第9話「ミミとフーラさん」
見上げるほどの大きさのゴブリンを、私は見据えた。
目をそらさずに、その足元に群がるゴブリンにも気を配る。
「そうにゃ。目をそらすにゃ。あと、痛いのが嫌なら先に倒せにゃ」
「は、はい!」
腕に力を込めてメイスを構える。
「違うにゃ! 振るうときにだけ力を入れないと疲れるにゃ」
「は、はい!」
メイスを地面につけて、ゴブリンたちを見据える。
「しかし、子供の喧嘩に親を連れてくるとか……」
にゃー師匠は鼻息を鳴らし、手を広げて首を振った。
ゴブリンたちが地団太を踏む。
親ゴブリンは困ったかのように、にゃー師匠へ向けて指さした。
ゴブリンたちが一斉に駆け出すと、無数の足音がダンジョン内に響き、ほこりが舞い上がった。
にゃー師匠が殴り、蹴り、踏みつぶす。
やっぱり、ただ一点。ゴブリンたちは私だけを見て襲ってくる。
狼より遅い。
動きを良く見て……
「振り上げろにゃ!」
「死ねにゃぁぁっ!」
思いっきり振り上げた。
ゴブリンのこん棒が振り下ろされるよりも早く、私のメイスが命中する。
確かな手ごたえに、振りぬく勢いで自分の体も宙に浮いた。
ゴブリンの顎を砕き、そのまま天井へぶつかり、地面へと落ちる。
私も地面へ着地し、メイスが動かなくなったゴブリンの腹にのしかかった。
「はぁ、はぁ……やった?」
心臓が張り裂けそうなほど、ドキドキと高鳴っている。
「やったにゃ。あと、油断すると死ぬにゃ」
にゃー師匠が他のゴブリンを倒していた。
「良いスイングだったにゃ!」
にゃー師匠が親指を立てている。
褒められるのは嬉しいけれど、なんだかくすぐったい。
親ゴブリンが咆哮を上げた。
「怒ってるのかにゃ? あんな挑発に乗る方がバカにゃ」
地響きを立てながら親ゴブリンが駆けてくる。
「脛にゃ。脛を狙えにゃ!」
にゃー師匠が親ゴブリンの振り下ろされる大きな拳を蹴り飛ばす。
私はメイスを引きずりながら駆けた。
親ゴブリンの攻撃は、にゃー師匠が弾いてくれる。
私はただ一点。脛目がけて駆ける勢いのままにメイスを振るった。
先ほどのような骨を砕く感触。
けれど、メイスが少し弾かれ、両手に痺れが走った。
「上出来にゃ!」
体勢を崩す親ゴブリンへ、にゃー師匠が跳躍する。
「死ねにゃー!」
親ゴブリンの顔を蹴り飛ばした。
吹き飛ばされた親ゴブリンは壁に頭をぶつけて地面に落ちる。
「殺し合いに親も子もないにゃ」
動かない親ゴブリンの懐をにゃー師匠が漁り始めた。
「え!?」
にゃー師匠はなにを……?
そっと覗き込んだ。
「これしかないにゃ。しけてるにゃ……」
にゃー師匠は銅貨一枚を懐にしまうと、私に手を差し出した。
「さぁ、インプを捜すにゃ」
「はい!」
その手を取り、歩き始める。
「ミミは追いはぎは真似するにゃ」
追いはぎ?
真似する?
真似しない?
どっちだろう?
「……真似する?」
にゃー師匠は首を振っていた。
「違うにゃ」
真似してはいけないこと……みたいだけど、追いはぎという言葉が分からずに首を傾げる。
手に持つメイスが少し軽くなったような気がして見ると、ゴブリンの血が綺麗サッパリ無くなっていた。
とくに気にすることもなく、にゃー師匠と一緒に奥へと向かった。
「くくっ! わはははっ!」
声の方を見上げると、ダンジョン内で一人笑っている人がいた。
二頭身でなんだか少し可愛く見える。
「チェイン・ライトニング!」
バチバチとした稲妻がほとばしり、パタパタと翼をはためかせる魔物に放たれた。
魔物に当たると、別の魔物へと次々に走り抜けていく。
上空から魔術士さんが落ちてきて着地した。
背丈は私と同じくらいで二頭身のせいか、大きく見える。
「うおおっ! この新しい魔法は楽しいな!」
「それは良かったにゃ」
魔術士さんの動きが止まった。
ゆっくりとこちらへ振り向く。
目を丸くし、少し恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
「……いつから見ていた?」
「にゃ?」
「ニャー! いつから見ていた!」
もしかして、この人が相棒なのかな?
魔術士さんと目が合い、にゃー師匠に隠れながら軽く会釈すると、同じように返してくれた。
「お前、本当に子供を連れ歩いてるんだな」
魔術士さんが顔を近づけてきた。
先ほどはしゃいでいた人とは思えないほどの真剣な眼差し。
私も負けずにじっと見つめた。
魔術士さんの大きくてつぶらな瞳が揺れる。
頬はほんのり赤く、ふっくらしていて、思わずつつきたくなる。
「子供じゃないにゃ。ミミにゃ!」
「ミミか。俺はフーラ・スーラ。よろしくな、ミミ」
「は、はい。ミミです。よろしくお願いします」
そのとき、奥から物音が聞こえてきた。
バサッ、バサッと翼をはためかせながら近づいてくる。
飛んでいる大きな魔物は、何かをぶつぶつと呟いている。
「守りてよ魔力を喰らい燃えさかれ――フレイムウォール!」
魔物から氷の礫が放たれるのと同時に、目の前に炎の壁が現れた。
放たれた氷を溶かしていく。
魔法……私にも使えたらなぁ。
フーラさんは魔法が来るのをわかっていたのかな?
その顔は真剣で、にゃー師匠は腕を組んで様子を見ていた。
「ミミ、よく見ておくにゃ。これが魔術士にゃ!」
にゃー師匠は鉤爪を装備していた。
「は、はい!」
前に言っていた装備……
炎が消えていく。
きっと何か来るのだろうと、息を飲んだ。




