第24話 更に2年後
俺が街を歩いていると、ガキどもが道端でなにやら揉めていた。
男二人に、女一人、か。
昼間は、こうやって街の巡回をしたりしている。まあ、相変わらずのギャングの仕事だ。勇者の秘密を知った今でも、俺は大人しくギャングをやっていた。
バルトは、俺が帰ってきたこともとい勇者が負けたことにだいぶ驚いていた。
が、特になんと言われるでもなく俺はバルトに「仕事にもどれ」と言われたからいつものように働くことになったのだ。
もちろん、いろんな人に「外はどうだったのか」と聞かれるが、適当に「良かったよ」と返事をして具体的なことは言わないようにしている。
そうして、もう2年が経ったのだ。
腰には短剣を刺して、いざというときは首からぶら下げている角笛で仲間を呼ぶことになっているが、まあガキはなんの問題もないだろう。
「おう、何してんだよ」
ナメられないためにも、俺は馴れ馴れしい感じで彼らに話しかけると「ミロだ!」
と少年①がこちらを指さした。
見覚えはあるが、名前はわからない。
まあ、街にいるガキどもは全員そんな感じだしな。
「喧嘩か?」
「パン食べたいから、お金貸してよ。こいつが貸してくれないんだ」
そういって、少年①は少女の方を指さした。
「人から金を取ったらダメだろ。な?悪いことをすると、バチが当たるんだ」
「ほら、ギャングの人も言ってるじゃん」
少女が俺に加勢してきた。
「バチなんて当たらないでしょ。なんで、悪いことしたらバチが当たらなきゃいけないの?」
こいつなかなか鋭いな、と思いつつも、少年①のような人がいると確実にこの街の輪が乱れるのだ。
あと、平気で人から金をむしり取ろうとしていることには感心できない。
「勇者の話は聞いているだろ?お前らも、勇者様みたいになれるように頑張るんだぞ。そのためには、悪いことなんてしちゃダメなんだ」
俺はそういって適当に少年①と②の頭をポンポンと撫でた。
すると、先程まで一言も喋っていなかった②が「勇者様って、ほんとに魔王と戦ってるの?」と聞いてきた。
俺はギャングとして街の治安を守らなきゃいけない手前、適当なことは言えないので「ああ、もちろん」と答えた。
「壁で外は見えないし、誰も本当に勇者様が戦ってるかわからないじゃん。証拠ってあるの?」
俺はどう返そうか少し悩んだが、とりあえず、ごまかすように少年②の頭をゴシゴシと撫でながら「じゃあ、お前も勇者を目指すんだな。俺は、勇者と一緒に戦ってきたからな。勇者はちゃんと戦っていることを知っている」と言った。
別に、意地悪をしたつもりはない。
彼みたいな鋭い子が勇者になれば案外いいんじゃないか、と思ったのだ。
人任せで悪いが、今の勇者が勇者をやっているうちは、何を言っても無駄だな、と思うのだ。
名前なんて知らないけど、あの勇者は、あまりにちゃんとしているからな。あれを崩して、街を変えようたっていうのはかなり難しい。
「え、勇者ってどんな感じなの?」
少年①は食いついてきたようだ。
しかし、②の方は「俺はいいよ。戦いとか嫌だし、このままでいる方が楽だもん」とつまらないことを言った。
「勇者はめちゃくちゃ強いよ」
「なにそれ、どのくらいなの?ていうか、そんなに強いのに魔王をやっつけられないの?」
「魔王はもっと強いんだ。昔は、勇者ももっと強かったんだろうけどな」
「じゃあ、今は魔王の方が強いってこと?」
俺は少年②の目を見つめた。
「まあ、そうかもな。でも、勇者は諦めずに戦っているんだ」
勇者がいうには、物語が人を動かすんだと。未来ある若者に、新たな物語を作ってもらいたいものだ。俺は、まあ、確かにまだ20代だけど、勇者になれるような才能も力も無いからな。
「まあ、そんなこと言わないで勇者を目指してくれよ。そして、キミが自分で納得のできる勇者の物語を考えればいいんだ。勇者が間違ってると思えば、周りなんて気にせずに勇者を目指せばいいんだ」
俺がそういうと、少年たちはぽかんとした顔をしていた。
とりあえず、俺は少年たちにパンが買えるくらいの金を渡して「女の子をいじめるな」と叱ってからその場をあとにした。
新たな勇者が生まれれば、きっと人々も何か考えるようになるさ。
俺は、勇者という仕組みに縛られた平和の中で、そんなことを楽観的に考えていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(その少しあと)
どうやら、勇者が戻ってくるらしい。
いつものように、凱旋をする、というのだ。凱旋は、街の人々にとっては喜ばしいことだ。貧しいけれども、最低限のものが揃っている俺達の暮らしにおいては、金を使わずとも酒を飲んだりできる良い機会だからな。
俺もギャングとして色々手伝わなければいけないのだけれども、こっそりと抜け出して勇者の凱旋を見に行くことにした。
勇者が負けたなんて知っているのは、俺とロークくらいだ。
それも、ロークに至ってははっきりと負けた、という認識は持っていないくらいだ。
軍が解散になったときの話も、実に曖昧なものだったからな。
俺も、色々と彼に説明してもよかったのかもしれないが、特に彼には説明しなかった。
俺は街の住民にまぎれて、通りの脇で城門が開くのをずっと待っていた。
通りには、ギャングの作っている料理の美味しそうな匂いが漂ってきている。
すると、遠くから聞き覚えのあるラッパの音が聞こえてきた。勇者だ。
街の人々がざわめき出す。
「勇者様って、かっこいいよね。顔とか、見たことある?」「え、いつも顔見ようと頑張るんだけどさ、あの白い服で見えなくない?」「一回ちゃんと見てみてよ、イケメンだもん」
そんな、若い女子たちの他愛もない会話が俺の回りでは繰り広げられていた。
この街では、今も変わらず勇者の伝説なるものが語り継がれている。
魔王から街を取り返し、そして今も魔王と戦っている英雄の話だ。
そんな勇者と戦ってきて、外の世界を知って、俺はこのままでいいのだろうか、ともやんわりと思っているんだ。
でも、皆が勇者の帰還に喜んでいるくらいがちょうどいいんじゃないか、とも思える。
砂漠には、食料も水も乏しい。
だからこそ、勇者が統一する前は戦争が絶えない地域だったんだろう。
勇者が上下水道を整備して、交易を盛んにして、それでこの街では食料も水もとくに困ることなく手に入れられるようになっている。
それでも、この街に生まれてしまったら外に出ることも出来ずに、皆が同じ様な生活を半強制的に送らされているのだ。
相変わらず、ギャングなんてやっていたら余計の女性との出会いもない。
そんなことを考えていたら、ラッパの音が止まり、城門が少しずつ動き始めた。
そして、門の隙間から白馬に乗った勇者の姿が見えた。
そして、勇者の後ろには数百人の兵士が並んでいた。
これが、俺達の平和を守っている勇者であり、同じく俺達の平和を守っている魔王でもあるのだ。
城門が完全に開くと、またラッパの音が鳴りだした。
通りの脇で凱旋を見守っている住民から、ちらほらと「おかえりなさい」とか「いつもありがとう」という声が飛び交う。
俺の前にいる若い女子二人組は「あ、見て見て」「めっちゃイケメンじゃん」と勇者の顔に夢中だった。
俺は、なんとなく勇者を見つめていた。
いつもの凱旋のときと同じだ。無表情で、ときおり住民に手を振ったりしながら前を通り過ぎていく。
俺は勇者の後ろにいる兵士たちのことも見てみたが、俺の知っている人は誰一人いなかった。
俺と一緒に徴兵されていった元々この街の住民だった人はまったくいないし、少し話をしたりした他国出身の兵士もいない。
徹底しているんだな、と思った。
でも、凱旋は住民の祭りの口実だからな。
いくら負けたりしても、この凱旋がないと住民も不満を持つだろう。
それに、今だって勇者はこの街の平和を保ってくれているからそれなりの賛辞や称賛を浴びるというのも必要なことかもしれない。
そうして、勇者一行は行政府の建物の中に入っていった。
そうすれば、住民たちは広場に戻って食事を楽しむ。
いつもの光景だ。
確かに、いくらこのままではいけないような気がしたとしても、この光景が見られなくなるのは寂しいことかもしれない。
「おい、ミロ!!」
あ、やばい。
しかし、やばいと思ったときには遅かった。
「何サボってるんだよ!!お前、もうあんなに並んでるんだぞ」
ロークが俺の腕を掴んで怒っている。
「いや、すまない。たまには、勇者の凱旋を見ておきたかったんだよ」
「いつも同じだろ?見てためになるようなことでもない」
「でも、いつも同じだからいいんだろ?」
俺なりにいいことを言ったつもりだったのだが、ロークは「余計なことを言っていないで仕事をしろ」と言って俺の腕を掴んだまま引っ張っていった。
まあ、仕方ない。
ていうか、この仕事こそいつもと一緒じゃないか。
まあ、これがいいんだろう。美味いものはいくら食べてもいいからな。
広場には、あいかわらず沢山人がいる。
皆、楽しそうだ。
俺も、勇者と一緒に戦って、それで戦で勝っていたら誇らしかったんだけどな。でも、勝っていたらおそらくここには二度と戻ってこれなかっただろう。
結局、外に出てわかったのは、平和を維持するためには色々な犠牲が必要、という至極ありふれたことだった。
で、俺はなんとか犠牲にならずにここに戻ってきた。
もし、もう一度勇者とナギが戦うようなことがあれば、勇者は生きていられるのだろうか?
死んでしまったら、この街はどうなるのだ?もちろん、他の街だって勇者がいあんくなればどうなってしまうのだろうか。
せっかく、今の勇者が整えた勇者というし仕組みなのに、彼のことを継ぐ人がいなければ、平和は続いていかない。
俺は鍋をかき混ぜながらそんなことを考えていた。
ナギは、どうなんだろうな?
彼女も、もしかすると向こうの国で勇者として魔王を倒したと崇め称えられているのかもしれない。
勇者は、皆同じ道を辿らなければいけないのだろうか?
彼女も、平和を守るために戦い続けて、周りの国や街を征服していかなければいけないのだろうか。
まだこちらの勇者が生きている内はいいだろうけど、こっちの勇者が死ねば、こちらには彼女に対抗できるような人はいないだろう。
なぜなら、そんな人がいれば今の勇者がここまで領土を広げられていないからな。
平和は、繰り返すしかないのだろうか?誰かが勇者になれば、その役目から降りることなど出来ないのだろうか。
「あの〜、一つください」
俺が考え事をしていたら、前に男の子が一人並んでいたらしい。
俺は彼に「すまんな、これはまだできてないんだ。向こうの列に並んできてくれ」と言った。
申し訳ないな。俺がサボっていたばかりに。
彼はトコトコと向こうの長い列の方に行って、列の中に吸い込まれていった。
ああ、結局何も答えが出てこない。
これでは、勇者の言っていた通りじゃないか。
一度疑問が浮かんでくれば、次々に浮かんでくる。
浮かんできた疑問も一緒に煮詰めるつもりで、俺は鍋の中身をかき回し続けた。




