第一七九一話 感覚を定着させるために
「それにしても、クリスタルハートについては結局何も分からず終いとはな……」
ところ変わらずチームハウスの食堂。皆で長テーブルにつき、着々と食事の進む中。
マテリアルポイントに関する話題も一通り終えて、ふと訪れた無言の時間。そこで、思い出したようにボソリと呟いたのはクラウだった。
彼女の言うとおり、クリスタルハートについてミコバト内で色々と試してみた結果、件のアイテムには何らコレというような使い道は、ついぞ発見できなかったのだ。
まさかハウスマスターからのドロップ品が、何の意味もないガラクタ、だなんてことは無いと思いたいが。しかしかと言って、現状では単なる置物としての価値が精々と言ったところ。強いて言えば、見た目が美しいので飾りとしての価値は高いし、どうやら破壊不能系のアイテムっぽいため、盾の代わりに用いるということも出来なくはない。とか、そのくらいだろうか。
しかし何かの機会に用途が判明することも考えられる。ということで、クリスタルハートはPTストレージに入れたまま持ち運ぶことが決定したわけだけれど。正直、ちょっと釈然としないよね。
それこそまた、何かの鍵、とかになったりするのかな……?
皆の間でもチラホラと意見が交わされ、とは言え既にある程度擦られ、摩耗した話題であるため、盛り上がりのほどはそこそこ。
すると。
「ところで、しっかり休んだあとは直ぐにポータルで飛んじゃうぱわ?」
ここで新たな話題を投げ込んだのがサラステラさん。
これに関しては皆気になっていた事柄であったため、食いつきは活発だった。
それというのも、皆にはとある欲求があったからに他ならない。
「はいはい! 出来ればもうちょっとここに留まって、『発展型』をしっかり練習したいのぜ!」
「そうね、同感だわ!」
「ハウスマスター戦で発動に成功させこそしたが、安定しているかと言えばまだ怪しいからな」
「ガウガウ」
そう。先のハウスマスター戦においては、リリのブレイクスルーに端を発し、触発されるように全員が発展型の発動に成功するという、出来過ぎめいた覚醒イベントをやってのけ。結果として皆が色濃い成功体験を手にすることと相成った。
が、そうであればこそ、一度落ち着いてあの感覚をモノにしたい。再現性を高めたい。誰もがそう強く感じていたわけだ。
かくいう私だって、ニセ子が消滅してしまったんじゃないかと、心底ショックを受けたことにより、現実世界でオーラ体への移行に成功する、という上振れを引き当てている。
あの感覚をうまく掴むことが出来れば、やがて自分の意志だけでオーラ体への変身をやれるようになる、かも知れないじゃないか。
というわけで、ここに留まって闘気の訓練を行いたいというメンバーの気持は良く分かった。
では、逆に異論のあるものが居るのかと言えば、なんと一人として居らず。
強いて言えば、「長らくイクシス邸を空けてしまっているから、それが少し気がかりだ」、くらいのもの。
発展型のコツを掴むには、おそらく今、このタイミングこそが尤も効果的であり。ココを逃せば感覚を思い出すのに、苦労することは目に見えているのだ。
なら、迷う理由など何処にも、誰にもありはしないのである。
「よし、では決まりだな。我々はしばらくこのフィールド、というかこのチームハウス、ないしはマイハウスにとどまり、主に闘気の訓練を行う。その後ポータルで飛び、先へ向かうとしよう」
イクシスさんの言葉に、力強く頷く面々。
当初は休憩程度の予定だったわけだが、この分だとまた、それなりの日付が経過しそうじゃないか。
しかし、得られる実りは相応に豊富なはず。変に気を急かすことなく、じっくり力を蓄えるとしよう。
なにせ、ポータルで飛んだ先に何が待ち受けているかは、当然ながら不明なのだから。
もしもまた強力な敵と戦うことになるのであれば、力を蓄えておいて損になることはないはず。
ああいや、敵がこちらの実力に合わせて強くなるタイプ、とかだったら困るけどもさ。
しかしよしんばそうだったとしても、半端に発展型に目覚めた皆に対し、「発展型を扱える挑戦者に、対応したレベルの敵」なんかがあてがわれては堪らないからね。だったらちゃんと発展型をモノにしてから臨んだほうが安全安心というもの。合理的に見たって、良い判断だと言えるはずだ。
「そうと決まれば早速特訓ぱわ!」
「え~、休まないんですか~?」
「やる気に火が着いてじっとしていられないのぜ!!」
「ここは急がば回れ、なのです。休んで疲れを一旦抜いたほうが、結果として特訓の効率も上がるとココロは知っているのです」
「天使様の教えを受けた我々に隙はありません」
「バッチリ休んでしっかり頑張ろう!」
「まぁ、各々思うようにやればいいさ」
此処から先は、謂わば自己責任。己をどのように育成するかは、各人が自分で決めることであり、他者がどうこう指示するようなことではない。少なくとも、イクシスさんはそれぞれの判断に委ねるつもりであるらしい。
これを受け、早速食事を終えた者から行動を開始していくチームミコバト。
思えばハウスマスターとの戦いを終え、報酬確認や諸々の検証、チームハウスの改造など、イベントの連続だったわけだけれど。それでもまだ動き続けるメンバーが居るというのだから、スタミナお化けとはああいうのを指す言葉なんだろうな、なんて変な感心をしてしまった。
そんな彼女らを適当に見送りながら、さて私はどうしようかと考える。
一旦体を休めるというのも勿論良いのだけど、結局ヨルミコトが稼働するわけだしね。それなら意識のあるままぐてっとしているのが、ある意味一番の休息になる……可能性もある。
実際のところは、ヨルミコトの活動中スキル効果で私の回復は担保されているわけだけど。
「そう言えば、そろそろウェブデさんに何を質問するのか、具体的な案をまとめておくべきかも知れないね」
ポツリ呟いたのは、そんな思いつき。
そも、私たちがこの迷宮をわざわざ探し当ててまで足を踏み入れたのには、件のウェブデ氏に訊かねばならないことがあるから、という大きな理由があり。
それというのが、以前隠しダンジョン内でうっかり倒してしまった、アンロックモンスター。
もしかして今後は、世界の何処かであれと同種のモンスターがポップするようになってしまうのか、という懸念を解消しにやってきたのだ。
仮にこの心配事が的を射てるとしたら、対策を講じておかねば大変なことになってしまう。
こう言ってはなんだけど、普通の冒険者じゃあのクラスのモンスターに太刀打ちすることは難しい……っていうか、多分不可能だろう。
であるなら、対処に動くべきは私たちってことになる。アレをアンロックしてしまった者の責任として。
また、今後の冒険にだって少なくない影響を及ぼすだろう。あんなアンロックモンスターが他にも存在していて、ふとしたタイミングでそれらを解放してしまうリスクがあるというのなら、私は「自分探し」っていう大きな目標を封じてでも行動方針を正さなくっちゃならないわけで。
全てはウェブデ氏の返答次第。まぁ勿論、絶対奴ならば情報を握っている! と確信してるわけでもないけどさ。しかし期待はある。
迷宮運営に大きく携わっているであろうウェブデ氏ならば、私たちの知らない大きな情報を握っているはずだ。迷宮のこと、ダンジョンのこと、モンスターのこと、スキルのこと……他にもいろいろ。
そんなウェブデ氏に問いを投げかける機会が得られるというのは、その道の人からしたなら途方も無いほど価値あることに違いない。
ならば、そんな機会を無駄にすることなどあってはならないだろう。
今回、一体幾つの質問が許されているかはわからないけれど。だったら質問したい内容と、その優先順位を予め設定しておくことで、無駄なく情報を手に入れることが出来るはずだ。
……なんてことを考えていると、私の小さな独り言に反応した者がチラホラ。特訓の前に休憩を挟もうと、ゆっくりしていたメンバーたちだ。
「なるほど、質問の優先順位ですか」
「確かに。土壇場でぐだついて、質問権を浪費する可能性も考えておいたほうが良いかもね」
「アンロックモンスター以外のことだと~、何を訊くべきですかね~」
ふーむと皆で意見を出し合い、考えをまとめていく。
とは言えポータルで飛ぶのはまだ、数日も先のことになるのだろう。それまでに他のメンバーたちからも意見を聞き、質問をピックアップするとしよう。
勿論、闘気の訓練もあるし、マイハウスの方もいじりたいし、他の鍛錬も欠かせない。それにクールタイム明けにはトレモちゃんも再召喚しないと。今回攻撃に巻き込んじゃったお詫びも兼ねて、彼女にはちゃんとした名前も付けてあげたいしね。
なんだかんだ、やることは多いな……一つ一つこなして行くとしよう。




