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「ミミは強くなりたい」  作者: 月ノ瀬 コロン


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第12話【ロリー視点】「ロリーは見ていたいだけ」

 あぁ、目を閉じると思い出す。

 焼きつけたあの微笑み。

 あの艶やかな髪を。

 小さな手足。

 小さい身体。


 いつも一生懸命で誰かの役に立ちたいと思っている、俺たちの妹を。

 けれど、今は見ることができない。


 寝ていても手足が震え、怪しいことをしていると疑われるのではないかと、ビクビクしている。


 俺は可愛いものが好きなだけなんだ。

 まさか見られないだけで、こんな禁断症状が出るとは……


「俺にとっては薬だったのか!」

 テントの中で叫び、飛び起きた。


「夢……?」


 ツムギさんが見張りをしているのか?

 いつも任せっきりだし、たまには変わってあげないと休めないだろう。


 俺がテントから出ると、結界内の中央でツムギさんが座っていた。


「ツムギさん、代わるかい?」

 返事がなかった。


 背後からゆっくりと近づき、肩に手を置いた。

 ブルブルと震えている。

 あぁ、俺が震えているだけか。


「きゃ、きゃぁぁぁぁっ!」

 事件性がありそうな悲鳴が聞こえた。


「ど、どうした!?」

 俺はびっくりして手を離した。

 ツムギさんが飛び退く。


「何だ、今の悲鳴は!?」


「だ、大丈夫!?」

 ソールとアネットがテントから出てきた。


「お、俺は何もしてないぞ!?」


「ご、ごめんなさい。寝ぼけてしまって……」

 慌てる俺に対して、ツムギさんは冷静だった。


 大人だ……


 大抵の女なら、蔑むような目で見るというのに……

 純粋な少女たち以来だ。


「そうか、見張りを代わるか?」


「私もいつでも代われるわよ?」

 ソールもアネットも心配そうに、ツムギさんを見ていた。


「お、俺が代わるよ」


「はい、ありがとうございます」


 俺の言葉にソールとアネットがテントの中に引っ込み、ツムギさんが俺の傍に来た。


 何だろう……

 胸がドキドキする。


「ねぇ、ロリーさんはミミちゃんが好きなの?」


 ツムギさんの目を見つめる。

 純粋な瞳。

 やたらと攻撃したがる女とは違う気がした。


「そうだな。ミミちゃんは可愛いな。俺たちの、自慢の妹だ」


「そうなんだ。ミミちゃんが心配?」

 そんなの……

 心配に決まっている。


「あぁ、心配だ」


「私ね、そんなミミちゃんにみんなを任されたの。絶対に守るって約束したの」

 そういえばそうだった。

 あの別れ際に……


「でも、みんながそんな調子だと守れないかもしれない」


「あぁ……」


 ツムギさんが俺の頭を抱き寄せ、その胸に埋められた。

 甘い花のような匂いが鼻をくすぐった。

 柔らかく、大きくて温かい。安心できるようだった。


「大丈夫。ロリーさんはミミちゃんの目標でいなきゃ。あまり遅いと、ミミちゃんが強くなって迎えに来るよ?」


 優しい手つきで俺の頭を撫でてくる。

 母親に甘えているような……


 けれど、違う。


 俺はツムギさんの肩に手を置いて、引き離した。


「違うんだ! ミミちゃんはそんなに大きくない!」


 場が凍りついた。

 何か変なことを言った気がする。


 間違えた。


 変な汗が噴き出すようだ。

 顔から火が出そうなほど熱い。


「えぇ……」

 ツムギさんが小さく呟いた。

 一歩下がるツムギさんの目は、優しいままだった。


 なんだか、胸が締めつけられた。


「ご、ごめん! ツムギさんがミミちゃんの代わりになろうとしなくていいって言いたかったんだ!」


 それだけ言うと、俺はテントへ逃げた。


 あんなに優しい人になんてことを……


 俺は最低だ。


 俺はミミちゃんを見ているだけで幸せなんだ。

 だから、触れ合おうとしないでくれ。


 女なんて、アネットとアイツしか知らん。

 どうしたら良いかなんてわからないんだ。


 頭の中をぐるぐると思考が駆け巡る。


 あれ……


 さっきまでの震えが、嘘のように消えていた。


 ツムギさんが薬?

 そんなまさかな……


 明日、またきちんと謝ろう。



 翌朝起きると、アネットが見張りをしていたようだ。


「おはよう。ツムギさんは?」


「まだテントじゃないかしら? スープ温めているけど飲む?」

 そうか、テントで眠っているのか。


 静かに待つか。


「あぁ。貰う」

 俺はアネットから受け取ったスープを飲み干す。


 昨日は気づかなかったけれど、野菜の旨味が溶け出して肉の臭みもない。

 優しい味わいだった。

 ツムギさんって料理も上手いんだな。


「おはよう」

 ソールがぼーっとした顔で歩いてきた。


「お、おい、ソール! 服くらい着て来い!」


「ちょ、ちょっと! 変なものを見せないでよ!」

 アネットは目をそらし、手で隠して見ないようにしていた。

 顔がほんのり赤くなっている。


 こいつ、こんなところがあったんだな……


 あぁ、そっか。

 今まではミミちゃんしか目に入ってなかったからか。


「ああ、すまない。着替えてくる」

 ソールは自分のテントに向かった。


「おはようございます」

 ソールと入れ替わりで、ツムギさんが起きてきた。


 俺はすぐに、ツムギさんに向かって体を直角に曲げた。


「昨日はごめん! ひどいことを言った」


「え、えぇ? 大丈夫ですよ。顔を上げてください」

 ツムギさんが横に回り、俺の体を起こしていく。


 その優しい微笑みに、心が軽くなった。


「ちょっと、ロリー! ツムギさんに何をしたのよ!?」

 アネットの目が吊り上がった。


「い、いや、それは……」


「私もスープを貰えますか?」

 ツムギさんがアネットに近寄り、その手を握る。


「え、あぁ。はい、よそうわね」

 アネットはスープをよそい、追及は終わったみたいだ。


 ツムギさんが誰にもバレないように、こっそりウインクする。

 何だか恥ずかしくなり、俺は頭を指でかきながら視線をそらした。


「ツムギさん、おはよう」

 ソールが着替えて出てきた。


「ソールさん、裏表が逆ですよ?」

 ツムギさんが駆け寄り、ソールの服を着替えさせている。


「ツムギさんには感謝ねぇ……」

 アネットの呟きに、俺は小さく頷いた。


 ソールは重症だな……

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