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未定  作者: 苺タルト
5/7

第5話


翌日の日曜日。

啓輔は仕事にでかけていた。

母も朝から父とデートにでかけている。

明日香は、部屋でパソコンに向かって小説を書いていた。

恋愛ものを書きたいわけじゃないのに、今の複雑な気持ちが文章に出てしまう。


“好き”って気持ちは同じなのに、大きな壁が立ちはだかる。

彼は、そんなの怖くないという。

でも、主人公はその大きな壁を越える勇気がない。


なんでないんだろう?

“従兄弟”なら付き合ってもOKなはず。

結婚だってできたはず。

あたしは、何が怖いの?


手が止まってしまった。

そばにおいてあるケータイが鳴った。


“大地”


「もしもし。」

『おぅ、忙しいか?』

「全然。」

『そっか。どっか行かないか?』

「どこに?」

『そうだな・・・考えてなかった。』


明日香は思わず吹き出してしまった。


「なにそれ。」

『ごめん。』

「映画でも見に行かない?今書いてる本でかなり煮詰まってるの。」

『久しく行ってないな。賛成。仕度できたら家の前で。』

「OK。」


明日香は急いで支度を始めた。

20分くらいで外にでると、ちょうど大地も外に出てきたとこだった。


「さすが、大地。」

「何年一緒にいると思ってるんだよ。」


大地といて楽なのはそこである。

気を使わなくていい。

明日香も大地も、お互いの行動パターンをわかっているから“支度できたら家の前で”で済んでしまう。


「車で行く?」

「じゃぁ、俺が運転するよ。」

「うん。」


今日は助手席。

大地も運転できるから、たまに大地の運転ででかける。


「出発。」

「GO!」


BGMはなぜか“アニソン”。


「つかもうぜっ!ドラゴンボール!」


こんな感じ。

30分のドライブで映画館に到着。

お互い見たい映画も一致していたから、次の回の席をリザーブして時間潰しにブラブラすることにした。


大地は、家具を見るのが好きである。

家具売り場行っては、一人暮らししたら・・結婚したら・・こんなん買う、あんなん買うと言っている。


「その前に相手いるの?」


と、明日香は必ず聞く。

今日も同じことを言ったが、大地の返答はいつもと違った。


「明日香の返事次第だな。」

「え・・・」

「俺がいつも口にしてる“結婚したら”の相手は、明日香だよ。まっ、希望だけど。」


大地は笑って言った。

黙ってしまった明日香の頭をポンと軽く叩いて、

 

「難しく考えんなよ。いつもどおり楽しく行こうぜ。」

「うん。」


中学生のとき、大地に恋したきっかけになったのは、凹んでる明日香に、頭にポンって手を乗っけて「大丈夫。」って言ってくれたときだった。

大地はいつも明日香のそばにいた。

どんなときでも、なんかあればすっとんできた。

だから明日香は、両想いだと思っていた。

でも、“姉貴みたいなもんだよ”と言った大地の言葉は、明日香の自信をひっくり返した。

高校入るまで口きいてなかった大地とも、少しずつ話すようになったのは、クラスに同じ中学からの友達がいなかったからだ。

またいつものように大地はそばにいるようになった。

でも、明日香の中に“大地への恋心”は完全にしまってしまった。

“友達”“幼馴染”へと・・・。


こうして“友達”としてスタートして6年。

今になって告げられた大地のキモチ。

あのとき両想いだった事実。


でも、明日香の気持ちが啓輔に向いている。

だからといって、大地との関係が壊れるのも嫌。


「それにさ、たとえ明日香が従兄弟を選んでも、俺は明日香のそばにいるしな。」


大地ははにかんで言った。


大地はこういう奴だ。

だから好き。


「ストーカー?」

「そうそう!って、おぃ!」


ゲラゲラ笑いながら家具売り場を歩いた。


開場の時間になって、二人はポップコーンとジュースを買って席に着いた。

物語りは、悲しいラブストーリーだった。

泣きっぱなしの明日香の手を大地はそっと握った。


「らしくないことすんな。」


明日香はグシャグシャの顔でかわいくないことを言うと、


「明日香の泣く顔は得意じゃないんだ。」


大地はボソッと言った。


「泣かされてるわけじゃないのに?」

「うん。」

「なるべく頑張る。」

「いいよ。この映画グッとくるもん。泣けるってことは素直な証拠だろ。」

「どっちよ。」


映画館を出ると、あたりはすっかり暗くなっていた。

歩道をイルミネーションが彩っている。


「なんか食ってく?」

「うん、どちらでも。」

「一度帰って、歩いて飲みに行くか?」

「それ賛成!家で飲んでもいいし。」

「じゃ、コンビニ寄って帰るか。」


二人はコンビニでお酒とつまみを買って明日香の家に帰った。

啓輔はまだ帰ってないようだ。


「あらおかえり!大地くんと一緒だったの。」


母が出迎えてくれた。


「うん。これから飲むの。」

「おばちゃん、お邪魔します!」

「ゆっくりしてってね。」


明日香の部屋に入ると、


「従兄弟はまだ?」


大地が言った。


「みたい。なんで?」

「いちを気にしてんだよ。闘志燃やされても困るしさ。それに、言ってやりたいんだ。

俺は身は引かないけど、お前らを応援するぞって。」

「大地、言ってること矛盾してる」


明日香は笑って言った。


「つまり、明日香が幸せならいいんだよ。さぁ、飲むべ。」


大地は買ってきたビールを開けて飲み始めた。


「ふ〜ん」


明日香も続いてビールを飲んだ。



啓輔の帰りは明け方になっていた。

明日香の部屋が明るかったから、啓輔はノックして明日香の部屋に入った。

すると、明日香の部屋に大地がいた。

二人とも、酔っ払って寝てしまったようだ。

床に座ってソファを背もたれにして二人は寄り添うように寝ている。

啓輔はたまらなくムカついた。

人の気配を感じてか、大地が目を覚ました。


「やべっ寝ちゃった。」


振り返ると、啓輔が立ったまま固まっていた。


「おかえり。お邪魔してます。」

「何してんですか?」


ちょっと声が荒くなった。


「怒るなよ。明日香と飲んでて気づいたら寝てたんだ。悪いな、驚かして。今帰るから、明日香のこと頼む。」


大地は立ち上がって、啓輔の肩をポンと叩いた。


「俺、明日香が好きなんです。大地さんは、明日香のことどう思っているんですか?」

「俺?啓輔くんは気づいてるんじゃないのか?俺もすぐわかったし。」

「じゃぁ、やっぱり。」

「俺はこのままだっていいよ。明日香が啓輔くんを選んでも笑っててくれるならさ。そりゃぁさ、誰にも渡したくなよ。でも、明日香が幸せならいいんだよ。もう、泣いた顔は見たくないんだ。だから、二人が付き合うんなら応援する。身は引かないけどね。今までだってそうしてきたんだ。」


大地は笑って言った。


「大地さん。」

「だから、明日香を泣かせないでくれよ。」


大地はそう言い残して帰っていった。

啓輔は明日香を抱き上げてベッドに寝かせた。


「明日香、重たい・・・」

「う〜ん・・・」


啓輔は、明かりを消して部屋を出た。


大地さんは振りたくて振ったわけじゃなかったんだ。

その後、明日香が他にどんな奴と付き合おうが大地さんはずっと明日香のそばにいた。

ずっと明日香を見ていた。

ある意味、最強の恋敵・・・

明日香を想う気持ちは、もしかしたら俺以上かもしれない。


啓輔は思うのだった。



翌朝起きると、明日香はすでにでかけていた。

啓輔も、すぐに仕事にでかけなくてはならない。

明日香の母の用意した朝ごはんを食べて、ビックスクーターで都内のスタジオに入った。

楽屋に入ると、母から着信が入っていた。

折り返すと、


『いつまでそっちにお世話になるつもり?

もうすぐ映画の撮影に入るんだからこっちに帰ってらっしゃい!』


いつになったら子離れすんだ?

そろそろ帰らなきゃ、かぁさんがうるさいな。


収録が終わって、明日香の家に帰ると、お風呂から上がった明日香がビールを飲んでいた。


「おかえり!」

「ただいま。」

「ベッドにいれてくれたんだってね、ありがとう。」

「おぅ。」

「お風呂入っちゃえば?いいお湯だよ。」

「そうするよ。」

「うん」


明日香はビールを持って部屋に入ってった。

啓輔は、荷物を置いてお風呂に入りビールを持って明日香の部屋をノックした。


「一緒に飲まない?」

「いいよ。」


啓輔は、明日香の部屋に入ると、ソファに座った。


「昨日、大地さんと一緒だったんだね。」

「そうなの。映画見に行ってた。」

「そっか・・・」

「・・・ごめん。」


明日香は落胆する啓輔を見て慌てて言った。


「いや・・・なんで謝るの。」

「えっとぉ・・・なんとなく。」


啓輔は、明日香を抱きしめた。


「明日、自分ち帰るよ。かぁさんが帰ってこいって。もうすぐ映画の撮影入るしな。おばちゃんにも世話かけちゃうし。」

「そっか。うちのことは全然気にしなくていいけど、仕事じゃね。」

「合間にデートしよ?ご飯食べたり、買い物したり。」

「うん」

「大地さんとは・・・なんもなかったの?」

「なんもって・・・啓輔、大地はそんな奴じゃないよ。今までだって何度もここに泊まってるし。

啓輔が心配になるのもわかるけど、それは信じて。」

「ごめん・・・」


明日香が怒るのわかってて聞いた。

聞かずにはいられなかった。

一日中二人でいて、同じ部屋で飲んでて、なんもないに決まってると自分で決め付けることができなかった。


「明日姉?」

「ん?」

「キスしてもいい?」


明日香はしばらく返事しなかった。


「いいよ。」


うつむいたまんまボソッと言った。

啓輔は明日香に近づいてキスをした。

長い・・・長いキスだった。

啓輔はなかなか離さなかった。


「啓・・輔」


明日香は啓輔から無理やり離れた。

このまま続けたら、押し倒しかねないと思った。


「離れたくない。」

「啓輔」

「大地さんに誘われれば、いつもどおりに一緒にでかけるんでしょ?」


凄い不安そうな顔をする。


「あたしは、大地とは今まで通りの付き合いしてくつもりよ。」

「そうだよな。無茶言ってごめん。」

「ううん。大丈夫。デート楽しみにしてるね!」

「ん。休みできたらすぐ連絡するよ。」

「うん。」



翌朝、啓輔は実家に帰っていった。

もう、付き合ってるに等しいよね。

明日香は思った。

それを大地に話すと、


「そっか。やっぱし啓輔くんの方選んだか。まっ、俺は諦めるつもりもないし、これからだって、今まで通り明日香のそばにいるつもり。覚悟しとけ!」

「覚悟も何も・・・(笑)今までだってそばにいてくれたじゃん。急によそよそしくされても困るし。今まで通りいこうよ。啓輔のこと好きだけど、大地との今の関係が壊れるのもイヤなの。

わがままでごめん。」

「いいよ。過去振り返ってもしかたないけど、あんとき堂々と“俺は明日香が好きだ”って言ってれば、今ごろ結婚してただろうなって思う。でも結局、啓輔くんが現れて略奪されたりしたかもしんないな。あんときの俺の勇気のなさの結果が今なのさ。」

「どこまで妄想?」

「明日香と一緒で妄想癖なんだ(笑)」



啓輔から映画の撮影は順調だとメールがきた。

なんでも、1ヶ月という短い期間で撮るらしく、毎日遅くまで撮影があるらしい。

その撮影が終わって、ようやくできた休みで会うことになった。

久しぶりの啓輔は、髪型が変わっていた。


「かっこいいじゃん。」

「ありがと」


映画をみたり、お茶したり・・・

楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

啓輔のバイクで家まで送ってもらった。

バイクの後ろに乗るのは初めてだった明日香。

すごい気持ちがいい。

今度はバイクの免許でも取ろうと思ったくらいだ。


「ごめんね、送ってもらっちゃって。」

「いいよ。1分でも長くいたいじゃん。」

「そだね。」

「また連絡する。」

「うん。」


啓輔は、明日香を抱き寄せた。


「撮られたら大騒ぎだよ。」

「俺はかまわない。」

「俺はよくても、芸能人としての啓輔は?おばちゃんは?」

「わかったよ。」


啓輔は明日香を離した。


「またね!気をつけて帰るんだよ。」

「おぅ!」


啓輔はバイクを発進させて帰って行った。

そんなデートを何回か繰り返して半年が過ぎた頃、明日香の消えた記憶がよみがえる事が起きた。

明日香がバイトから帰ると、母が心配そうに出迎えた。


「明日香。」

「どしたの?」

「ゆかりさんが来てるのよ。明日香が帰ってくるのずっと待ってるの。

用件も言わずにただジッと。」

「え?」


ゆかりさんとは、啓輔の母である。

明日香はそのまま居間に向かった。


「こんばんは、なんかお待たせしちゃったみたいで。」

「あら、おかえりなさい。いいのよ、気にしないで。こっちが勝手にきて待ってたんだから。」


啓輔の母はいつもと変わりはないように思えた。

でも、自分に用あって随分と待っていたようだから、ただ事じゃない。


「で、用って?」

「明日香ちゃんにいいお話があるのよ。」


そう言って、一枚のA4サイズの封筒を出した。


「エリート商社マン年収1000万で28歳で次期社長。親のすねかじって生きてるようなバカ息子ではないの。自分で入社試験受けて自分の力で今の地位に上った頑張り屋。どうかしら?」


お見合い写真を見せながら、セールスレディのような口ぶりで話す。


「どうかしらって、つまりお見合いですよね?」

「そうよ!もう、1回や2回お見合いしたっていいんじゃない?」

「はぁ。でも・・・」

「だってお隣の彼とは付き合わないんでしょ?」

「ええ。」


 なんで大地がでてくんだ?

 

「おばちゃん・・・」

「何?」

「はっきり言ってよ。啓輔のことでしょ?」

 

少しだけ沈黙が流れた。

 

「そうよ・・・啓輔に女の影があるから調べたら、明日香ちゃんだったの。」

 

啓輔の母の目つきが変わった。


このところ、啓輔の口から“明日香”の名前を聞くことが多くなった。

そして、たまの休みで必ずでかけてしまう。

ゆかりは女が出来たと、調べさせたら相手の女が明日香だとわかった。

たとえ明日香でなくても、啓輔に女の影はあってはならなかった。

ゆかりは密かに所属している事務所の社長の娘、“きらら”との縁談を進めていた。

啓輔のことは期待してくれてるが、一人娘の旦那となればなかなかイエスと言わなかった。

幸運なことにきららが啓輔を気に入っていたから、あと一押しと踏んでいた。

ここにきて、啓輔の大好きな明日香が啓輔に向いているとなれば、二人はくっついてしまう。

そもそも、年末年始の集まりに啓輔を連れて行ったことから狂いだした。

もう90歳になろうとする啓輔の祖父に会わせたくて行ったが・・・。

啓輔も10年ぶりにみんなに会いたいとその年は頑張っていた。

でも、あの二人を再会させるんじゃなかった・・・

スケジュールを入れておくべきだったと、ゆかりは後悔した。

結婚秒読みか!と言われたお隣の彼“大地”とはくっついていない。

大地が駄目ならと、お見合いの話しを持ってきたのだ。


「あのコはね、尋常じゃないお金と時間がかかってるの。やっと掴んだ主演で、女の影、しかも明日香ちゃん。どういうこと?あのホームでの約束は忘れたの?」


ホームでの約束・・・?


「待って、おばちゃん、約束って何?ホームって啓輔が東京に行く日のことよね?あたし、あの日の記憶がまったくないの。」

「明日香ちゃん、覚えてないの?」

「うん。その日だけぽっかりと穴が開いたように・・・」


明日香の言葉に一瞬うろたえたが、ゆかりは静かに話し始めた。


「あの日、啓輔は明日香ちゃんにプロポーズしたわ。啓輔が明日香ちゃんのこと好きなのは知ってた。兄弟として慕ってるって思ってたの。でも、まさか結婚まで考えてるなんて思いもしなった。明日香ちゃんと離れずに芸能活動できないのか散々聞かれたわ。10歳の啓輔は明日香ちゃんに本気だった。しかもあなたは、うんって言ってしまった。だから慌てて自販機にジュース買いに行く振りして明日香ちゃんを呼び出して・・・。」

「呼び出して?」

「啓輔は将来期待されてる卵。大物になった啓輔は明日香ちゃんに言ったことを忘れてしまう。言い方悪いけど、明日香ちゃんの存在はこれからの啓輔にとって邪魔なの。啓輔の夢を壊さないで。ごめんね・・・って・・・。」



一気に12歳だった明日香の記憶がよみがえった。

そう、おばちゃんに言われて、将来有望視されている啓輔のために自分は啓輔を忘れなきゃなんない。

おばちゃんの口調は穏やかだったが、目は真剣そのもので、威圧感さえ感じた。


啓輔のために・・・


必死で言い聞かせた。

それが明日香の胸に深く傷つけていた。


“邪魔になる”


啓輔の邪魔はしたくない。

明日香はそっとその出来事を胸の奥の奥の隅に閉まってしまったのだ。


一方、ゆかりも明日香が思った以上に傷ついてしまっていたことを知った。

でも、全ては啓輔のため。

自分のため。

ゆかりは明日香に頭をさげた。


「お願い・・・啓輔の邪魔しないで。啓輔がここまでなるのに、いろんな仕事してきた。お水だって風俗だってやったわ。男騙してお金作ったことだってある。全部啓輔のため。啓輔は、まだ先があるの。これからなの!もう、私じゃ使いもんにならない。だから、これからのために啓輔は結婚するの。」

「え?」

「啓輔はね、事務所の社長の一人娘との縁談が進んでるの。だからお願い・・・邪魔しないで。普通に考えればわかるわよね?明日香ちゃんと啓輔が恋仲なんて周りが許さないことくらい。啓輔の方が明日香ちゃんに夢中なら、明日香ちゃんから振ってほしいの。」

 

 

この短時間で啓輔の母はやつれて帰って行った。

そんだけ啓輔への思い入れが半端ないのであろう。

啓輔の母が置いていった、お見合い写真。

 

「明日香、大変なことになっちゃったわね。」

 

母はコーヒーを入れて明日香にだした。

 

「ごめん・・・かあさん。」

「謝ることないわ。おかあさんも啓輔くんの気持ち知ってたから。明日香といるときのあの啓輔くんの楽しそうな顔。おかあさんは明日香が啓輔くんを選んだことは間違いじゃないって思ってる。だって好きなんでしょ?」

 

明日香は黙って頷いた。


「お見合い・・・したほうがいいのかな。」

「おかあさんは、明日香には好きな人と結婚してほしいな。」

「かあさん・・・」

「おかあさんもね、お父さんとは縁談なの。好きだった人と一緒になれなかった。」

「イヤじゃなかった?」

「そりゃぁ、好きじゃない人だしね。でも、一度だって不幸だって思ったことないの。お父さんとっても優しい人でね。愛情を押し付けたりする人じゃなかったの。」

「そうだったの・・・」

「だから、明日香には普通の結婚してほしいなぁ。明日香が幸せなら啓輔くんだっていいと思うの。よく、考えなさい。」

 

母はそう言うと、夕食の支度を始めた。

 

あたしが身を引くことが、啓輔のためになるのか・・・?

啓輔の母の苦労が、絶対啓輔のためになっているとは思えない。

でも・・・

 

明日香のため息は増える一方である。

 

「明日姉、元気ないね?」

「そう?そんなことないけど。」

「ため息ばっか。」

「ゴメン。」

 

啓輔の母が来てから数週間後のデートの日。

明日香の頭はもうパンク寸前だった。

 

「今夜、明日姉の家行ってもいい?」

「え?大丈夫なの?」

「何が?」

「やっ、えっとぉ・・・」

「やっぱ変だなぁ。なんかあった?」

「ないってば!ほら、おばちゃんに言われないの?外泊なんかして。」

「あぁ。明日姉の家でもうるさいんだよな。」

「あることないこと書くのが記者だから。」

「まぁな。俺は別に撮られてもいいけど。」

 

啓輔は良くても・・・

なんだけどね。

 

明日香と啓輔は、啓輔のバイクで明日香の家へと帰った。

 

「あれ?かあさんまだ帰ってないんだ。」

「どっか行ってるの?」

「うん、同窓会。」

 

高校時代の同窓会があると言って、嬉しそうに出かけて行った。

もしかしたら・・・一緒になるはずだった彼と飲んでるのかもしれない。

高校時代の同級生だったらしい。

 

 

「お風呂入ってきちゃってもいい?」

「いいよ。」

 

明日香は部屋に入るなり、バスタオルを持ってお風呂に行った。

啓輔は、漫画でも読んで待っていようと、明日香の本棚を物色した。

紙の束を見つけて、引っ張り出してみると、バサッと何束か床に落ちてしまった。

急いでかき集めると、紙の束とはかけ離れて違う物があった。

誰が見ても“お見合い写真”

啓輔は恐る恐る開くと、見知らぬ男性が写っていた。

そこにカラスの行水の明日香が戻ってきた。

 

「啓輔も入る?」

 

部屋に入ると、啓輔の母ゆかりが置いていったお見合い写真を開いて啓輔が固まっていた。

 

「啓輔・・・」

「何・・・?これ・・・」

「・・・」

「お見合い・・・すんの?」

「・・・わからない。」

「だから、様子おかしかったんだね。」

「・・・」

「なんで・・・お見合いなんて。」

「薦められたからよ。」

「なんで断んないんだよ!」

 

明日香は答えなかった。

なんで・・・?

 

「俺じゃダメってこと?」

 

明日香は首を横に振った。

 

「じゃぁ、なんで!」

「啓輔のためよ。」

「え?」

「社長の娘さんと、結婚の話しがすすんでるんでしょ?」

「え?なんだよそれ。」

「やっぱり・・・啓輔知らないんだ。」

「なんのことだよ。」

「おばちゃん、啓輔の先のこと考えて、社長の娘さんとの縁談が進んでる。」

「俺そんなこと知らない。俺は、明日姉と一緒にいたい。」

「この10年、啓輔のために必死になってきたおばちゃんの気持ちわかる?この先だって、啓輔には輝いていてほしいのよ。でも、もうおばちゃんにはそんな若さは残っていない。だから・・・」

「じゃぁ、俺のキモチは?」

 

明日香は黙ってしまった。

俺の気持ち。

そんなことは明日香にだってわかっていた。

 

「明日香・・・」

 

啓輔は明日香を抱きしめた。

 

「なんとかするから、誰かのとこに行こうなんて考えないで。」

「啓輔は成功しなくちゃなんない。」

「確かにかあさんのおかげだよ。今までこうして演技やってこれたのは。でも、今あるのは、明日香がいたからだよ。」

「啓輔。」

 

啓輔は明日香にキスをした。

そのままベッドに押し倒すと、明日香の髪をなでた。

 

「啓輔、ダメ・・・」

「一緒になろ?もっと好きになるから・・・」

 

啓輔は切なげな瞳で言う。

頭では駄目だとわかっていても、明日香の体は拒否しなかった。

 

啓輔の寝息が聞こえると、明日香はそっとベッドから出ようとした。

でも、啓輔は明日香を離さなかった。

ほんとに寝てる?

すると、啓輔はボソッと寝言を呟いた。

 

「明日香・・・どこにも行かないで・・・・離れてかないで・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

すすり泣くようにも聞こえた。

どうやって嫌いになれって言うのよ・・・

明日香は思った。

 

 

翌朝、啓輔は明日香の職場に送ると、真っ直ぐ家に戻った。

 

「啓輔帰ったの?あんまり遊びすぎて風邪でもひいたら・・・」

 

ゆかりは、啓輔の形相に固まってしまった。

 

「どういうことだよ、社長の娘と結婚って。」

「明日香ちゃんに聞いたのね?」

「明日香に俺と別れるようにお見合い写真渡したのも。」

「えぇ。」

「なんでっ!」

 「啓輔のためよ。ここで浮かれてたら駄目。この先の俳優人生のためにあなたは結婚するべきよ。」

「俺は明日香が好きなんだ。」

「結婚でもする気?」

「あぁ、俺は考えてる。」

「明日香ちゃんのことなんにも考えていないわね。」

「え?」

「周りが許すと思うの?回りから変な目で見られて辛い思いするのは明日香ちゃんなのよ。啓輔ひとりだけの問題じゃないの!」

 

俺は、自分の気持ちばっか押し付けて、明日香の負担や将来のことを考えていなかった。

自分の未熟さ、身勝手さに、怒りがこみ上げていた。

 

「啓輔?一度、社長の娘さんに会って。あなたのこと気に入ってくれてるのよ。

 明日香ちゃんのこと好きなのはわかるわ。でも、絶対明日香ちゃんと啓輔が幸せになるとは思えない。」

 

啓輔は部屋に戻ってベッドに寝転がった。

 

俺の幸せ・・・

明日香の幸せ・・・

俺と一緒になっても明日香が幸せじゃなかったら・・・

明日香は俺の将来のためにお見合い写真を受け取った。

じゃぁ、明日香の幸せのために俺は社長の娘と結婚するべきなのか?

違う・・・二人とも幸せじゃない。

誰のためにもなっていない。

どうしたらいいんだよ・・・。

 


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