第一七八四話 写す仮面
体の試練で得た「貸出品」を、特殊な形で返却することにより得られた景品。
それは一風変わった一枚の仮面であり、名を『鏡像の仮面』と言った。
イクシスさんによる鑑定が行われ、その結果が彼女の口から語られるわけなのだが……。
「鏡像の仮面の特殊能力。それを一言で表すのなら『写し出す』能力……だな」
鏡像という、「鏡」の字を頭に乗せた仮面なのだから、写し出すっていうのも何ら不思議な話ではない。むしろ、まぁそうでしょうねと言ったところだけど。
しかしそれにしても、なんだか曖昧な言い回しである。皆もそう思ったのか、いささかモヤついたような表情で首を傾げたなら、そんな彼女らから質問が飛ぶのに先んじ、イクシスさんが解説を切り出した。
「どうにもその仮面、特殊能力と呼べるものを複数有しているようでな。というより『写し出す』という力を、幾つかの異なる形に分けて出力している、とでも言うべきか」
「ほぉ……珍しいですね、それは。というより初めて聞くパターンかも知れません」
「複数の特殊能力を持った装備、なら稀にあるけど。合成とかで作れるし」
「一つの能力を複数の形で出力……つまり、それだけ強力な力を秘めてるってことぱわな!」
「熱いぜ熱いぜ!」
「ガウガウ!」
「それで、具体的にはどんな事が出来るんです~?」
皆の反応を眺め、飛び出すコメントに共感するイクシスさん。実際、一つの能力を応用することで別の力のように扱うことはあっても、発生からして全く別物とはならない。それが装備の特殊能力ってものであり、何ならスキルなんかよりもっと限定的な力であるとすら言える。
そういう意味で言えば、装備を体の一部として扱えるへんてこスキル、【完全装着】の真価は装備の特殊能力に幾らかの幅を持たせることが出来る、という点にあるのかも知れない。
それと意思ある装備か。装備に宿った意思が、ある程度自力で能力の制御を行ってくれるため、普通の特殊能力よりよほど自由度が高い、という特徴がある。
しかし裏を返すのなら、本来特殊能力とは魔道具に近い性質を有している、と捉えるべきなのだろう。
そうした装備の特殊能力事情に鑑みたなら、なるほど確かにこの仮面は異様である。
イクシスさん曰くの『写し出す』力。それを幾つかの異なる特殊能力として、別個に扱うことが出来る、とは。その時点で既にすごそうだもの。
して、肝心要の具体的な内容に関してはどうなっているのだろう?
スイレンさんの促しを受け、先を語るイクシスさん。
「先ずは、そうだな。最も『写し出す』という言葉からイメージしやすい、コピー能力」
「なんですって!? それはつまりアレですか。他者のスキルをコピーし自在に扱うというスキル研究者にとって垂涎の!!」
「ソフィアさんステイ! ステイなのです! 今やソフィアさんだって似たようなこと出来るでしょ!」
見事な反応速度で騒ぎ始めたソフィアさんと、それを素早く羽交い締めにするココロちゃん。いつもの絵面である。
しかし否定しないところを見ると、どうやら「コピー能力」とは概ねソフィアさんが言ったものに相違ないらしい。
これを受け、ざわざわとする面々。
「すごいと言えばすごいけど、今さらって感じもするわね」
「ん。ミコトなら能力に頼らなくても、スキル再現くらい容易い」
「ってことはハズレ能力ってこと……?」
「ミコト以外が使うのなら、恩恵は大きいんじゃないか?」
というような意見が交わされた。尤もである。
が、そこにイクシスさんからの補足が入る。
「このコピー能力に、何処までの事が可能かは改めて詳しく調べてみる必要があるわけだが。しかし一つだけ訂正させてもらおう。コピー能力の対象は何も『スキル』に限った話ではないようだぞ」
「「!?」」
聞き捨てならない発言に、ピタリと動きを止める皆。一瞬、水を打ったような静けさが辺りを包んだ。
スキル、だけじゃない……つまり、それこそ他の装備の特殊能力だったり、スキルに該当しないような異能だったり。そういったものを、この仮面はコピーできてしまう、と……?
それはなんだか……ヤバい気がしてくる。
「コピーし、保持しておける能力は三つまでのようだ」
「三つも!!」
「す、スロット式!」
「一回使ったら消える、とか?」
「そこは要検証だな」
一気に広がる想像。もしかしてアレもコピーできるのか、これもコピーできたら凄くないか、と。私を含めた皆が様々な可能性を頭の中で展開し、ギラギラと目を輝かせ始める。
入手経路からして大変な代物ではあるけれど、もしや想像以上のお宝なのでは……?
手元の仮面に視線を落とし、恐々とした思いを味わう私。
が、忘れてならないのはこのコピー能力が、鏡像の仮面の持つ特殊能力の一部でしかない、という事実である。
驚きの波がある程度引くのを待って、イクシスさんは徐ろに続きを語り始めた。
「では二つ目の能力について説明するぞ。次の能力は、そうだな……やはりミコトちゃん向き、ということになるのだろうな」
「私?」
「当然です。なにせ鏡像の仮面は天使様がご自身の力で入手されたものですからね!」
「ミコト様用の調整が入っていたって、何ら不思議じゃないのです!」
「うんうん。それで、その能力って?」
崇拝組がこれみよがしにヨイショを口にし、さらに詳しい情報へと言及する。
まぁ彼女らの言うことも尤もであるため、食って掛かるようなものもおらず。イクシスさんは素直に語ってくれた。
だが、それは思っていたよりも少しだけ遠回りな言葉であり。
「この能力に関しては、口で説明するよりも実際に使ってみたほうが分かりやすいだろうな。ミコトちゃん、どうだ? 装備してみないか?」
「! そりゃ、して良いならしてみたいけど」
鏡像の仮面。確かに発見者こそ私ではあるけれど、ハウスマスターを倒せなければここへ至ることも出来ず。結果としてこれを入手することも出来なかった。その点を思えば、興味津々を顔に浮かべている皆を差し置いて、これは私のもの! などと主張するのも憚られ。やはりチーム共有のアイテム、ということにすべきだろうかと考えていたところだ。
が、最初の装備者という栄誉くらいはいただいてしまっても構わないだろう。皆もどうやら、そこに文句はないみたいだし。リリも早くしろと言いたげだ。彼女がおとなしいなら大丈夫だろう。
「分かった。それじゃ早速……」
今装備している仮面を一旦外し、鏡像の仮面へと付け替える私。勿論皆に素顔が見えては事なので、モザイク魔法の併用も忘れずに。
そうして、特徴的なその仮面が顔に馴染んだその瞬間、ハッと理解した。イクシスさんが言わんとしていること。仮面の大雑把な扱い方も。
なるほど確かに、これは『写し出す力』を宿した仮面だ。
そして写し出す対象には、どうやら「自らの内面にあるもの」すら指定出来るらしい。
とどのつまり……。
「この仮面は、私の中に居るニセ子すら、ハッキリと捉えることが出来るみたい」
「「!?」」
これには、流石の皆も「なんだってー!?」と声を揃えることすら出来ず、息を呑む。
けれど、それならばイクシスさんが装備を勧めたのも納得できるというもの。自らの内側に何かを住まわせているだなんて、きっと私くらいのもの……ああいや、ココロちゃんの中には鬼が居そうだし、レッカもなんだか暑苦しいのを飼ってそうだし。案外他のメンバーにもそういうのが居たりするのかな?
けど、仮面に触れた際に異なる反応を示したのは、私の時だけだった。今にして思うと手形のような模様は、ニセ子の手形を示していたのかも知れない。
「でもそれで、一体何がどうなるんです~……?」
「ガウ」
「ニセ子と、簡単にコンタクトが取れるようになるだけ?」
確かに、その疑問は尤もだった。
ミコバトの外にいながらにして、ニセ子と連絡を取れるというのは非常に有り難い。念話が使えるなら話は変わってくるのかも知れないけれど、現状においては連絡手段が「実際ミコバトに潜って会いに行く」とか、そういうちょっとアナログっぽい手法を取るしか無かったから。
なのでこうして直通のホットラインとなり得る品が得られたのは、何気に大きいだろう。
けど、だからどうしたと言われたならそれもそのとおり。
この仮面はニセ子の存在を捉え、どうしようと言うのか?
取り敢えず、仮面を介してニセ子と意思のやり取り。要領としては念話に近く、私はもとよりニセ子側も大きく戸惑った様子はなかった。
そうしたら、鏡像の仮面の影響を二人であれこれと探ってみて。
そして、一つの事実が判明する。
「……なんか、ニセ子の力の一部を借りられる、かも?」
「!!」




