第一七八六話 いつもの見慣れた一発芸
装備してみた感じ、鏡像の仮面には主だった能力が三つ備わっている
細々としたものを合わせるならもう少しあるだろうけれど、特筆するべきものは三つだ。
コピー能力、ニセ子の力を引き出す能力、そしてもう一つ。
「それがこの、変身能力だぁ!」
言って、実際に皆へとそれを披露してみせる私。
他者の姿を『写し出す』ことにより、自らの姿形を同じものへと変化させる能力。
これにより私は、装備含めて見た目が完全に変化。ほんの瞬く間に、全く別の姿へと変身を果たすのだった。
今回姿を借りたのは、私の契約精霊たる彼女。そう、ゼノワである。
この能力の特筆するべきは、何と言っても「楽」な点にある。
それというのも、わざわざ私が対象のことを細部まで観察し、事細かに再現しようと頑張るまでもなく、仮面が姿を勝手に写し取ってくれる。だから念じるだけで変身が完了するっていうスグレモノ。
ってなわけで、皆の見ている前で見事な変身をぶっこいてみせた、わけなのだけど……。
「ほー」
「へぇ」
「ふぅん」
「……それで?」
このうっすい反応である。
あ、あれぇ……? 体の形からして別物に変化するとか、普通にヤバい能力だと思うのにな……しかもゼノワなんて、見た目幼竜だよ? 人体構造ですらないよ? 一般人が見たら腰抜かすレベル。SF世界ならクリーチャー認定待ったなしだよ。
それを何だいこの、見飽きた芸でも見せられてるような、妙に白けたような、或いは生暖かいような変な空気感は!
「ミコトの姿が変わるのなんて、割とよくあること。もう誰も驚かない」
「え、えー……? でもほら、今回は幻術とかじゃなくって、本当に体の構造から何から変化をだね……」
「傍目には違いなんて分からないわよ」
「う。それは、そう」
「っていうか、ゼノワ様にしては明らかにサイズがデカいのぜ」
「質量まではどうしようもないんです!」
そう。実際試してみて分かったのだけど、この変身能力には欠陥、と言うほどではないにせよ、大きな制約が一つ存在していた。それがつまりは「質量」の問題だ。
鏡像の仮面は、仮面本体もろとも私の体や身につけてる装備をまるっとリソースとして扱い、別のものへと作り変えるような、そういうぶっ飛んだ能力を有しているらしい。ハッキリ言って、仕組みを冷静に考えると一番恐ろしい能力だと思う。下手すると大事故だって起こりかねない。
けど、そんなすごい能力も、リソースの不足や余りに対してはスマートに対応できないらしく。結果としてそれは「スケール」という形で反映されるわけだ。
例えば、私が幼竜ゼノワの姿を真似ようとすると、質量リソースが余ってしまう。余ったそれらは、再現スケールの引き上げにより帳尻合わせを行い、結果として「なんかデカくね?」という間抜けな姿を作り出すに至る、っていう。
こう、とんでもなくすごいテクノロジーで動いてるのに、成果物が微妙だなぁ……みたいなあれ。才能の無駄遣い、って言葉にも通ずるところがある。
しかしながら、まるで不定形ボディで変身するかのごとく、仮面の力で姿形を変えられるっていうこのすごい能力に対し、皆のこの反応は納得がいかない。もうちょっとだけでも驚いて欲しい。
そう考えた私は、一つの思いつきを得たのである。
「よし分かった。これならどうだ!」
言って、急遽ストレージより取り出したるは、虚ろなる塔にて得た雑多な武器の一つ。巨大なだけが取り柄の破城槌だ。
これで何をするかって? 決まってる。「質量の嵩増し」である。
私は【完全装着】の効果で、装備しているアイテムも自身の体の一部として扱うことが出来るわけだが。ならばこういう『巨大な武具』を装備してやればどうなるか? って話。
案の定、鏡像の仮面は破城槌も含めて変身に巻き込み、私のイメージした別の姿を象り始めた。
どうやら変身可能な対象は、現物が手元になくとも記憶で保管することが可能みたいだ。好都合である。おかげで面白いことが出来そうだもの。
あとは、そう……『部分変身』さえ出来れば……。
「……あ、出来た! 出来たぞぉ!」
「「う、うわぁ……」」
一同ドン引きである。
私が彼女たちに何を披露したか。簡単に言えば、『オリジナルキメラ』への変身だ。
かつて戦った様々なモンスター。その一部を部分変身にて取り入れ、パーツを寄せ集め、強そうな見た目に整えたっていう。
実際強いかどうかはさておき、迫力ある見た目には仕上がった、はず。
「どう? どうよこれ、強そうじゃない?」
「ミコトちゃん、とうとう本気で人間やめちゃったぱわ……? 殴って良いぱわ?」
「うん、殴るのは待って? 直ぐ元の姿に戻るから……戻れる、よね……?」
ついムキになって、勢いで大胆な変身を実行しちゃったわけだけど、これ戻れなかったらヤバくない……?
やっぱりこの迷宮内で、私ってちょっとなんかタガが外れてるよね……自重が足りてない。恐ろしいことである。
しかし幸いなことに、仮面へ変身の解除を念じるだけで、通常の姿へ戻ることには成功。破城槌もはいこの通り。直ぐにストレージへしまい直した。
すると、そんな私の奇行を目にした皆の反応は様々。
呆れ果てるものもあれば、ちゃんと元に戻れたことに安堵するものもあり。
結果として、軽率が過ぎると叱られたのだった。返す言葉もない。
「とは言え、想像以上の能力であることは分かった。どう活かすべきかはよく分からんが……」
というイクシスさんの言が、変身能力への総括には相応しいだろうか。ほんと、どう使ったら良いんだこれ……変身能力だけなら間に合ってるからね。ゲルミコト使ったほうが安全だし。まぁ、追々利用する機会もある、のかな……?
何にせよ、仮面に備わった主な能力はそんなところか……あ、そうそう。アレもあったっけ。
「あと、普通は感知できないようなものも『写し出す能力』の影響で感知できるようになるっぽい。地味だけど隠し要素探しとかに便利そうだよね」
「普通は感知できないようなもの……」
「それは……もしや、以前ココロの腹に大穴を空けた、アレの正体も見破れるのではないか?」
「「!」」
クラウの指摘に、ギョッとする一同。確かに言われてみたら、可能性はあるかも知れない。
たった一度だけ遭遇した、正体不明の何か。ココロちゃんが大怪我を負わされ、撤退を余儀なくされたっていうヤバいやつ。虚ろなる塔で目下一番の脅威と言える、アレ。
もし本当にこの仮面が、例の正体不明に関して正しく写し出してくれるっていうんなら、それだけでこの仮面の価値は十分にあったと言えるだろう。
「これは、次に塔に挑むのが楽しみなのぜ!」
「ぱわ!」
「ココロ的にも、リベンジしたいのです!」
とまぁ、そんな感じで仮面についてもあらかた分析が済んだなら、ハッと我に返る私たち。
「つい勢いで仮面について調べてしまいましたが、あまりこの場に長くとどまるというのも良くありませんね」
「ん。いつ消滅するかも分からない」
「確かにそうだね。あ、アグネムちゃんはどう? もう一回鍵挿し込めるか試してみる?」
「う、うん! 引き換えられるようなアイテムはないけど、一応……」
私同様、アグネムちゃんもまだ【マイハウス】を獲得できる例の鍵を使わないまま取ってある。
先程試したときはダメだったけど、もしかすると彼女もどうにかすれば、特典宝箱に鍵を挿し込むことが出来ないだろうか。一度私がアイテムを引き換えたことをトリガーに、変化が生じた可能性もあるわけだし。
宝箱を改めて閉じ、早速試みる彼女。だが、どうやらダメみたいだ。そもそも鍵穴が見えないままであるらしい。
依然として、それが見えているのは私だけ……っていうか、箱を閉じた拍子にまたウィンドウがポップしたね。
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この宝箱、および鍵に関するギミックは以上です
安心して鍵を使用し、【マイハウス】のスキルをお受け取りください
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「……だってさ」
「うぐぐ、つまり貸出品を持ってない私じゃやっぱり、鍵は使えないってことかぁ……残念」
「仮にミコトちゃんと同じ手順を踏んだ場合、同じアイテムが手に入ったんですかね~?」
「どうだろうな……鏡像の仮面は、まるでミコトちゃん用に誂えたような性能だったからな。もしかするとそれとはまた違ったアイテムが手に入ったのかも知れないな」
「ぬぅぅ、そう聞くと無性に悔しくなるわね!」
「こればっかりは、貸出品を持ち出せず、しかも鍵も早々に使っちゃった私たちが悪い」
「普通は気づきませんよ、あのようなギミック」
「だからこその隠しアイテムぱわな」
「ガウラ!」
ともあれ、ウィンドウがそう言うのであれば嘘はないはず。
私とアグネムちゃんは幾らかの名残を感じつつ鍵をそれぞれ回収すると、取り敢えず特典部屋を出ようと踵を返し、皆とともに脱出を果たすのだった。
ハウスマスターと戦ったボス部屋を抜け、通路に変化や仕込みなどは無いかと調べながら、ぞろぞろと来た道を戻っていく。
てっきりまた、ポータルなんかが何処かに仕込んであるものかと思っていたのだけど、そういうようなことはなく。
そんなこんなで私たちは、再び技の試練フィールドへと舞い戻ったのである。
んでこれ、次は何処に行けば良いんだろう……?




