第13話 2年後
あれから、二年が経った。
俺はすっかりギャングの一員として街になじんでいた。
最初はどうなることかと思ったが、やっていることは思っていたよりも普通というか、元から住民としてギャングの仕事ぶりは直接見ていたからな。
住民同士の揉め事を仲裁したり、店の手伝いをしたり、
困っている人間がいれば話を聞いたりする。
もちろん、すべてが簡単というわけではない。
金を貸した相手が返してくれないだとか、働いたのに給料を払ってもらえないだとか、そういう話は毎日のように持ち込まれる。
中には、どちらの言い分が正しいのか判断するだけで半日が潰れるようなものもあった。
それでも、俺たちが間に入れば大抵の問題は解決した。というか、無理やり解決させるのが俺達の仕事なのだ。
住民の揉め事はきっちり解決しなければならない。住民から信頼してもらうためだ。何回も揉め事を繰り返すようなやつは、バルトに任せる。まあ、その後揉め事を起こしたやつがどうなったかは、俺にはわからない、ということにしている。
そして、今日は特別な日だった。
「ミロ!そっちの鍋、もう少し右に寄せてくれ!」
「わかった。これくらいか?」
「いや、もうちょっと!そこだ!」
俺は言われたとおり、大きな鍋をずらした。
中央広場には、普段なら見かけないほどの人が集まっている。
広場の端には食材が山積みになり、あちこちで火が焚かれていた。
肉を切る者、野菜を洗う者、水を運ぶ者。皆、忙しそうに動き回っている。
今日は勇者が凱旋する日なのだ。
勇者は不定期だが、ときどきこの街へ戻ってくる。
そのたびに街は大騒ぎになり、広場では炊き出しが行われる。
住民たちが勇者の帰還を祝うために食事を用意し、俺たちギャングはその準備や当日の運営を手伝うのだ。
もっとも、勇者本人がこの炊き出しに参加するわけではない。
勇者は街に戻ると、凱旋で住民に顔を見せたあとは役人たちと話をするだけで街には出てこない。
そして、しばらく滞在したあと、またどこかへ出発していく。
それでも、住民たちは勇者が戻ってくるのを楽しみにしていた。
まあ、魔王軍(?)と戦って街を守ってくれているわけだからな。それに、そこは嘘だとしても、実際にこの街の住民を悪逆非道な王から解放してくれたのは事実だ。
「ミロ、そっちの水が足りない!」
「はいはい、今持っていく!」
俺は桶を持ち上げ、炊き出しの準備をしている一団のもとへ走った。
水はこの街にとって大切なものだ。大勢の人間が一度に集まれば、水はいくらあっても足りない。こういうとき、ギャングの仕事は多い。
「おい、ミロ!」
桶を置いたところで、背後から声がした。
振り返ると、一人の男がこちらに歩いてくる。
俺と同じギャングの仲間だ。
名前はロークという。
俺より少し年上で、短く刈った髪と、いつも眠そうな目が特徴だった。
普段は面倒くさがりで、仕事を頼むと必ず一度は文句を言う。
だが、いざ仕事が始まれば手際はいい。
俺がギャングに入ったばかりのころには、仕事のやり方を教えてくれたこともあった。
「なんだ?」
「バルトが呼んでるぞ」
「バルトが?」
「ああ。頼み事だとさ。お前も来いってよ」
俺は思わず、広場のほうを振り返った。
「今からか? まだ準備が終わってないんだけど」
「こっちは俺たちがやっとく。お前、鍋を運ぶくらいしかしてなかっただろ」
「水を運んでただろ!」
「はいはい。水運びご苦労さん」
ロークは適当に返事をすると、俺の肩を叩いた。
まったく、こいつはいつもこうなのだ。
俺は小さく息を吐き、ロークのあとについて歩き出した。
ロークは歩きながら、広場のほうを指さした。
「ほんと、なんで俺達がこんなことをしなきゃいけないのかね、」
言われてみれば、そうなのかもしれない。
ギャングが祭りの準備をするなんて、役人たちがすればいいことなのに、と思いつつも、実際は俺達は裏で役人が集めてきた税金をもらっているのだ。
他のギャングはそれを知らない。
俺があの日、ナギと一緒にバルトから本当のことを聞いてしまったからな。だから、行政府とギャングは、別々のようで実はつながっていたのだ。しかし、それがバレれば俺達は信用を失ってしまうからな。
「せっかく、祭りだっていうのにな」
「帰りに飯を食えればそれでいい」
「お前、もう飯のことを考えてるのか?」
「当たり前だろ。勇者様の凱旋だぞ。今日くらい腹いっぱい食わせてもらわないとな」
ロークはそう言って笑った。
広場からは、食材を切る音や、人々の話し声が聞こえてくる。
やがて、俺たちは税を管理している建物へとたどり着いた。普段は住民は立ち入りを禁止されている場所だ。
外観は、白い大理石のようなものでツルツルとしていて、それのせいで日光が跳ね返ってくるからあまり好かれてはいないが、綺麗だな、とはなんとなく思っていた。
建物の中にはバルトが待っていた。
「来たか」
「ああ。ミロも連れてきたぞ」
「そうか。では、行くぞ」
バルトはそれだけ言うと、建物の奥へと歩いていった。
「おい、こっちだ。ここは、秘密の場所なんだ」
俺はロークと顔を見合わせ、それからバルトのあとを追った。
建物の中に入ると、奥の部屋へと通された。
「ここに勇者が来る。お前たちは、ここで待機しろ」
バルトが扉の前で立ち止まり、俺とロークに言った。
「待機って?」
「見張りだ。誰も通すな」
「……わかった」
バルトは部屋に入ろうとしたところで、「ああ、もういたのか」と声を出していた。
いつの間にか、勇者が戻ってきていたみたいだ。俺達は料理に忙しくて凱旋の様子は見えないからな。
俺たちは扉の両脇に立った。
しばらくすると、部屋の中から椅子を動かすような音が聞こえた。
俺は扉に目を向けた。
何を話しているのだろう。
勇者とバルトが二人きりで話すことなど、いくらでもあるはずだ。
だが、扉は分厚く、椅子の音は聞こえても話し声は聞こえなかった。
耳を澄ませても、何を話しているのかまったくわからない。
「気になるか?」
隣のロークが小声で聞いてきた。
「そりゃあな。勇者とバルトが何を話してるのかなんて、普通に気になるだろ」
「聞こえないものは仕方ない。仕事に集中しろ」
「お前、こういうときだけ真面目だな」
「俺はいつだって真面目だ」
ロークは真顔で言った。
そんなことを考えながら、俺は扉の前に立ち続けた。
結局、二人が何を話していたのかはわからなかった。
やがて勇者が部屋から出てきて、バルトと短く言葉を交わしたあと、兵士たちとともに建物を去っていった。
バルトは俺たちに何も説明しなかった。
聞きたいことは色々とあったが、これ以上色々と知ってしまうと殺されるかもな、と思ったので俺は尋ねるのをやめた。




