第48話「ミミはいつまでも……」
ローブを着て外へ出ると、みんなが駆け寄ってきた。
「ミミ、元に戻ってる」
「ミミちゃん、おかえり」
「ミミ、よくやったにゃ!」
みんなが私に声をかけてくれる。
『……ありがとう、これでみんなと』
私が口を開いた瞬間、みんなの動きが少し止まった。
「あくまで姿だけじゃからのぉ」
ピコさんの申し訳なさそうな声が、私に突き刺さった。
そっか。
声は……
届かないんだ。
顔を伏せると、レイラお姉さんが背中をさすり、にゃーさんが頭をなでてくれた。
そして、ロリーさんがじっと、私の顔を覗き込む。
視線を合わせるとやっぱりそらすけど、なんだかおかしくて笑ってしまった。
「街中に行っても問題はないだろうし、帰るか。ソールたちとも会いたいだろうし」
ロリーさんの言葉に、私は頷いていた。
洞窟を抜けスィラークの街へと戻り、ギルドへ向かった。
ギルドでは静かに、みんなが書物を見ていた。
「ミミみゃ!」
受付のミャーさんの言葉に、中にいた全員の視線が私に突き刺さった。
「お、もういいのか!?」
「良かったな!」
みんなが椅子を引く音を立て、私の方へと駆け寄ってきた。
私って、いつの間にかこんなに……?
「もう大丈夫なのですか?」
メガネのクライスさんが人をかきわけて、私の顔を覗き込んできた。なんだか吸い込まれそうな瞳に一歩引き、息を呑んだ。
「ソールはいないのか?」
ロリーさんが私を隠すように前に立つ。その後ろ姿に安心感を覚えると、レイラお姉さんに手を引っ張られて外に出た。
「お主は好かれておるんじゃな」
『みんなに何もしていないのに……?』
「わからぬか? お主の行動が近くにいる人へ、影響を与えているんじゃろ」
私の行動が?
みんなに……
知らない間に、見られていたってこと?
『いつの日にか、ギルドの人にも話せるのかな?』
「少しずつやっていくといい。
この先、一人になることがあれば、世界樹までくるといい。
わしがいつでも受け入れる。お主はなにがあっても一人きりにはならぬよ。わしは死なぬからな」
ピコさんは、少し気になる言い方だった。一人にはならないと思う。ロリーさんは受け入れてくれたし……でも。
ソールさんとアネットさんはどうなのだろう?
ううん。
二人は否定するような人ではない。そんなことは私が知っている。
なのに。
伝えるのが怖くて、視界が揺れて、唇をぎゅっと結んだ。
「すまぬ。安心させたかっただけなのじゃが。遠い未来の話じゃ。
お主は大丈夫。大丈夫じゃよ」
温かな手が頭に乗せられ、そのままなでられる。
顔を上げると、ピコさんの柔らかな瞳が目の前にあった。
周囲を歩く人が、私たちを温かい目で見ながら歩いていく。
少し恥ずかしくなってきて、顔が熱くなってきたとき、ロリーさんの声がギルドの中から外に出てきた。
「ミミちゃん、先に帰っていてもらえるかい? アネットがいると思うからさ。ソールは図書館にこもってるみたいだから、俺が連れて帰るよ。
レイラ、ミミちゃんを頼む」
「ああ」
ロリーさんの言葉に、レイラお姉さんが短く返事をした。
「にゃーは、ツムギたちに知らせてくるにゃー」
にゃーさんはあっという間に姿が見えなくなってしまった。
早く会いたいけど。言われた通り、いったん帰ろう。
アネットさんになんて言おう。
ソールさんが戻って来たらどう伝えよう。
身振り手振りで伝わるのかな……
帰る途中でそんなことを考えながら、レイラお姉さんと手を繋いで帰った。
家の扉を開き、中へと入る。そこは、寒いほどに静まり返っていた。
本当にアネットさんがいるのだろうか?
私は早歩きになり、レイラお姉さんと手を離して走っていた。
居間へと入る。
『アネットさん!』
胸が締めつけられた。
アネットさんは少しやつれていた。
その胸に抱えているのは、わたし?
アネットさんが重そうに顔を上げ、抱えている私が、私の声に反応するようにピクリと動いた。
そして、アネットさんの胸から飛び出し、私に飛び込んできた。
懐かしいような。
温かい光。
私が受け止めて抱き合うと、メイスへと変化した。
あのとき、巨大生物の中で私を助けてくれたのって、きっと。
両腕で優しく包み込んで抱くと、メイスは嬉しそうにゆっくりと明滅した。
「ミミ、ちゃん……?」
声が震えているアネットさんが立ちあがった。
『……た、ただいま』
少し照れくさくて。
でも、怖くて。
上手く視線を合わせられずに、部屋とアネットさんと他のみんなと……せわしなく動いた。
「わしが通訳してやるかの」
「えっと、そちらの子は?」
「わしはピコ。こっちがルリア。色々あって、ミミの友人かの」
ピコさんが自己紹介していると、家の扉の方からドタドタと物音が聞こえた。
レイラお姉さんたちが道をあける。
『ソールさん……』
時間が止まった。
ゆっくりと、青い瞳から涙が零れ落ち、近づいてきた。
抱きしめられ、少しゴワゴワとした銀色の髪が頬に触れて、少しだけくすぐったい。
『……ただいま』
言葉が届いていないはず。
それなのに。
「良かった……おかえり」
そう言ったソールさんの声も震えていた。
ポタポタと私に降る涙が温かく、きつく抱きしめられて苦しいはずなのに。
それが、とても愛おしくて。
私はそのまま、身を任せた。
「おい、ソール! そんなにしたら、ミミちゃんが潰れちゃうだろ!」
「あ、ああ。ごめん、大丈夫かい? ミミ」
離れていくソールさんに、私は何度も頷きながら答えた。
それから、にゃーさんたちも集まった。ソールさんたちと別れてからのことを、ピコさんを通して全て話した。何度も言葉を詰まらせながら。
そのたびに零れ落ちそうな涙を堪えて、みんなに少しずつ話していった。
良くしてくれた人たち。
修行の日々。
ソールさんたちを探しに行き、巨大生物に食べられたこと。
そして、姿が変わってからのこと。
世界樹のことも。
ピコさんから聞かされた私の正体も。
今はローブで姿を変えているだけだということも。
そう。
全て話した。
何も言わずに、みんなは私の言葉を聞いていた。
私が話し終えると、誰もが言葉を詰まらせていたように見えた。
ただ。
ソールさんが抱きしめてくれた。
アネットさんが背後から抱きしめてくれた。
「頑張ったな」
「もう、大丈夫よ。これからは、ずっと一緒に……」
優しくなでてくれる二人の手が心地よくて、私もソールさんに腕を回していた。
ソールさんの胸に顔を埋める。
濡らしちゃうけど。
話している間、堪えていたのに。
涙が溢れる。
声が勝手に漏れてしまう。
泣いて。
頭の中が真っ白になるまで泣いて。
声を上げながら、ひたすら泣き続けた。
二人は、そんな私を抱きしめながら、なで続けてくれている。みんなは優しく見守ってくれている。
私が落ち着いてきたころ、ロリーさんが声を上げた。
「なあ。三国のダンジョンを攻略して、世界樹の天辺を目指さないか?」
ダンジョン……きっと、あの巨大生物のような危険な相手がいっぱいいるかもしれない。
そんなところに行かなくても。
だから、私の答えは。
そのまま、みんなを見つめて……
口を開く。




