第一七八〇話 配られたスキル
ハウスマスターを撃破したことにより出現した、奥へ続く扉。
その先にあったものは、ダンジョンでお馴染みの特典部屋だった。
当然、特典部屋には宝箱があり。これを開いてみたところ、その中には質の良さそうな鍵が十数本。数えてみれば、ちょうど私たちの人数と同じ一四本が収められており。
困惑しながらも、一先ず一人一本ずつそれを手にした私たち。
しかしこれ、一体何なんだろう?
皆が首を傾げ、イクシスさんをはじめとした鑑定スキル持ちが早速調べにかかろうとする。と、それに先んじてハッとした表情をする者があった。
ソフィアさんである。
「感じます……このアイテムからスキルの気配を! これはもしや……むむむ!」
「また何か言い出したのです」
「だが、ことスキルに関して言えば、ソフィアの直感は侮れないぞ」
「ってことは、この鍵ってスキルに関係するアイテムなのぜ?」
「もうちょっと詳しい情報がほしいです~!」
ソフィアさんの様子に周囲がざわつけば、当の彼女はそれから間もなくして、カッと目を見開いたのである。しかも彼女の手の中では、鍵が淡く青白い光を放っている。
一体何事かと身構える周囲を余所に、ソフィアさんは驚きをそのまま口に出した。
「な、なんと……これは、スキルのダウンロードウィンドウ!!」
「「!?」」
どうやら彼女の目には、確かにそれが見えているらしい。事実、当人にしか見えないタイプのウィンドウは存在する。加えて、「ダウンロードウィンドウ」というのにも覚えがあった。
そうさ、私がへんてこスキルを得る際に何度か遭遇した、ちょっとメタっぽい特殊なウィンドウのことである。
どういうわけかソフィアさんの目の前には、今まさにそれが表示されているらしい。
鍵となるのはやはり、彼女が握っている鍵そのものなのだろう。一体何をしたのか、という点に関しても察しはつく。
アイテムの中には、使用を念じるだけで効果をアクティベート出来るものが存在しており。例えばスキルキューブなんかもその一つ。そして、私たち皆が同じく手にしているこの鍵も恐らくはそうした類いのアイテムであると考えられ。ソフィアさんは皆に先んじ、使用を試みたのだ。
その結果として、ウィンドウが出現した。つまりはそういう話だろう。
皆もそうした推察に至ったのか、各々が手の中の鍵へ視線を落とす。かと思えば、チラチラと周囲の仲間たちと視線を交わし。
警戒を懐きながらも、しかしこうしている間にソフィアさんは一足早くダウンロードを実行。先んじて何らかのスキルを手にするのだと思えば、最早いても立ってもいられなかった。
皆の鍵が、一つまた一つと輝き始める。使用を念じた証だ。
「ちょ、えー、大丈夫なの?」
「乗るしか無いぱわな。このビッグウェーブに!」
「ガウガウ!」
二の足を踏むのは最早少数派。それはたちどころに絶滅を危惧されるまで追いやられ、そして最後の一人となった私も結局は鍵の使用へと踏み切った。
握り込んだ鍵型のアイテム。それを使用せんと念じてやれば、皆のそれと同様に淡い光が灯り。
そして、目の前に現れたるウィンドウが一枚。
────────
プレイヤースキル【マイハウス】をダウンロードしますか?
YES/NO
────────
「!?」
表示されたその文言に、危うく腰を抜かしそうになる私。
場を飲み込んでいた驚きの波が引いていけば、その場に残ったのは困惑顔である。皆の表情には興奮とも戸惑いともつかない複雑な色が見て取れた。中には深く考えず、既にダウンロードを済ませているメンバーも居る様子。ソフィアさんとか。
っていうか、出来るの? ダウンロード。プレイヤー用スキルって書いてあるけど……。あるいは、皆には全く別のスキルが配られた可能性もあるか。実際のところどうなのか分からないけど。
一先ず、情報交換が必要だろう。
「なんか、【マイハウス】ってスキルをダウンロード出来そうなんだけど。みんなはどう?」
「なるほど、ミコトさんもですか。私もそうでした。既にダウンロードを終えましたが」
「早いって!」
「私も同じスキルだな。皆もそうなのか?」
クラウが問いかければ、全員が肯定を返す。ということはやはり、この鍵は【マイハウス】ってスキルを得るためのアイテムと見て間違いないのだろう。
しかしスキルオーブやスキルキューブの場合、ウィンドウなんて現れずに直接スキルの獲得って流れになるはずなのだけど。今回は一度ウィンドウでダウンロードを行うって工程が挟まってる……これはどうしてなんだろうか?
やっぱりプレイヤー用スキルだから、特殊な仕様が設けられてるってこと? てか、みんなにもプレイヤー用スキルって得られるものなの? ソフィアさんは既にダウンロードしたって言ってるし。正常に扱えるのかな? 仮にそうなら、「プレイヤー」の定義とは一体……。
てか、要するにそれって「へんてこスキル」だよね。とうとう皆もそれを獲得する機会を得たってこと? だとしたら結構な一大事だ。ハウスマスターほどの相手を倒して得られた報酬には、確かに相応しいのかも知れない。
それで問題は、全員でダウンロードしてしまって良いものか、というところ。スキルの内容だとか、皆は本当にそれを扱えるのか、というのも気にはなるけど、万が一これが罠の類いだったとしたら、敢えて使用を控え様子見を行うメンバーを残しておいたほうが、リスクの分散にはなるだろう。
が、いかんせん【マイハウス】だなんて魅力的に過ぎる釣りエサ。これが食いつかずに居られようかってなものである。
だってマイハウスって言ったら、アレじゃんね。ネットゲームなんかではよくある、自分だけの部屋。別名「マイルーム」とも呼ばれるやつ。
それをへんてこスキルとして出してきたってことは、きっとそれっぽい何かが用意されてるはず。
め、メチャクチャ気になるんですけど……!!
などと私がダウンロードするべきか否かと葛藤し続けていると。不意に異変は生じたのである。
パッ、と。突然ソフィアさんの姿が何処かへ消え去ってしまったのだ。まるで己をPTストレージにしまったかのよう。
ギョッとして皆が見回し、更にはストレージの中を探したり、魔力通話で呼びかけたりもするけれど、一向に反応はない。
念話と異なり【魔力通話】のスキルは、効果範囲が限られるという点に少々の難がある。が、裏を返せば「ソフィアさんは通話の届かない場所に居る」という証明にもなるわけで。
一体何処に姿を隠したものかと、皆が困惑を顔に浮かべる中。私だけは強い予感を覚えていた。
「まさか……マイハウスに転移した?」
「? ミコトちゃん、何か心当たりがあるのか?」
問いかけられ、私は素直に予想を口に出す。
マイハウスというスキルの正体。それは「自分専用の家、或いはそれの存在する空間」に転移することが出来るスキルではないか、と。
だからソフィアさんは、【マイハウス】のスキルを皆に先んじて使用し、自分だけの空間へ移動した。結果としてこの場から姿が消えたのだと。そのように推論を告げた。
すると、皆からは様々な声が返ってくる。
「確かに、【マイハウス】を得た瞬間、理解できた使い方と相違はないわね」
「つまり、野宿で困らなくなるスキルってことぱわ? 山籠りし放題ってことぱわ?」
「ダンジョンにだって幾らでも籠もれそうなのぜ!」
「ガウガウラ!」
「ぐぬぬ、ソフィアさんばっかりずるいのです! ココロも早速使ってみていいですか?!」
「いや待て待て、せめてソフィアが戻ってくるのを待ってからだな……」
「本当にマイハウスに行ったのなら、多分しばらくは戻ってこない。ソフィアだから」
「説得力しかないですね……」
ますますマイハウスへの期待と評価は高まり、本当に予想通りのスキルだとしたら便利なことこの上なしと、誰もが目を輝かせ鼻息を荒くした。
が、それでもこれが安全なスキルかどうか、というのは確かめるべきであり。そのためにも出来ればソフィアさんから話を聞きたいところではある。
けど、オルカの指摘通りスキル大好きソフィアさんの帰りを待っていたのでは、どれだけ時間が要るかも分かったものじゃない。
っていうか、マイハウス側から元の場所に戻ろうって際、もしも選択できるのが「元いた場所」に限られるのだとしたら、どのみちソフィアさんが出てくるのをじっと待っていなくちゃならないのだろうか。皆でこの場を離れた場合、ソフィアさん一人を置き去る形にもなりかねない。それは正直、リスキーとしか言いようがない。
こんな時念話が通じたら、と歯がゆく思うも無い物ねだりをしたって仕方がないだろう。
問題なのは、ソフィアさんを待つ間、皆が大人しくしていられるかって部分。猛獣の鼻先に生肉を置いて、我慢しろと命令するようなものだもの、きっと無理だろう。
ってなると、ベターな案としては……。
「きっとしばらく戻ってこないソフィアさんに代わって、マイハウスの調査をしてくれる人員を募るべき、かも知れないね」
要は調査任務だ。危険が伴う可能性もあるが、調べてみなくちゃ仕方がないという側面も否めず。であれば虎穴に飛び込む人員を募集し、そのメンバーにお願いするのが合理的なように思えた。どのみち既にソフィアさんは入っちゃってるわけだしね。
ちなみに、ステータスウィンドウのPT欄に彼女の名前はちゃんとあり、ダメージを負った様子もないため最低限の安全は保証されていると見て問題ないはず。
ってなわけで、マイハウスに行ってみたいメンバーはいるかと問いかけてみたところ。
まぁ……めっちゃ手が挙がったよね。
そんなこんなで私たちは、マイハウスについて調査を開始したのである。




