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勇者の秘密  作者: ふたーなる


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第19話 突撃

俺はロークとともに、勇者のすぐ後ろに位置取っていた。





「やっとか」





隣のロークが、眠たそうな目を細めた。


戦う前だっていうのに、よくそんな目でいれるなと褒めてやりたいくらいだ。


まあ、かくいう俺も一ヶ月の停滞のせいで、さほど何も思っていなかった。





「一ヶ月も待たされるとは思わなかったな」





「まあ、これで終わるならいいんじゃないか」





「終わればな」





ロークはそう言って、ブンブンと肩を回した。


俺たちの前には、ガシャガシャと豪華な鉄の鎧をまとった勇者がいた。


この一ヶ月、遠くから眺めることはあっても、こうしてすぐ後ろから姿を見るのは初めてだった。




勇者はいつもと変わらない様子で、街の城門を見つめていた。


あれを突破すれば、街の中に入れる。


俺たちの部隊が前進を始めた。


盾を構えた兵士たちが、ゆっくりと街へ近づいていく。


後方からは弓兵が続き、そのさらに後ろには、俺たちのような兵士が大勢控えていた。




十万近い軍勢が動き出すと、地面まで震えているように感じられた。城門は閉じられたままだった。だが、俺たちは止まらない。もう少しで、城門に取りつける。そう思った、そのときだった。





「――待て」





前方から、勇者の声が聞こえた。


部隊が足を止める。


城門の上に、人影があった。


最初は、街を守る兵士の一人だと思った。




だが、その人物が城門からこちらを見下ろした瞬間、俺は息を止めた。


見覚えがあった。


忘れるはずがなかった。砂漠の街で出会った魔法を操っていた少女。


男どもを軽々と投げ飛ばすような少女。





「……ナギ?」





思わず、声が漏れた。


城門の上に立っていたのは、ナギだった。


彼女は俺たちを見下ろしていた。


遠くて表情まではわからない。




それでも、あの立ち姿は間違いようがなかった。


ナギが片手を上げた。


その瞬間、空が暗くなった。





「なんだ?」





誰かが空を見上げた。


青かった空に、黒い雲が集まり始めていた。


雲はみるみるうちに広がり、街の上空を覆っていく。


次の瞬間、轟音が響いた。


雷が落ちた。




白い光が地面を貫き、土煙が舞い上がった。


少し離れた場所で兵士たちが悲鳴を上げる。


続けざまに、二本目。さらに三本目。


雷は狙いを定めるように、俺たちの軍勢へと降り注いだ。





「うわああっ!」





「散れ!散れ!」





「何が起きているんだ!」





兵士たちが一斉に騒ぎ始めた。前へ進もうとしていた者が立ち止まり、後ろへ下がろうとする者が押し合う。


隊列が崩れ、盾がぶつかり、誰かが地面に転んだ。


俺も、思わず足を止めていた。




魔法だ!




俺は、あのとき以来、何度か魔法を目にしている。バルトも使えたし、勇者が魔法を使うところも道中で何度か見た。空を覆う雷雲。そこから次々と降り注ぐ雷。たった一人の人間が、これほどのことを起こしている。




ナギは、城門の上から動かなかった。


まるで、俺たちが大軍であることなど気にも留めていないかのようだった。このままでは、軍が崩れる。そう思ったとき、前方から声が響いた。





「落ち着け!」





勇者だった。


勇者は馬を進め、乱れた兵士たちを見渡した。





「隊列を崩すな!敵は一人だ!ここで退けば、これまでの一ヶ月が無駄になるぞ!」





その声は、雷鳴にも負けずに響き渡った。


兵士たちの動きが、少しずつ止まっていく。勇者はさらに前へ進んだ。


そして、勇者は城門の上に立つナギを見上げた。





「お前が、この街を守っているのか」





ナギは答えなかった。





「俺と戦え」





勇者が剣を抜いた。





「俺を倒せば、ここでの戦いも終わるぞ」





しばらく、沈黙が続いた。やがてナギが、ゆっくりと手を下ろした。空を覆っていた雷雲が、少しずつ薄くなっていく。それを見て、兵士たちがざわめいた。勇者は馬から降りた。




おそらく、勇者はナギが出てきたのは街が追い詰められて最終手段に出たと思ったのだろう。


剣を手に、城門へ向かって歩き出す。ナギも城門の上から姿を消した。


しばらくして、城門が開いた。そこからナギが現れた。彼女は城門の内側から出てくると、ゆっくりと勇者の方へ歩いてきた。その姿を見て、俺は思わず息を呑んだ。




ナギは、以前と変わらないように見えた。 彼女は、まっすぐに勇者を見つめていた。




二人が向かい合う。


勇者が剣を構えた。


ナギもまた、剣を抜いた。


そして、二人の戦いが始まった。

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