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明けましておめでとうございます。
完結できるように頑張りますので、よろしくお願いします!
街の中央にある王城から少し離れた場所、4ヶ所ある城壁の出入口の内の東、黒の森に最も近い場所にその屋敷はあった。
カントリーハウスと言うには厚い石で造られた屋敷は少々無骨さと威圧感がある。だが古い印象はなく、広い庭園は綺麗に手入れをされ、屋敷に絡まる蔦も計算され整備されているようだ。
大きさも豪邸と言う程ではないものの一目で上流階級に属する者が家主だと言うことが分かる。
その屋敷の数ある部屋の一室、元は客間である部屋から家具を出しスペースを確保した場所に国内外から注目を浴びている人物がいた。
暖かな日差しを受け艶やかに輝く黒髪を背中に流した美しい娘と、その娘の腰に手を添えている精悍な男。
部屋の中央に寄り添う姿は一つの絵画のようであった。
「お前、殺されたいの?」
「全力で抵抗はさせてもらう。」
その会話を除けば。
男の言葉に美しい娘の瞳が色合いを変え、爬虫類のような赤い瞳孔に変わる。
更に伸び始めた黒い爪を見て、部屋に控えていた面々が顔色を青く染めた。
「すまない、アナトに窮屈な思いをさせている事は分かっている。」
だが娘に寄り添う男はその瞳の変化や自分の指に食い込む鋭い爪を全く気にする事なく、形の良い眉毛を顰め申し訳なさそうに言った。
その言葉に娘はピクリと反応し、男を睨みつけた。
「そうだよ!窮屈だ!なんでこんな足が痛くなる靴を履いて馬鹿みたいにクルクル回らなくちゃいけないんだよー!!ギースだって馬鹿らしいと思わないの!」
その叫びに、ギースは見た目がすっかり人間では無くなった娘…アナトの頭をまるで子猫にするかのように優しく撫でた。
部屋の端がどよめく。
「馬鹿らしいとは思うし普段は踊らないが…、今回の復興舞踏会では踊る事も重要だからな…。」
「ぬぁ〜にが復興舞踏会だよ!そんな暇があるならそのお金を復興に当てればいいじゃんか!」
ふん!と鼻息荒く言ったアナトの言葉に別のどよめきが起こる。
所謂、『ヴァンシーがまともな事を言っている』と言うどよめきだ。
アナトは目敏く端に控えた執事や、これから魔物退治にでも行くかのような装備で控えた騎士達を睨んだ。
「なに、なんか文句ある?間違ってるとでも言うのか?」
そんな殺気立ったアナトに、ギースはヴォルフが見れば鳥肌ものの甘い視線のまま頭を撫で続けている。
「アナトが言っている事は間違っていない。貴女は聡明だから分かっていると思うが、これは貴女を自国の貴族や他国に危険は無いとお披露目する機会でもあるんだ。」
「そんな事分かってるよ。だから人間は馬鹿なんだって言ってるの。危険かどうかなんてのは私の気分しだ…ン…っ!」
早口で捲し立てたアナトの小さな唇にギースは人差し指を当てた。
「ダメだぞ、ここには俺の部下しかいないとは言えどこから国に漏れるか分からない。盗視・盗聴は出来ないようにしてあるが、それは内緒にしておこう。」
あ、それ自分達の前で言っちゃうんだと思ったのはその場の全員である。
そしてこれを漏らせば自分がこの世から消える事も分かっている。
「…ふん!」
唇に当てられた指にキョトンとしていたアナトだがプクっと頬を膨らませ顔を背けてしまう。
ほんのり桃色に色づいた頬は外見が16〜17歳に見えるアナトをより幼く、ヴァンシーだと知らない人間が見れば非常に可愛らしく見えただろう。
「さぁ、もう一度俺と踊ってくれないか?復興舞踏会などどうでも良いが、俺は貴女を伴って参加し踊りたいんだ。」
「………モウスコシダケヤル。」
「ふ、ありがとう。」
頭を撫でていた手で再びアナトの手を優しく握ったギースは彼女を自分に引き寄せ踊り始めた。
練習用の演奏者が見つからなかった為、彼自らアナトの耳元でカウントを囁いている。
息をつめて見守っていた面々、屋敷の者以外は国から派遣された騎士(ギースの部下)であるが、彼らはヴァンシーの気まぐれで命を落とす可能性もあると覚悟を決めて警護という名の見張りへやってきた。
だが、別の覚悟を決める必要があるかも知れないことを早々に悟ったのだった。
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「はぁあ〜!つかれた!」
ギースとの練習を終えて自分の部屋に戻ってすぐに大きなベッドに寝転ぶ。
天蓋付きのベッドは3人くらいで寝ても全然余裕なくらい大きくて、ふっかふかだ。
これを知ったら森で私が作った力作のベッドになんて戻れないな〜。
しかし、足の裏と指がジンジンする…足がもがれてもすぐに再生する体のはずなのに。
人間って大変だ〜。
人間の頃だったらドレス着てダンスだなんて憧れたかも知れないけど、何せ今はヴァンシーだからな。
復興舞踏会で、今回ヴァンシーの侵略を食い止めたギースと復興を手助けした私の功績をなんたらとか言ってたけど、まぁそんな事は二の次だって分かってる。
天蓋を見つめながら王城に呼ばれた時の事を思い出す。
ヴァンシー達を殺してギースと契約を結んだ後、これでもかって言う人数の騎士と魔術師に囲まれたんだよね。
剣だの杖だのを向けてくるもんだから殺してやろうかと思ったけど、ギースとキラキラした人間…ヴォルフだっけ?が、上手い事言いくるめてその場を収めた。
私が他のヴァンシーを殺して結果的に人間を助ける事になったことを信じてない様子だったけど、実際助けられた人間も沢山いたからなんとか収まったらしい。
で、その後王城に呼ばれたんだけど、呼ばれてから行くまでめちゃくちゃ時間がかかって。
本来なら私が危険だからデンマキョウ?で話す予定だったけど王様が直接話すって言ったもんで。騎士とか沢山配置したり対魔物用の魔法を至る所にかけたりとか…大変だったみたい。全く、王様ってワガママだよね。
あまりに暇だから怪我して呻いてる人間を治したりだとか、瓦礫になっちゃった家とかを人間の記憶を覗いて壊れる前の状態に造り直したりとかしてて。(流石に家具とかまでは面倒だから家だけね)
そしたら怖がって逃げてた人間達が徐々に寄ってきて。「ありがとう」とか言ってくる奴らとか出てきたんだよね。
別に暇だったからなんだけど…。って言ったらギースが頭を撫でてきたけど…なんでだ?
そんな事して時間を潰していたら、城の遣いが来て城へ行って…
うん、説明がめんどう!
〜〜〜〜〜〜以下回想(笑)〜〜〜〜〜〜〜
大きな門にも、続く広い庭にも、すっごく豪華な城の中も殺気だった騎士やら魔術師やらが並んでいて、臨戦体制でこっちを睨み付けている。
そんな睨まなくても何もしないのに。
ワクワクして城に入ったけど周りも囲われて移動してるから見えないしつまらない。
うーん。
「随分ブッソウだね、ヴォルフ。」
そう目の前を歩いていたヴォルフに言う。
いきなり名前を呼んだからかびっくりした様子でヴォルフが振り返る。
化け物が殿下を気やすくとか何とかボソボソ聞こえた気がするけど気のせいかな。
「あ、あぁ…そこは我慢してくれ。我々は貴女に救われたが、それを信じていない者が殆どだ。それから、貴女がこれから会うのは私の父…バドルデレ帝国の国王だ。国王はその国の人間の中で一番偉い存在なんだ。何かあった場合その責任は私だけではなくギースも負う事を忘れないでほしい。」
知らんがな。
とは言わず、はーいとちゃんと返事をした私を隣を歩くギースが褒めて、ヴォルフは信じていない様子で先に進む。
そんな私達をある者は憎々しげに、ある者は困惑したかのように見ていた。
やがて一際豪華な門の前に着き、入った部屋にギョクザ?があるらしい。
足音なんて出ないようなフカフカの赤い絨毯。その先は階段になっていて、一番高い位置に大きな椅子が置いてある。椅子にしてはキラキラしているそれに座っている人間が王様なんだろう。
「ムキムキのさんたくろーす…。」
ぷぷ!自分で言って笑ちゃった!
吹き出した瞬間周りが殺気立ち、ギースは困った顔で私を見た。
「…待たせてすまなかったな。来てもらい感謝する、黒のヴァンシーよ。立っているのも何だ、座ってくれ。」
王様が周囲を無視して私に話しかけてきた。
多分普通は用意されていないだろうけど、階段の下数メートル離れた所に少し豪華な椅子が1脚置いてあった。ギースがそこに私を促したから座り、ギースが私の斜め後ろに立つ。ヴォルフは階段を登って王様の横に立った。
ふむ、拘束魔法が掛けられた椅子だね。
何かあった時に発動される仕組みになっている。
「で、何か用?オ・オ・サ・マ。」
…キンッ「ぐわぁっ!!!」
王様に言った瞬間に高い音と共に何人かローブを着た人間達が苦しげに膝を付く。
「あ、この椅子に掛かった拘束魔法発動しない方が良いよ。痛みとして術者に返るようにしたから。」
「この…化け物が調子に乗るな!!」
私の言葉に騎士が剣を抜き魔術師が杖を構える。
ありゃ、皆殺しフラグ?ここでの生活は数十分で終わりかな。
と思ったけど。
「静まれ!!!!」
腹から響くような声と威圧にその場が静まり返った。
叫んだのは王様だ。
「黒のヴァンシーよ、こちらの非礼をお詫びする。貴女に意味はない事だと分かってはいたが心配性の者が多くてな。気分を害してしまったら申し訳ない。」
「…いいよ、気にしない。」
こう言うオヤジをなんて言うんだっけ…いぬ…ねこ…あ、たぬきジジイか。
先に謝罪する事であくまで自分は本意じゃなかった事を示した。そしてその謝罪を私が受ける事で周囲が動く事を牽制して場を納めたんだろう。
拘束魔法の椅子だって誰が置くと言い出したのか本当の所は分からないし、もしかしたら私の力を見たか…拘束できればラッキーくらいに思っていたかもしれない。
「広い心感謝する。して、何の用かだったな。…正直、問いたい事が多すぎてな。」
そう言って苦笑しながら困ったように眉を下げた。
「だが、まずは此度の貴女の助けに感謝させてほしい。ヴァンシーが集団で襲来し国が残っている事自体が奇跡だ。その後も傷ついた民の治療や救助、我々には理解出来ない魔法で家屋まで修繕してくれていると聞いた。」
ざわ…
王様の言葉を聞いて空気が動く。やっぱり皆びっくりしてる。
「お礼は言わなくて良いよ。助ける気なんて無かったけどたまたま雄の奴らが気に障っただけだし。」
お前達を助けようとした訳じゃないよ〜って言っとかないと何だか面倒な気がしたから咄嗟に言う。
「ふむ、貴女の気まぐれだろうが助けられた事に変わりはないからな。やはりお礼は受け取ってほしい。」
「あ〜、まぁ、それはこの男が私のモノになったから他はいらないよ。」
「そうか、貴女はそこのギースと会ったことがあるのか?その者は我が国の最高軍司でな…所謂私の右腕なんだ。」
「う〜ん、さぁどうだろう。」
「そうか。…貴女は、ヴァンシーで間違いないのか?如何せん我々が知っているヴァンシーとは何もかも異なるように見える。」
…あ、だめだ。めんどい。
色々聞きたいのも策略したいのも分てるけど、今日はもう疲れちゃったんだよね。
人間らしいそれに付き合う義理は私には無いんだよ。
ごめんね。




