第一七八九話 仕切り直し
例えば、誰も触れたことのないような……私で言えば、そうだなぁ……発売されたばかりでネットに攻略情報が一切出ていないような、有名シリーズの最新作。それを販売開始と同時にプレイ開始したとする。勿論事前ダウンロードしてね。
そうしたらやっぱり、誰より早くクリアしたい! とか、誰もやったことのないようなプレイをしたい! みたいな欲が出るのは当たり前で。
今回のチームハウスっていうのは、皆にとって正にそういう存在だったんだと思う。
まして、事前にマイハウスで編集方法を多少なりとも把握し、かつミコバトの設定とも通ずるところがあるとなれば、勝手知ったるなんとやら。思いつくまま気の向くまま、アレヤコレヤと試したくなるのも尤もだろう。よーく理解は出来る。
「でも、やり過ぎだと思うんだ」
「返す言葉もない……」
雁首揃えたチームミコバトの面々(私を除く)。各々、視線を泳がせたり、反省して俯いていたりと様子は様々なれど、バツの悪そうな反応は共通しており。
その理由というのが他でもない、目の前に広がるこの光景である。
混沌。その一言をテーマに据え、アート作品の制作でも試みたのだろうかと。そう疑いたくなるくらい、グッチャグチャの景色である。
あの素朴で地味で平穏を絵に描いたような初期状態は何処へやら。地形はでたらめな起伏に富み、絶えず火柱の吹き出す地面もあれば、風雪吹き荒れる雪原もあり。昼と夜は不規則に切り替わるし、奇妙で巨大な像はこれでもかと言うほど乱立。
挙句の果てが、チームハウス本体だ。かの有名な九龍城だってここまで酷くはないだろう。なにせ作りたいものの方向性を統一せず、寄って集って皆が手を加えたのだ。奇抜どころの騒ぎではない、とんでもデザインに成り果ててしまった。
そして、ようやっとやりたい放題やった後、冷静さを取り戻した面々は我に返って頭を抱えたのである。
ここが、私たちのチームハウスなのか。ここで休憩をするのか、と。
確か、自己評価にはとんでもない緩急があるって話を生前聞いたっけね。
ノウハウを知らない素人のうちは、「覚えたことを直ぐにこなせる。私って天才なのでは!?」と自己肯定感が高く、自覚できないまま自分を過剰に高く評価しがちな状態が続き。
しかし段々とその道の難しい部分、ままならない難題、簡単には行かない事柄、自分に出来ることの限界などなど。そういったものを知っていくに連れ、自分への評価は落ち着いていくもの。それどころか、そのまま挫折したり、その分野に飽きて離れることも珍しくなく。成長もなかなか実感できない、しんどい時期に突入していくことになる。
皆が正に、今そんな感じ。
何でも出来る気になって色々、思いつくままに試してみた結果、自分たちの生み出したものが如何にメチャクチャで、だからといってどうしたら美しいものが造れるかも分からず困惑している。しんどい時期に片足踏み入れちゃった感じだろう。
「なんか、もっと、楽しくてワクワクするチームハウスになる予定だったのぱわ!」
「そうなのぜそうなのぜ!」
「なぜか思うように行かないのです!」
「創作の難しさです~」
「センスのほうが私に歩み寄るべきなのよ」
「遠回しにセンスがないこと認めてるね」
「グルゥ」
あんな地形なら魅力的だろう。こういうものを設置すれば楽しいに違いない。こういうデザインは素敵だと思う。こういう環境が好みだ。
各々趣味嗜好は様々であり、何なら他者のためにと動いたものだって居るだろう。
けれど問題なのは、誰もが「統一感」を軽視した点にある。
冷静になれば、スタンドプレーを優先するような皆ではないのだ。ところが今回は、強い好奇心と、我先にという競争心が変に作用し、しかもメチャクチャになったところで再編集が可能である、という安心感も相まって、歯止めが利かなかったものと推察できる。
その結果、行けるところまで突っ走っちゃった感じなのだろう。
なので。
「チームハウスにリセットを掛け、初期状態に戻します。異論は無いね?」
「「……………………」」
「無いよね?」
「「はい……」」
手直ししようにも、何処からどう手をつけて良いかも分からないような状態。であれば話はいっそ簡単だ。一度初期化してしまえば良い。
渋々ながら、皆もそれに同意してくれたことだし、「でも」とか「しかし」とか「ただし!」なんて言葉が飛んでこない内に、さっさとウィンドウを操作しチームハウスへと働きかける私。
するとまるで逆戻しの如く、あらゆる変更は無かったことにされ、あっという間に混沌とした空間が素朴な元の姿を取り戻したのである。
皆の安心したような、それでいて残念なような顔ときたら、セーブデータが消えてしまったような物悲しさを感じさせ。私としても正直胸が痛い。
が、ここはみんなの憩いの場となるべき空間なのだ。あんな状態を許容することは出来なかった。
「さて、それじゃ改めてここからが本題なのだけど。みんな好き放題この空間を弄り倒しただけあって、相応に知識と経験を蓄えることは出来たんじゃないかな。それを活かして、今度はもっと皆で落ち着けるような、或いは楽しめるような。そういう場所を作っていかない?」
そのように再スタートを促してみれば、流石メンタル強者の集団である。
一人、また一人と顔を上げ。
「ん。異議なし」
「ええ、天使様の仰るとおりです!」
「先の失敗を無駄にしない、ということだな!」
と、前向きなコメントとともにやる気を漲らせたのだった。
そうして再び、皆による編集作業が開始される、かと思いきや。
そこで口を開いたのが、イクシスさんである。
「思うに、前回失敗してしまったのは、『皆が無秩序に我を通してしまったこと』が最大の要因であるように思うのだが。どうだろうか?」
それは問い掛け。これに対し、否定できるようなメンバーはなく。私もまた、成り行きを眺めるべく黙っていた。
皆の反応を受け、一つ頷いたイクシスさんは、言葉を続ける。
「であるなら、先ずやるべきことはハッキリしているな。そう、『指標』の確立だ」
「つまり、全員が好き勝手するんじゃなく、何をどんなふうにデザインするか意見を統一させようってことね?」
「ああ。だが、その都度話し合いの場を設け、ちまちまと編集していたのでは時間がいくらあっても足りないだろう」
「確かにそうぱわな。早く形にしたいぱわ!」
「うむ。そこで私から提案なのだが……」
一度言葉を切り、何故か私をじっと見てくるイクシスさん。何やら嫌な予感がする。心眼さんがそれを裏付けてくる。
皆が言葉の先を待ったなら、彼女は案の定、それを告げたのである。
「我々の中で、モノづくりに秀でたメンバーの筆頭は誰かと言えば、論ずるまでもないだろう。そう、ミコトちゃんだな。ゆえに、チームハウスの編集リーダーとして、彼女に活躍してもらいたく思うわけだが」
「え、ちょま……」
「それは何かしら。つまり要望があれば、一旦バカ仮面を通せって話?」
「それではミコト様に負担が偏ってしまうのです!」
「なら、私がミコトを補佐する」
「む。嫁の負担を減らすのは妻である私の務め!」
「いえいえ、天使様の補佐でしたらば、このクリスティアが」
「ええい、揉めるな揉めるな! 揉めるくらいなら私がやるぞ!」
結局ひと悶着ありつつも、しかしイクシスさんの提案自体は皆に受け入れられたようで。
とどのつまり、チームハウスに手を加えたい場合は、一旦私に要望を出すなり相談するなりしなさいよ、という話だった。
でもって、それでは私に諸々負担が偏ってしまうだろうという配慮のもと、サブリーダー的な存在も設定されることとなり。これには揉めた挙げ句に数名が就任。
私へ話が持ちかけられる前段階として、サブリーダーの何れかに一旦話が行き、採用しても良さそうだと判断したもののみが私のところに届く仕組みが急遽出来上がってしまった。揉めてた割に構築が速い。
「っていうか、なんで私がハウスリーダー? モノづくりって言ったって、ウィンドウの扱いは皆も熟れているだろうに」
「でもミコト様は、ゲームとやらで多様な経験を積まれているのです。確か建築や、なんなら街作りなんかも体験されたことがあるとか」
「そりゃゲームでならね!? それに建築って言ったって、でっかいブロックを組み合わせた、大雑把なものだったし……」
「大雑把でも、経験のあるなしじゃ全く違う」
「それにミコトさんは確か、クラフトスキルで小さな家程度はパパッと造れてしまいますよね。チームハウスとのシナジーには大いに期待が持てます」
「うぐぅ……」
「さてはあんた、自分のマイハウスに集中したいからって、リーダー就任を渋ってるわね?」
「! ソ、ソソ、ソンナコトナイヨッ!?」
図星、というやつである。
だってそうじゃん。私だって自分の好き勝手出来る、自分だけの空間ってのには憧れがあるし、実際それを手に入れたっていうんならとことん拘りたいもの。
なのにチームハウスの編集責任者、みたいな立場を押し付けられるとか、出来れば勘弁願いたいところ。
がしかし、さっきのアレを見せられた後では、無下に断るのも無責任というもの。
とまぁ、そんなこんなで。
結局のところ、押し切られる形で私はチームハウスの編集長的ポジションに就いたのだった。
デザインに統一感を持たせつつ、突飛過ぎる提案はバッサリ弾く。実装の難しいものは私手ずから形にする必要も出てくるのだろう。
これは……否応なく、腕が鳴りそうだ。悔しいけどワクワクするよね……!




