなデザインにイメージが引っ張られ、また皆の要望もあり、なんだかんだ前世日本でも通用しそうな外装、および内装が出来上がってしまうという。
まぁ、一般公開するわけでもなし。別にいいっちゃいいけどね。言っても素人建築だしさ。
ご家庭にあるまじき長い廊下を進み、やって来たのはまだまだ馴染みの浅い食堂。その新鮮味たるや、何処かの小さなホテルにお泊りしているかのよう。朝ご飯はビュッフェかな? ビュッフェじゃないよ、自炊だよ。
さて、何食べるかな。っていうか誰か居るかな?
「ってみんな居るねぇ!」
「あ、ミコト様! おはようございます!」
「朝ご飯は一日の活力源なのぜ。そりゃ食べに来るのぜぇ!」
「ガウガウ」
食堂には既に、大半のチームメンバーが集まっていた。多分他の皆も来るんだろうね、この調子だと。私としては非常に都合が良くて助かるけどさ。
てか、ご飯といえばゼノワ。彼女は他の皆と違い、普通の食事は摂らないのだけど。代わりに私の作った精霊力由来の食料を糧としていたりする。まぁ、そうでなくても精霊だからね、外界の力を勝手に取り込んだり出来るはずだけど。
とは言えここは迷宮という名の異空間……じゃない、チームハウスか。チームハウスもまた、独特の法則で世界が成り立っているからね、精霊力との関係性について調査する必要がありそうだ。
まぁでも、考えてみたら迷宮攻略をはじめてから今に至るまで、私はさっぱり精霊力を使ってこなかったし、ゼノワにしてもほぼ戦闘に用いるようなことはしてこなかったと見える。
その分、私から供給している魔力が、偶にゴソッと持っていかれることもあったのだけど。それでここまで切り抜けてこられたっていうんだから大したものじゃないか。大精霊たちから施された稽古が、こういう面でも役立ってたりするのかな?
そんなわけで、ゼノワがガス欠や空腹に悩まされるってことはないのだけど。
それでも、私の拵えた精霊力フードには味だの匂いだの食感だの、可能な限り仕込んであるからね。嗜好品の意味もあり、食事時には消費しているらしく。残量も着々と減っている様子。
その反面、精霊力を発散しないものだから、内包エネルギーばかり増えていくという妙なことに。
そろそろ太るのでは……?
「ガウ?」
「なんでもないっす」
ギロッと睨まれたよ。鋭いね。怖いね。
気を取り直して着席する。ご飯は、ストレージに入っているものを適当に頂いてもいいし、調理場で材料をぱぱっと調理してきても良い。
などと考えていると。
「ん、ミコト」
「おお、用意してくれたの? 助かるよ、何食べようか迷ってたから!」
相も変わらず、気配のないままぬるっと現れたオルカが朝食セットを目の前に出してくれる。
チームミコバトあるあるなのだけど、その場で調理したり温めたりしたものは、PTストレージなどを介すことなく手持ちで運び、配膳を行うという拘りが存在している。
そりゃ、ストレージを用いれば温かい料理が冷めることもないし、うっかり転んでぶちまけちゃうようなこともあり得ない。合理性を思えばストレージを利用するのがベストなのだけど。
しかしストレージから出されたものって、総じて「いつ入れたものか分からない」という、潜在的なレッテルが付加されることになり。
かなり前に入れた物なのに、まったく劣化してない! ってプラスに働くのならば良いのだけど、つい今しがた出来たばかりの料理に対して言えば、残念ながらマイナスな印象を与えることになってしまう。
なので出来立て料理などは、多少不便だろうとお盆に乗せるなどして普通に運ばれることが多いわけだ。
いま目の前に並べられた品々も、オルカが厨房から運んできたものだった。つまり今しがた調理されたものなのだろう。
なんてこったい、チームミコバトにも立派な料理人は居たらしい。っていうか、何気に調理の腕も益々上がってきてるんだよね。同じことが聖女さんにも言えるわけだけど。
案の定、そんな聖女さんも厨房の方から現れては、手際よく配膳を行っている。皆の前にも朝食メニューが並べられていった。
ぶっちゃけ彼女たちには昨日もお世話になったし、オルカや聖女さんだけに負担を集中させるのは気が引けてしまうね。何か考えたほうが良さそうだ。
とりあえず、配膳くらいは手伝うとしよう。
そんなこんなで、朝食セットに舌鼓を打つ私たち。朝から美味しいものにありつけて、何とも幸いなことである。
そうしたら食事の合間にタイミングを見て、例の話を皆へと持ちかけることにした。
そう、トレモちゃんのことである。
サポートキャラクタートレモちゃんは、倒されてから復活までに丸一日の時間を必要とする。要はリキャストタイムのようなものだ。
なのであと数時間もすれば、再び彼女を呼び出すことが出来るわけだが。
「そこで一つ、提案があります。そろそろサポートキャラクタートレモちゃんに、専用の呼び名を付けてあげたいなって思っていて」
「ほぉ、呼び名か。良いじゃないか!」
「実際、トレーニングモードのトレモちゃんと、呼び分けるのに不便してたのよね。いつまでも『ちょっと』とか『あんた』とか、流石にどうかと思うわ」
「『サポートキャラクタートレモちゃん』というのも長いですしね~」
「でも、どんな呼び名を付けるぱわ? もう考えてあるんぱわ?」
サラステラさんの問いかけに、私は一つ大きな頷きを返し。
皆の声が落ち着くのを待って、要望を口にするのだった。
「そこでみんなにお願いなのだけど。トレモちゃんが復活するまでに、彼女の名前に相応しいと思う案を、一人一つ考えておいてほしいんだ!」
「「!」」




