第一七七九話 特別な鍵
「というわけで、ニセ子は無事でした!」
ミコバト内で幸いにもニセ子発見。彼女の無事を確認し、アレコレと話をした後、胸をなでおろした私は現実世界へと帰還を果たしていた。
そうして今しがた、皆へと報告を終えたところである。
これには一様にホッとしたような顔をする面々。その一方で、今回のように突然誰かが居なくなるかも知れない、という恐ろしさを再認識し、身近な人やニセ子とももっと積極的に関わっておくべきだったと反省がチラホラ聞こえる。
確かに、死んでしまった後じゃ何もかもが遅いものね。コミュニケーションは取れる内に取っておく。大事なことである。そこにはきっと、時間を割くだけの意味も価値もあるんだろう。
「それで、みんなの方は大丈夫だった? なにか異変とか、新しい敵が現れる、みたいなことは?」
「いや、特に何もなかったな。この空間が修復されるのをぼんやり眺めていただけだ」
「強いて言えば、ミコトがミコバトに潜るのを見て、ここが『現実世界』である証明になるかも知れない、って話はした」
「ミコバト内じゃ、更にミコバトへダイブすることって出来ませんからね~」
「同じように仮想空間の中では、ミコバトへ入れないだろうってことなのぜ」
「逆に、体の試練じゃミコバトに入ることは出来なかった。というか、スキルの使用自体が封じられていた」
「なるほど……確かに、言われてみたらそうかも」
ミコバトに入った状態で、更にミコバトへのダイブは出来るのか。つまりはゲームの中でゲームを遊べるのか、みたいな問題。これは誰もが一度は気になり、実験を行ったことであり。結果としてミコバトの中じゃミコバトへダイブすることは出来ない、という事実が判明している。
同様に仮想空間と思しき場所では、ミコバトへダイブすることは出来ないんじゃないか、という仮説は私も的を射たもののように感じられた。
それで言うと、体の試練はやはり仮想空間内で行われた試練だった説、というのが一層濃厚になったわけだけど。
まぁ、そんな話はともかくとして。
ニセ子の無事も確かめ、憂い事も晴れたのなら、心置きなく「次」を目指せるというもの。
「では、そろそろ行くとしようか」
なんてイクシスさんの声を受けたなら、皆の視線が一様にとある方向を向く。
それは他でもない、ハウスマスターの撃破直後に出現した、一枚の扉。
不思議と馴染みを覚えるのは、それがきっとボス撃破に呼応するよう出現したからだろう。
「ボスを倒して出てきたってことは、あの向こうにあるのは特典部屋かしら?」
「だったら嬉しいけどね!」
「ガウー」
「進んでみれば分かるぱわ!」
ぞろぞろと移動を始めるチームミコバトの面々。つい先程まであったシリアスな空気はすっかり払拭され、されども警戒を手放すことはなく。それでいて期待感も抱えながら、あれよあれよと扉の前までやってきた。
果たしてこの先に待つものは何なのか。というか、そもそもここって一体何なのか。
再訪した技の試練フィールドに隠されていた、正体の判らない場所。なればこそ、この先に何があるのか予想が難しい。
私たちは一頻り顔を見合わせると、一先ずいつものようにオルカとクオさんが罠や待ち伏せのチェックなどを行い、安全を確かめた。
彼女たちが太鼓判を押す。なれば扉を開けた瞬間大惨事! あ、オワタ。なんて事にはならないはずだ。
が、念には念を入れて盾を構えたクラウが扉を開くことに。彼女なら何が飛んできても大体大丈夫だから。
「では、開くぞ」
皆が頷きで応じると、真剣な顔で扉へ向き直り。そして、それをガッと開くクラウ。なんて思い切りの良さ!
しかし皆も流石は慣れたもの。警戒しつつも素早く部屋の中へ視線を走らせ、気配を探り、それでいて誰も迂闊に踏み込んだりはしない。
「……一先ず、目に見える脅威は無さそうだが」
「罠も大丈夫そう」
「と言うか、見た目には……特典部屋そのものですね」
聖女さんの言葉に、皆も改めて部屋の中を確認する。恐る恐る踏み込んで見れば、確かにその通りだった。
特典部屋。それはダンジョンの最奥に存在する、終わりの部屋。ダンジョンボスが倒されることにより出現する、冒険者に栄誉と実益をもたらす尊き場所。
ここは正に、そうした特典部屋そのもののように思えたのだ。
が、それが良く分からない。なぜダンジョンの特典部屋にそっくりな場所が、ここに現れる? 単に雰囲気が似ているだけか、はたまた……ここは、ダンジョンだとでも言うのか。
「特典部屋、ということはクリア特典が貰えるってことですか~?」
「まぁ、ハウスマスターほどの強敵を倒したのだ。何も無いということはないだろうが」
「あ。それで言うとドロップアイテムって確認した?」
「「!!」」
「ガウー」
「もしかして忘れてた?」
「し、仕方がないでしょ。浮ついてられる空気でもなかったんだし」
「多分ストレージに入ってる」
「なら、それも含めて確認が必要だな」
「スキルオーブ、ないしはスキルキューブを希望します!」
なんてこったい。まだ誰も、ハウスマスターがドロップしたアイテムについて確認していないと言う。
そりゃまぁ、色々驚くようなこととか、ショッキングなことの連続でそれどころじゃなかったっていうのも事実だけども。
しかし冒険者たるもの、お宝にはもっと執着したいところではあるね。私含めて。
それで言うと思い至った今こそが、諸々のお宝を確認し、検め、報酬と喜びを分かち合おうっていう醍醐味のような時間である。
果たして、ハウスマスターは散り際に何を残していったのか。そして特典宝箱の中身は何なのか。
早速確かめていこうじゃないか。
「っとその前に、隠し要素チェックだけはやらせてね」
「ミコトはブレないのぜ」
「手伝う」
宝箱を開ける前と後。何がトリガーとなって仕掛けが動作するかも分からない。ので、先ずはその仕掛けの有無を確かめようというのだ。
ギミックが作動した結果、何か大事なものが回収不可能になってしまう、なんてことも無いとは言い切れないからね。たとえお宝が目の前にあったとしても、注意深く行動したいものである。
が、時間制限付きの宝箱、なんてのも実際有り得る話。悠長にしている暇はない。
ということで、私たちはいそいそと特典部屋の中を隅々までチェックし、何かしら仕込みがされていないかをしっかりと確認したのである。
「……うん、特に何も無い」
「骨折り損ね」
「何も無いってことが分かった。それが大事なんだよ」
「ついでに宝箱の罠チェックも済ませた。安全だと思う」
「なら早速開けるぱわ!」
「一体何が入っているのです?!」
既に確保済みのドロップアイテムに関しては、後でゆっくりと確かめるとして。今は宝箱を優先したい。
開封に関しては、少し距離を取った上で、念力を使って蓋を開くという一番安全な開け方を採用。これなら毒ガスが噴射されようが矢が飛んでこようが、はたまた範囲指定型の魔法が発動しようが問題なく回避できるって寸法である。用心しすぎる、なんてことはないからね。
ってなわけで、僭越ながら私がカミカゼの念力を用いることで、特典宝箱の開封を行うことに。
皆が熱い視線を向ける中、ドキドキしながら上蓋を見えざる力でぐいと押し上げる私。
罠は……うん、やっぱり無さそう。
ホッとしたところで、いそいそと宝箱を覗き込む私たち。
思えばここまで、隠しボス撃破後は決まって、とんでもない報酬が用意されていた。その法則性に則るなら、今回もまたすごいものが準備されているのではないか。否が応でも期待は膨らむというもの。
一体何が仕込んであるものかと、ワクワクしながら中身を検めてみたなら、そこには……。
「これは……鍵、でしょうか?」
「しかもたくさん入ってますね~」
「他にはないぱわ?」
「……無さそう」
「そんなに高価そうな品にも見えないわね。同じものがたくさんあると特別感も薄いし」
「リリエラちゃんはすぐ文句言う……まぁ、今回はちょっと同感だけど」
「隠しボスを倒した割には……と言ったところか」
「まさか、ハズレアイテムなのぜ? そんなのってないのぜぇ!」
特典宝箱の底には、十数本の鍵。見た感じ質は良さそうだけど、かと言って豪華な装飾が付いているわけでもなく。売ってもそこまで高値がつくとも思えない。そんな何処のとも知れない量産品の鍵たち。
これが本当に、ハウスマスターを撃破したご褒美だというのか……なんとも言えない空気が、場に淀んだ沈黙をもたらすのだった。




