↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の秘密  作者: ふたーなる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/27

第9話 本当の勇者の物語②

水の問題に取り組む一方で、俺たちは軍隊を作る必要にも迫られていた。


そして、俺たちの街は一度、隣の街から侵略されている。王を倒したからといって、もう二度と攻め込まれないという保証はなかった。





「軍隊を作る」





勇者は、住民たちを集めて宣言した。





「この街を守るためだ。必要なら、街の外へ出て戦うこともある。だが、軍隊を持つこと自体が目的じゃない。俺たちの暮らしを守るために必要なんだ」





街を守るための兵士を集め、訓練を始めることになった。


武器を扱える者を探し、戦い方を教え、隊列の組み方を覚えさせる。


食料や水の管理も必要だったし、兵士たちが使う装備を用意する必要もあった。


戦う人間を集めれば、それで軍隊ができるわけではない。




兵士たちが食べるものを用意しなければならないし、怪我をしたときの手当ても考えなければならない。


軍隊を維持するためには、金も必要だった。


そこで俺たちは、税の仕組みを整えることにした。




今までの王は、住民から無理やり税を取り立てていた。


払えない者からも容赦なく取り立て、家や財産を奪うことさえあった。


軍隊を維持するにも金がかかる。


税を集めなければ、仕事をする人間に賃金を払えない。




しかし、彼らには十分な仕事をすでに与えていた。仕事をしていれば、自然に金は回るものだ。


これで、他の街や国との交易も盛んに行うことができる。


そうすれば、税収だって増える。


俺たちは少しずつ制度を整えていった。





軍隊は、やがて形になった。


勇者は兵士たちを率いて訓練を行い、


街を守るための準備を進めた。そして、ある日、俺に言った。





「隣の街を攻める」





俺は驚いた。





「攻め込むのか?」





「そうだ。俺たちの街は、あいつらに一度奪われた。今のままでは、また同じことが起こるかもしれない。向こうが再び攻め込む準備をする前に、こちらから動く」





「それで、街の人たちは納得するのか?」





「関係ない。というか、納得してもらわなきゃ困る。自分たちの街を自分たちで守るという意識が必要だ。それに、しっかりと金は払うんだ。どちらにせよ、まだ食料の問題が解決してないからそれが解決したらな」





勇者は、そう言った。俺は反対しなかった。隣の街を攻めることが良いとは思わなかったが、勇者の言うことにも一理あった。


やがて、食料の問題は解決した。勇者が道を整備して商人を呼びやすくしたのだ。




商売が盛んになり、一気に税収が増え、交易によって多くの食料を手に入れることができた。


そして、勇者は軍隊を率いて街を出た。残された俺は、街の自治を任されることになった。


勇者がいなくなってから、俺の仕事はさらに増えた。


街の問題を解決するためには、現場へ行かなければならない。


水路が壊れたと聞けば、そこへ向かった。道が崩れたと聞けば、どこが悪いのかを調べた。軍隊に食料を送るための準備も必要だった。




俺は毎日、街中を歩き回っていた。


朝、家を出る。


水路の工事現場へ行き、作業を確認する。


その途中で住民に呼び止められ、話を聞く。


俺は現場へ行くことをやめなかった。


報告書に書かれた言葉だけでは、わからないことがあるからだ。


水路の修理が遅れていると書かれていても、実際に行ってみれば、作業をしている人間が足りないのかもしれない。






材料が届いていないのかもしれない。


税が払われていないと報告されても、実際に話を聞いてみれば、病気で働けなくなった者がいるのかもしれない。




俺は、そういう事情を知りたかった。


以前の王は、住民の暮らしを知らなかった。知ろうともしていない。城の中で命令を出し、税を取り立て、兵士を動かす。その命令によって誰が困るのか、どこに問題があるのか、以前の王は、何も見ていなかった。




だから俺たちは、革命を起こしたのだ。


俺まで同じことをするわけにはいかなかった。




だが、次第に無理が出てきた。


街の人口が増え、仕事が増えるにつれて、俺が直接確認しなければならないことも増えていった。


俺が一つの現場にいる間に、別の場所で問題が起こる。


そちらへ向かえば、今度は別の住民から呼び出される。


朝に聞いた相談の答えを出す前に、昼には新しい問題が持ち込まれる。


すべての現場へ行くことは、もうできなくなっていた。





「バルト様、こちらの件はどういたしましょうか」





 天幕の内側で書類を確認していた俺に、部下の一人が新たな報告書を持ってきた。





「水路の修理についてです。現場の責任者から、予定を変更したいと申し出がありました」





「どうしてだ?」





「詳しい事情は、まだ確認できておりません」





「なら、現場を見てきてくれ」





「承知しました」





部下は頭を下げて出ていった。


俺は、机の上に積まれた書類を見た。


これまでは、俺自身が現場へ行っていた。


そこで話を聞き、状況を確認して、どうするかを決めていた。


だが、これからは違う。




誰かに現場を任せなければならない。


俺の代わりに話を聞き、俺の代わりに判断してもらわなければ、街は動かなくなる。




そのためには、信頼できる人間を選ぶ必要があった。だが、これからは、


俺が直接聞けない声が増えていく。


俺の部下が住民の話を聞き、その部下が別の人間に仕事を任せ、その人間がさらに別の人間に指示を出す。




そうなったとき、住民の声は正しく伝わるのだろうか。


現場を知らない人間が、報告書だけを読んで判断するようになったらどうなるのだろう。




住民の事情を知らない人間が、決められた規則だからといって、無理な要求を押しつけたらどうなるのだろう。





「……大丈夫だろうか、」





俺は、誰もいない天幕の中で呟いた。




俺たちは、王が支配していたころよりもよい街を作ろうとしている。




そのために、俺は毎日働いてきた。




だが、俺一人でできることには限界がある。




誰かに任せなければならない。




それは、わかっている。




問題は、どう任せるかだった。


住民の声を聞かずに決める人間を、どうすれば生み出さずに済むのか。


そして、俺自身が現場へ行けなくなったとき、どうすれば住民の声を聞き続けられるのか。




俺は机に両肘をつき、頭を抱えた。


革命は成功した。


俺たちは街を取り戻した。


だが、街を取り戻したあと、どうやって街を動かしていけばいいのか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。