第8話「ミミと力の出会い」
にゃー師匠が店先に置かれている武器を指さした。
私と同じくらいはありそうな、太い鉄の棒。
手で握る柄の部分から、先端に行くたびに少しずつ太くなっている。
「これならミミでも、重さで敵を倒せるにゃ」
そう……なのかな?
お店の人に了承をもらい、持たせてもらった。
力を込める。
柄の部分が少しだけ持ち上がり……
あまりの重さに、力み過ぎて目がチカチカしてきた。
「む、無理……です」
「ダメかにゃ……
あと、ミミは顔が真っ赤になってるにゃ。
大丈夫かにゃ?」
「だ、大丈夫です」
「はははっ。それは嬢ちゃんには無理だわなぁ。こっちなら持てるんじゃないか?」
店主さんが指さしたのは、先端にトゲトゲがついているメイスだった。
長さも私の足より短く、これなら扱えるのかもしれない。
再び、許可をもらって持ち上げる。
柄が上がり、ずっしりとした重さを感じた。
力を込めて持ち上げる。
トゲトゲがついた部分も上がった。
けれど……
とても振れそうにない。
「それをくれにゃ」
え……っ。
「毎度!」
「お金はミミが払うにゃ」
私はお金を支払い、そこそこする値段に懐が寂しくなった。
「にゃー師匠。このままでは食べられなくなりそうです……」
「にゃ!?」
私たちは二人で肩を落としながらギルドへと向かった。
メイスが重くて両手が痺れてくる。
ギルドへ入ると全員の視線が突き刺さった。
この感覚には慣れそうもない。
メイスを置いて休みたいけれど、にゃー師匠から離れずについていった。
「あー忘れてたみゃー」
受付の猫さんがにゃー師匠を見て立ち上がると、逃げるように立ち去る。
「なんにゃ?」
にゃー師匠は首を傾げながら見送った。
カウンターに着き、ようやくメイスを地面に下ろして一息つく。
「その調子で力をつけるにゃ!」
「は、はい!」
返事が大きかったのか、いくつもの視線がこちらへ向けられた。
思わず小さくなり、にゃー師匠の陰に隠れる。
このメイスは、私に力をつけさせるためのものだったのかな?
にゃー師匠って色々と考えてくれているんだなぁ。
なんだか、頬が緩んでくる。
「おーい。金くれにゃー。誰かいないのかにゃー?」
二人でカウンターに手をかけて覗き込む。すると、奥からメガネをかけた男性が出てきた。
「はい、どうかしましたか? って、あのクソ猫はどこに行った!?」
「なんにゃと!?」
にゃー師匠の目つきが鋭くなる。
「い、いえ。受付の猫のことでして……」
メガネさんは手を頭の後ろに当てて、何回か頭を下げた。
「それなら、あっちにゃ」
にゃー師匠は受付の猫さんが立ち去った方を指さす。
「あいつ、またサボりやがったな! それで、どのようなご用件でしょうか?」
「金をよこせにゃ!」
場が凍りついた。
「それは、素材を買い取ってほしいということでしょうか?」
メガネさんの額がピクピクと引きつっている。
「違うにゃ。お金が無いと飯抜きになるにゃ……」
にゃー師匠は眉を下げてお腹をさすった。
「あぁ、でしたら依頼ですね」
にゃー師匠の言うことを理解したメガネさんは、書類を見始めた。
「確か……雪原の先まで行っていましたよね? でしたら……」
「それは無理にゃ。子連れには厳しいにゃ」
雪原……私も行ったことがない場所だ。
にゃー師匠ってもしかして、ソールさんたちより……
と思ったけれど、やっぱり私が足を引っ張っていたのかな……
強くなるって決めたのに、思い返すとなんだか胸の奥が締めつけられた。
カウンターから顔を覗かせる私と、メガネさんの視線が合った。
会釈すると、微笑みながら会釈してくれる。
先ほどまでは真剣な顔だったのに、今は優しそうな顔で、少し心が綻んだ。
「それでしたら、インプ討伐とかどうですか?
あなたの相棒もちょうど受けていますよ」
「……相棒にゃ?」
にゃー師匠の相棒って、どんな人なんだろう。会ってみたいなぁ。
「なら、それでいいにゃ!」
「一層にいるインプを倒して翼を持ってきてくださいね。買い取りますので」
「わかったにゃー」
私はメガネさんにお辞儀をすると、にゃー師匠を追いかけた。
メイスが重い……。
それでも、必死ににゃー師匠についていく。
「早く行くにゃー」
私はメイスを引きずるようにしながら駆け寄った。
ダンジョンへと足を踏み入れると、涼しい風が肌を撫でた。
立ち止まり深呼吸する。
一層、何度か通ったけれど……あのときはみんなと一緒だった。
今は、にゃー師匠がいてくれるけれど、なんだかダンジョン内が不気味な気がする。
「何してるにゃ?」
「あ、ごめんなさい」
私はすぐに駆け寄り、にゃー師匠と一緒に奥へと進んだ。
広場にゴブリンたちがひしめき合っていた。
「邪魔にゃー!」
にゃー師匠の叫びに、一斉に顔が向けられる。
その鋭い目が一斉にこちらへ向き、私を狙っているような気がして身を震わせた。
にゃー師匠が一歩踏み出すとゴブリンたちはにゃー師匠を見て、全員逃げ出していく。
「ふっ。恐れをなしたにゃ」
そのとき、地響きが起きた。
ズシンッ、ズシンッと何かがゆっくり近づいてくる。
にゃー師匠は地面にしっかりと足をつけて奥を見つめている。
私はバランスを崩して地面に手をついた。
見据えた奥には、見上げるほどの巨大な影が赤い目を光らせていた。




