第2話 勇者凱旋
翌日、勇者が今日の内に街に戻ってくるという連絡が来た。
勇者だ。
この街の統治者であり、俺達を魔王から守ってくれている勇者だ。
子どもの頃から、耳にタコができるほど良く言われ続けている。
この街に伝わる勇者の伝説。まさにその本人が、午後には街に戻ってくるらしい。
あまり実感は無いのだけれども、親にしつこく聞かされた物語だからな。
伝説上の勇者は、もっと猛々しい英雄という感じだった。
まあ、所詮は俺の頭の中のイメージにすぎないのだが。
勇者の伝説が始まったのも、俺の親が生まれる少し前だったとか。
俺のおじいちゃんにあたる人は、すでに死んでいるからな。
砂漠では、だいたい50歳で人は死んでしまう。
そうすると、勇者ってもう50歳を超えてるんじゃないか?ものすごい長生きで、なんであんなに若々しいのだろうか。
俺がそんなことを考えながら仕事場に向かっていたら、何やら油のいい匂いがしてきた。
そうか。勇者が戻ってくるということは、祭りをやるのか。
いつも、勇者が街に戻ってくるときには祭りが開かれる。
勇者が帰ってくるのは、不定期だが、平均すれば二年に一度ほどだ。
大軍を引き連れてもどってくることもあれば、一人で戻ってくることもある。
それにしても、こんな臭いをかがされてしまえば仕事に支障が出かねない。
早く終わってくれという気持ちで仕事に取り組むのはあまり良いことではないからな。
まあそれでも、今日もいつも通り仕事があるんだろうな、と思いながら仕事場に着くと、すでにいつもの作業が行われていた。
「ああ、ミロ。今日は凱旋の日だからな。とっとと、終わらせるぞ」
というわけで、俺達は必死に仕事をこなして、なんとか午前中に仕事を終わらせることに成功した。
そして、いよいよ待ちに待った凱旋の時間。
普段は絶対に開かれることのない大きくて丈夫な城門がゆっくりと開くと、光を背に受けた勇者が城門の枠の中にしっかりと収まっていた。
着ている服で表情がはっきりと見えないが、いつものような若々しい姿をしている。姿というよりは、若い雰囲気を出しているのだ。
白馬に乗って、白いマントが風でパタパタとはためいている。
そして、ラッパの音と同時に軍隊が隊列を組んで動き出す。
勇者の後ろには、今回は大量の兵士がぴしっと並んでいた。
子供の頃は、隊列に何人いるのか数えたりしたものだが、大体百を超えた辺りで飽きてきてしまう。
百という数字にはあまり馴染みがないと思っていたが、よくよく考えれば、いつものように街の通りを歩いていたら、おそらく百より多い人とすれ違うものだ。
まあ、勇者の後ろにいる兵士は百どころではなくもっと大量にいるのだろう。
この街の人口がどれほどのものなのかわからないが、この街の人数よりも多いんじゃないか、と思うほどだ。
聞き慣れないラッパの「ふぁ、ふぁ、」という音に合わせて軍隊がパシッパシッと動く。
そして、軍隊が行政府の施設の中に入っていった。
行政府の施設は、壁に囲まれているのでどんな外観をしてるかわからないし、広さもよくわからないけど、軍隊が全員入り切るくらいには大きいのだ。
そして、勇者の凱旋パレードが終われば、街はお祭り騒ぎだ。
先程した肉の匂いは、ギャングの人たちが用意してくれていたものだ。
凱旋の日には、老若男女問わずにギャングから料理が振る舞われる。
屋台のようなものがいくつも建てられて、そこに人々が並ぶ。
それにしても、ギャングはこんなものを用意する金がどこにあるのだろうか?
高利子の金融業と、あとは住民の揉め事解決のお金や、⋯⋯他には収入源なんて無いと思うんだけどな。
まあ、それだけでも十分儲かっているということなのだろう。
今日はこちらが食べさせてもらう側なのだ。
今日は何の遠慮も無く、食べさせてもらおう。
俺は列の一番後ろに並んだ。先程見たばかりの軍隊の行進の何倍も遅く列が進んでいく。
そして、ようやく俺の番になった。
肉を焼いていたのは、バルトだった。ギャングのリーダー自らこういう仕事をしていることには非常に好感が持てる。
「ああ、ミロか。大人なのにこんな列に並んで」
「皆並んでるだろ」
俺の親よりも彼は年上なのだ。実に、不思議な感じ。
日々の仕事でやつれている俺なんかよりもよっぽど若々しい。
「ほら、どうぞ」
「どうも」そういって渡されたのは、祭りのときにはいつも出されるよくわからない肉だ。
まあ、交易品の一種なのだろう。
普段は干し肉かたまに鶏肉を食べたりするくらいだからな。
俺は串に刺さった肉にかぶりつきながら列を外れる。
住民は、それこそ老若男女問わずに祭りを楽しんでいる。
俺は楽しんでいる住民たちをなんとなく眺めながら肉を食べた。
他の街というのも、こんな感じなのだろうか。
そういえば、魔王って勇者と戦ってないときは何をしているんだ?勇者は魔王から街を守るために戦っているのだ。
帰ってきている勇者の軍隊は、祭りには参加しない。一週間ほど行政府の施設の中で暮らしている。ときおり、兵士と思われるあまり見ない顔の連中が街を歩いていることはある。
しかし、勇者の顔は見ないな。
まあ、彼は英雄だからな。そんな、身近な存在ではないのだ。
魔王だってそんなもんなのかもな。
おそらく、魔物っていうのは凶暴で短絡的なものなのだろうから、勇者と同じように魔物たちにも威厳を見せつけなければいけないのだろう。
俺はまた住民たちを見ていた。
ギャングが子どもたちを集めて甘い物を配っている。
俺の仕事場の人たちも、思い思いに酒を飲んだりして楽しんでいるみたいだ。
そうして、皆でお祭り騒ぎをし続け、一日が終わった。
そして、その祭りの余韻を感じながら一週間を過ごして、勇者の軍隊は街を離れてまた、魔王との戦いに向かっていった。
勇者が帰れば、街はいつもの日常に戻りだす。




