第25話 新たな勇者の話
我が国は、年々勢力を広げる魔王軍に頭を悩ませておりました。噂によれば、魔王は大量の人の姿をした魔物を操るそうです。
魔王軍が通ると、空には暗雲が立ち込めて雷が轟々と鳴り響き、敵の体を焼き尽くす。魔王が通ると、周りにいる兵士の首が玉みたいに飛び、そこには生者は残らない。
そう言われていました。
我が国の住民も「次は自分たちの番だ」と絶望していました。
しかし、そんな絶望のどん底にいた人々を救う存在がいたのです。
それこそが、ナギ、という少女です。
彼女は、騎士の娘として生まれ、それまでも他国との戦いに赴いて数多くの戦果をあげていました。
しかし、数年前、彼女は突如として姿を消したのです。
そのときはまだ、人々は彼女が自分たちを救ってくれる、そんな存在だということを知りませんでした。
彼女が姿を消してから、ついに我が国の国境に魔王軍が攻め込んできました。そして、我が国の領土はどんどんと魔王軍に併合されました。
いよいよ、我が国に残された領土はこの街だけになった、そんなときに彼女はこの街に戻ってきたのです。
そして、街の住民に「協力して魔王軍からこの街を守ろう」そう呼びかけました。
そして、彼女は我々に戦い方を教えてくれました。人々は、彼女の下で協力してこの街を守ろうと団結しました。
そしていよいよ、この街にも魔王の軍勢は迫ってきました。何十万という数の魔物を連れてこの街を囲んだのです。
しかし、我々には彼女がいました。我々は城壁から矢を飛ばしたり、魔物たちの食料を焼いたり、石を投げたり、彼女から教わった戦い方で、ジリジリと敵を追い詰めていきました。
もちろん、囲まれている中でこちらにも犠牲者は出ました。
彼女は自らも最前線で魔王軍と戦い、我々の士気を上げていたのです。犠牲者が出ると誰よりも悲しみ、丁寧に埋葬してくれました。
しかし、魔王軍はなかなか手ごわく、この街を囲んでから2週間も経つというのに毎日攻撃を仕掛けてきました。
街の住人も、初めての戦で少しずつ疲れていきました。
そのときに、彼女は我々に「一度攻撃をやめよう」と提案をしてきたのです。
誰もが、彼女のその提案の意味をわかっていませんでした。しかし、彼女は続けてこう言ったのです。
「こちらの攻撃が急に止めば、魔王はこっちの資源が尽きたのだと勘違いするかもしれない。それと、魔王軍の撃ってきた矢を回収して自分たちで使えるようにしよう」
それを聞いて、人々は納得しました。
そこからは、魔王軍からの攻撃が来ても、我々は攻撃をし返しませんでした。
ただ、魔王軍の撃ってきた矢を回収する、その彼女の言いつけだけは守るようにしていました。
街に籠もって一ヶ月が経った頃、ついに魔王軍が動き始めたのです。
魔物たちが街に突撃してきたのです。
しかし、彼女は冷静でした。
彼女が神の力をお使いになると、魔物どもは一網打尽。魔王軍の陣形が大きく乱れました。
すると、そこに魔王が現れたのです。
一人、ひときわ目立つ漆黒の悪魔の馬に乗った、大男です。
見たことのないマントを身に着けて、
手には禍々しい剣を握っていました。
そして、魔王がそれを振ると、暗雲が立ち込めて雷がゴロゴロと鳴りだしました。
しかし、彼女が手を上げると、先程までの暗雲が嘘だったかのように散って、白い雲の隙間から一筋の光が差し、彼女の立ち姿を照らしたのです。
まるで、女神のように美しいお姿で辺りを照らすと、周囲の魔物はあまりの神々しさに怖気づきました。
彼女は魔王の目の前に降り立つと、魔王と激しい戦いを繰り広げました。
そして、激闘の末に魔王に勝ったのです。
しかし、魔王は殺される前に命おしさに逃げ出してしまいました。
魔王を失った魔物たちも、散り散りに逃げていきました。
しかし、彼女はそんな魔物たちを許さず、天から降りてくる神々しい光の矢で次々と魔物を倒していきました。
ついに、街を囲んでいた魔物たちは一匹たりともいなくなりました。
人々は大いに喜びました。これで、街にも平和が訪れる。
なにより、自分たちの手でこの街を守ったんだ、と喜びました。
しかし、彼女は違いました。
彼女は、失った我が国の領土も取り戻そう、と言って人々をまた、まとめあげたのです。
そして、我が国の失った領土を取り返すために長い旅に出かけたのです。
我々は、この功績を称えて、彼女に勇者、という称号を与えたのです。
そうして、我が国は、今日も勇者様のお陰で皆笑い合い、手を取り合って平和に暮らしていくことができているのです。
そして、勇者様は今もどこかで我々のために魔王と戦っているのです。




