第43話「ヤるか、ヤられるか」
あれから何日も経過し、私は森の奥を覗いていた。
『クソゴブリンが! 息子の仇!』
巨大な猪の突進がゴブリンを弾き飛ばした。
目が回りそうなほど回転するゴブリンは、地面へと頭から突き刺さった。
足がピクピクと動いている。
『いただきます』
植物のつるがゴブリンを捕らえて、引き込んでいく。
口のようなつぼみにすっぽりと入っていった。
奥まで来ると知らない魔物がいっぱいいる。
ブーンという羽音が耳にさわる。
蜂の魔物が飛び回り、私目がけて飛んできた。
飛ぶのもいるんだ……
きっと、これも私を狙って。
私は木の上を飛び移りながら、スィラークの方へと逃げた。
いつまでも追ってくる蜂を、私は髪の毛を伸ばして羽を斬り落とす。
羽を切られた蜂は落下していくけど、数が多い。
森の中に入る。
私は木々の合間をすり抜ける。
蜂も木々の合間をすり抜けてきた。
もう。
しつこい。
木と地面を跳ねまわりながら斬り刻む。
腕に痛みが走る。
蜂が赤く染まった。
私は刺されて、血を吸い取られた。
すぐに、腕に触れて癒す。
赤くなった蜂が大きくなった。
『力、力を手に入れたぞ……。もっと、もっとだ!』
他の蜂も私に迫る。
このまま吸われたら、他のも強く……
私が逃げようとしたとき、輝きとともに声が聞こえた。
その声を聞いた瞬間、涙が溢れ出て視界が滲んだ。
「ミミちゃん!」
「ロリー、行け!」
黄金に輝くロリーさんの方へ、蜂の群れが向かう。
それを、ロリーさんが回転しながら斬る。
レイラお姉さんが羽を斬り落とした。
私も加わり、蜂を倒しきった。
「ミミちゃん……。ミミちゃんなんだろ?」
ロリーさんが私をじっと見つめている。
『ロリーさん……』
私の声はわからないはずなのに、私がわかるの?
私が視線を合わせると、ロリーさんは少しそらした。
再び涙が溢れる。
視線で行う鬼ごっこ。
ロリーさんが微笑んだ。
「ミミちゃん、おかえり」
涙が止まらなかった。
腕で拭っても、拭っても……
次から次へと溢れ出てくる。
「二人とも、再会にひたるのは後だ」
レイラお姉さんの声に、涙でぐしゃぐしゃの顔を上げる。
でも、羽音が大きくなっていて、耳ざわりだ。
私たちは真っ赤に染まって大きくなった蜂を見据えた。
「レイラ、あいつをミミちゃんの方に行かせるなよ?」
ロリーさんの輝きが増す。
「わかった。たまにはカッコイイところを見せてみろ」
蜂の羽から、円板が飛んできた。
回転する刃のように、木を根元から斬る。
そうやって次々と倒し、大きくても自由に動ける広場を作りだした。
『ああ、あ。どっちだ!?』
蜂が狙う相手を迷っているように、私とロリーさんを交互に見る。
さらにロリーさんの輝きが増した。
『そっちか!?』
蜂がロリーさんの方に向かう。
きっと、私の役目は……回復でもなく、引きつける役でもない。
倒す役だ!
蜂の背後から飛び出した。
速度を乗せた爪で突き刺す。
貫く――はずだった。
ガキンッと甲高い音が響いた。
先ほど木を根元から斬った円板に止められた。
『そっちだったか?』
私の爪と円板が、ギリギリと火花を立てている。
ゆっくりと蜂が振り向き、針がついている尾を伸ばしてきた。
「ミミ!」
そして、丸めると同時に、針が私に迫ってくる。
私は弾き飛ばされていた。
地面へ投げ出され、衝撃が体に伝わり、鈍い痛みに息が詰まる。
私のいた場所には、レイラお姉さんがいた。
『レイラお姉さん!』
叫びながら、私は手を伸ばしていた。
口元を緩ませるレイラお姉さんの身体を、蜂の針が引き裂いた。
あ。
ああ。
唇が震える。
全身を震わせながら立ち上がった。
涙が溢れてきた。
「それは、空蝉だ」
お姉さんの声だ。
寒かった身体に、熱がともった。
よく見ると、斬り裂かれた紙がひらひらと舞い落ちていた。
『……ビックリした』
力なく膝が折れる。
私は地面にペタリと座り込んだ。
「どっち見てる!」
飛んでいる蜂の下から、ロリーさんが跳んだ。
剣を両手に一本ずつ持ち、一本を振りぬく。
途中で円板に止められ、剣を支点に、ロリーさんの身体が回転して上に持ち上がった。
円板を足場に、さらに跳躍した。
二刀が交差した。
刃が煌めく。
蜂の尻尾を切断し、ボトボトと血が降る。
『いてえ! よくも、よくも……人間が!』
「ロリー!」
レイラお姉さんが、ロリーさんを後ろから掴み、私の方へと投げ放った。
直後――レイラお姉さんを円板が交差して斬り裂く。
紙が舞い、レイラお姉さんが消えた。
空蝉?
そう思ったけれど……
「……っ」
横から息を止める声が聞こえた。
振り向くと、レイラお姉さんがお腹を手で押さえていた。
指の隙間から、ポタポタと血が垂れている。
『レイラお姉さん!』
「空蝉したけど、避けきれなかったみたい」
「お、おい、大丈夫かよ!?」
蜂の目がこちらを向いた。
早く治さないと。
そう思い、レイラお姉さんに近づくと、首を振っていた。
「ミミ、そういうときは、なすり……てから……」
レイラお姉さんは、ゆっくりと瞬きしながら、ロリーさんを見た。
その言動にハッと思い出し、私はロリーさんに近づいて触れた。
「ミ、ミミちゃん? ちょっとくすぐったいけど、どうした?」
ロリーさんの身体に、魔力を流し込む要領でなぞる。
なぞった場所が黄金の輝きを放った。
「そういうことか。アイツは引きつけておく!」
ロリーさんは私たちから離れ、蜂を引きつけて戦い始めた。
私はレイラお姉さんに近づき触れる。
結構傷が深い。
腹部につけられた傷が、ぱっくりと開いていた。
口元から血を垂らし、そのまま吐き出した。
レイラお姉さんの顔は青ざめ、呼吸が浅くなっていく。
魔力を優しく体内へ流し込む。
ゆっくりと、出血が止まっていく。
お願い。
助けないと。
私は徐々に魔力を強めていく。
内臓を治し、レイラお姉さんの呼吸が楽になったようだ。
傷口も塞がっていく。
綺麗に元通りになると、青くなっていた顔色も血色を取り戻し、ほっと胸をなでおろした。
『動けますか?』
私がレイラお姉さんをじっと見つめると、「ありがとう」と言って蜂を見据えた。
「もう、大丈夫だから、ロリーを任せた……」
『……はい』
私は頷くと、戦っている方へ向かって駆け出した。




