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勇者の秘密  作者: ふたーなる


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第15話 勇者の成長(バルトの回想)

俺と勇者は、裕福な家に生まれた。同い年だった。


俺たちの家は大きく、食べ物に困ることもなかった。


暑い日には涼しい部屋で過ごし、夜になれば柔らかな寝具で眠ることができた。




少なくとも、家の中にいる限り、俺たちは何不自由なく暮らしていた。


ただし、家の外に出るだけは厳しく禁止されていたのだ。


理由は簡単だった。




この街の外には、危険があふれていたからだ。


昼間は砂嵐が吹き荒れ、夜は厳しい寒さが訪れる。


それだけではない。




街の中にも、食べるものがなく、他人の持ち物を奪って生きている人間がいた。


俺たちの親は、そうした人々から子供を守ろうとしていたのだろう。


だが、子供というものは、禁止されればされるほど気になってしまう。





「なあ、外って、どんなところなんだろうな」





 ある日、俺は彼に尋ねた。





「さあ。俺も知らない」





「一度くらい、見てみたいよな」





それだけだった。


でも、どうしても気になったのだ。


それである日、俺たちは、外に出てみることにした。


今思えば、ずいぶんと無謀なことをしたものだ。


家の者たちの目を盗み、裏口から外へ出る。




たったそれだけのことだったが、俺たちにとっては大冒険だった。


初めて見る街の景色は、家の中とはまるで違っていた。


道は砂埃に覆われ、建物の壁はところどころ崩れていた。




遠くからは誰かの怒鳴り声が聞こえ、道端には、何日も食事をしていないような人々が座り込んでいた。





「……なんか、思ってたのと違うな」





俺がそう言ったときだった。





「おい、ガキども」





背後から声がした。振り返ると、薄汚れた服を着た男が立っていた。男は俺たちを見ると、こちらへ近づいてきた。





「いい服を着てるじゃねえか。金持ちの子供か?」





俺たちは答えなかった。男は、俺たちの服を見て、それから顔を見た。





「金を出せ」





俺は、その意味をすぐには理解できなかった。


金を出せと言われても、俺たちは遊びに出てきただけだ。


そもそも、金を持っていなかった。





「持ってないよ」





彼が答えた。





「じゃあ、その服を寄越せ」





男が彼の胸ぐらをつかんだ。


俺は何もできなかった。


大人の男が怖かった。


大人が、こんなふうに子供に向かって怒鳴るなんて、考えたこともなかった。




男は彼を突き飛ばし、今度は俺のほうへ手を伸ばした。


俺はその場にへたり込んだ。


怖かった。




どうすればいいのか、わからなかった。


助けを呼ぼうにも、声が出ない。


俺はただ、泣くことしかできなかった。





「……やめろよ」





そのとき、吹き飛ばされた彼が言った。


男は振り返った。





「あ?」





「そいつに触るなよ」





彼は、立ち上がっていた。


俺は、彼の顔を見た。


怒っているようには見えなかった。怖がっているようにも見えなかった。




ただ、ぼんやりとした目で男を見ていた。





「ガキが、調子に乗るな!」





男が彼に向かって手を伸ばした。


その手には、ナイフのようなものが握られていた。


俺はとっさに目をそらそうとした。


その瞬間だった。




男の周囲で、何かが光った。


いや、光ったというより、空気そのものが歪んだように見えた。


次の瞬間、男は倒れていた。




地面に倒れて、ピクピクと細かく動いていた。




俺は、何が起きたのかわからなかった。


男が倒れている。




彼は立っている。





「……え?」





俺は泣くのも忘れて、二人を見比べた。彼は、自分の手を見つめていた。そして、少し首を傾げた。





「……そっか。こうなるんだ」





彼は小さくそうつぶやいた。


その言葉の意味も、俺にはわからなかった。


七歳の俺には、何が起きたのかを理解することさえ難しかった。




俺は再び泣きそうになった。


何が起きたんだ、今、俺の目の前で。


彼は、そんな俺のところへ歩いてきた。





「大丈夫だった?」





彼は、俺の顔を覗き込んだ。


まるで、転んだ友達を心配するような口調だった。


俺は何も答えられなかった。


ただ、彼の顔を見つめていた。





その後、俺たちは家の者に見つかり、ひどく叱られた。


外へ出たことについて、何度も注意された。


俺たちは二度と勝手に外へ出ないと約束させられた。




あの男のことがどうなったのか、俺は詳しく知らない。


そういえば、彼の父親で俺の叔父でもある男が昔こう言っていたな。





「この子には、生まれつき不思議な力がある。魔法というものらしい」




 


彼は、息子の頭を撫でながら、うれしそうに笑っていた。





「将来は、立派な魔法使いとしてこの街をまとめてくれるかもしれないな」





俺は適当にその言葉を受け流していた。


魔法。


あれが魔法だったのか。




彼は、俺とは違うのだ。そんなことを、初めて意識した。


それから何年も経った。




俺たちは十三歳になった。


隣の街から兵士たちが攻め込んできたのは、そのころだった。


街はあっけなく陥落した。


俺たちの両親は殺され、家は奪われ、住民たちは新しい支配者のもとで暮らすことになった。




税金は重くなり、街の人々は苦しんだ。


俺たちも、かつてのような暮らしには戻れなかった。


だが、彼は生きていた。


不思議な力で、俺と彼自身の身を守っていたのだ。


殺そうにも手を出せないから、移住してきた住民も困っていたが、こちらに加害性が無いことがわかるとただただ無視されるようになっただけだった。




そのおかげで、彼だけでなく俺も生き残ることが出来たのだ。




やがて、以前からこの街で暮らしていた住民は、街を取り戻そうとした。


住民たちを集め、協力を求め、革命を起こすために動き始めた。


俺と彼も、それを手伝った。




人を集め、武器を用意し、どうすれば支配者を追い出せるのかを考えた。




そして、十五歳のとき、俺たちは革命を成功させた。街を取り戻したのだ。住民たちは喜んだ。泣いている者もいた。ようやく自由になれたのだと、誰もがそう思っていた。俺も、うれしかった。


彼と一緒に、街を取り戻せた。




これからは、みんなで街を立て直していけばいい。


そう思っていた。




だが、そのときも、彼はどこか物足りなさそうだった。


革命が成功した直後、俺たちは街の一角に立っていた。


周囲では、住民たちが互いに抱き合い、喜びを分かち合っていた。





「やったな!」





俺は彼に声をかけた。





「ああ」と彼は短く答えた。





「これで、ようやく終わったんだな」





「……そうだな」





彼は、住民たちを眺めていた。その表情は、俺にはよくわからなかった。うれしくないわけではないのだろう。だが、心から喜んでいるようにも見えなかった。俺たちは、両親を失った。




住んでいた家も失った。街を取り戻すために、多くの人々が苦しみ、命を懸けた。それでも、ようやく取り戻せたのだ。俺にとっては、それだけで十分だった。




しかし、彼は違った。


七歳のときに、大人を魔法でぶっ飛ばしたときも、十五歳で革命を成功させたときも、彼はどこか満たされていないように見えた。




まるで、何かを達成しても、すぐにその先を探してしまうように。


彼は昔から、そういう人間なのだと思っていた。




生まれつき魔法を使えたことも、俺とは違う考え方をすることも。




ただ、そういう違いなのだと。




だから、彼が世界征服を口にしたときも、俺は驚きながら、どこかで納得してしまっていたのかもしれない。


彼は、昔からそうだったのだから。




俺とは、違う生き物なんだと本能的に思った出来事だった。

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