第22話 魔王の正体
「しかし、そんな街に外から敵が襲来して、街はあっという間に陥落。そして、元々いた住民の半分は殺された。まあ、食料がもたないからな。
俺も、一気に貧乏な生活になったんだ。まあ、魔法が使えたから、殺されたりすることはなかったけど、金は無いし、仕事もない。それで、元々あの街に住んでいた住民の不満は徐々に大きくなった。
助け合いなんて概念は存在しないものだと思っていたのに、元々の住民たちは結束し始めたんだ。それを見て、まあびっくりしたよ」
「それで、色々な国を攻めたんですか?人々を結束させるために?」
「まあ、それだけじゃないな。やっぱり、民衆に仕事を与えないとダメなんだ。最初は、革命が起きたら、隣の街から住民がこっちに来ると思った。
でも、隣町には誰もいなかった。よくよく考えたら、隣町も食料が無くなったからこっちに来たんだろうな。それで、このまま帰るわけにもいかないから、俺達はもう一個隣の街まで攻めに行ったんだ。そこを攻め落として、俺がその街を支配するようになった。
これはバルトには言ってないから、あいつにも言わないでおいてくれよ。でも、いくら街の仕組みを整えても確実に不満を持つ奴がいるんだ。そいつらに時間を与えれば、きっと反乱を起こされる。だから、俺は軍隊を編成した。
一旦は力でそいつらを押さえつけるためだ。それで、一回俺とキミの故郷でもあるあの街に戻った。バルトのお陰で、見違えるように豊かになっていたね。だから、この状態を保つにはどうすればいいかって俺なりに考えたんだ。
反乱分子は、遠征に駆り出せばいいんだ。遠征中に反乱を起こすわけにもいかないからな。砂漠で暴れても、自分も無駄死にするだけだ。それに、暗殺だけは絶対にされない自信があったし。攻め落とせば領地が増える。そして、そこでも同じようなことをする。魔王と戦うと言って住民を軍隊に駆り出す。
それを保つためには侵略を繰り返すしかなかった。反乱分子は、追放するんじゃなくて、遠征という名のもとで街から追い出す。税金という名で遠征費をまかない、住民に富が集まるのを防ぐ」
俺は、頑張って話の内容を整理した。
えっと、つまり、
「その、⋯⋯失礼かもしれないですけど、引っ込みがつかなくなったってことですか?」
俺が恐る恐るそういうと、勇者は少し顔をしかめてから、「まあそれもあるけど、⋯⋯自分で言うのもあれだけど、実際に上手くいってたからな。引っ込みがつかなくなってというか、このまま侵略を繰り返せばいいと思ってたんだ」と言った。
「もっと、世界が一つにまとまればいいと思ったんだよ。俺が勇者と呼ばれようが魔王と呼ばれようが、」
「⋯⋯すいません、わかりやすく言ってもらってもいいですか?」
俺がそういうと、勇者は「さっきまでは、察し良かったじゃん」と言って少し笑った。
「そのさ、俺が魔王っていう架空の存在から民を守る勇者でも、他国を侵略してそれを自分のものにする魔王っていう恐怖の存在でも、世界の人がまとまるならそれでいいって思ったんだよな」
「その、でも、それって本当のことを知られてしまったら成立しませんよね?」
俺がそういうと、勇者はまた「ハハ」と笑った。
「確かにそうだけど、人間は一つのことに夢中になってしまうものだよ。キミは今、何歳なんだい?」
「あ、22歳ですけど、」
そういったところで、俺はふと勇者が何歳なのか疑問に思った。
さっきは、好青年の印象だな、なんて思っていたが、
順当に考えれば50歳とか、そのくらいの年齢だろう。
俺の倍以上も人生を過ごしてきているんだ。
バルトも、そうなのか。
彼も、すっかり少し年上くらいに思っていたけど、もしかすると、魔法が使えるとそうなるのか?
いや、彼はそれなりの貫禄があったか。親しい態度でこちらに接してきていたから、その思わせぶりな態度が悪いんだな。
じゃあ、なんでこの勇者はこんなに若々しいのだ。
わからないな、
「そうか。22歳なんだな。実際、キミは22年間疑問に思ったことはあったか?」
「そ、それは、⋯⋯確かになかったですね」
心の中で、つい2年前に色々あったので本当はずっと気になってはいましたよ、と訂正した。
「ほとんどの人は気にならない。キミの育った街では助け合いが大事にされている。周りの住民に見捨てられたら、キミはあの街で暮らしていけない。だから、周りに合わせるのが大事になるんだ。変なことを言っていれば住民に仲間外れにされる。そうすれば、注目を集めるために変なことをしたてしまったりする。凶悪な事件を起こしたりする者もいただろう?」
確かに、突然街中で暴れた男がギャングの手でその場で始末される、ということは2回ほどあった。
「で、そういうやつはギャングに殺される。これがあるから、周りには合わせるしかなくなる。これで、皆疑問には思わなくなるもんだよ」
俺は「はあ、」となんとなく相槌をうっていたが、よくよく考えるとこの人ものすごいことを言っていないか?
俺達は、知らぬ間に思考力を奪われていたのか?
何重もの仕組みに縛られて、気づかぬ内に俺達は不自由な生活を送っていたわけか。
「人類を一つにするには、そうやって外に目を向けさせて、周りとの関係を結ばせるのが大事なんだ。ギャングは、輪を乱すものを罰する組織だろ?」
「じゃ、⋯⋯でも、勇者様はそれでいいんですか?人々から考える能力を奪って、その上で成り立つ平和で、輪を乱す者は誰であっても許さないのって、いいことなんですか?」
俺がそういうと、勇者は俺の目を見つめてから「疑問っていうのは、一つ湧いたら次々に湧いてくるものだよ。それを抑えることはできない。それに、そうなったら自分が正しいと思って止まらなくなってしまう」と言った。
俺は、それに何も言い返すことが出来なかった。
いや、俺には言い返すべき言葉が何であるか、はっきりと分かっていたが、それを指摘してもあまり意味が無いのでは、と思った。
あなただって、自分を正しいと思っている人間なのだろう。
矛盾しているではないか、
まあ、そんなことを言っても意味はないだろう。次言い返されれば、俺はそれに続けられる言葉を持っていないと思ったのだ。
でも、そんな俺にも思いついた言葉があった。
「勇者様、バルトのことはいいんですか?あなたの大切な友達ですよ。もう、何十年も彼が街を守ってくれているんです。すべてを知っているのに、あなたのために動いてくれているんです。色々と疑問に感じたことがあったと思います。でも、彼はあなたのために何十年も街を守ってくれているんです!」
すると、勇者の眉がぴくんと動いたのが見えた。
「⋯⋯勇者様は、バルトが街の皆をまとめて反乱を起こしたら、あの街には帰れないんですよ。バルトが、勇者様の帰りを快く受け入れてくれているからこそ、あの街に戻ってこれるんであって、バルトが街の皆から信頼されているからこそ、勇者様の求める平和が成り立っているんです。そんな、大事な親友のことはいいんですか?」
若干無理があるようにも思えたが、
俺はしっかりとバルトの仕事振りを見てきたのだ。
それこそ、子供の頃からだ。
仕事はきっちりとやる男だ。
彼は輪を乱す人間には無慈悲であったものの、そうでない人には優しかった。
だからこそ、皆が彼のことを信頼していた。
勇者に対しても、バルトは同じだったんだろう。
人のために、動いてくれる人間だ。
俺も、本来ならよそ者を匿って殺されるところだったのだ。
そんな俺を仲間にしてくれたんだからな。
まあ、これはだいぶ無理やりで酷い話しではあったがな。
「⋯⋯確かに、バルトは俺のために色々と頑張ってくれた。俺だって、わかっているよ」
「そ、その、なんかバルトも寂しそうにしていますし、勇者様も戻っていいんじゃないんですか?」
実際にバルトが寂しがっているかどうかはわからない。
ただまあ、俺個人として、とりあえず勇者にはもうやめてほしかったのだ。
侵略も、戦争をしかけるのも、敵から魔王と呼ばれるのも。
勇者というのは、俺達住民を勇敢に、魔王から守ってくれている。そういう人間だったんだ。少なくとも、俺の中では。
「でも、それだと俺がいなくなったのをいいことに、向こうの街で色々と暴動が起こるかもしれない。キミがここに来るまでに訪れた場所以外にも、俺の統治する街や国は沢山あるんだ」
確かにそうだ。
俺はたまらず、「ああ、」と落胆の声を上げることしかできなかった。
「まあ、キミの思っていることもなんとなくわかるさ。もう、半年くらい前か?バルトとも会って色々と話したさ。俺だって、たまには彼に会いたいけど、今度は手に入れた領土を守らなければいけないんだ。俺の他に、魔法が使えるやつを育ててもいいんだけど、反乱に使われたら俺だって勝てるかどうかわからないしな。平和が崩れるのが、今の一番の懸念点だ。これから、俺の信頼を取り戻さないといけないからな」
そういうと、勇者は立ち上がって「さっきは助けてくれてありがとな。まあ、キミたちはこれで解散になる。大体の人はこの街に残るだろうけど、自分の街に帰ってもらってもいいよ。俺が治める領土の中は自由に行き来できるようにしてもいいしな、」と言って天幕の中から出ていってしまった。
そして、勇者と入れ違いで入ってきた彼の側近と思われる男に「これ、勇者を助けた報奨です」と言われて金貨が数枚入った袋をもらい、
そのあと俺は戻れと言われたので、仕方なくロークのところに戻った。




