第47話「元の姿を目指して」
「ルリア、スィラークへ」
『うん、わかった』
ピコさんの声に、ワイバーンのルリアさんが勢いよく飛び始めた。
何日もかけて歩いてきた道を、休みながら二日ほどでスィラークに着いた。
その間に色々なことを聞いた。
木人たちのこと。
きっと、レイナードさんが言っていた小さな女神が、ピコさんだったんだ。
ダンジョンを女神の力を借りて、ピコさんが作ったということ。
ピコさんは別に女神というわけではないらしい。私と同じで、人ではないなにか別の存在だと、遠い目をしながら言っていた。なにか辛いことを思い出させてしまったような気がして、申し訳ない気分になった。
世界樹へ登る条件や、様々なアイテムは女神が作り出したこと。
本当に願いが叶うのかを、ピコさんはぼかしていた。
世界樹のこと。
あの地下での魔力だまりは世界樹の雫だった。あのときに感じた手は世界樹が助けてくれたのかもしれない。
そう。
本当に様々なことを。
そして、スィラーク手前で降り立つ。
ルリアさんが光り輝き、少女のような風貌へと変わった。
紺色の髪が揺れ、フリルがいっぱいついた青い服を着て、可愛らしかった。
「ちょっとじっとしておれ」
目を丸くして見ていると、土に包まれ、暗くなった。
あれ……
「荷物として持っていく。ダンジョンは街の中だからの。ルリア」
『持っていくね』
私はそのままゆらゆらと運ばれていった。
やがて、土がはがれ落ちる。
眩しさに目を細めると、目の前には洞窟があった。
『ここは……?』
「ここからはお主一人で行くといい。全員で入ると面倒なことになるからの」
一人……
視線を動かして、みんなを見た。
「大丈夫だ」
レイラお姉さんはそう言ってくれるけど、やっぱり不安が勝る。一人でまた迷わないか、一人でローブを取ってこられるのか。
「ミミちゃんならやれる!」
ロリーさんの緑色の瞳が揺れていた。
ロリーさんも不安なんだ。
今にも泣き出しそうなロリーさんに微笑むと、視線を少しだけそらして、再び視線を合わせた。そして、ロリーさんがにこりと笑うと、その瞳から涙が一粒、零れ落ちた。
「卒業したミミなら大丈夫にゃ! 何かあったら思い出せにゃ!」
にゃーさんは拳を握り、前へ何度も殴る素振りを見せていた。
私は頷いて、洞窟へと入っていく。そのときに「中にいるのは全て厄介な魔物じゃからな」とピコさんの声が追いかけてきた。
洞窟の中は地面が青白く光っており、広場まで辿り着いた私を出迎えてくれた人たちがいた。
何でここに?
視界が揺れる。
ソールさん、アネットさん、ロリーさんが武器を持っている。
私に気づいたみんなは、武器を構えて駆けてきた。
ソールさんとロリーさんの動きを見ながら、剣をかわしていく。ちらりと横目で見たアネットさんは杖を構え、詠唱をしているように見えた。
うめき声のように聞こえる。
人の声ではない。
魔物の声でもない。
何度も避け、何度も攻撃を弾く。
ソールさんの動きは想像を超えてこない。
ロリーさんに至っては、蜂と戦っていたロリーさんの方が強かったように思える。
何より、みんなの無表情な顔は青白く、感情がなかった。
ピコさんは魔物って言っていたけど、きっと魔物でもない。影のようなものなんだ。
辺りを黒い靄が包み込む。
私は咄嗟に跳躍して、靄から抜けた。
直後、重力にソールさんが押しつぶされる。ロリーさんは私を追って跳躍していた。
天井に足をついて止まった私は、ロリーさんの双剣を爪で弾き、体勢を崩したロリーさんを思いっきり殴る。
天井を踏み込み、全身を使って……
それだけじゃない。
当てた瞬間、拳を捻る。
抉るように突き刺さった一撃が、ロリーさんを地面へと叩きつけた。
重力の渦が止み、ソールさんが私の方を見上げていた。
私は天井に魔力を残すと、その場所が輝く。
ソールさんが目を細めた隙に私は着地し、横からソールさんへと駆け抜けた。
咄嗟に盾で防ごうとする動きを見逃さず、それを蹴り上げる。
突き出す剣を紙一重で横にかわすと、そのままソールさんの首へと蹴りを入れる。
折れるような嫌な音とともに吹き飛び、壁へと突き刺さった。
アネットさんの雷撃を避けながら、薄皮一つ切れた自分の首に触れて癒す。
みんなの教えが、今の私を作り出しているのを実感する。
あと一人。
あれは、私を匂いで追ったりしない。
それなら。
音を立てず、常にアネットさんの死角から近づいていく。
キョロキョロと周囲を見回すアネットさんは、天井の光もチラチラと見ていた。
そして、背後へと辿り着いた私は、爪でアネットさんの首を斬り裂いた。
ふぅ、と一息吐いて、奥のせり上がってくる箱を見た。
嬉しい。
というより、気持ちのいいものではなかった。
偽物だとはわかっている。
それでも。
みんなを殴って、蹴って、斬り裂いた。
胸が締めつけられ、心が張り裂けそうだった。
これで、みんなの元へと戻れるはずなのに。
ポタポタと、頬を伝う涙が地面を濡らす。
せり上がってきた箱を開けると、中には黒っぽいローブが入っていた。
それを着ながら、外へと出て行く。
これでみんなと一緒にいられる。
そう思うと、少しだけ胸が軽くなった。




