第10話「美味しいところだけ貰えにゃ」
炎が消えたところを狙ったかのように、氷の礫が放たれた。
にゃー師匠はいとも簡単に鉤爪で弾く。
「無駄にゃ!」
よく見ると、フーラさんの姿が無かった。
どこだろうと捜していると、どこからか声が聞こえてきた。
「白銀の、氷の刃ここにあり、斬り裂く力今ここに――アイシクルエッジ!」
天井付近で浮いているのを見つけたとき、氷の刃が放たれた。
氷の刃がインプの翼を同時に斬り裂く。
にゃー師匠がここぞとばかりに地面を蹴った。
「死ねにゃー!」
落ちるインプを狙って放たれる氷の刃よりも速く、にゃー師匠の鉤爪がインプにとどめを刺す。
「あ、てめぇ!」
フーラさんの怒りの声に、私の体がビクンと跳ねた。
心臓がドキドキと高鳴る。
「見たかにゃ?」
にゃー師匠がキラキラとした目で振り向いた。
「は、はい」
「美味しいところだけ貰えにゃ」
美味しいところ……?
誰が倒しても同じような気がするけれど……
にゃー師匠は必要だから教えてくれているんだよね?
「は、はい!」
「お、おい! 何てことを教えてやがる!」
フーラさんは忙しそうに、私とにゃー師匠へ視線が行き来する。
「ミミは真似しなくて良いからな!?」
そのまま地面に降り立つと、フーラさんはにゃー師匠に駆けていく。
えっと……仲が悪いのかな?
「とどめだけ貰うのは気持ち良いにゃ」
「はぁ……まぁいいや。めんどくせえ」
満面の笑顔を向けるにゃー師匠に、フーラさんは肩を落としながらインプの翼を集め始めた。
「あ、私も手伝います!」
「お、助かるよ。これを使ってくれ」
駆け寄る私は、フーラさんが懐から取り出した、折りたたまれているナイフを受け取る。
そのまま黒焦げのインプから翼を切り離した。
その間にゃー師匠は、耳を立てて尻尾を揺らしながら奥を見ていた。
インプの翼って、焦げていても大丈夫なのかな?
他のとは違う大きな翼も拾い、フーラさんに渡す。
「集めたかにゃ?」
「ああ、終わったぞ」
にゃー師匠がとどめを刺したインプを咥えて、四足で走ってくる。
「持ってくるんじゃねぇ!」
フーラさんがにゃー師匠の頭をはたくと、咥えていたインプが地面に落ちた。
「痛いにゃ……」
歩き出すフーラさんに、にゃー師匠がついていく。
「ミミ、帰るにゃ」
にゃー師匠が立ち止まり振り向いた。
私は急いで二人の元へと向かい、一緒に歩く。
「半分よこせにゃ」
「何でだよ……」
フーラさんは嫌そうに言うけど、その顔は優しかった。
ダンジョンを出ると、辺りはすっかり暗くなっている。
前を歩く二人は、長年連れ添った夫婦のように、ただ並んで歩いていた。
ギルドへ戻ると、インプ討伐の報酬と、素材となる翼を買い取ってもらう。
「はい、確かに。お疲れさまでした」
受付のメガネさんが対応してくれた。
けれど、奥からしくしくと泣く声が聞こえたので覗いてみる。
そこには猫の受付さんが正座しながら背筋を伸ばし、書類仕事をしていた。
「あぁ、アレはいつものことなので気にしないでください」
メガネさんが優しく微笑みかけてくれた。
優しそうな顔なのに、なぜか寒気がする。
「ミミー。終わったし行くにゃー」
私がメガネさんにお辞儀をすると、微笑みながら手を振ってくれる。
待っているフーラさんとにゃー師匠に駆け寄ると、一緒にギルドを出た。
にゃー師匠を先頭にソールさんの家へと辿り着くと、ガチャリと扉を開けて中に入る。
ご飯を食べ、お風呂に入り、居間でくつろぐ。
にゃー師匠もフーラさんも帰る家が無いのかな?
「あの、師匠?」
「何にゃ?」
直接聞こうとしたけど、口だけ動いた。
聞いて良いものなのかな……?
気分を悪くしたりしないかな……?
「い、いぇ。なんでもないです」
なんだか聞けなかった。
「お前、師匠だなんて呼ばせてるんだな」
「気分が良いからにゃー」
にゃー師匠はいつもより笑顔が眩しい気がする。
「そうそう、フーが洞窟で上級魔法を使ったとき……」
「お、おい! 人に話すんじゃねえ!」
暴れるフーラさんを、にゃー師匠がお尻の下に敷いて動けなくした。
「詠唱すると浮いていくんだけど、長すぎて頭をぶつけたにゃ。
そのまま詠唱を中断して、にゃーがかっこよく敵をぶっ飛ばしたにゃ!」
詠唱で浮かぶ……
洞窟の天井で頭をぶつけて、痛がりながら頭を押さえているフーラさんを想像する。
あとから地味に笑いがこみ上げてきた。
「あはっ。あはははっ! 真剣な顔をしているのに、頭をぶつけて落ちてくるって……。あははははっ!」
思わずお腹を抑えて笑ってしまった。
「フーラお得意の芸にゃ。馬鹿だからそんなことが多いにゃ」
「うるせえ! 馬鹿に馬鹿って言われたくねえ!」
「馬鹿とは何にゃ!?」
「いてっ。いててっ。腕が折れる!」
賑やかな日々が帰ってきたようで、心の底から笑みがこぼれる。
「やっと笑ったにゃ」
心臓が跳ねた。
みんながいなくなってから、笑えていなかったのかな?
「おい、いい加減に離せ!」
「嫌にゃ、一緒に寝るにゃ」
「おい、止めろ……。おい、ミミ……助けてくれ!」
私はそっと扉から出る。
「フーラさん、にゃー師匠、おやすみなさい」
「おやすみにゃー」
「ま、まて。たすけっ……」
扉を閉めると、自室へと戻った。
二人を見ていると、寂しがっている暇もない。
けれど、私はやっぱりみんなと一緒にいたいな。
みんなのぬいぐるみを抱きしめて目を閉じると、あっという間に意識が途切れていった。
あぁ。水の中で新たに小さな手が私を支えてくれている。
ゆっくりと、でも確実に浮かび上がっていく……
朝になり、目を擦りながら居間へ向かうと、二人が出迎えてくれた。
「おはようございます」
「おはにゃー」
「あぁ、おはよう……」
なんだか、フーラさんがげっそりとしているような……眠れなかったのかな?
「フーラさん、大丈夫ですか?」
「ああ。大丈夫。慣れてるからな……」
手早く支度をして、にゃー師匠についていく。
フーラさんも一緒らしい。
私は少しずつ成長できている気がします。
みんなは今頃、何をしていますか?




