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勇者の秘密  作者: ふたーなる


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第14話 徴兵

翌日。





「全員、集まったな」





バルトの声が、ギャングの詰め所に響いた。


俺たちは仕事を中断して集められていた。


普段はそれぞれ別の場所で働いているため、こうして全員が一か所に集まることはあまりない。




何かあったのだろうか。


俺は周囲を見回した。


ロークもいる。


ほかにも、街のあちこちで住民の相談に乗っている仲間たちが集まっていた。




バルトは全員の顔を確認してから、口を開いた。





「昨日、勇者から命令があった」





 その一言で、室内が静かになった。





「徴兵だ。今回の遠征に、俺たちからも何人か兵士を出さなければならない」





「徴兵?」





誰かが聞き返した。





「ああ。勇者の軍に加わり、行軍に参加する」





ざわめきが広がった。


俺も驚いていた。


勇者が軍を率いていることは知っている。


しかし、俺たちまで兵士として連れていかれるとは思わなかった。





「何人出せばいいんですか?」





「人数は決まっている。こちらで選ぶ」





バルトは淡々と答えた。





「ただし、街の仕事を止めるわけにはいかない。残る者には、普段どおり住民の対応をしてもらう」





それから、バルトは手元の紙に目を落とした。





「選定基準は単純だ。入った時期が新しい者から順に出てもらう」





「えっ?」





思わず声が出た。


入った時期が新しい者から?


それはつまり、




俺は、確実に入るじゃねえか。


俺は口を開きかけて、閉じた。




確かに、俺はこの中では新しいほうだ。


二年前に入ったばかりなのだから、もっと長く働いている仲間が大勢いる。


だからといって、いきなり兵士として遠征に参加しろと言われても困る。


俺は戦争なんて経験したことがない。


そもそも、俺が知っているのはこの街の中のことだけだ。




そんな俺が、兵士として役に立つのだろうか。


しかし、ここで断ったところでどうにかなるとは思えなかった。


バルトが決めたことだ。




勇者からの命令でもある。


俺一人が嫌だと言ったところで、状況が変わるわけではない。


それに、俺たちはギャングだ。


街の秩序を守るために働いている。


その街を治める勇者から命令が下ったのなら、従うのも仕事のうちなのかもしれない。




……本当にそうなのかは、よくわからなかったが。


話し合いが終わると、仲間たちはそれぞれ準備のために動き始めた。


俺も立ち上がりかけたが、ふと気になることがあって、バルトのそばに寄った。





「バルト」





「なんだ」





「ところで、何と戦うんですか?」





バルトは俺を見た。


少しの沈黙があった。





「……魔王軍だ」





「いや、俺、前に聞きましたよ。忘れたんですか?」





思わず言い返してしまった。


俺は一応、周囲を見回した。


近くにいた仲間たちは荷物の確認や出発の準備に気を取られている。


こちらの会話を聞いている者はいなさそうだった。


俺はバルトに顔を寄せ、声を潜めた。





「魔王なんていないんでしょ?」





あのとき、バルト自身がそう言ったのだ。


魔王は、かつて勇者が作り出した架空の存在だと。


なのに、どうして魔王軍と戦うことになるのだろう。


バルトは俺の顔を見たまま、しばらく黙っていた。





「魔王軍だ」





「いや、だから……」





「……まあ、行けばわかるさ」





バルトはそれだけ言って、俺から目をそらした。俺は、しばらくその場に立ち尽くしていた。行けばわかる。




そんな言葉で納得できるほど、俺は物分かりのいい人間ではない。それでも、俺は行くしかなかった。魔王なんていないはずなのに、






俺たちはこれから、魔王軍と戦いに行くのだ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

本当の勇者の物語⑤

(バルト視点)

「実は、夢があるんだ」





「夢?なんの話だよ」





俺が尋ねると、彼は机の上に地図を広げた。





「世界を征服しようと思うんだ」





「……どういうことだ?」





思わず聞き返した。


冗談を言っているのかと思ったが、勇者の顔は真剣そのものだった。





「世界征服って……お前、隣の街を攻略したばかりだろう。これからどうするつもりなんだ?」





「次の街を攻める」





「次の街って……」





「その次も、そのまた次もだ」





勇者は、まるで当たり前のことを説明するように言った。俺は地図に目を落とした。この街の周囲には、いくつもの都市がある。砂漠を越えた先にも、さらにその先にも人々が暮らす土地が広がっている。


こんなに、世界は広かったのか。





「その、真中のが俺達の街なのか?」





「そうだ」





真ん中にポツンとある、街。その周りには、俺の想像を遥かに上回る砂漠が広がっていた。


そして、その砂漠の中にも何個か街がある。でも、世界ってこれだけじゃないんだろ?


そのすべてを攻めるというのか。





「……そんなことをして、どうするんだ?」





「魔王がいると思い込ませるためにも、俺は戦争に出かける必要があるんだ」





「……そんな、戦争ったって、」





俺は言葉に詰まった。魔王は、俺たちが作り出す予定の架空の存在だ。


住民たちに危機感を持たせ、街を守るための税金を納めてもらう。そのうえで、住民の身近な困り事を解決する組織を作り、街への不満がたまらないようにする。


それが、勇者の提案だった。




俺は、その方法が正しいのかどうか、まだ答えを出せずにいた。


だが、少なくとも、魔王という嘘は街を守るためのものだと思っていた。


戦争を始めるためのものではなかったはずだ。




しかし、魔王がいると嘘をつくなら、確かに戦争に出かける必要があるのかもしれない。





「だからこそ、お前にこの街の統治を任せたいんだ」





勇者は、はっきりと言った。俺は顔を上げた。





「さっき言ってたやつか」





「ああ。俺が外で戦っている間、お前がこの街を守るんだ。今までだって、うまくやってきただろう?」





「それは、そうだが……」





「お前ならできる。俺はそう思っている」





勇者は、迷いなく言い切った。


先程は直接その思いを聞くことはなかったので、その言葉を聞いて俺はうれしくなった。




俺がやってきたことを認めてくれている。


俺に、この街を任せたいと思ってくれている。


しかし、俺たちはようやく街を立て直したばかりなのだ。


住民たちが安心して暮らせるようになり、以前よりもずっと多くの人が協力し合えるようになった。




それなのに、


どうして自分から戦争を始めなければならないのか。


また、一緒にこの街で暮らせばいいではないか。





「世界征服だなんて、……本気で言っているのか?」





俺は、勇者の目を見て尋ねた。彼は、少しも表情を変えなかった。





「本気だ」





「……どうしてだ?」





「この街を守るためには、戦わなければいけない」





勇者は地図の上に手を置いた。





「誰にも攻められなくするためには、全員味方にしてしまえばいいんだ」





俺は何も言えなかった。


勇者の言っていることが、理解できないわけではなかった。


しかし、バカげたこととしか思えなかった。


世界は広い。






それに、すべての街を味方にするということはすべての街を攻めるということなのだろう。




そうすれば、こちらにも向こうにも犠牲が出るのだ。


それに、攻められた街の人々は、本当に俺たちの味方になるのだろうか。




彼は、旅へ出て変わってしまったのかもしれない。


しかし、俺の目の前にいるのは昔から成長はしても変わらないあいつだ。


その男が今、自分の意志で戦争を始めようとしている。




俺は、その目を見つめながら、かつてのことを思い出そうとしていた。


あれは、俺たちがまだ七歳だったころだ。

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