第一七八三話 引き換えに得たもの
貸出品を特別な景品と取り替えてくれる。要するに今回の隠し要素、というか隠しイベントはそういったサプライズであるらしい。
が、本来なら手に入れることの出来ない貸出品だなんて、そんなのは非売品も同然の激レアアイテムじゃないか。ゲームで言えば、作中に一個しか手に入らない類いのやつ。
それを、今から手放さなくちゃならない。
「はぁ……お辛い」
「ガウー」
肩を落とす私へ、向けられる周囲からの視線は様々。同情するようなものもあれば、呆れたようなものもあり。
これからなにかすごい品が手に入るかも知れないと言うのに、なぜ凹んでいるのかと。その心理がよく分からないようだ。
逆にコレクター気質のあるイクシスさんなんかは、ウンウンと深く頷き、肩にポンと手を置いてくれたりもする。
しかしそんな時間はほんの束の間。貸出品であるジャージと、ついでにその他貸出品一式の記録も写真や動画、メモやスケッチ、模型などでバッチリ記録したなら、名残を惜しみつつも特典宝箱へと全て収めていく。
見た目装備をジャージに設定するの、結構気に入ってたんだけどな。残念である。
そうしたら、いよいよ宝箱を閉じ、鍵を回して施錠。
ウィンドウの説明によれば、このまま三分ほど待つ必要があるらしい。
「カップ麺かな?」
「カップ麺?」
「ココロ知ってます! カップ麺とは!」
物知りココロちゃんによるいつものインターセプト。いつか私が語った内容をバッチリ記憶し、ドヤ顔で皆へ話して聞かせる彼女。毎度のことながら、すごい記憶力である。
しかし、カップ麺か。懐かしいねぇ。
「なるほど、カップ麺にインスタント食品ですか……興味深いですね」
「形になれば、保存食に革命が起きそう」
「もしかして再現に挑戦するぱわ?」
「熱いぜ熱いぜぇ!」
「ガウガウ!」
「なんか王道の転生者ムーブみたいなことしようとしてる……」
食べられるなら割となんでも良いタイプである私は、これまで前世の食文化をこの世界で再現! みたいな試みはしないでいたのだけど。
しかし仲間たちまで食に興味が乏しいかと言えば、そんなことはなく。実際イクシス邸の料理は美味しいし、チームで言えば聖女さんやオルカは料理上手だし。なればこそ、インスタント食品に興味を唆られるというのも当然と言えば当然の話ではあった。
とは言え、冒険者業の片手間でやるには大変なタスクを背負うことになるだろう。果たして彼女たちが何処まで本気で、実際何処まで形になるかは……あー……心眼さんが言っている。一部のメンバーは割とマジ(真剣)であると。何にせよ、やりたいことがあるってのは良いことだからね。成果に期待するとしよう。
なんてやり取りを眺めていれば、三分間なんてあっという間に過ぎ。
いよいよお待ちかねの、再開封である。
幾らか緊張しつつ、徐ろに鍵へ手を掛け、捻る。ガチャリと小気味良い音が鳴り、解錠の感触が手を伝った。
軽く皆へ目配せすれば、チラホラと頷きがあり。
いよいよ、宝箱を再度開くことに。勿論罠の類いが無いことは、オルカやクオさんがチェック済み。であるならば、いざいざ。
「じゃ、開きます……レッツ、オープンッ!」
意を決し、思い切って上蓋を勢いよく押し上げる私。がぱっと口を開ける特典宝箱。
すると、それは起こったのだ。
覗き込むまでもなく、何かがゆっくりと宝箱の中から浮かび上がってくるではないか。
思わず身構える私たち。されども、どうやらトラップでもなければモンスターというわけでもない。強いて言うなら、特別なアイテムの登場演出、と言ったところか。なにせ、本当にただ浮いているだけなのだもの。何ならちょっと虹色に光ってすらいる。SSRかURのカードかな?
「これは……仮面、だな」
「真っ黒ですね~……」
「高級感があります。つや消し処理でも施されているのでしょうか」
「バカ仮面、仮面と言えばあんたの担当でしょ。早く手に取ってみなさいよ」
「う、うん」
そう、特典宝箱から姿を見せたのは、一枚の仮面だった。
テカりの無いシックな質感の黒い仮面。目穴は無く、鼻や口の造形も無い、のっぺりとした印象のそれは、ともすれば仮面というより器や皿の類いと言われたほうがピンとくるかも知れない。
が、それでも不思議と、誰もがそれを「仮面である」として認識していた。不可解な説得力を感じる奇品、ないしは逸品だ。
促され、おっかなびっくり手を伸ばす私。宙に浮かび、静かにこちらを見つめるそれを、美術品でも扱うようにそっと手に取ってみる。
するとその瞬間、突然表面に走ったのは、きらりとした銀線。神秘的な輝きを湛えるそれは、たちどころに何やら意味深な模様を形どり。
仮面の右側。現れたるは幾何学模様。されどもそれは一つのシルエットを成し。
まるで手の形だ。誰かがインクの付いた手で頬に触れたような、そんな痕跡めいた形が、銀色の幾何学模様で描画されたのである。
これには当然、ざわりとにわかに色めき立つ面々。どうやらただ黒いだけの仮面ではないらしい。
「わ、私も触ってみていいか?」
「あ、ずるいのぜ! 私も!」
「ぱわっぱわっ!」
「ガウーラー!」
どうやら危険は無さそうだと分かったからか、はたまた興味に駆られてか、誰も彼もが仮面に興味津々。触れた瞬間模様が浮かぶという仕様が気に入ったのだろう。仮面は皆の手を順繰りに回っていった。
しかし、それにより分かったこともあり。
「不思議ですね。ミコトさんが触ったときだけ、手形のような模様が浮かび上がるようです」
「我々が触れても、銀色の線が走るだけですか」
「それでも、不思議なことに変わりはないけど」
「ところで、そろそろ鑑定してもいいだろうか?」
と、ここでイクシスさん。チームで一番の鑑定スキル持ちである彼女なら、仮面に関して何か有益な情報を得ることが出来るかも知れない。
私が頷きで応じれば、仮面はイクシスさんの手へと渡り。そうして始まった鑑定作業。
彼女にしては珍しく、真剣に鑑定を行っている。あんな顔は武器に対してしか向けないのが常なのだけど、仮面の鑑定によもやここまで時間を掛けるとは……それだけの品である、ということか。はたまた仮面と見せかけておいて、実は武器だったりするのか。
何時になく緊張した空気の中、私たちは静かに鑑定結果を待っていた。
数分か……はたまた十分以上経っただろうか。
こんなにこの場に留まっていて大丈夫なのかと、少し不安になってきた頃。ようやっと鑑定を終えたのか、イクシスさんの肩から力が抜け、ふぅと息を吐き出す音が弛緩を告げる。
反比例的に息を呑むのは周囲だ。いよいよ、仮面の概要が明らかになるかも知れないのだ。果たしてどんな情報が飛び出るものかと、誰もが自然に身構えていた。
そんな皆の様子を軽く眺め、一先ず私へ黒い仮面を渡すイクシスさん。その表情は実に真面目なものである。果たして彼女には、一体何が見えたというのだろう。
「鑑定の結果だが……先ずその仮面の名は『鏡像の仮面』というらしい」
「鏡像の、仮面……」
「鏡像と言う割に真っ黒なのです」
「銀色の線が鏡要素、ってことですかね~?」
「それで、特殊能力はどうなってるのよ? 当然なにかあるのよね?」
確かに、鏡像と呼ぶには真っ黒で、見た目のイメージとは乖離したような名前に思える。
けれど思い返したなら、この仮面と引き換えることになった貸出品。あれらは体の試練で得たもの。そして体の試練においては「鏡の館ダンジョン」を攻略した。隠しボスのニセ子だって、私の鏡写しさながらの存在だったし、そうした背景に鑑みれば尤もな命名なのかも知れない。
であれば、能力についても「鏡」と何らかの関係を有しているに違いない。
リリの促しに、うむと頷くイクシスさん。そうして彼女の口から語られた、鏡像の仮面に秘められし特殊能力は……私たちをどよめかせるのに十分な驚きをもたらしたのである。
「鏡像の仮面の特殊能力。それを一言で表すのなら『写し出す』能力……だな」
……なんか、すごそう!




