第3話
「はい、これ。」
明日香はサブデカのDVDを渡した。
「サンキュー。新年早々、暇でさぁ。」
「ご両親は?」
「二人で仲良くハワイ行ってる。」
「おいてかれたの?」
明日香は笑いながら言った。
「そぅ、おいてかれたの。笑うな。」
大地はむくれて言った。
「さっきは、なんか寂しかった。」
大地は続けた。
「何がょ?」
「従兄弟の話し。こんだけ一緒にいてまだ知らないことあったんだって。」
「あたしの全て知ってどぉすんのょ。」
明日香は笑った。
「いろいろとなぁ。腐れ縁だと思ってるから。」
「確かにね、行く高校もクラスもバイトも偶然一緒だし。」
「俺がサッカー部に入ればマネージャーとして入ってたし。」
大地は懐かしそうに言った。
「これからもこんな感じなのかね?うちら(笑)」
「俺は変えたいけど?」
「ん?」
「いい。じゃぁ、そろそろ帰るわ。」
大地は腰をあげた。
「夕飯も食べてけば?」
「いいよ、従兄弟もきてるんだし。」
いつもなら遠慮なく食べていく大地が、遠慮した!
「めずらし。」
「バイトの帰りでも、新年会しようぜ。」
「そうだね!じゃ、また。」
「おぅ。」
大地は母に「ご馳走様!」と言って帰っていった。
「あら、もぅ帰ったの?」
母が驚いて言った。
「うん、夕飯食べて行けばって誘ったけど食べてかないって。どーしたんだろ?」
「気を使ったのよ。啓輔くんがきてるから。」
「意味わかんないし。」
「一人で居間にいるわよ。小さい子の相手してる。」
そっか。
年が近い啓輔に気を使ってくれたんだ。
周りは小さい子ばかりだもんね。
明日香は居間に行った。
すると、楽しそうにちびっ子と遊ぶ啓輔がいた。
若干疲れているようだ。
「啓輔、なんだか楽しそうじゃない。」
「バカ、めっちゃキツいって!明日姉も参加しろよ。」
「よーし!交ざっちゃおうかなぁ〜」
明日香は子供たちの輪に飛び込んだ。
しかし、10分もしないうちにぜぇぜぇと息が上がっていた。
「平気かょ。」
啓輔は言った。
「平気じゃない…違うのやろう?カルタとか!」
明日香は言った。
新年の宴は今夜も行われた。
明日香も啓輔も軽く飲んで、部屋でDVDを見ながら飲み直すことにした。
「何みたい?サブデカは貸しちゃったし。」
明日香がDVDをあさりながら言った。
「宮崎遅男のはないの?癒されたい。」
「ビールにトロロ?…いいかも!魔女の宅配便もあるょ。あとソウルの動く家。」
「ソウルがぃぃ。」
明日香はソウルのDVDを取り出し再生した。
魔法使いと魔法にかけられおばあちゃんになった普通の少女の恋のお話。
ビールを飲みながらまったりとした時間が流れた。
「いいね、こんな恋も。」
明日香が言った。
「だな。明日姉はしてないの?」
「してない。」
「俺はしてるよ。」
「へぇ!どんな!」
「ずっと想ってる人でさ、そんときの俺にはまだその人守ってやれるだけの力がなかったんだ。守ってやれるだけの男になったら必ず会いに行こうって決めていたんだ。」
「ステキな話しね。」
「だから今年会いに来た。」
啓輔は明日香を見た。
「素敵!いつ会いに行くの?」
明日香の目がらんらんしている。
「目の前にいる。」
「え?」
状況がまったくつかめていない明日香。
「俺の初恋の人は明日姉なんだ。」
少し間が開いた。
啓輔が何言ってるのか理解するのに時間がかかった。
「酔ってる?」
「少し。」
「じゃ、おふざけとして聞いておく。」
「ステキな話しだって言ったじゃねぇかょ。」
啓輔はむくれた。
「その相手がなんであたしなのよ。」
「明日姉なものは明日姉なんだよ。」
「うちら身内同士じゃない。」
「それが何んだよ?」
マジか・・・?
啓輔おかしくなっちゃった!
「この酔っ払い。」
明日香は啓輔のほっぺをつねった。
「痛てっ」
明日香の手首を掴み、押し倒した。
「ちょっとっ、啓輔!やめて!」
明日香は顔を真っ赤にして怒った。
「従兄弟だったら問題はないはずだぞ。だけど俺は、明日姉を女としか見たことない。」
啓輔は明日香を真っ直ぐみつめた。
「俺本気で言ってるよ。だから本気で聞いてよ。」
「啓輔。離して…」
「明日香っ!」
啓輔の声が大きくなると、明日香は涙目になった。
啓輔は掴んだ手を離した。
「ごめん。」
啓輔は言った。
起き上がった明日香は目に溜まった涙を拭った。
「俺は明日姉を好きになっちゃいけないの?好きになった女が従兄弟だっただけじゃないか。」
啓輔は肩を落として言った。
明日香は何も答えなかった。
鼓動が速くなっている。
おかしぃ。
初詣の時といい、なんなの?
「俺、もう寝るわ。」
啓輔は、残ったビールを持って部屋を出た。
明日香はソファーに座ったまま自分に芽生えている感情がなんなのか考えていた。
初恋があたし?
でも、なんか・・・思い出せそうで思い出せないことがあるような。
楽しい光景。
ここは原っぱだ。
誰かと追いかけっこしている。
あっ、転んだ。
「明日姉、大丈夫?」
誰かが手を差し延べている。
誰かさんの顔は?
誰かさんの手は大きくて温かい。
記憶にある感触…。
見上げると逆光でよく見えない誰かが微笑んでいる。
誰?
誰かの頭で差し込む光が消えると、啓輔がいた。
「明日姉!」
ぱっと目が覚めるとカーテンの隙間から光が差していた。
「朝…。」
1月2日。
掛けた覚えがない毛布がかかっていた。
ママかな。
てか!啓輔にどんな顔で会えばいいの?
夢にまででてきちゃったよ。
広い部屋で明日香は独り言をブツブツ始めた。
“トントン”
ノックの音でいったりきたりしていた明日香の動きがピタッと止まった。
「はぃ。」
ドアが開き、啓輔が顔を出した。
「おはよ。朝飯だよ」
必死で悩んでいた明日香に比べ、何事もなかったようにいつも通りに話してくる啓輔。
「う、うん。」
「どしたの?横断歩道の信号みたいなポーズで。」
啓輔は笑って言った。
「えっとぉ〜、寒いから歩き回ってたの。」
慌てて言ったものの、腹抱えて大笑いしている啓輔。
「笑いすぎ!」
明日香はむくれた。
「ねぇ、でかけない?」
啓輔が言った。
「どこに?」
「横浜あたり。買い物付き合ってよ。」
「かまわないけど。」
「じゃ、決まり♪」
啓輔は部屋を出て先に居間に行った。
なんであんなに普通でいられるの?
あたしなんかあたふたしちゃってんのに。
明日香は着替えて居間に行った。
ママ特製、明日香の大好物であるダシ巻き卵でご飯を食べた。
テレビでマルイのスパークリングセールを宣伝している。
もう、何年も年明けに買い物に行ってない明日香はちょっと楽しみになってきた。
二人は支度を済ませ、昼前に家をでた。
横浜は電車で30分。
改札を出ると、福袋持った人でごった返していた。
「すごい人だねぇ。」
明日香はその人だかりを見ただけで疲れてしまった。
「オレも福袋欲しい!明日姉、ビブレ連れてって!」
啓輔は明日香の手を掴んで歩き出した。
「ちょっと啓輔っ」
啓輔はぐぃぐぃ引っ張って歩く。
啓輔との歩幅が合わない明日香は小走り状態。
「ねぇ、そんなぐぃぐぃ引っ張らなくても!」
「早く行かないとなくなっちゃう。」
啓輔は言った。
「手を離してくれれば後ろから付いていくから。」
「ダメ。すぐどっかいなくなっちゃう。」
「わかった、言うこと聞くからあたしの歩幅に合わせて。」
仕方なく明日香が言うと、啓輔は「ホント?」と嬉しそうに言って歩くスピードを落とした。
「よかった♪」
ご機嫌な啓輔。
「人いないとこでは離してよね。」
「ヤだ。」
「え?」
「絶対ぜぇーったい離さない。」
啓輔は明日香の手を強く握り笑ってみせた。
そのはにかんだ顔に、また不思議な胸の感覚が起き、明日香は首を横にブンブン振って掃おうとした。
いけないいけない!
啓輔のペースにもっていかれないように気をつけなきゃ!
しかし、気付くと啓輔のペースに乗っかっていた。
啓輔は小さい頃から前向きで明るくて、明日香を楽しませてくれていた。
今も昔のまんまの啓輔。
泣き虫の啓輔。
小さい啓輔。
そんな啓輔が好きだった。
え?好きだった!?
明日香の頭の中に、一気に流れ込んできた啓輔との子ども時代。
急に顔が真っ赤になった。
自分だって、啓輔のこと従兄弟だなんて思ってなかったんじゃん!
握っている手に汗がにじみだした。
この不思議な胸の感覚って恋心の再発?
うそでしょ?
「暑い?」
啓輔は聞いた。
「え?あ、うん。」
「こんだけ人がいれば暑いよな。なんか飲む?」
「大丈夫。」
「そっか。」
啓輔は言った。
二人はビブレで福袋を買い、ブラブラしながら次から次へと買っていく啓輔を見て、さすが芸能人!と明日香は思った。
二人は場所を変えようと、電車に乗って海の方にでた。
再び買い物を始め、辺りが暗くなる頃、温かい飲物を買って海の見えるベンチに座った。
疲れた体にホットココアの甘さは体にしみる。
「疲れたよね?ごめんな、付き合わせて。」
啓輔が言った。
「全然いいょ。楽しかったし。」
「これ、付き合ってくれたお礼。」
啓輔はくまのキーホルダーを差し出した。
「かわぃぃ!ありがと!」
明日香は嬉しそうにカバンにつけた。
喜ぶ明日香を抱きしめた。
「ちょっと、啓輔っ!」
明日香は、ボッと顔が赤くなり慌てもがいて離れた。
「ごめん。」
啓輔はしゅんとして手を緩めた。
「怒ってるわけじゃないよ?」
明日香は慌てて言った。
「昨日のホントだからね?俺、明日姉が好きなんだ。」
啓輔は明日香に恋心を抱いてからのことを話してくれた。
「覚えてる?出発の日にプロポーズしたの。」
啓輔が言った。
「え?プロポーズ?」
明日香は首をかしげた。
「おれが一人前の俳優になったら、お嫁さんになってくださいって言ったんだ。」
「あたしは?」
「うんって言ってくれた。だから、まだまだ半人前だけど、今回の映画の主演が決まったのを機に明日姉を迎えに来たんだ。昨日も言ったけど、明日姉を守ってあげられるようになったよ。」
「そう・・・」
記憶をたどったが、出発の日だけ記憶が飛んでいる。
「覚えてない?」
「ごめん、出発の日だけ思い出せない。」
「そっか・・・」
啓輔は肩を落とした。
「ごめん。」
「いいよ、昔のことだし!」
啓輔は笑ってみせた。
二人が帰宅すると、賑やかな家が静かになっていた。
小さい子供たちのいる家族はすでに帰ってしまっていた。
家に残っているのは啓輔の家族だけだった。
みんなで夕食を食べているときに、啓輔が突然「俺まだここにいたいんだけど。」と、言い出した。
でもぉ・・・という啓輔の母を抑えて、母は快くOKしていた。
啓輔は翌日にバイクを取りに戻り、またこっちにくるそうだ。
お風呂から上がると、部屋から啓輔が出てきた。
「お風呂空いたよ。入れば?」
「あぁ。ねぇ、明日姉。」
「何?」
「もう少し一緒にいていい?」
返事に困ることを聞いてくる。
「1から惚れさせる。従兄弟の壁越えて俺のこと好きになってもらえるように頑張る。
嫌われない程度にね。おやすみ。」
啓輔は笑いながら言った。
「おやすみ」
それが精一杯だった。
明日香は翌日から仕事。
早めにベッドに入ることにした。
あたし、昔啓輔が好きだったんだ。
たまに見る懐かしい夢の相手は啓輔だった。
でも、なんで出発の日の記憶がないんだろう?
“1から惚れさせる”
惚れるのも時間の問題だなと、明日香は思った。
久しぶりに芽生えた恋。
複雑な恋。
ため息つくものの、明日香はすんなり眠りに入った。




