第45話「世界樹へ」
暗い水底で、一人きりの私を光が見つけてくれた。
光が私を拾い上げてくれ、背中を押されながら水面へと上がる。
ようやく息ができたようだった。空気を大きく吸い込み、吐き出す。
周囲をしっかり見て、私は支えられながら、自分の足で地面に立った。
ロリーさんと夜を明かした私は、みんなを待っていた。
「おはよう」
お姉さんが音も立てずに現れ、続けて、みんなの状況を説明してくれた。
「一応、連絡がつく人には話しておいた。向こうのミミも、こっちのミミも、色々と方法を探してくれるみたいだ。
それから、世界樹の方は任せると言っていた」
みんな……
胸が温かくて……
ん?
『向こうの私?』
レイラお姉さんの表情からは何も読み取れない。
ロリーさんに視線を合わせると、そっと視線をそらした。
こんなときにまで。
つい、笑ってしまった。
それにしても、向こうの私って何だろう?
「待たせたにゃー」
元気よく手を振りながらにゃーさんが走ってきた。
「全員そろったし、行くか!」
ロリーさんの合図に、私たちは森を出て行く。
私は一度立ち止まり、街を見る。
絶対に世界樹の天辺まで行って、元に戻って……
それで。
みんなの元に帰るから。
「ミミー、早く来るにゃー」
私はみんなに駆け寄ると、うっすらと見える木へ向けて、一緒に歩き始めた。
街道を行き、現れる魔物を倒し、渓谷を川沿いに進む。
夜はテントで休み、昼になると歩き始める。
長い、長い道のり。
相変わらず、魔物は私を狙ってくるけれど、私は自分で対処できるし、みんなも活き活きと協力しながら戦っていた。
こんなことを思ったらいけないのかもしれないけれど、少しだけ楽しくて、心が弾んだ。
もう何日経ったのだろうか。
山に差しかかるころには、持ってきた食料が尽きてしまった。
お水は川沿いに来たから大丈夫だけれど。
「ご飯、落ちてないかにゃー」
「食べられそうなものを探さないとな」
にゃーさんは鼻を上げて匂いを探り、レイラお姉さんは横に広がる平地を見ていた。
「あれは、美味しそうにゃ……」
四足歩行で音も立てずに、にゃーさんが歩いていく。
レイラお姉さんも見ている方向。
そこには、大きな鳥のような魔物がいた。
足で何かを踏み、ついばんでいる。にゃーさんには気づいていない。
一息に飛びつけば、捕まえられそうな距離。
にゃーさんがお尻を上げて踏み込む。
手と足に力を入れて飛んだ。
鳥の首に、にゃーさんの腕が絡みつき、鳥が苦しそうな悲鳴を上げた。
そのまま首を締める。
暴れる鳥を飛ばさないように羽を足で押さえ、締め続けた。
やがて、横に倒れ、にゃーさんが爪装備で鳥の首をかき斬った。
「ずいぶん、手慣れているな……」
「まぁ、仕方ないけど、アレは魔物だよな?」
レイラお姉さんの言葉に私たちは頷き、ロリーさんが口を押さえた。
「取ってきたにゃー」
にゃーさんが鳥を担ぎ、歩いてくる。だらだらと流れる血が線を引いていた。
「さばいて焼いてくれにゃー」
涎を垂らすにゃーさんが、目をキラキラとさせていた。
「斬るのはいいが……」
ロリーさんが渋い顔をしているとき、レイラお姉さんが火をおこした。
仕方ないという様子で、ロリーさんが鳥の毛を削ぎ、丸裸にして、下処理を手際よく済ませた。
そして、適当な木を持ってきて括りつけ、丸ごと焼き始めた。
煙に乗って、お肉の焼ける匂いが広がっていく。
宙に浮いている鳥から脂が滴り落ちる。
そのたびに、火の勢いが一瞬だけ強まった。
「凄い脂っこいな……この鳥」
「もう食べられるか?」
ロリーさんは、鳥が焼けたところから料理用のナイフでそぎ落とし、器に乗せ、それぞれに渡していく。
『いただきます』
私たちは一切れ、口に放り込んだ。
にゃーさんはあっという間に食べ、私、ロリーさん、レイラお姉さんは動きが止まった。
脂が口いっぱいに広がっていく。
鳥って、こんなに脂っこかったっけ?
お肉は柔らかかったけど、少し魚の臭いがした。
「山では木の実や果物でも探しながら行くか……」
レイラお姉さんの提案に、私たちは頷いていた。
食べ終わった私たちは、火を始末して山を登り始めた。
街を出てから何日経ったのだろうか。
ロリーさんは口の周りにひげが生えて黒くなっていた。
ようやく、山の頂上まで辿り着いた。
眼下には、青緑色の絨毯が敷かれたように、森が広がっている。その中心には、大木が天に伸びていた。
「ようやく、はっきりと、見えるように……」
ロリーさんも、レイラお姉さんも息切れしていた。
私はお水を取り出し、二人に渡すと、少しずつ飲み干していく。
「ミミ、ありがとう」
「ミミちゃん、ありがとう」
『はい』
なんだか、これだけのやり取りなのに嬉しくて、つい笑顔になってしまう。
待っているにゃーさんにもお水を渡すと、しょんぼりしていた顔が明るくなった。
山の中で採れた、丸くて赤い果物を、みんなでかじる。
甘くてシャキシャキした味わいに目を細めて、食べ進めた。
元気を取り戻した私たちは、山を下りていく。
襲い来る魔物を倒しつつ山を下りきると、森の中へと入った。
木々の間隔は広く、高いところでは葉が生い茂り、空を隠している。
ズシンッ、ズシンッと地響きが聞こえ、地下で見たような巨大生物が歩いていた。
なんとなくだけど、世界樹の息吹を感じる。
私たちはそれを頼りに、回り道をしながら進んでいくと、開けた場所へ出た。
そこには木の壁のように、大木がそびえ立っていた。
みんなは空を見上げ、口を開けている。
『これを……登るの?』
外側に足場はなく、木の幹はスィラークの街が丸々入りそうなほどに見えた。




