第11話【ツムギ視点】「ツムギは頑張る」
ミミちゃんと別れてから街道を歩いていく。
詠唱で噛んで、しょげるアネットさん。
禁断症状が出ているロリーさん。
一番まともそうに見えて、一番放っておけないソールさん。
このパーティーは大丈夫なのでしょうか?
横の森から視線を感じる。
私は素早く、みんなへシールドを張った。
突如走ってきた熊の魔物が、木を引っこ抜いて薙ぎ払う。
「私が押さえます!」
幾重にもシールドを張り、薙ぎ払う木を受け止めた。
パリンと何枚か砕けたけれど、被害もなく止められた。
「アネットさん、お願いします」
「え、えぇ……」
「天から来たれ雷よ、唸り上げ敵に穿だん――チャンダーレイン!」
「あっ!」
上空から稲妻が降り注ぐ。
極小の稲妻がちょろっとだけ熊に当たり、少しだけ痺れさせた。
「俺がやる!」
ロリーさんが飛び出し、震える手で剣を抜き放った。
「くそっ!」
ガタガタと手足を震わせ、熊に斬りかかる。
熊が大きな手を振りかぶった。
私は熊の手をシールドで囲む。
腕を抑えられ、無防備な熊に剣が入っていった。
ロリーさんの手足がブルブルと震え、すぐに止まると抜けなくなった。
私はもう片方の腕もシールドで止める。
鼓膜が破れそうなほどの咆哮に、みんなが耳を塞ぎ、私は耳から血が流れた。
シールドが悲鳴を上げるように軋む。これを消すわけにはいかない。
鼓膜が破れたらしく、キーンという耳鳴りがして、もう誰が喋っているのかさえわからない。
ソールさんが駆け出すのが見えた。
鍋の蓋を持ち、肉を斬るときのナイフを持っている。
なにか叫び声を上げながら必死の形相で駆け抜けていた。
ソールさんはナイフを投げ放ち、お鍋の蓋で刺さっている剣を懸命に叩く。
剣が胴へ深々と食い込んでいく。熊からは血がドクドクと流れ出ていた。
ロリーさんも熊の脛を蹴り、アネットさんの杖が熊の目を抉る。
「はぁ、はぁ……」
頭がクラクラする。
熊が口から血を吐く。
頭がふらつき、腕の力が無くなっていった。
私はシールドを解き、ソールさんの頭上へ魔法の剣を作り出した。
「ソールさん、上ので!」
気づいたソールさんが跳躍し、魔法の剣を握るとそのまま振り下ろした。
熊は二つに分かたれ、音を立てながら倒れた。
私はそっと自分の鼓膜を治療する。
「みなさん、怪我とかありませんか?」
何だかやつれた顔をしている。
私と同じように鼓膜をやられたのかもしれないと思い、それぞれの鼓膜にも治癒魔法をかけた。
「ツムギさん、助かったよ。ありがとう」
「ご、ごめん。なんだか手足が震えて……」
「ごめんなさい、詠唱が少し違ったせいで威力が出なくて……」
みんな重症な気がするけれど、ミミちゃんがいてくれたら、きっとみんなも普通に戦えていたのだろうなぁ。
「大丈夫ですよ。ほら、少し休憩しましょう? 調子が出ないことなんて誰にでもありますから、元気を出してください」
微笑みかけると、みんなは一瞬だけ笑顔になる。
未知のダンジョン。引き返した方が良い気がするけれど、大丈夫かなぁ。
少し進んだ先に川が流れていた。その近くでテントを張り、野営の準備をした。
お肉と野菜を煮込んだスープを作り、みんなに振舞う。
「ツムギさん、ありがとう。美味しいよ」
ソールさんが微笑んでいるけれど、どこか寂しさを感じさせる。
「あ、あぁ。美味しいな」
ロリーさんがガタガタと器を揺らしながら口をつける。
顔のあちこちに跳ね飛ばしていた。
「もう、ロリーさん……」
布を手に取り、私はロリーさんの顔をふき取る。
「料理を任せっきりになってしまって、ごめんなさい……」
アネットさんは申し訳なさそうに顔を伏せている。
「もう……本当に大丈夫ですか?」
それぞれの顔を覗き込んでみると、誰も目を合わせてくれなかった。
困ったなぁ。
みんなのことは私が守ると言ったけれど、強敵が出たら守り切れるかわからない。
みんなが立ち上がりテントへと入っていく。
「ソールさん、お鍋の蓋を持って行かないでください」
「んあ? す、すまない……」
しれっと鍋の蓋を持っていくソールさんは、どうしたら立ち直ってくれるのかな。
私にはまだ知らないことが多すぎる。
みんなのこともよく知らないし、ミミちゃんのこともよく知らない。
ただ、みんながミミちゃんを、ミミちゃんはみんなを好きだってことだけはわかる。
歩いているロリーさんが、フラフラと揺れていた。
「大丈夫ですか?」
私が肩を貸すと、すごい震えが伝わってくる。
「ご、ごめん……」
「謝らなくても大丈夫ですよ。でも、どうしてこんなに震えて?」
ロリーさんの震えが伝わり、私の声まで震えていた。
「あ、あぁ。ミミを見ることができないだけで、こうなるとは思わなかったな……」
苦笑いするロリーさんをテントの中まで連れて行くと、私はアネットさんの元へ向かった。
アネットさんはぶつぶつと呟いていた。
「天から来たれ、天から来たれ、天から来たれ。雷よ唸り上げ、雷よ唸り上げ、雷よ唸り上げ。敵を穿たん、敵を穿たん、敵を穿たん。サンダーレイン、サンダーレイン、サンダーレイン」
「アネットさん、どうしたのですか?」
私が顔を覗き込むと、視線が合った。
嬉しそうにアネットさんが顔を綻ばせる。
「詠唱できたわ!」
「わぁ。それはおめでとうございます」
二人で両手を取り合い、ピョンピョンと飛び跳ねた。
良かった。アネットさんは大丈夫そう。
問題はロリーさんとソールさんかな?
私はそっと周囲に結界を張り、見張りを兼ねてテントの外で眠りについた。




