第7話「目をそらすにゃ」
「にゃー師匠。そこが私の家です」
私をおぶるにゃー師匠に伝えると、扉の前で降ろされた。
「ここにゃ?」
「はい、どうぞ」
扉を開けると、にゃー師匠を招き入れた。
居間へとにゃー師匠を案内すると、私は調理場へと向かった。
何かないかと漁っていると、干し肉や干物などの保存食が目に入った。
ソールさんがわざわざ用意してくれたのかな?
ソールさん。ありがとうございます。
私は干し肉や、魚の干物を持ってにゃー師匠の元へと戻った。
ジュースも器に入れてあげると、にゃー師匠はどれも美味しそうに食べてくれる。
食べていると、なんだか涙が溢れてしょっぱく感じた。
「大丈夫かにゃ?
痛すぎたかにゃ?」
にゃー師匠が心配そうに顔を覗き込む。
「ううん。ごめんなさい、大丈夫です」
私が笑顔を作ると、にゃー師匠は安心したかのように食べ進めた。
「ミミもこれを使うかにゃ?」
にゃー師匠が取り出したのは、鉤爪がついた装備。
「これが、にゃーの本気装備にゃ」
確かに、にゃー師匠が装備して暴れたら、血の海になりそう……
想像しただけで、体が震えた。
「い、いぇ。私には無理そうです……」
「そうかにゃ……。
じゃぁ、そろそろ寝るかにゃ」
まだ日中だというのに、にゃー師匠は横になってしまった。
「え、もうですか?」
「夜の森へ散歩に行くにゃ。
ミミも一緒ににゃ」
人間が大好物の狼がいるって言っていたような……
私は寝室へ向かい、ベッドで横になった。
みんなのぬいぐるみに包まれていると、不思議と震えていた体がおさまる。
目を瞑ると、次第に意識が暗闇に呑まれていった。
「起きるにゃ。ミミ、起きるにゃー」
体が揺すられて目を開けると、にゃー師匠の顔が近づいてきた。
耳をぺろりと舐められ、ぞわっとしたものが身体中を駆け巡った。
「にゃー師匠!?」
私は起き上がり、咄嗟に離れて耳に触れる。
濡れていた。
「起きたかにゃ?」
「は、はい。起きました」
「森に行くにゃ。
早く支度しろにゃ」
次からは早く目覚めるように頑張ろうと思い、手早く支度をする。
にゃー師匠に連れられて森へと向かった。
辺りは薄暗く、少し肌寒い。
西門は閉まっている。
「こっちにゃ」
近寄ると、にゃー師匠は私を抱き上げて、塀を軽々と飛び越えた。
森へ一歩足を踏み入れた瞬間、狼の遠吠えが響き渡った。
思わず身がすくむ。
そんな私の手を引いて、にゃー師匠は迷わずに歩き出した。
風が吹く度に、葉がガサガサと音を鳴らし、その度に体が跳ねてしまう。
気持ちを落ち着けるために深呼吸しながらついていく。
こんなにも臆病な自分をなんとかしたい。
そう思いながらついていくと、開けた場所で立ち止まった。
にゃー師匠が振り返る。
「今回は、敵から目をそらすにゃ」
そらす?
そらすな?
どちらだろう?
首を傾げながら聞いてみる。
「にゃー師匠……敵から目をそらす?」
「敵から目をそらすにゃ……にゃ?」
「えっと、目をそらすな?」
「そうにゃ。
来たにゃ」
にゃー師匠が鋭い目つきで辺りを見回す。
私には暗くて見えないけれど、確かに茂みがカサカサと音を立てている。
そして、低い唸り声が複数聞こえてきた。
怖い……けれど、目をそらさずに正面をジッと見据えた。
そのとき、空気が震えた。
「死ねにゃー!」
耳元で叫んだにゃー師匠の声量に驚き、身を屈める。
狼の悲鳴が上がり、遠くの木に叩きつけられる音が聞こえた。
「体全体で感じるにゃ!
あと、目をそらしたら一斉に来るにゃ!」
狼が唸りを上げて駆けてくる。
獲物を狙うような目が赤く光り、飛びかかってきた。
目の前に鋭い爪が迫る。
「うにゃ!」
短い声とともに狼が打ち上げられ、別の狼も全て弾き飛ばされた。
にゃー師匠が軽やかに着地する。
「目をそらすにゃ!
あと、周囲の気配を追えにゃ」
私を守るように、にゃー師匠は次々に狼たちを退ける。
やっぱり、私には……
みんなといたときも、今も変わらない。
守られているだけ。
「強くなりたいんじゃにゃいのか!
あと、敵がどう襲ってくるのか見るにゃ」
そうだ。強くなってみんなと一緒に……
「はい!」
「良い返事にゃ!
あと、もういなくなったにゃ。
もう終わりにゃ」
周囲には静寂が戻り、にゃー師匠の息づかいだけが残っていた。
「ありがとうございました!」
にゃー師匠の気の抜けたお腹の音が鳴り響く。
「動いたらお腹空いたにゃ。
腹ペコにゃ……」
「帰ってご飯にしませんか?」
「早く帰るにゃ……」
私たちは森をあとにして町へと戻った。
町に入ったとき、朝日が昇り始めた。
「なにか食べたいものはありますか?」
「やっぱりお肉かにゃー。
でも、魚も捨てがたいにゃ。
どこかお店は開いているのかにゃー」
私たちはふらふらと町中を歩き回る。
「ミミの家に行けば良かったにゃ。
ひもじいにゃ……」
どこも開いていない。
時間だけが過ぎていき、色々な店が開き出した。
私たちは一軒の飯屋に入る。
「やっと開いてたにゃ……」
注文をして待っていると料理が運ばれてきた。
山盛りのお肉の一品に、お魚を丸ごと入れた出汁の効いたスープ。
にゃー師匠が豪快に食べ進める。
私も分けてもらい、口へと運んだ。
頬がとろけそうになり、手を当てて微笑む。
口の中でお肉が溶けてなくなる。
お魚のスープもとても濃厚で、それなのにしつこくなくて、口元が戻らなくなった。
「ふう、満腹にゃ」
あっという間に食べ終わり、にゃー師匠がお腹をさすっている。
私はお金を支払って、二人で店をあとにした。
歩いて戻る途中で、露店が並び始めていた。
「なにか面白いものがないか、見ていくにゃ」
「はい!」
「ミミにはアレが必要かもにゃ」
そこには長くて太い、鉄の棒が置かれていた。




