↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シャルル・マニエール〜最強魔術師がファンタジー世界を冒険する〜  作者: リオン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/6

第一部『運命の序章』 第三章 五つの属性

ヒルデガルトと出会ってから、数日が過ぎた。

ランク王国の片田舎にあるマニエール家の屋敷では、今日も変わらぬ朝が訪れていた。

柔らかな陽光が庭を照らし、木々の間を吹き抜ける風が、青々とした葉を揺らしている。

そんな穏やかな朝の庭に、一人の少年が立っていた。

「……よし」

シャルル・マニエールは、足元に置いた小さな石を見つめた。

右手をかざし、静かに魔力を集中させる。

すると、石がかすかに震え始めた。

やがて地面から浮かび上がり、少年の目の高さまで持ち上がる。

「ここまでは簡単なんだけど……」

シャルルは小さくつぶやいた。

石の表面がゆっくりと変形していく。

丸みを帯びた形から、細長い棒へ。

さらに、その先端が鋭く尖り始めた。

「もう少し……」

しかし、次の瞬間。

ぱきっ。

乾いた音が響いた。

石の先端に亀裂が走り、細かな破片が地面に落ちる。

「あーっ!」

シャルルは思わず声を上げた。

「また割れた!」

少年は肩を落とした。

ここ数日、彼は同じ練習を繰り返していた。

土魔術によって剣を作り、その形を自由に変える。

それが現在の目標だった。

以前は土を固めることすら難しかったが、ヒルデガルトの助言によって、少しずつ形を維持できるようになっていた。

しかし、そこからさらに変形させようとすると、どうしても崩れてしまう。

「形を変えるときに、力がかかりすぎるのかな……」

シャルルは腕を組んだ。

石を硬くすれば、形を変えにくくなる。

柔らかくすれば、今度は剣として使えない。

その両立が難しいのだ。

「……あれ?」

ふと、少年は顔を上げた。

「最初から全部硬くする必要って、あるのかな?」

思いついた瞬間、表情が明るくなる。

「そうだ! 形を変えるところだけ柔らかくしておけば……!」

シャルルは再び右手をかざした。

石が浮かび上がる。

今度は全体を均等に固めるのではなく、部分ごとに魔力の働かせ方を変えていく。

刃の部分は硬く。

変形させたい部分は、動かせる程度の柔らかさを残す。

すると。

「……おお!」

石の棒が、ゆっくりと曲がった。

先端だけが、まるで生き物のように方向を変えていく。

「できた!」

シャルルは歓声を上げた。

だが、その喜びも束の間。

ぽきっ。

石の棒は根元から折れた。

「……あ」

少年はしばらく固まった。

そして、吹き出した。

「あはは! 惜しい!」

失敗した。

けれど、昨日までとは違う。

ほんの少しだけ、思い描いた形に近づいたのだ。

「次は、根元をもっと強くしてみよう!」

シャルルは楽しそうに笑った。

*

「……朝から随分と熱心ね」

背後から声がした。

振り返ると、母ベルトラダが立っていた。

柔らかな笑みを浮かべた彼女は、地面に散らばる石の破片へ視線を落とす。

「また剣を作っていたの?」

「はい!」

「今日はどうだった?」

「少しだけ曲げられました!」

「あら」

ベルトラダは目を細めた。

「それは進歩ね」

「でも、途中で折れちゃって……」

「そう」

彼女は少し考えた。

「シャルル。あなたは、どうして剣を変形させたいの?」

「え?」

「普通の剣では駄目なのかしら?」

シャルルは首をかしげた。

「普通の剣も好きですよ。でも……」

少し考えた後、少年は答えた。

「相手が思っていないことをできたら、面白いと思うんです」

「思っていないこと?」

「はい! 例えば、剣を受け止めたと思ったら、急に刃が曲がったり、伸びたりしたら驚くじゃないですか!」

「確かに、驚くでしょうね」

「それに、魔術っていろんなことができるのに、ただ火を出したり、水を飛ばしたりするだけじゃ、もったいない気がするんです」

ベルトラダは息子を見つめた。

シャルルは続ける。

「もっといろんな使い方があると思うんです。まだ誰もやってないようなこととか!」

「……なるほどね」

彼女は静かに微笑んだ。

「それなら、今日は少し違う勉強をしましょうか」

「違う勉強?」

「ええ。五つの属性について、改めて考えてみましょう」

シャルルの瞳が輝いた。

「はい!」

*

屋敷の裏庭には、魔術の練習に使うための広場が設けられていた。

周囲には低い石壁があり、庭木や建物から十分な距離が取られている。

ベルトラダはその中央に立ち、シャルルへ向き直った。

「まず、魔術の基本について確認しましょう」

「はい!」

「この世界に存在する魔力は、人や動物だけでなく、植物や大地、水、空気にも宿っているわ」

ベルトラダは足元の草を指さした。

「魔術師は、自分の持つ魔力を使って、さまざまな現象を引き起こすことができるの」

「はい。先生にも教わりました!」

「そうね。では、基本となる五つの属性は?」

「火、水、雷、風、土です!」

「正解」

ベルトラダは微笑んだ。

「そして、それとは別に、光と闇という特殊な属性が存在するわ」

「光と闇……」

シャルルはヒルデガルトのことを思い出した。

天使族は光魔術を扱う。

彼女も、光魔術を使えると言っていた。

「母上、光魔術って僕にも使えるんですか?」

「人族が光魔術を扱う例は、とても珍しいわ。誰でも使えるというものではないの」

「そうなんですね……」

「シャルル。今は五つの基本属性をしっかり学びましょう」

「はい!」

ベルトラダは右手を持ち上げた。

「まずは火」

その指先に、小さな炎が灯る。

赤く揺れる炎は、まるで小さな花のようだった。

「火魔術は、熱と炎を生み出す魔術。攻撃だけでなく、明かりを灯したり、物を温めたりすることにも使えるわ」

「はい!」

「では、シャルルもやってみて」

少年は右手をかざした。

ぼっ。

指先に炎が灯る。

しかし、ベルトラダのものよりも、ひと回り大きかった。

「あら」

「……ちょっと大きいですね」

「そうね。もう少し小さくできる?」

「やってみます!」

シャルルは炎を見つめた。

魔力を抑える。

すると、炎は少しずつ小さくなっていった。

「できた!」

「上手よ」

ベルトラダは頷いた。

「ただし、覚えておいて。魔術は強ければいいというものではないわ」

「はい」

「必要なだけの力を、必要な場所に使うこと。それが大切なの」

シャルルは真剣に頷いた。

*

「次は水よ」

ベルトラダが手をかざすと、空中に小さな水球が現れた。

透明な球体は、陽光を受けてきらきらと輝いている。

「水魔術は、流れや形を変えやすいのが特徴ね」

「形を変えやすい……」

シャルルは水球を見つめた。

「じゃあ、水で剣を作ることもできますか?」

「できなくはないわ。でも、水はそのままでは固い刃にならないでしょう?」

「そうですね……」

少年は少し考えた。

「じゃあ、すごい勢いで水を飛ばしたら?」

「それなら、相手を傷つけることもできるでしょうね」

「やっぱり!」

シャルルは嬉しそうに笑った。

「でも、勢いを強くするには魔力も必要になるわ。それに、周囲の状況も考えなくてはいけない」

「周囲の状況?」

「例えば、足元が濡れていたら滑りやすくなるでしょう?」

「あっ、確かに!」

「魔術は、使った後に何が起こるかまで考えることが大切なのよ」

シャルルは頷いた。

水はただ飛ばすだけではない。

地面を濡らすこともできる。

相手の動きを邪魔することもできる。

そして、ほかの属性と組み合わせることもできるかもしれない。

「……面白いなあ」

思わず、声が漏れた。

ベルトラダはその様子を見て微笑んだ。

「次は雷ね」

彼女が指を鳴らす。

ぱちっ。

小さな青白い光が走った。

「雷魔術は、非常に速く、扱いを誤れば危険な属性よ」

「速いんですよね!」

「ええ。だからこそ、慎重な制御が必要なの」

シャルルは指先に魔力を集めた。

ぱちぱちっ。

小さな火花が弾ける。

「うわっ!」

思わず手を引っ込めた。

ベルトラダが笑う。

「驚いた?」

「ちょっと!」

「雷は特に、扱いに注意しなさい。強い魔力を持っているからといって、無理に大きな術を使ってはいけないわ」

「はい!」

シャルルは指先を見つめた。

火とは違う。

水とも違う。

一瞬で走り抜ける、鋭い力。

「……雷を剣にまとわせたら、どうなるんだろう」

少年がつぶやく。

ベルトラダはすかさず答えた。

「試すなら、私がいるときにしなさいね」

「……はい」

「次は風」

ベルトラダが手を動かすと、周囲の空気がゆっくりと流れ始めた。

庭の草が揺れ、シャルルの髪がふわりと持ち上がる。

「風魔術は、空気の流れを操る魔術よ」

「知ってます!」

「では、どんな使い方ができるかしら?」

シャルルは少し考えた。

「相手を吹き飛ばす!」

「そうね」

「それから、物を動かす!」

「ええ」

「あと……」

少年は空を見上げた。

「空を飛ぶ!」

ベルトラダは小さく笑った。

「やっぱり、それを考えていたのね」

「だって、ヒルデガルトが翼で飛べるって言ってたから!」

「そうだったわね」

「僕も飛んでみたいんです!」

シャルルは両手を広げた。

「風を下に向けて出せば、体が浮くんじゃないかなって!」

「理屈としては分かるわ」

「じゃあ!」

「でも、人の体を安定して浮かせるのは難しいのよ」

「どうしてですか?」

「体を持ち上げるだけなら、強い風を起こせばいいかもしれない。でも、その状態で姿勢を保ち、進みたい方向へ動くとなると、繊細な制御が必要になるわ」

「……なるほど」

「それに、高いところで魔術が途切れたら大変でしょう?」

シャルルは想像した。

空高く浮かび上がる自分。

突然、風が止まる。

そして、地面へ真っ逆さま。

「……痛そう」

「痛いでは済まないわよ」

ベルトラダは真剣な表情で言った。

「だから、勝手に試しては駄目よ」

「はい!」

シャルルは元気よく返事をした。

だが、その瞳から好奇心が消えたわけではなかった。

いつか必ず、空を飛んでみたい。

その思いは、むしろ強くなっていた。

「最後は土ね」

ベルトラダが地面に手をかざす。

すると、足元の土がゆっくりと盛り上がった。

土は集まり、やがて一つの小さな柱となる。

「土魔術は、大地や岩石などを操る魔術。形を作ることも、防御に使うこともできるわ」

「はい!」

「シャルルは、最近ずっと練習しているわね」

「そうなんです!」

少年は勢いよく頷いた。

「でも、なかなかうまくいかなくて……」

「それなら、今日は一つ教えてあげる」

「本当ですか!」

「ええ」

ベルトラダは土の柱へ手をかざした。

すると、柱の表面がゆっくりと変化し始める。

柔らかそうだった土が、少しずつ硬い岩のような質感になっていった。

「……すごい」

シャルルは目を見開いた。

「土を固めるときは、ただ押し固めるだけではなく、内部の状態まで意識することが大切なの」

「内部……」

「そう。外側だけ硬くしても、中が脆ければ簡単に壊れてしまうわ」

シャルルは、朝の失敗を思い出した。

石の剣が根元から折れたこと。

形を変えることばかり考えて、内部の強さを十分に意識していなかったこと。

「……そっか!」

少年は顔を上げた。

「だから折れたんだ!」

「何か分かった?」

「はい!」

シャルルは勢いよく頷いた。

「僕、形を変えることばっかり考えてました!」

そして、足元の土へ手をかざす。

土が集まり、小さな棒の形になった。

今度は、外側だけでなく内部にも意識を向ける。

魔力を細かく調整しながら、ゆっくりと形を整えていく。

やがて、一本の短い剣が完成した。

「……できた」

シャルルは慎重に持ち上げた。

崩れない。

折れない。

しっかりとした重みが手に伝わってくる。

「母上!」

少年は嬉しそうに振り返った。

「できました!」

「ええ。よくできたわ」

ベルトラダは微笑んだ。

「でも、まだ完成ではないでしょう?」

「はい!」

シャルルは剣を見つめた。

ここからが本番だ。

少年は静かに魔力を集中させた。

剣の先端が、ゆっくりと動き始める。

まっすぐだった刃が、少しずつ曲がっていく。

そして。

「……!」

刃の先端が、横へと伸びた。

まるで鉤のような形になった剣。

シャルルは目を見開いた。

「できた……!」

今度は折れない。

形を変えても、剣はそのまま維持されている。

「やったあ!」

少年は飛び跳ねた。

その拍子に集中が途切れ、剣はぼろぼろと崩れ落ちた。

「あっ!」

ベルトラダが笑った。

「ふふっ。最後まで気を抜いては駄目よ」

「……はい!」

シャルルは照れくさそうに笑った。

それでも、嬉しかった。

ずっとできなかったことが、ほんの少しだけできるようになった。

その喜びは、何物にも代えがたかった。

*

夕方。

シャルルは父ピピンとともに、剣術の稽古をしていた。

「はっ!」

木剣を振り下ろす。

ピピンはそれを軽く受け止めた。

「遅い!」

「くっ!」

シャルルは素早く横へ回り込む。

しかし、ピピンはすでにその動きを読んでいた。

木剣が少年の肩に軽く触れる。

「一本だ」

「……また負けた!」

シャルルは悔しそうに声を上げた。

ピピンは木剣を下ろす。

「動きは悪くない。だが、攻撃が素直すぎるな」

「素直?」

「ああ。お前は考えたことを、そのまま動きに出してしまう」

「……そうかな」

「そうだ。相手に次の動きを読まれれば、どれほど速く動いても意味がない」

シャルルは少し考えた。

「じゃあ、相手が思ってない動きをすればいいんですね!」

「簡単に言えば、そういうことだ」

ピピンは頷いた。

「ただし、奇抜な動きをすればいいというものではない。基本ができていなければ、かえって隙を生む」

「基本……」

「そうだ」

父は木剣を構え直した。

「もう一度だ」

「はい!」

シャルルは木剣を握り直した。

そして、父へ向かって駆け出す。

今度は、まっすぐ斬りかからなかった。

途中で足を止め、横へ踏み込む。

ピピンの視線がわずかに動いた。

その瞬間、シャルルは剣を振り上げる。

しかし。

かんっ!

木剣が弾かれた。

「うわっ!」

少年は尻もちをついた。

ピピンは苦笑した。

「悪くない。だが、まだ甘いな」

「……はい」

シャルルは地面に座ったまま、空を見上げた。

夕焼けが広がっている。

今日もたくさん失敗した。

魔術も。

剣術も。

思い通りにいかないことばかりだ。

けれど。

「……楽しいなあ」

思わず、笑みがこぼれた。

ピピンは不思議そうに眉を上げた。

「何がだ?」

「いえ、なんでもないです!」

シャルルは勢いよく立ち上がった。

「父上! もう一回お願いします!」

ピピンは一瞬驚いた後、豪快に笑った。

「ははは! よし、来い!」

再び、木剣のぶつかる音が庭に響き始めた。

*

その夜。

シャルルは自室の机に向かっていた。

目の前には、一冊の小さな手帳が開かれている。

そこには、少年が思いついた魔術の使い方が、びっしりと書き込まれていた。

『土で剣を作る』

『剣の形を途中で変える』

『風で体を浮かせる』

『水で相手の足元を滑らせる』

『雷を剣にまとわせる』

そして、その下には新しい項目が加えられていた。

『二つの属性を組み合わせる』

シャルルはペンを止めた。

「……そうだよね」

火。

水。

雷。

風。

土。

五つの属性。

それぞれに違う特徴がある。

ならば、それらを組み合わせれば、もっと多くのことができるのではないだろうか。

例えば。

水と雷。

風と火。

土と水。

考え始めると、次々に新しい発想が浮かんでくる。

「……面白そう!」

シャルルは夢中で手帳に書き込んだ。

失敗するかもしれない。

うまくいかないかもしれない。

それでも構わなかった。

できないことがあるなら、できる方法を考えればいい。

知らないことがあるなら、学べばいい。

それが、シャルル・マニエールという少年だった。

やがて、窓の外には満天の星が広がっていた。

シャルルは手帳を閉じ、空を見上げる。

あの星々の下には、まだ知らない世界がある。

遠い王都。

見たことのない国々。

そして、人界の外に広がる三つの世界。

そこには、どんな魔術があるのだろう。

どんな人々が暮らしているのだろう。

少年は小さく笑った。

「いつか、全部見てみたいな」

その胸には、尽きることのない好奇心があった。

そして、彼はまだ知らない。

自分が何気なく思いついた魔術の工夫が、やがて多くの人々の運命を左右する力となることを。

五つの属性。

無数の可能性。

そのすべてが、少年の未来へとつながっていた。


シャルル・マニエールの成長は、まだ始まったばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。